銀河英雄伝説の戦役

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銀河英雄伝説の戦役(ぎんがえいゆうでんせつのせんえき)では、田中芳樹の小説『銀河英雄伝説』、それを原作としたアニメ(OVA、DNT)に登場する、架空の戦役及び戦闘について記述する(一部非戦闘の項目を含む)。

概要[編集]

本項は、『銀河英雄伝説』の本編及び外伝で執筆された「創作上のリアルタイム」に登場する戦役、及び独立した戦闘を、原則として時系列に沿って記述する(原作発表順、アニメ製作順は時系列順とそれぞれ異なる)。戦役の中に含まれると思われる戦闘も、特記すべき戦闘に関しては別項を設けて記述する。一部戦闘/軍事行動とは呼べない事件・政争・騒動なども、物語上重要な場面であれば項目として含む。

西暦時代[編集]

13日間戦争~90年戦争[編集]

西暦2039年、当時の人類社会唯一の生存圏だった地球を二分していた勢力である北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム, Northern Commenwelth[1]三大陸合州国(ユナイテッド・ステーツ・オブ・ユーラブリカ, United States of Eurafrica[2]が全面戦争に突入した。

13日間に渡って熱核兵器大気圏内で大量に使用し、戦乱に無関係だった中立国や小国の資源等を敵に利用されない様にするために容赦なく核攻撃した結果、世界の主要大都市圏は壊滅状態となった(13日間戦争)。

北方連合国家と三大陸合州国が壊滅した後も、地球各地では90年に及ぶ戦乱が続いた(90年戦争)。この時代の混乱は著しく、世界人口は約10億まで激減し、北米大陸に割拠した教団国家群(オーダーネイション)は精神的にも肉体的にも人々を疲弊させる結果を招いた。

2129年に地球上の各勢力が全ての主権国家の権利を放棄するという選択を行い、人類初の統一政体である「地球統一政府」が樹立される。それにともなって地球上の各戦争は一応終結したが、当時の疲弊しきった地球上では食糧生産能力が痛撃を被っており、実質的には戦争を継続できる余裕のある勢力は既に存在しなかった。

地球統一後、22世紀後半から地球の再建と宇宙開発が進み、太陽系外の植民惑星の開発・発展が27世紀のシリウス戦役まで続く。

シリウス戦役[編集]

西暦2391年には、地球統一政府主導の宇宙開発で超光速航行が実現し、2404年に恒星間移民政策の開始など宇宙フロンティアの開発が進み、空前の繁栄を謳歌した。しかし2580年頃から人類生存圏の拡大が急速に鈍化し、2630年には完全停滞に陥る。

宇宙での新規惑星開発事業が技術と距離の壁という限界により活力が失われる中で、地球政府の官僚機構及び軍部の肥大化に伴う植民星からの搾取は過酷を極め、地球と植民星間の経済的な不公平が大きく顕在化した。地球は資本主義の名の元に搾取した富を使用して軍事力を強化し続け、植民星は己を虐げる兵士達を強引に養わされ続けた。植民星側は地球軍の縮小や地球資本の内政干渉の禁止、植民星側の自治の確立などを地球政府と汎人類評議会に求めていたが、あくまでも自分達の既得権益を守ろうとする地球側は要求に応じず、汎人類評議会の七割の議席を地球から選出させる事で植民星側の意見を黙殺。更に地球統一政府与党の国民共和党書記長のジョシュア・リューブリックが貧困の原因を「植民星人の能力欠如に帰する」として責任を押し付けた上に、植民星が一丸となった地球側への状況改善の要求には「地球の汎人類評議会への分担金拠出停止」という報復措置で応じたため、植民星人の地球に対する憎悪が高まっていた。

地球側も植民星側の苛烈な反発と不満の増大により、地球にとっての「良き時代」が終わりかけている事を察しており、植民星の不満を抑える対策を講じるが、地球政府は植民星の状況改善ではなく謀略にて不満を押さえつける事を画策。反地球派の代表的存在であるシリウス政府を公敵に仕立て上げ、シリウスこそが地球にとって代わり人類を支配せんと企んでいると宣撫工作を始めた(シリウスの軍事力と野心を声高に触れ回る事で、シリウスを恐れた植民星が地球にすり寄る事を期待し、同時にシリウスを地球にとって制御可能な公敵として仕立て上げる事を企図したとされる)。

ところがこれが裏目に出て、地球に対する反感のあまりに植民星側の多くは「地球の専横に対する希望」として次々とシリウスに急接近し、地球にとって事態は急速に悪化する。この事態に窮した地球政府は、反地球陣営盟主の地位を手にし始めていたシリウス政府に軍事力による懲罰を加える事で一気に幕引きを図り、西暦2689年にシリウスが植民惑星の警備隊を集めて合同訓練の際に重火器の供与を約束した事を口実に先制攻撃を行った。植民星連合軍は反撃できぬままに大敗し、シリウス主星であるシリウス星系主星第6惑星ロンドリーナを制圧、徹底した掃滅と略奪により百数十万人のシリウス人が落命。だが、その中から後に「ラグラン・グループ」と呼ばれる4人(カーレ・パルムグレン、ウィンスロー・ケネス・タウンゼント、ジョリオ・フランクール、チャオ・ユイルン)が脱出に成功する(ラグラン市事件)。

2691年2月28日、プロキシマ系第5惑星プロセルピナで一堂に会した彼らによって反地球惑星の市民啓蒙や低開発惑星の飛躍的な経済発展に成功、同時に地球軍に対抗可能な軍事組織「ブラック・フラッグ・フォース(BFF)」が結成された。以後、数々の戦闘に勝利し、2703年、地球の孤立化に成功。反地球連合軍は2704年、地球の地表全域に対して無差別の全面攻撃(事実上の大量殺戮)を敢行し勝利した。

ヴェガ星域会戦[編集]

シリウス戦役内に於ける、地球軍とBFFの戦い。正確な日時は不明(時系列上は西暦2701年から2703年の間)。それまで、ジョリオ・フランクール率いるBFFは、地球軍のコリンズ、シャトルフ、ヴィネッティという有能な3人の提督の前に一度ならず敗北していたが、本会戦に於いてはその3提督の連携が乱れたためフランクールは各個撃破によって勝利を納めた。更に本会戦の敗北によって3提督の間に不和が生じたところをついて、チャオ・ユイルンが謀略を仕掛けて3提督を互いに殺し合わせて共倒れさせた。

OVAでは謀略に関する具体的説明は無いが、原作では以下の手順を踏んだと説明されている。

  1. ヴィネッティにクーデターを起こすように唆してコリンズを殺させる。
  2. シャトルフにコリンズの死の真相を知らせ、ヴィネッティを逮捕・処刑させる。
  3. シャトルフに全ての責任を押し付けてヴィネッティの旧部下を扇動し、彼らにシャトルフを殺させる。

