1983年の全日本ロードレース選手権
| 1983年の全日本ロードレース選手権 | |||
| 前年: | 1982 | 翌年: | 1984 |
1983年の全日本ロードレース選手権 (1983ねん の ぜんにほんロードレースせんしゅけん) は、1983年（昭和58年）3月13日の鈴鹿BIG2＆4レースで開幕し、同年9月11日の日本グランプリ (鈴鹿)で閉幕した全9戦による1983年シーズンの全日本ロードレース選手権である。
最高峰カテゴリーの500ccクラスチャンピオンは平忠彦（ヤマハ）が獲得した[1]。
1983年シーズン
[編集]前年まで適用されていた参戦車両の公認制度の改正、型式制限の解除が推進された。「フォーミュラリブレ（改造自由）」が廃され、この年からメーカーワークスマシンもポイントランキングに含まれることになった[2]。また、ノービスフォーミュラ3が全日本選手権の対象クラスに加えられた。参戦者にとって身近な市販車ベースのクラスであり、F3ブーム[3]となったことで全クラスの中で最も出場台数を集めた。最終戦ではエントリー台数249台と盛況、全5戦が開催された。
500cc
[編集]A級500ccクラスは第1戦鈴鹿2&4でホンダ・RS500の阿部孝夫（HRC）が勝利を挙げ、第2戦筑波ではヤマハ・TZの平忠彦が500cc初優勝。前年チャンピオンの水谷勝（スズキ）はこの第2戦で転倒し骨折、8月までレースを欠場することになりタイトル争いから離脱する。
第3戦鈴鹿では、右肩・鎖骨の骨折から復帰し今季初出場となるヤマハワークスのエース・木下恵司がヤマハ・YZR500で勝利し、以後木下が4勝を挙げる強さでチャンピオンシップをリードしていく。第6戦鈴鹿200キロレースのプラクティスセッションでは、HRCの木山賢悟がスプーンコーナー手前の右高速コーナーで転倒後バリアにクラッシュ、そのまま亡くなるという事故が発生し、HRC所属選手は喪に服し200キロレース大会の出走を全クラス取りやめた[4]。なお、同年は春先に前年まで全日本500に参戦していたスズキの石川岩男も世界選手権フランスGPで亡くなっており、日本のトップライダーに訃報が続いた[5]。
タイトル争いは、シーズン途中よりワークス車両ヤマハ・YZR500を与えられた平が着実に木下の背後で2位を4回積み重ね、決着は最終戦まで持ち込まれた。最終戦の日本GP（鈴鹿）を前に木下75ポイント、平71ポイントと、木下は平の前でチェッカーを受ければ自力でチャンピオンを獲得できる有利な状況で迎えた。この最終戦では、前週にWGP500ccで史上最年少ワールドチャンピオンを獲得したフレディー・スペンサー (HRC)がNS500で参戦[6]、決勝日には6万人の観衆が集まった。土曜の予選でスペンサーは、鈴鹿の最終コーナ手前にシケインが設置されたあと誰も破れなかった2分20秒の壁を破り、500ccのレコードタイム（平忠彦が記録した2分22秒42）を2秒以上更新する2分19秒56を記録しポールポジションを獲得、「フレディー・ショック」を巻き起こした[7]。日曜の決勝レースではスタートを決めたスペンサーがトップに立ち、その後方から2番手の木下がS字、デグナー、ヘアピンと追走する。しかしその直後のスプーンコーナーで木下が限界を越え転倒しリタイア、タイトルのかかった1戦でノーポイントとなる。スペンサーは一度もトップを譲らず14秒の大差をつけ完勝。2位には平が入り、通算ポイントで木下を逆転し初の全日本500ccクラスチャンピオンを獲得した。タイトルを逃した木下はシーズン後のインタビューで、「フレディ(スペンサー)を追いかけたことは後悔してない。やれるときに精一杯やりたいと思ったんだ。」とコメントを残した[8]。木下はこのアグレッシブな姿勢を買われ、ライバルであるホンダワークス・HRCから声がかかり、翌1984年からHRCのエースとして全日本500を戦うこととなった[9]。
スケジュールおよび勝者
[編集]| 戦 | 決勝日 | 開催イベント | 500cc優勝 | 250cc優勝 | 125cc優勝 | ※TT F1 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3月13日 | 鈴鹿BIG2&4 | 阿部孝夫 | ― | ― | 森田泰男 |
| 2 | 3月27日 | 筑波ロードレース選手権 | 平忠彦 | 小林大 | 五百部徳雄 | ― |
| 3 | 4月24日 | 鈴鹿ロードレース大会 | 木下恵司 | 毛利良一 | 江崎正 | 徳野政樹 |
| 4 | 5月8日 | 筑波ロードレース大会 | 上野真一 | 斉藤光雄 | 栗谷二郎 | ― |
| 5 | 5月22日 | SUGOロードレース大会 | 木下恵司 | 平塚庄治 | 江崎正 | ― |
| 6 | 6月12日 | 鈴鹿200kmロードレース | 木下恵司 | 三浦昇 (B級) | 江崎正 | 清原明彦 |
