日本の郷土料理

日本の郷土料理(にほんのきょうどりょうり)は日本国内における地方の伝統的料理「郷土料理」であり、「農山漁村の郷土料理百選」では日本各地から選ばれた郷土料理が発表されている。

歴史[編集]

江戸時代以前
冷蔵庫の無い時代であり、漬物干物燻製など、長期保存に適した調理方法による郷土料理が多い(例、山梨鮑の煮貝)。また、長崎カステラのように、ヨーロッパから伝わった製法が独自に発展した例や、卓袱料理の様に中国から伝わった例もある。
明治から昭和初期
明治維新と共に、海外から新しい食材調理法が入ってくる。これらの影響を受けて考案、改良された郷土料理が多い。
消滅の危機と郷土料理の見直し
観光振興地域活性化、各種イベントマスコミの紹介などで、目に付きやすい郷土料理ではなく、地域の人たちが普段から口にしている食事を常食(じょうしょく)と称して、調査・研究している料理人民俗学者、郷土研究家たちがいる。彼らは、地域独自の食文化が消えつつあると警告している。原因として、コンビニエンスストアスーパーマーケットなど小売業の発展や情報化の発展による日本国内の食生活・食文化の均一化・均質化、家庭内での調理機会の減少(例えば、魚を使った料理)などがあげられている。その一方で、地方のコンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品売り場には、少なからずその地域特有の食品が並んでいるのも事実である。そうした場合、しばしば地元の住人はその食品が自らの地域特有の「郷土料理」であることを認識しておらず、全国区的な食品と思い込んでいることも珍しくない。

郷土料理には、地方の特産品を用いていたり、地方独特の地理的・歴史的条件により生まれたものなど様々なものがある。気候風土に適した食材調味料調理法。時代の流れにより、淘汰され変化していった料理もある。概要で述べた旧藩による地域ごとの生活習慣によって各地で独特の食文化が発展してきた。

地域・食材による分類[編集]

例えば、柚餅子は日本各地で郷土料理として点在する他、大村寿司カスドースといった長崎街道(通称:シュガーロード)を経た砂糖をふんだんに利用した郷土料理が存在する[1]。これらの郷土料理は利用した食材・料理を通じた文化交流の広がり方を知る手がかりにもなっている。

昆虫食
いなごの佃煮スズメバチ幼虫食などの昆虫食は、山形県福島県群馬県長野県大分県から熊本県を経て宮崎県鹿児島県にかけての九州山地脊梁部などの山岳地方の郷土料理となっていることが多い。これは、海沿いと異なり魚からのタンパク質摂取が難しいことから、昆虫を食用とした古い文化が残存したという考え方がある。昆虫は栄養価は高いものの、個々の個体が小さく、採集労力当たり得られる栄養価が相対的に低くなってしまうため、そこまで大量採集の労力をかけることが見合う地域性、また少ない労力で大量に採集できる食材昆虫の種類の選択が関係していると考えられる。一度の採集で大量の幼虫が確保できるスズメバチ類、水田で労せずして大量に採集できるイナゴ、かつては魚のあらなどをため池に浸しておくだけで大量に集めることができたゲンゴロウ糸生産の副産物として大量に得られるカイコさなぎ成虫などが食材として選択されている。
魚貝類
この他、ウツボ料理、カツオ料理、サンマ料理、マンボウ料理など、県を越えて海岸地域に浸透した郷土料理も数多い。これらは、黒潮などの海流海上交通網を通じた漁村間のネットワークによって食文化の伝播、浸透が生じたと考えられる。和歌山県那智勝浦と、千葉県勝浦において、地名のみならず食文化においても多くの共通性がみられるのはその一例である。有明海などにしか大規模に残っていない干潟に生息する魚介類の料理は、過去に岡山県児島湾などの他の地域でもみられたのにすでに消滅してしまった例もある。

郷土料理の見直し[編集]

農林水産省でも、農山漁村において過疎化・高齢化が進み、地域の人々が培ってきた伝統的な文化が失われつつあり、その継承が危ぶまれるなか、地域の食文化の一つである郷土料理を見直し、地域の食材を生かした郷土料理の掘り起こしとともに、全国発信を図るため「郷土料理百選[2]」を2007年度から選定することにしている。郷土料理を、都市と農村との交流、地域活性化につなげようという試みで農山漁村の郷土料理百選として発表した[3]

さらに、ユネスコに無形文化遺産として「和食の伝統的な食文化」が2013年に登録され、注目されたこともあり、各県の都道府県の郷土料理の歴史、いわれ、レシピをテキスト、写真、動画による保存(アーカイブ化)を農林水産省委託事業「うちの郷土料理」を3か年計画で進めている。

郷土料理ではないご当地料理[編集]

地域おこし・地域活性化・地域振興の手段として料理を活用する動きが日本各地でみられる。「食」を生かしたまちづくりとして、全国各地で地元の料理が利用されている。中には、大幅にアレンジし、斬新なデザインのパッケージ等見た目の改良が施されたものもある。活性化への活用が進む一方、その行き過ぎた商業主義への批判もみられる。例えば、一部には、本来その地域とのゆかりが薄い料理であるにも拘らず、地元商工会議所商工会や行政がマスコミ等とのタイアップで、強引に「名物料理」に仕立てたケースもある。それらは「ご当地料理ご当地グルメ)」と呼ばれる。

脚注[編集]

  1. ^ 江戸時代の砂糖食文化|農畜産業振興機構”. 農畜産業振興機構. 2020年3月18日閲覧。
  2. ^ 郷土料理百選パンフレット:農林水産省”. www.maff.go.jp. 2020年3月18日閲覧。
  3. ^ 農山漁村の郷土料理百選について:農林水産省”. www.maff.go.jp. 2020年3月18日閲覧。

参考文献[編集]

  • 郷土料理大図鑑(発行:PHP研究所 監修:向笠千恵子)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]