チャオの謀略により3提督を喪失した地球軍には、力量にも協調性にも欠ける二流以下の指揮官しかおらず、その戦闘能力は大幅に低下し艦艇の数と装備だけが取り柄の烏合の衆と堕した。これ以降の84回の戦いは全てBFFが勝利し、特に第二次ヴェガ星域会戦においては6万隻の地球軍が8000隻のBFF(OVA版では地球軍2万隻に対してBFFは6000隻)に大敗を喫するという醜態を晒した。

地球攻略戦[編集]

ヴェガ星域会戦の後に戦勝を重ねるBFFは、西暦2704年にその勢いを駆って地球へと進撃する。地球は既に食料・工業製品の原料・エネルギー資源の補給源を失っており、軍部が民間の食糧を徴発している有様で、アステロイドベルトを最終防衛線としながらも地球政府の敗北は決定的だった。この時、BFF司令官フランクールは地球全域に対する全面的な無差別攻撃を主張し、反対に政治委員のチャオは地球を完全に包囲しての持久戦により地球政府に降伏を促す事を提案した。パルムグレンは折衷案として二ヶ月間の持久戦の後、地球全土に全面攻撃を実施。地球が餓死寸前まで追い込まれた上での全面的な大量殺戮であったため、地球にとって最も残酷な結果になったとされている。

無差別攻撃の直前、地球統一政府代表が和解の為にBFF総司令官フランクールの元を訪れているが、フランクールは「滅亡するか、滅亡させられるか、好きな方を選べ」と聞く耳を持たなかった(代表はこれから起きる惨劇を直視できず、統一政府本部への帰還途中に自殺)。他の地球統一政府の首脳陣はヒマラヤ山脈に建設された巨大地下シェルターに大量の物資と共に避難しており、しかも地上の地獄絵図を肴にして享楽に耽る有様だった。これに激怒したフランクールは地球上に降下し、灌漑用水路を爆破して数億トンの水をシェルターに注水し内部にいた人間を皆殺しにする。その後、焼け残った都市部では三日間にも及ぶBFFによる徹底的な略奪と殺戮が行われ、後世「ラグラン市事件が100倍の規模で再現された」と評される。地球の総人口も十億人程度まで激減(ラグラン事件と違い犠牲者の総数は不明。作中の地球最盛期とされた人口から計算すると少なくとも数十億、最大値で90億近い犠牲者が出ていると推測される)。大部分の市民は不毛の地と化した地球を見捨てて、他の惑星へ移っていったが、残留した地球市民の間では生存を掛けた紛争と内戦が地球各地で発生したとされ、時期は不明だが、地球統一政府残党勢力による地球教設立の際にも反対派への弾圧が行われたため、作中時間軸では地球の総人口は約一千万人まで激減した。

この戦いの結果、地球統一政府は事実上消滅し、地球は人類の盟主の座を失った。しかし、シリウス政府側も直後に起きた内紛でラグラン・グループが全員死亡し後継者をめぐる抗争が勃発し、銀河全体を統括できる影響力を持った政体が消滅。BFFがいくつもの勢力に分裂し、戦乱はさらに銀河連邦が西暦2801年(宇宙暦1年)に成立するまで一世紀近くも続くことになる。

そして地球は「過去の存在」として人々の記憶から忘れ去られ、後に成立した銀河連邦やゴールデンバウム朝銀河帝国も地球に対する施政を実質的に放棄し、地球教による地球自治を事実上黙認する事となった。なお、ヒマラヤ山脈は地形が変わるほど爆撃されたが、旧地球政府の地下シェルターは健在で、後に地球教の総本部として使用されている。これらは約900年後[3]、ローエングラム朝銀河帝国による地球教討伐作戦で破壊される。

宇宙暦時代[編集]

M・シュフランとC・ウッドによる宇宙海賊平定[編集]

宇宙暦106年から2年間、銀河連邦が宇宙海賊の一掃を目的として行った一連の戦闘作戦。ミシェール・シュフラン及びクリストファー・ウッド両提督の活躍が大きかった。特にクリストファー・ウッドの功績は伝説的なものとなり、後世において、同じ任務に就いていた時のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムや、アスターテ会戦で多大な戦果を挙げたラインハルト・フォン・ローエングラムが、賞賛の意味で「ウッド提督の再来」と呼称されるに至った。

ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの宇宙海賊平定[編集]

宇宙暦288年、少尉として任官(法務士官)したルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが、その後様々な事情から中尉に昇進し、宇宙海賊のメイン・ストリートと称されるベテルギウス方面に転属した。彼はそこで積極的に宇宙海賊の掃滅を行い、降伏と裁判を望む相手を宇宙船ごと焼き殺すという、批判とそれ以上の賞賛を得る挙に出た。これによってルドルフは多くの市民から英雄視される事となり、宇宙暦296年、28歳で少将となって軍籍を退き、政界入りした。

ルドルフの民衆弾圧[編集]

宇宙暦310年、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは銀河帝国の樹立を宣言して皇帝となり、帝国暦に改暦された。

その強引ながらも有能な統治によって帝国の政治および社会は一度は立ち直ったが、次第にその治世は横暴を極め、帝国暦9年、ついに強者ルドルフの驕りを文章化した劣悪遺伝子排除法が発布。先天的身体障害者、社会的弱者全般の存在そのものが罪であるとされ死を強制された。

これに議会が反対するとルドルフは議会を永久解散し、社会秩序維持局を発足させて思想犯・政治犯を手段を問わずに弾圧・殺害し、当時の全人口3000億人の内40億人を「排除」した。

旧帝国暦時代[編集]

ルドルフ死後の反乱と鎮圧[編集]

帝国暦42年、ルドルフが死去し、帝国各地で共和主義者による叛乱が頻発した。しかし、ルドルフが40年かけて育成した貴族・軍・官僚のトリニティによる権力基盤は強固であり、また、第2代皇帝ジギスムントの実父(ルドルフの娘婿)であるノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの冷静沈着な指揮により鎮圧。叛乱に参加した5億人が処刑され、その家族など100億人以上が農奴階級に落とされた。ヨアヒムの死後も弾圧は続き、それがアーレ・ハイネセンの長征一万光年に繋がっていく。

ユリウス一世の暗殺[編集]

