キョンシー

キョンシー
各種表記
繁体字 殭屍
簡体字 僵尸
拼音 jiāngshī
注音符号 ㄐㄧㄤ ㄕ
ラテン字 chiang¹-shih¹
発音: ジャンスー
広東語拼音 goeng¹-si¹
日本語読み: きょんしー
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キョンシー簡体字: 僵尸; 繁体字: 殭屍; 拼音: jiāngshī; 粤拼: goeng¹-si¹)は、中国の死体妖怪の一種。硬直した死体であるのに、長い年月を経ても腐乱することもなく動き回るもののことをいう。広東語読みは「キョンシー」、普通話読みは「ジャンスー」。日本語の音読みで「きょんしー」(古くは「きょうし」とも[3])。

大阪ハロウィンにおける仮装のキョンシー

概要[編集]

もともと中国においては、人が死んで埋葬する前に室内に安置しておくと、夜になって突然動きだし、人を驚かすことがあると昔から言われていた。それが僵尸殭屍)である。「」という漢字は死体(=)が硬直すると言う意味で、動いても何かの拍子ですぐまた元のように体がこわばることから名付けられた[4]

ミイラのように乾燥した尸体は中国でも出土しているが、これは「乾屍かんし、コンシー」と呼び、(妖怪としては)下位分類あるいは別種として区別される。僵尸となると尸体であるにもかかわらず一切腐敗せずに生前同様にふっくらとしていて、髪の毛も長く生えている。性格は凶暴で血に飢えた人食い妖怪である。さらに長い年月がたつと、神通力を備えて、空を飛ぶ能力などももつとされる。清朝の野史である『述異記』も湖南省の村で出たという記録を残しているが、伝説の域を出ない[注 1]

中国湖南省西部よりの出稼ぎ人の遺体を道士が故郷へ搬送する手段として、呪術で歩かせたのが始まりという伝承があり、この方法を「趕屍中国語版かんし」と称する。清の徐珂『清稗類鈔』[5]方伎類の「送尸術」では、貴州省の材木商人が林業従事者の死体を運ぶ際、先導する者と、加持符咒した水を満たした椀を持った者に付き従わせて家まで送るという[6]

文学作品としては明代から清代にかけて多くが存在するが、有名なもので清代の志怪小説袁枚の『子不語[7]「畫工畫僵屍」[8][1][9][10]20作ちかくあり[11]、『続子不語』第4巻[12]紀暁嵐の『閲微草堂筆記[13]、『聊斎志異』1巻の3 尸變[4][14]がある。また、『西遊記』でも殭屍僵尸)が登場し一行に三度おそいかかり、2度偽の死体を残し逃げ去り3度目に孫行者(孫悟空)の如意棒に打殺された後に「行者道 他是個潛靈作怪的僵尸 在此迷人敗本 被我打殺 他就現了本相 他那脊梁上有一行字 叫做 白骨夫人」と孫行者が僵尸であると説明し、背骨に白骨夫人という名をもつ本相をあらわした。

日本では1980年代後半から『霊幻道士』、『幽幻道士』等の映画作品が多く公開されて知られるようになり、関連商品が販売されるなどの流行を見せた。「キョンシー」という呼称は、『霊幻道士』の当時の映画配給会社東宝東和菅野陽介によって命名された。

映画・テレビでの設定[編集]

主に映画によって吸血鬼ゾンビのイメージに当てられたキョンシー像が作り上げられているが民俗学上根拠は薄い。

キョンシーの出現[編集]

  • なんらかの事由によって風水的に正しく埋葬されていない者が、人間にある三魂七魄のうちがなくなりのみもつキョンシーになる。
  • なんらかの事由によって、恨みや嫉みによってこの世を去った者が、死後も魄・怨念をもつことによりキョンシーになる。
  • 符呪師や道士の符呪儀式により、故意に埋葬されていない死体に魄を入れることによりキョンシーとなる。
  • キョンシーにより傷つけられた生身の人間やキョンシーにより殺された人間もキョンシーになる。

キョンシーの特徴[編集]

身体の特徴[編集]

  • 死体であるため身体は硬く、ほとんどの関節は曲がらない。
  • 映画、テレビでは時代の満洲族正装である暖帽(mahala)と補褂(sabirgi kurume 官位を示す刺繍布を付けた礼服)を身に着けているが、伝承では明朝の儒者の服装の例もあるのでこれは単に昔の埋葬者のためである。この服装でも辮髪をしていない者が多いのは作品の時代設定が辮髪が行われなくなった清末期から中華民国初期のものが多いからである。作品によっては太極拳の衣装を着たキョンシーが登場している。
清朝末期の官僚。八旗科挙官僚の服装であり民間の漢人は着用が禁じられていたが、死装束として死者に着せるのは黙認されていたため、死後の世界での栄達を願って着せられていた。
  • 足首のみを利用して跳ねるように移動する。バランスをとるために腕を前に伸ばす。なお、『キョンシーvsくノ一』では、跳ねるように移動するのは男のキョンシーのみで、女のキョンシーは、左右の腕と足を同時に動かしてのそのそと歩くように描写されている。
  • 魄が宿っているため、死体の爪が伸びている。また、幽幻道士などの映画では頭髪が伸びる現象もみられる。
  • 視覚はほぼ失われている(後述する攻撃の特徴を参照)。ただし、霊幻道士シリーズ1作目で出てきたキョンシーのように視力が蘇り、道士が仕掛けた罠などを目視して回避できるようになる場合もある。
  • 基本的に死体であるため腐敗臭がする。
  • 日光にあたると火傷のような症状が現れたり崩れ、そのまま浴び続けると溶けたり燃えたりする。
  • 夜行性であり、満月の夜は特に狂暴となる。
  • 額に符が貼られていると、身動きが取れなくなる。また、道士の思い通りに動かすことができる(霊幻道士シリーズでのみコンシーと呼ばれる場合がある)。
  • 自分の姿を映し出されるに弱く、近づけない。
  • 硬直は時間とともに治るので、そのうち2足で歩いたり走ったりすることができる。
  • 言葉を教えれば、少しずつ覚える。