| 7 | 6月26日 | 筑波ロードレース大会 | 木下恵司 | 斉藤光雄 | 栗谷二郎 | ― |
| 8 | 8月28日 | SUGOロードレース大会 | 木下恵司 | 樋渡治 | 一ノ瀬憲明 | ― |
| 9 | 9月11日 | 第20回日本グランプリロードレース(鈴鹿) | フレディ・スペンサー | 福田照男 | 山本陽一 | ロバート・フィリス |
| チャンピオン | 平忠彦 | 斉藤光雄 | 栗谷二郎 | ※徳野政樹 | ||
※国際A/B級フォーミュラー1 (スーパー1000) クラスは、全日本選手権が懸けられていない併催レースとして鈴鹿大会で開催。
シリーズポイントランキング
[編集]| 順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ポイント | 15 | 12 | 10 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
- 第9戦日本GPでは、特別ポイントとして入賞者に従来のポイント＋3ポイントが与えられる。
500cc
[編集]| 順位 | No. | ライダー | 使用車両 | 1 SUZ | 2 TSU | 3 SUZ | 4 TSU | 5 SUG | 6 SUZ | 7 TSU | 8 SUG | 9 SUZ | ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 6 | 平忠彦 | ヤマハ・TZ500 (R1-2,4) ヤマハ・YZR500 | 4 | 1 | 2 | Ret | 2 | - | 2 | 2 | 2 | 86 |
| 2 | 10 | 木下恵司 | ヤマハ・YZR500 | - | - | 1 | - | 1 | 1 | 1 | 1 | Ret | 75 |
| 3 | 11 | 阿部孝夫 | ホンダ・RS500R | 1 | 3 | 3 | 3 | 6 | DNS | 4 | 10 | 4 | 70 |
| 4 | 9 | 伊藤巧 | スズキ・RGB500 | 4 | 5 | 2 | 5 | 2 | 4 | 6 | 60 | ||
| 5 | 7 | 島田進 | スズキ・RGB500 | 8 | 7 | 4 | 4 | 5 | 3 | 5 | 8 | 52 | |
| 6 | 3 | 上野真一 | ヤマハ・TZ500 | 7 | 4 | 1 | 3 | 3 | 7 | 51 | |||
| 7 | 1 | 水谷勝 | スズキ・RG-Γ500 | 2 | Ret | - | - | - | - | - | 3 | 5 | 31 |
| 8 | 18 | 草間郁夫 | スズキ・RGB500 | 6 | 7 | 9 | 5 | 6 | 8 | 28 | |||
| 9 | 12 | 鈴木修 | ヤマハ・TZ500 | 6 | 10 | 8 | 6 | 6 | 19 | ||||
| 10 | 35 | 藤本泰東 | ヤマハ・TZ500 | 5 | 2 | 18 | |||||||
| MFJ競技ライセンスではない海外ライセンス選手のため全日本選手権ポイント非対象 | |||||||||||||
| - | 01 | フレディ・スペンサー | ホンダ・NS500 | - | - | - | - | - | - | - | - | 1 | - |
250cc
[編集]| 順位 | No. | ライダー | 使用車両 | 2 TSU | 3 SUZ | 4 TSU | 5 SUG | 6 SUZ | 7 TSU | 8 SUG | 9 SUZ | ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 斉藤光雄 | ヤマハ・TZ250 | 2 | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | Ret | 81 | |
| 2 | 5 | 樋渡治 | ヤマハ・TZ250 | Ret | 3 | 4 | 2 | 4 | 1 | 2 | 68 | |
| 3 | 14 | 毛利良一 | ヤマハ・TZ250 | 1 | Ret | 3 | 4 | DSQ | Ret | 4 | 44 | |
| 4 | 33 | 小林大 | ヤマハ・TZ250 | 1 | 8 | 3 | 5 | 37 | ||||
| 5 | 12 | 古屋喜一郎 | ヤマハ・TZ250 | 7 | 3 | 3 | 27 | |||||
| 6 | 1 | 福田照男 | ヤマハ・TZ250 | Ret | 4 | 1 | 26 | |||||
| 7 | 38 | 伊藤真二 | ヤマハ・TZ250 | 3 | Ret | 2 | 22 | |||||
| 8 | 21 | 平塚庄治 | ヤマハ・TZ250 | 10 | 1 | 6 | Ret | 21 | ||||
| 9 | 44 | 三上秀雄 | ヤマハ・TZ250 | 7 | 2 | 6 | 21 | |||||