帝国暦144年、ゴールデンバウム王朝初の皇帝暗殺が起きた。

当時の皇帝ユリウスは将来を嘱望されていた息子フランツ・オットー即位までの中継ぎとして老齢に達してから即位した無能な好色漢であったが、意外に身体頑健であり長寿を保った。そのため彼の治世のうちにフランツ・オットーと孫が先に死亡し、曾孫のカールが帝位後継者となる。カールはあと数年で帝位を継げると見込まれたが、なぜかその「あと数年」を待つことなく宮女を抱き込んで食事中の皇帝のワインに一服盛り、皇帝を毒殺するに至った。小説版では、特に神秘主義的な思考を持つ人物でもなかったが、彼が物心がついたとき既に老人であった皇帝は今もなお老人であり、老人のまま生き続けるのではないのか、という強迫観念に捕らわれてしまった事が示唆されている。

事件後、カールはこの宮女を「皇帝が亡くなった際に適切な処置をとらなかった」として(食事に同席していた他の4人の宮女共々)殉死させて口封じをした。だが、宮女は近衛隊員であった兄への形見の腕輪の内張りに、真相を口紅で書き残していた。兄は妹の仇討ちをすべく、帝位第二継承者であるカールのいとこブローネ候ジギスムントに、証拠の腕輪を差し出した。ライバルを蹴落とす最大のチャンスを得たジギスムントは極秘裏の宮廷内工作を行い、カールを追い落として新皇帝ジギスムント二世となった。カールは精神病院に幽閉されたまま「痴愚帝」ジギスムント二世が失脚したのちも生き続け、曽祖父(95歳)よりも長生きし、97歳で亡くなった。既に皇帝は6代も交代した12代目オットー・ハインツ一世の時代であり、宮廷内にカールの名を覚えている者は存在しなかったという。

以後、カールの名が付けられたゴールデンバウム家の男子が帝位につくことはついに無かった。 これらの事実は当然公表される事はなかったが、ゴールデンバウム王朝が滅んだのちに皇帝ラインハルトの指示で行われた歴史研究で解明された。

アーレ・ハイネセンの長征一万光年[編集]

帝国暦164年、アルタイル星系で農奴階級に落とされていた共和主義者のひとりであるアーレ・ハイネセンが、社会秩序維持局の目を盗んでドライアイスの巨大な塊を切り出して動力その他各種設備を設置、急造の宇宙船「イオン・ファゼカス号」として、40万人の男女とともにアルタイル星系を脱出。無名の一惑星の地下で80隻の本格的な恒星間宇宙船を建造して銀河系の深遠部へと向かった。半世紀に及ぶ過酷な道程の後の帝国暦218年、生き残った約16万人が居住可能な惑星を発見してハイネセンと名づけ、宇宙暦(527年)を復活させて自由惑星同盟の成立を宣言した。なお、アーレ・ハイネセンは長征の途中で事故のために死亡。親友だったグエン・キム・ホアが後を継ぎ、そのグエンも老いて失明していた。残された人々は理想と情熱に燃え、そして帝国の来るべき脅威に脅えながら惑星ハイネセンを、そして周辺の星々を開拓していった。

旧帝国暦/宇宙暦時代[編集]

トラーバッハ星域会戦[編集]

宇宙暦562年/帝国暦253年。皇族エーリッヒ・フォン・リンダーホーフ侯爵(のちの皇帝エーリッヒ2世)が「流血帝」皇帝アウグスト2世に対して起こした叛乱における戦い。

史上最悪のシリアルキラーであった「流血帝」アウグスト2世による殺戮の嵐は留まる所を知らず、遂には自分を除く皇族をあらかた殺し尽くした。やがてアウグスト2世は従兄弟(父の弟の子)で領地に帰っていたエーリッヒの存在を思い出し、オーディンへの出頭を命じた。無論、オーディンへ行けば殺されるのは明白であり、追い詰められたエーリッヒは自らの身を守るため、やむなく領地周辺の帝国軍駐屯部隊を主軸に叛乱を起こす。敗死を覚悟し、敗退した場合は無惨に殺害される前に体内に仕込んだ毒のカプセルで自死する事も覚悟して起ったエーリッヒだが、彼の予想に反して叛乱軍には当時のローエングラム伯コンラート・ハインツ以下多くの貴族や軍人が集まり、瞬く間に大勢力へと成長した。 こうして立ったエーリッヒ軍が討伐に来た皇帝軍を迎え撃ったのが、トラーバッハ星域会戦である。戦意に欠けた皇帝軍は鎧袖一触に敗れ、投降者した将兵は戦死者の20倍にも及び、ろくな戦闘を行わないまま叛乱軍に全面降伏する結果となった。同じ頃、帝都オーディンの皇帝アウグスト2世は側近のシャンバークによって殺害され、オーディンに乗り込んだエーリッヒは皇帝エーリッヒ2世として即位。アウグストの影響を一掃し、乱れた王朝を再建することとなる。

銀河帝国と自由惑星同盟のファーストコンタクト[編集]

宇宙暦640年/帝国暦331年。同年の2月ごろ、銀河帝国と自由惑星同盟は、戦艦同士の交戦という形で、最初の接触を果たした(詳細不明)。

戦闘自体は、この日があることを覚悟していた同盟側の奇襲と勝利に終わったが、帝国艦は完全に不意を突かれながらも撃沈される前に緊急通信を発していた。その急報を受けた帝国は一世紀以上の前の古記録をあさり、アルタイルから集団脱走した政治犯たちが生きのび、いまや一国を建てるほどの大勢力と化したことを知った。

しかし、人類の唯一の政体を自認する銀河帝国は対等な国家の存在を認めず、彼らを「辺境の叛徒」と称し、皇帝の威光に纏ろわぬ反逆者として、征服・討伐の対象と見做した。

帝国20代皇帝フリードリヒ3世はすぐに辺境の叛徒を討伐すべく艦隊を組織して派遣し、ダゴン星域会戦が生起する。

なお、帝国が同盟を正式に国家として承認したのは、ローエングラム王朝の時代になって出された冬バラ園の勅令においてであり、ゴールデンバウム王朝と自由惑星同盟の両者が滅亡したあとのことであった。

ダゴン星域会戦[編集]

ダゴン星域会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦640年/帝国暦331年7月14日~22日
場所:ダゴン星域
結果:同盟軍の完勝
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ヘルベルト大公
ゴットリーブ・フォン・インゴルシュタット中将
リン・パオ中将
ユースフ・トパロウル中将
戦力
艦艇52,600隻
将兵4,408,000人
約25,000隻
損害
壊滅

宇宙暦640年/帝国暦331年7月14日~22日。帝国軍と同盟軍の、初めての本格的な艦隊戦闘。後述の戦闘経緯から「ダゴンの殲滅戦」とも呼ばれることがある。なお、この戦いを描いた原作小説は、当初通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。