攻撃の特徴[編集]

  • 生き血を求め、人間や動物の頸動脈を狙い咬み付く。伝承においては、生きているものの首をねじ切り血を飲むとされる。
  • 目玉はついているが見えておらず、人間の吐く息を嗅覚で察知して襲ってくる。
  • 毒素の入った爪で握ったり、刺して攻撃をする。
  • 空中を飛ぶ能力を持つと、飛殭(フェイキョン)、更に力を持つと屍尢となるが、映画内での呼称は特に変わらない。
  • 生死に関わらず、キョンシーに咬まれたり傷を負った者もキョンシーになる。キョンシーとなった者を霊幻道士シリーズでのみバンバンシーと呼ぶ場合がある。
  • 硬直が解けた場合、そのキョンシーが生前に中国武術を得ているのならば、通常のように技を繰り出すことが可能となる。

守備の特徴[編集]

  • 死体であるのと同時に硬化しているため、はあまり効かない。ただし最新兵器や特殊な武器は除く。
  • 冷気を口から出し、蒸気によって目くらましができる。
  • 倒れても滑るように移動することができる。または体を曲げずに「起き上がりこぼし」の状態になる

キョンシーへの対処[編集]

一般の対処[編集]

  • 吐く息を嗅覚で察知するため、察知されないように息を止める。ただし前歯が抜けているなどして口が開いていると口臭で察知されて襲われてしまう。
  • ゆで卵や蒸す前の生のもち米を噛まれた傷に当てることでを緩和できる。
  • 男児(童貞)の尿、黒い体毛の雌鶏の血、生のもち米をかける。伝承では、米の他に赤豆、鉄が使われる。血は黒犬や黒い鶏以外の物を使うと、血の味を覚えてかえって狂暴化する。
  • 噛まれたり傷を負った場合は、成長する牙や爪を削ることで凶暴性を抑えられる。
  • 噛まれて絶命した者の死体を火葬することでキョンシー化を防ぐ。

修行を積んだ者(道士など)の対処[編集]

  • の木で作った剣(桃剣)、清めた銭で作った剣(銭剣)によって物理的なダメージを与える。
  • 道術を使って退治する。具体的にはキョンシーの肉体を損壊させるための技や施術。幽幻道士シリーズでは特殊霊魂と呼ばれる子供の霊魂を使役するなど。
  • 符やまじないを施し符と同じ効果を与えた自分の血をキョンシーの額につけることで動きを封じる。
  • 額に符が貼られたキョンシーを扱い、キョンシー同士で戦わせる。

霊幻道士シリーズ[編集]

『霊幻道士』はキョンシー・ブームの火付け役となった最も有名な作品。手を前方に真っ直ぐ伸ばしてピョンピョンと飛び跳ねるお馴染みのキョンシー像はここから広まった。

キョンシーを題材にしたその他の作品[編集]

映画[編集]

テレビドラマ[編集]

舞台[編集]

ゲーム[編集]

ゲーム「OpenArena英語版」のキョンシー

漫画[編集]

[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 清朝の『子不語』「金鉱の妖霊」では生き埋めの鉱夫が乾麂子(かんきし)となるが僵尸の類とする。[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b 岡本綺堂 編「子不語§僵尸を畫く」『支那怪奇小説集』サイレン社、430–431頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1258945/221 所収。「僵尸きょうし(屍体)を画く」、『中国怪奇小説集』:新字新仮名 - 青空文庫
  2. ^ a b 岡本綺堂 編「子不語§金鑛の妖靈」『支那怪奇小説集』サイレン社、444–446頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1258945/228 所収。 「金鉱の妖霊」、『中国怪奇小説集』:新字新仮名 - 青空文庫
  3. ^ 袁枚作(岡本綺堂訳)「僵尸を画く」では題目にのみ語が使われるが[1]、「金鉱の妖霊」では本文に僵尸きゃうしとみえる[2]
  4. ^ a b ウィキソース出典 蒲松齡 (中国語), 聊齋志異/第01卷#.E5.B0.B8.E8.AE.8A, ウィキソースより閲覧。 
  5. ^ 『清稗類鈔』
  6. ^ 久保田悠羅著『アンデッド』(新紀元社刊)
  7. ^ 『子不語』5巻
  8. ^ ウィキソース出典 袁枚 (中国語), 子不語/卷5#.E2.97.8B.E7.95.AB.E5.B7.A5.E7.95.AB.E5.83.B5.E5.B1.8D, ウィキソースより閲覧。 
  9. ^ 逢瀬
  10. ^ 震える手
  11. ^ 中国のほんの話(38)中国の怪奇小説 蔭山達弥(その弐) (PDF)
  12. ^ 『続子不語』 第4巻
  13. ^ 恐怖体験
  14. ^ 尸変
  15. ^ 第26回東京国際映画祭で上映時のタイトル。

関連項目[編集]