| 10 | 10 | 寺田光良 | ヤマハ・TZ250 | 6 | 3 | 5 | 21 |
- 太字はポールポジション。
- 第7戦筑波大会でNo.14毛利良一は1位チェッカーを受けたが、レース後に排気サイレンサーの脱落が確認されレギュレーション違反失格となった。
125cc
[編集]| 順位 | No. | ライダー | 使用車両 | 2 TSU | 3 SUZ | 4 TSU | 5 SUG | 6 SUZ | 7 TSU | 8 SUG | 9 SUZ | ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 29 | 栗谷二郎 | ホンダ・RS125R | 4 | 5 | 1 | 3 | 4 | 1 | 3 | 8 | 94 |
| 2 | 3 | 山本陽一 | ホンダ・RS125R | 2 | 4 | 4 | 2 | 2 | 2 | 1 | 82 | |
| 3 | 2 | 冨田英志 | ホンダ・RS125R | 3 | 4 | 5 | 6 | 5 | 4 | 5 | 2 | 64 |
| 4 | 5 | 江崎正 | ヤマハ・TZ125 | Ret | 1 | 3 | 1 | 1 | 6 | 60 | ||
| 5 | 1 | 一ノ瀬憲明 | ホンダ・RS125RW | Ret | 3 | 2 | 3 | 1 | 5 | 56 | ||
| 6 | 7 | 五百部徳雄 | ホンダ・RS125R | 1 | 2 | 5 | 3 | 4 | 51 | |||
| 7 | 35 | 三枝幸彦 | ホンダ・RS125R | 2 | 6 | 25 | ||||||
| 8 | 16 | 越山英利 | ホンダ・RS125R | 8 | 6 | 7 | 9 | 9 | 6 | 24 | ||
| 9 | 17 | 小沼賀代子 | ホンダ・RS125R | 7 | 8 | 6 | 7 | 10 | 20 | |||
| 10 | 34 | 島正人 | ホンダ・RS125R | 7 | 6 | 7 | 16 | |||||
| 11 | 33 | 榊原健二 | ホンダ・RS125R | 9 | 7 | 9 | 11 | |||||
| 12 | 37 | 佐藤順造 | ホンダ・RS125R | 8 | 8 | 8 | 9 | |||||
| 13 | 6 | 奥村裕 | ヤマハ・TZ125 | 9 | 5 | 8 | ||||||
| 14 | 9 | 鯉沼慶二郎 | ホンダ・RS125R | 8 | 6 | 8 | ||||||
| 15 | 32 | 菊池正剛 | ホンダ・RS125R | 9 | 8 | 8 |
- 太字はポールポジション。
ジュニア区分
[編集]| ライセンス | クラス | チャンピオン | マシン | チーム |
|---|---|---|---|---|
| 国際B級 | 250cc | 坂口彰 | ヤマハ・TZ250 | オートテクニックスポーツ |
| 125cc | 篠田雅樹 | ホンダ・RS125R | 鈴鹿レーシングチーム | |
| ノービス | 250cc | 宮城光 | ヤマハ・TZ250 | モリワキレーシング |
| 125cc | 吉田健一 | ホンダ・RS125R | 鈴鹿レーシングチーム | |
| TT F3 | 宮城光 | モリワキ・Zero X1 | モリワキレーシング |
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ 歴代チャンピオン 1983国際A級 MFJ日本モーターサイクルスポーツ協会 (2024年12月19日閲覧)
- ^ 「MFJロードレース委員会 1983年度国内競技規則の変更」『ライディング No.151』日本モーターサイクルスポーツ協会、1983年1月1日、8頁。
- ^ 俺たちのヨンタイ 45年の歴史に幕 webミスターバイク モーターマガジン社 (2024年9月6日)
- ^ 「木山賢悟鈴鹿に死す」『ライディングスポーツ No.07』武集書房、1983年8月1日、41-45頁。
- ^ 「Rider Album 石川岩夫 日本のレーシングモーターサイクル栄光の歩み」『モーターサイクリスト』12月号増刊、八重洲出版、1988年12月15日、274頁
- ^ チームメイトの片山敬済もNS500で参戦予定だったが、WGPでの負傷のためスペンサーのみ参戦となった。
- ^ 「スペンサーが披露した素晴らしい世界の走り」『ライディング No.161』日本モーターサイクルスポーツ協会、1983年11月1日、34-35頁。
- ^ 「木下恵司 1984年に向けて」『RIDING SPORT No.016』武集書房、1984年5月1日、45-48頁。
- ^ 「1984をふり返って/ HRC福井威夫氏」『ライディングスポーツ YEAR BOOK1984-1985』武集書房、1985年4月1日、76-77頁。