帝国は、同盟の存在を認識し、これを討伐すべく軍を派遣した。司令官は皇帝フリードリヒ3世の3男ヘルベルト大公、兵力は艦艇52,600隻、将兵4,408,000人。この軍事行動には、有力な後継者と目されたヘルベルトに手柄を挙げさせ箔をつける意味合いもあった。ただし、彼は軍事の素人であり、彼が選んだ指揮官たちも半数は取り巻きの貴族子弟であった。残る半数はインゴルシュタット中将など相応の軍事能力を備えた幕僚ではあったが、叛乱や民衆蜂起を相手にしたことはあっても正規軍相手の本格的な実戦経験はなく、そして彼らもまた油断しきった驕れる貴族であった。一方の同盟軍もまた本格的な実戦経験はなく、兵力は帝国軍の半数であったが、この日を覚悟して鍛えられており、性格はともかく指揮能力の優秀さだけは誰も疑わなかったリン・パオ中将を総司令官に、ユースフ・トパロウル中将を総参謀長に据え、迎撃の準備を整えた。

7月8日、同盟軍の駆逐艦ヤノーシュがイゼルローン回廊の出口付近を哨戒中に帝国艦隊を発見、同14日に双方の先鋒がダゴン星域で戦闘状態に入ったが、お互い及び腰で長距離砲撃を行ったのみで双方とも損害は無かった。ダゴン星域は迷宮も同然の小惑星帯に太陽嵐が吹き荒れる難所であったが、同盟軍は地勢を知り尽くし索敵においても勝っていた。一方、帝国軍の実質的な指揮官インゴルシュタットは索敵どころか自軍の位置測定さえ困難なダゴン星域の地勢を考慮し、密集隊形での迎撃に徹して同盟軍を消耗させる策に出た。16日の戦闘で同盟のオレウィンスキー艦隊が戦術的敗北を喫して3割の損害を出すと、リン・パオは帝国軍に相応の戦術能力がある事を認め、戦闘の勝利より相手の疲弊と撤退を優先させる事を考えた。

一方、この勝利に気を良くしたヘルベルトはインゴルシュタットの戦法を無視して17日に全面攻勢を命じ、敵情も把握しないまま全艦隊を放射状に分散させる愚を犯した。インゴルシュタットは命令に従いつつも各艦隊を連携させいつでも再集結できる体制を整えようとしたが、実戦経験の不足が災いして失敗し、帝国軍本隊は孤立した。一方、18日に帝国軍が動いたという「常識外の」報告を受けたリン・パオとユースフ・トパロウルは、最初は敵の周到な作戦かと疑い、同日の戦闘でも後手に回ったが、翌19日になって帝国軍が素人の感情論で動くリン・パオの言うところの「あほう」である事に気づき、ユースフ・トパロウルも即座に同意した。これをうけて両者は当初の宙域に残っていた帝国軍本隊のみを全兵力で攻撃する事を決断した。16時、リン・パオは攻勢に転じ、一旦は阻止されたものの、18日に特命を受けて帝国軍の後方を攪乱していた同盟軍エルステッド艦隊の活動がこの頃から奏功し始め、翌20日に帝国軍バッセンハイム中将の艦隊が崩壊、同中将が戦死した。激怒したヘルベルトは分散した艦隊に再結集を命じたが、同盟軍はそれを傍受し、敵が連携を欠いたまま集結したところを一挙に包囲殲滅する事を命じた。21日0時40分、同盟軍ウォード中将の艦隊が帝国軍左翼を攻撃し、さらに反対方向からアンドラーシュ艦隊が突進。帝国軍のハーゼンクレーバー提督は乗艦もろとも四散した。この攻撃によって密集隊形というより単に群れた烏合の衆と化した帝国軍に対して同盟軍は全面包囲攻撃を敢行、22日4時30分、帝国軍はほぼ消滅した。生存率は8.3パーセント。後世の同盟からは輝かしい戦勝と称えられているが、司令官は「自分たちは何度も失敗した。しかし帝国軍はそれ以上の失敗を繰り返したおかげで勝てただけだ。」と述べている。

ヘルベルト大公は生きて帰ることができ、皇族故に罪こそ問われなかったものの、そのまま精神病院に幽閉され、皇位を継ぐことができなくなった。そのヘルベルトの代わりにインゴルシュタット中将が敗戦の全責任を取らされて銃殺となった。一方のリン・パオとトパロウルはその後元帥昇進は果たすものの、若いうちに巨大すぎる功績を立てたことによって居場所がなくなり、決して幸福とは言えない晩年を送っている。

この一戦で、「自由の国」同盟の存在を知った帝国からは亡命者が相次ぎ、その数は同盟の国力を大幅に増大させるほどになった。しかしその中には、ただの刑事犯罪者や権力抗争に敗れた貴族も含まれており、同盟を徐々に質的に劣化させる一因ともなった。また、この敗戦によってヘルベルトが皇位継承争いから脱落し、代わりに即位した「晴眼帝」マクシミリアン・ヨーゼフ二世の改革によって、当時混乱の極みにあった帝国は立ち直ってしまった。

コルネリアス1世の大親征[編集]

宇宙暦669年/帝国暦359年5月。コルネリアス1世による同盟領侵攻作戦。ゴールデンバウム王朝唯一の親征。帝国暦350年に即位したコルネリアス1世は、名君と呼ばれた先帝マクシミリアン・ヨーゼフ2世の業績を超える事を企図して、自由惑星同盟領への侵攻作戦を決定する。いわゆる「距離の暴虐」を唱えていたミュンツァーは侵攻に反対するも、ダゴン星域会戦の報復を行うという名目があったため、積極的に反対する事は出来なかった。

侵攻作戦そのものは前回の遠征失敗とダゴン星域会戦の大敗を教訓とし、入念な下準備と同盟領への強行偵察、そして銀河帝国皇帝への臣従を前提とした3度にわたる和平使節の派遣までもが数年がかりで行われ、宇宙暦669年/帝国暦359年5月、コルネリアス1世自らが率いる艦隊が侵攻を開始した。同盟でもこの動きに呼応して迎撃艦隊を差し向けるも、入念な準備を行っていた帝国軍の構えは磐石で、「第1次ティアマト会戦」で大敗を喫する。その後も帝国軍の快進撃は続き、一気にハイネセンを制圧するかに思えたが、首都オーディンで宮廷革命が起こったため撤退を余儀なくされた。

この侵攻を切っ掛けとして銀河帝国と自由惑星同盟は恒常的な戦争状態に突入するが、互いに決め手を欠いたまま150年もの長きに渡って戦争が続き、両国は急速に国力を疲弊させていく。

なお、名君ではあったが、友人知人に能力実績おかまいなしに元帥号を乱発する悪癖のあった「元帥量産帝」コルネリアス1世は、この戦いに59人もの元帥を引き連れて侵攻したため「元帥二個小隊」などと後世からは揶揄されている。一連の戦闘でその内約1個小隊相当の35人を同盟軍は戦死させたが戦局に一切影響しなかったとも。以後、新たに元帥号を授ける事は無かった。

シャンダルーア星域の会戦[編集]

宇宙暦696年/帝国暦387年に行われた帝国軍と同盟軍の戦いで帝国軍が敗北した。作中では戦いの経過詳細は記されていない。外伝「汚名」冒頭にて「銀河帝国にとって忌むべき歴史」の一つとしてその名が語られるのみである。

ジークマイスター亡命事件[編集]

宇宙暦728年/帝国暦419年。帝国軍大将マルティン・オットー・フォン・ジークマイスターが自らシャトルを操縦して前線から脱走。20日間の逃避行の果て同盟へ亡命した。

この事件自体は有名だが、ジークマイスターの亡命の動機、亡命後の動向は一般には知られていない。

フォルセティ星域の会戦[編集]

宇宙暦728年/帝国暦419年に行われた帝国軍と同盟軍の戦いで帝国軍が敗北した。作中では戦いの経過詳細は記されていない。外伝「汚名」冒頭にて「銀河帝国にとって忌むべき歴史」の一つとしてその名が語られるのみである。

ファイアザード星域の会戦[編集]

宇宙暦738年/帝国暦429年に行われた帝国軍と同盟軍の戦いで同盟軍の完勝に終わった。作中では戦いの経過詳細は記されていない。

ブルース・アッシュビーら730年マフィアの活躍が同盟軍を勝利に導いたとされる。彼らの活躍が同盟の政治の現実に失望していたジークマイスターに再び希望を抱かせることになった。

ドラゴニア会戦[編集]

宇宙暦742年/帝国暦433年に行われた帝国軍と同盟軍の戦い。戦いの経過や結果についての詳細は作中では記されていない。

ブルース・アッシュビーが指揮した戦いで、会戦後帝国軍に対し「おまえたちを叩きのめした人物はブルース・アッシュビーだ。次に叩きのめすのもブルース・アッシュビーだ、忘れずにいてもらおう」と打電して送っている。作中ではこの手の挑発的な電文は「帝国軍に勝利する度に送っていた」とあるので、これに基づけば同盟軍が帝国軍に勝利したものとなる。この電文はヤン・ウェンリーがアッシュビーを調べる際の資料として閲覧している。

第2次ティアマト会戦[編集]

第2次ティアマト会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦745年/帝国暦436年12月5日~11日
場所:ティアマト星域
結果:同盟軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ツィーテン元帥 ブルース・アッシュビー大将
戦力
ツィーテン艦隊
シュリーター艦隊
コーゼル艦隊
ミュッケンベルガー艦隊
シュタイエルマルク艦隊
カイト艦隊
カルテンボルン艦隊
(56,000隻)
第4艦隊
第5艦隊
第8艦隊
第9艦隊
第11艦隊
(48,000隻)
損害
大損害 総司令官戦死

宇宙暦745年/帝国暦436年12月5日~11日。帝国軍と同盟軍の戦い。

同盟軍の兵力は5個艦隊/艦艇48,000隻/363万6000人。総司令官は当時の同盟軍宇宙艦隊司令長官であるブルース・アッシュビー大将、35歳。艦隊司令官はウォーリック、ジャスパー、コープ、ファン、ベルティーニの各中将。総参謀長のローザス中将を含め全員が730年マフィアであり、各人の艦隊指揮能力は非常に高かったが、今回はなぜかアッシュビーが異様に高圧的な態度であったため、各提督(特にコープ)から不平の声が挙がっていた。これが後にヤンが調査を担当するアッシュビーの謀殺疑惑に繋がっていく。なお、当時19歳で軍曹だったアレクサンドル・ビュコックが砲術下士官として戦線に参加している。

一方、帝国軍の兵力は7個艦隊/艦艇56,000隻/将兵650万人(OVA版のデータ。原作小説では同盟側のデータとしてややあいまいな幅が記述されている)。総司令官は当時の帝国軍宇宙艦隊司令長官であるツィーテン元帥、55歳。艦隊司令官はシュリーター、コーゼル(以上大将)、ミュッケンベルガー(グレゴールの父親)、シュタイエルマルク、カイト、カルテンボルン(以上中将)。特にミュッケンベルガーは、この戦いを叔父である故・ケルトリング軍務尚書一族の弔い合戦とみなして必ず勝つよう将兵に訓辞したが、これに対しシュタイエルマルクは「敵将一人を討ち果たしてよしとするのでは、帝国軍の鼎の軽重が問われる」と批判的であった。またそのシュタイエルマルクも冷徹な孤高ぶりから、同僚や上官から敬遠され、さらに平民出身のコーゼル大将と、シュタイエルマルクを除く他の貴族出身の提督たちとは互いに嫌いあっている状態で、両軍ともかなりいわゆる「人の和」を欠いていた。なお、コーゼル艦隊の情報参謀として、クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー大佐が参加している。

両軍は12月4日にほぼ正対し、翌5日9時50分から砲撃戦が開始された。艦隊運用による一進一退の激戦が続く中、6日14時30分、コープの同盟第11艦隊の攻撃によりミュッケンベルガーが戦死。その後も同盟軍はカルテンボルンを戦死させ、カイトに重傷を負わせるなど戦果を上げていったが、帝国軍もシュタイエルマルク艦隊を中心にコープの第11艦隊の突破を阻止する、ウォーリックの第5艦隊の後背を突いて迂回攻撃を撃退するなど善戦し、8日から10日にかけて戦況は膠着した。11日16時40分、帝国軍は繞回運動によって同盟軍を挟撃包囲しはじめ、同盟軍第9艦隊のベルティーニは敵攻勢の中戦死した。しかし18時10分、アッシュビーが強引に各艦隊から抽出編成した直属艦隊が帝国軍の左側面から突入して帝国軍を壊乱させ、同盟軍は帝国軍を逆包囲した。ここから50分までが、いわゆる軍務省にとって涙すべき40分となり、帝国軍はコーゼル、シュリーター両大将が戦死、シュタイエルマルク艦隊以外の全軍が総崩れとなり、指揮官層を多数失って再起に十年かかるほどの損害を受けて勝敗は決した。この戦いの中をケーフェンヒラーは辛くも生きのび、以後約半世紀を捕虜として過ごした。

だが同日19時7分、同盟総旗艦「ハードラック」に流れ弾が命中し、艦橋まで被害が広がった。アッシュビーは爆発によって飛来した破片で腹部を切り裂かれ、19時9分に死亡した。

アッシュビーの死後、730年マフィアの結束は雲散霧消し、二度と華々しい武勲を挙げることもないまま個人的な交友も途絶えがちとなっていった。一方、アッシュビー戦死を聞いた帝国軍は、戦いそのものの惨敗を忘れるほど狂喜したが、上層部はより冷静に大敗北を受け止め、イゼルローン要塞の建設を決意した(完成は宇宙暦767年/帝国暦458年)。

そして、この敗北による指揮官層の喪失を補充するため、それまでは極めて珍しかった平民の将官登用が大々的に行われるようになった。だが、それはゴールデンバウム王朝の基盤であった貴族による軍事力独占を揺るがす両刃の剣でもあった。また、良き父、良き夫、よき当主でもあった貴族指揮官の大量死は当然貴族階級全体の衰退と劣化を加速させ、約二世代後のラインハルトと同世代の若手貴族たちは、敵として恐れるに足らぬどころか日常レベルでのモラルや軍規すら保てぬほどの醜態をさらすようになった。

パランティア星域会戦[編集]

宇宙暦751年/帝国暦442年。前年同盟軍宇宙艦隊副司令長官に就任したジョン・ドリンカー・コープが指揮した戦いで、彼が指揮をしたと思えないほどの精彩を欠いた指揮ぶりで帝国軍に惨敗し、30万人の戦死者を出しコープも戦死している。フレデリック・ジャスパーが援軍として駆け付け、撤退する帝国軍に撃ち一矢報いたものの、コープを見殺しにしたのではないかという疑惑が立ち、それを信じたコープ夫人がジャスパーを非難している。後に和解したが、両者の傷をより深める結果となった。

ミヒャールゼン暗殺事件 [編集]

宇宙暦751年/帝国暦442年10月29日。帝国軍軍務省内で、軍務省参事官クリストフ・フォン・ミヒャールゼン中将が射殺されているのが発見された。

当日は1万名を越える大規模な人事異動が発表されたものの、一度発表が取り消され、また発表されたことから軍務省内は混乱の極みにあり、捜査は難航の果て迷宮入りした。なお、最後に中将と会見したのは第2次ティアマト会戦の生き残りシュタイエルマルク大将であり、両者の間でかなり激しい口論が行われているが、その内容は不明である。

ミヒャールゼン提督の元部下ケーフェンヒラー大佐は、同盟の捕虜となって以降生涯を賭けてこの一件を個人的に調査し、真相らしきものをつかんだが、その資料は大佐の死後25年間封印扱いとなった。

エル・ファシルを巡る戦い[編集]

宇宙暦788年/帝国暦479年5月~9月。同盟外縁部のエル・ファシル星系において発生した帝国軍小艦隊と同盟守備部隊との戦いと、その後に生じた一連の出来事を指す。なお、OVA版ではそれまで断片的にのみ語られていた本エピソードは、外伝「螺旋迷宮」第1話「エル・ファシルの英雄」で話としてまとめられた。

当初は単なる小競り合いと思われていたが、守備部隊の司令官であるアーサー・リンチ少将が指揮と運用を誤って帝国軍に背後から急襲される事態となった(OVA版では撤退したと見せかけた帝国軍が、艦隊を反転させた直後のリンチ艦隊に後背から急襲した)。リンチはエル・ファシルへの撤退を命じたが、艦列のたて直しを怠ったため壊走と化し、約半数の艦艇が撃沈もしくは投降した。惑星エル・ファシルには艦隊約200隻/兵力50,000人が逃げ込んだが、帝国軍はエル・ファシルを占拠しようと増援を繰り出し、失陥は決定的と見られた。

帝国の支配に怯えるエル・ファシル在住の民間人は脱出と保護を軍に求めてきたが、それを処理出来ないリンチは、警備艦隊幕僚の中で一番暇そうなヤン・ウェンリー中尉に対処を命じた(OVA版では手の空いている者に対応させろと命じ、命じられた士官が周囲を見回して、手持ち無沙汰のヤンに目を止めたという形になっている)。ヤンは脱出計画立案に着手するが、その年齢と階級、そして後にも度々ヤンの個性として登場する「外見の頼りなさ」から、民間人の代表者達に担当官としての技量を不安視されながらも艦船の手配を初め必要な準備は整えた。この時、当時14歳だったフレデリカにサンドイッチとコーヒーの差し入れを受けたが、ヤン自身はハイネセンに戻った際には既に彼女の事を失念しており、フレデリカが副官としてヤンの元に配属され、再会した時全く覚えていなかった(藤崎竜版コミックでは、第6次イゼルローン攻略戦で共に戦線に赴いたグリーンヒルから娘(フレデリカ)の事を直々に明かされており、その際にヤンはフレデリカのためのサインを求められた)。

その後、提出した脱出計画書に見向きもしないリンチの反応から司令官の思惑を察知したヤンは、密かに別の計画を立て始めた。やがてリンチと一部幕僚が民間人を見捨てて脱出した。これにつきリンチ本人は後に救援を呼んでくるために先発しただけだと主張したが、事前に告知していないなど矛盾が多いため、誰も信じていない。

だがこの事を予測していたヤンはかねてより立案しておいた計画を実施し、混乱する民間人をまとめ、リンチ達が帝国軍に追跡・拿捕される間隙を突いて別の方角から脱出する。敢えて帝国軍のレーダーに捕捉させ、隕石群と錯誤させて脱出に成功した(原作の「黎明篇」ではリンチ脱出後まもなく民間人の脱出計画を開始したが、OVAでは時間が経って脱出計画を開始したような描写になっている)。

この功績により、ヤンは二階級特進し少佐となった。ただし、不文律により生者に二階級特進を与えることが妨げられたため、6月12日午前9時に大尉、午後1時に少佐に昇進という異例の措置がとられた(螺旋迷宮(原作、OVA共に)では同年9月19日に中尉から大尉、さらにその16時30分に少佐に昇進)。また、「エル・ファシルの英雄」として同盟全土に名前が知れ渡ることになった。しかし、この異例の昇進の背景には、ヤンの英雄ぶりを演出する事によってエル・ファシルにおける軍部の失態から民衆の目を逸らすという政治的な思惑もあった。

なお、藤崎版では当時貴族幼年学校の上級生であったラインハルトはキルヒアイスからエル・ファシルの件について教えられたことで、ヤンの存在を初めて知る展開となっている。また、藤崎版・ノイエ版では脱出船団を帝国軍のレーダーにあえて捕捉させて隕石群であると錯誤させる点は省かれ、シンプルに民間人を見捨てて逃亡を図るリンチと一部幕僚が先んじて脱出したのを囮として利用してヤン達が脱出に成功するという流れになっている。

惑星エコニアの騒乱[編集]

宇宙暦788年/帝国暦479年11月。タナトス星系に所属する惑星エコニアは、総人口の34パーセント以上を帝国軍の捕虜が占める「収容所惑星」である。将官の捕虜はおらず、捕虜で構成される自治委員会が存在し、第2次ティアマト会戦以来実に43年間収容され続けているケーフェンヒラー大佐が、一貫してその長を務めていた。そして、歳月が過ぎるうちにケーフェンヒラーはいつの間にか収容所の真の主扱いされ、捕虜だけではなく同盟軍将兵からも一目置かれるようになっていた。

ヤン・ウェンリー少佐が参事官として赴任した当時の捕虜収容所所長は、コステア大佐であった。大佐は裏で武器の横流しや公金横領を行っており、「エル・ファシルの英雄」ヤンをその摘発にやってきた秘密監察官と思い込み、若手捕虜のプレスブルク中尉を利用し、ヤンの謀殺を目論んだ。

プレスブルクを中心とする捕虜数名が、捕虜の居住棟の巡回に出ていた副所長ジェニングス中佐を拉致して人質に取り、エコニアからの脱出を企てた。交渉の結果ジェニングスと、ヤンと参事官補のパトリチェフ大尉で人質交換が行われたが、ここまではコステアとプレスブルクが予め打ち合わせていた通りであった。以後の事についてプレスブルクがどのように聞かされていたかは不明だが、コステアはプレスブルクの暴動に乗じてヤンもろとも彼を殺し、公金横領の罪もパトリチェフに押しつけることを企図していた。

プレスブルクらが立てこもっていた東十七号棟にコステアは砲撃と突入を命じたが、コステアの知らぬうちに合流していたケーフェンヒラーの手引きでヤン・パトリチェフ・プレスブルクと生き残った脱走兵は窮地を逃れ、プレスブルクとパトリチェフの働きでコステアの身柄を確保した。

砲撃のとばっちりでジェニングスが負傷していたため、エコニアにおける軍人の最高位にあるヤンがタナトス警備管区に騒乱の発生と鎮定を報告。タナトス警備管区司令官マシューソン准将の代理として参事官ムライ中佐がエコニア入りし、事態の収拾にあたった。拘束と監視から解放されたコステアは、騒乱をヤンの責任と申し立てたが、すでにコステアの不正蓄財を調べあげていたムライは彼を断罪。拘禁、のちに軍法会議にかけることを通達した。

コステアに乗せられたとはいえ、同盟軍士官を拘束したプレスブルクは一週間の独房入り、のちに別の収容所へ移送。パトリチェフは「ヤン少佐は統合作戦本部の秘密監察官」と発言したことのみを口頭で、譴責される。ヤンはおとがめなし。ヤンとパトリチェフの危機を救い、エコニア収容所の不正を暴くのに貢献したケーフェンヒラーには恩赦が与えられ、釈放が決まるとともに退役大佐待遇での年金が支給されることとなった。

騒乱を聞いたキャゼルヌは、この際辺境の収容所人事を刷新しようという軍の思惑に乗じて、ヤンを同盟首都星ハイネセンに呼び戻す。ケーフェンヒラーや同じく配置換えとなったパトリチェフとともにハイネセンへと向かう途上、惑星マスジットの宇宙港で、ケーフェンヒラーは心臓発作を起こし急逝する。マスジットの公共墓地にケーフェンヒラーを埋葬し、彼の遺品とともにハイネセンに帰着したヤンと、パトリチェフは「またごいっしょに仕事ができれば嬉しいですな」と握手して別れている。

のちにヤンは、この一件で知遇を得たパトリチェフとムライを第13艦隊の幕僚に迎えるが、道原かつみの漫画版でのパトリチェフのセリフによれば、その間8年「いっしょに仕事」はできなかった模様である。

なお、小説版ではこの一件と第二次ティアマト会戦の秘話をからめた長編「螺旋迷宮(スパイラル・ラビリンス)」が、全編の最終エピソードになっている(1989年)。

惑星カプチェランカの戦闘[編集]

宇宙暦791年/帝国暦482年7月。ラインハルト少尉とキルヒアイス准尉が酷寒の惑星カプチェランカの帝国軍前線基地BIII(ベー・ドライ)に赴任した時の戦闘および関連した事件。なお、この戦闘を描いた「白銀の谷」の原作小説は、当初は通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。

ラインハルトとキルヒアイスの赴任にあわせて、基地司令官のヘルダー大佐はベーネミュンデ侯爵夫人及びグレーザー医師より秘密の指令を受ける。彼は部下で共謀者のブーゲンベルヒ大尉を通じて、ラインハルトとキルヒアイスの二人に機動装甲車による敵情視察を命じた。この車には途中で水素電池のエネルギーが不足するように細工がなされ、厳寒のカプチェランカで立ち往生するように仕組まれていたが、二人は人生でもっとも寒い夜を乗り切り、現場を哨戒していた同盟軍の装甲車3両を襲撃して電池ならびにデータを奪って窮地を脱した。これがラインハルトとキルヒアイスにとって最初の実戦と戦果になった。

この時2人は同盟の装甲車が脳波検出装置によるセキュリティ(OVAでは脳波コントロール操縦システム)を使用しており、操縦が不可能で、移動手段を喪失したことを知る。ヘルダーに命じられて謀略の成果を確認にきたブーゲンベルヒに対して、ラインハルトは困窮した様子を演じ、真意を聞き出した後射殺した。

道原かつみ版コミック、黄金の翼では、ラインハルトの命を狙うクルムバッハ少佐は、同盟軍との戦いで戦死したことになっているヘルダー大佐が、実はラインハルトに殺されたのではないかと疑っている。また、同じくコミック本編では惑星カプチェランカと環境が酷似した戦場でミッターマイヤーとロイエンタールが地上戦を行なっていることが描かれている(OVA版では惑星カプチェランカとテロップが出されて、2人の地上戦の様子を描いている)。

藤崎竜版コミックでは、話の流れは概ね原作に倣っているが、登場人物はヘルダー・フーゲンベルヒ・ベーネミュンデの3名のみとなっており。特にフーゲンベルヒは大尉から伍長へ階級が変わり、ラインハルトに合って以降、彼に共感と信頼を寄せながらもヘルダーに弱みを握られ、不本意ながら陰謀に加担した小人物へと変わっている(ヘルダーの動機も、辺境であるカプチェランカから中央への栄転を約束されたためとされている)。原作と同じく自分達の装甲車から食料、水素電池を抜き取られた2人であったが、数日後に向かってきた同盟軍の装甲車3台のうち2台を鹵獲するという戦果を挙げる。ラインハルトは自らを窮地に貶めた者を誘い出すため、架空の救援要請を基地に送り、確実に始末せんとしたヘルダーとフーゲンベルヒを雪原に誘い出す。

もとよりラインハルト達の暗殺に懐疑的だったフーゲンベルヒは道中もヘルダーに助命を願い出ていたが、ヘルダーも表向き同意する口振りを見せていた。到着したフーゲンベルヒは待ち構えていたラインハルトと接触し、事の真相と謝罪をする。だが、ヘルダーに口約束を守る気など無く、直後にフーゲンベルヒはヘルダーによって殺害される。フーゲンベルヒの遺体を抱きかかえ、身動きの取れないラインハルトに向けて勝ち誇ったヘルダーは照準を定めるが、彼の発したアンネローゼへの侮辱がラインハルトの逆鱗に触れ、伏せていたキルヒアイスの装甲車の主砲によって消し飛ばされた。

ハーメルンIIの戦闘[編集]

OVA版オリジナルエピソード(「外伝・叛乱者」)。

宇宙暦791年/帝国暦482年8月。イゼルローン要塞第237駆逐隊所属の旧式駆逐艦ハーメルンII(ツヴァイ)が参加した戦いであるが、その実情は逃避行である。惑星カプチェランカの戦闘後に宇宙艦隊勤務になったラインハルト中尉が航海長として、キルヒアイス少尉が保安主任として勤務していた。

8月27日、ハーメルンIIは駆逐隊に命じられたイゼルローン回廊哨戒任務遂行のため要塞を出港。9月2日、同盟側約6光年の距離にあるアルトミュール恒星系の小惑星帯で同盟軍に奇襲される。ハーメルンIIは左舷下部に被弾し艦長のアデナウアー少佐が負傷。指揮不能となったため、その時点で艦橋にいたクルーのなかで、最高位のラインハルトが指揮を引き継いだ。この時僚艦は通常の行動規定に添って面舵を取ったが、ラインハルトは敵の伏兵の存在を見越して取舵を命じた。後から艦橋に着いた副長のベルトラム大尉がそれを承知せず、指揮権を奪って航路の変更を命じたが、ラインハルトは艦長の命令を盾に指揮権委譲を拒否した。両者が言い争っている最中に、面舵をとった僚艦が待ち伏せに遭遇して全滅した事が判明し、艦橋要員は自然にラインハルトの命令に従った。これによってハーメルンIIは危機を脱したが、ベルトラムはラインハルトを拘禁した。

その後、ハーメルンIIが機関部の損傷によって脱出に必要な速度を出す事が難しい事が判明。天体物理学に長けたシュミット一等兵が恒星アルトミュールの表面爆発による恒星風を利用して加速を得る方法を上申したが、ベルトラムは却下。さらに軍規に則り「名誉ある自沈」を主張した。水雷長のデューリング中尉は同意出来ず、キルヒアイスを通じてラインハルトの叛乱を促した。キルヒアイスは兵士たちのリーダー格アラヌス・ザイデル伍長を説得して味方につけ、ラインハルトを解放。ラインハルトは艦橋を制圧して指揮権を奪還し、シュミットの案を採用して脱出作戦の立案に入った。しかし、検討の結果様々なリスクが予測され、士官の中からも不安の声が挙がった。それでもラインハルトは他に選択肢が無いと判断、シュミット案の強行を決断した。

この決定に不安を抱いた通信主任のフレーベル少尉がベルトラムと内通し、士官たちが逆叛乱を起こした。だが論争の過程で、平民出でありながら「努力しない平民ども」を、すなわち兵士たちを蔑視する本音が露呈したベルトラムは、あまりの言い草に兵士と士官双方から孤立し、半ば自暴自棄になってラインハルトを射殺しようとした。しかし、アラヌスの弟ロルフ・ザイデル二等兵が身代わりになって死亡。艦橋は皆が互いに銃を突きつけあう一触即発の状態になった。

しかしそこで絶対安静だったアデナウアー艦長が艦医の肩を借り衛生兵たちを率いて艦橋に現れてその場を収め、ラインハルトが正式な艦長代理に任じられた。ベルトラムはラインハルトの指揮下に入るよう命じられ、苦渋の表情で承知した。作戦は実行に移され、ハーメルンIIはアルトミュールへ自由落下を始めたが、機関部の修理はなおも続いていた。この時、アルトミュールの観測のために艦橋に就いたシュミットに代わってベルトラムが機関部に赴き、アラヌス達の負の感情に満ちた視線を浴びながら修理を手伝っている。また、途中で作戦に不安を抱いた当のデューリングが脱出ポッドに乗り込み、救命信号を乱発しての脱走を試みるが、ラインハルトが撃墜すると脅して断念させ、辛うじて事無きを得ている。

アルトミュールの表面爆発一時間前に機関部の修理は完了したが、姿勢制御スラスターのひとつが作動不能で、灼熱の船外での二人がかりによる作業でしか修理出来ないと判明した。ザイデルとベルトラムが志願したが、弟を射殺されたザイデルはそれを拒否。しかし他に作業が出来る者がいないため、ベルトラムに決定した。船外作業による修理は成功したが、途中でハーメルンIIに気がついた同盟軍が長距離ミサイルを発射、さらにアルトミュールの表面爆発が始まった。ベルトラムはザイデルを艦の脱出口に投げつけて救ったが、その反動で艦から離れたベルトラムは恒星風にさらされて焼死した。ザイデルを収容したハーメルンIIは作戦通り恒星風を利用した加速で同盟軍の包囲網から離脱に成功、救援を求める通信がメルカッツ艦隊所属の艦船に繋がり、ハーメルンIIはイゼルローン要塞に帰港した。

ラインハルトは艦を指揮して同盟軍の包囲網から離脱し、さらに同盟艦隊がアルトミュール恒星系に存在する事を報告した功績で大尉に昇進し、軍務省への内勤に転属がきまった(アデナウアーは反乱の事実を否定してラインハルトを擁護している)。なお、ベルトラムとロルフ・ザイデルは二階級特進となった。

この戦いで、「机上で兵を駒として用いるのと、戦場で兵を人として率いるのとでは話が全く違う」ことを思い知らされたラインハルトは「まだまだ、学ぶことは多いな」という感慨を述べた。

シャフハウゼン子爵家とヘルクスハイマー伯爵家の決闘[編集]

OVA版オリジナルエピソード(「外伝・決闘者」)。

宇宙暦792年/帝国暦483年1月。ハイドロメタル鉱山の利権を狙って、リッテンハイム侯爵の一門に連なるヘルクスハイマー伯爵がシャフハウゼン子爵に決闘を申し込んだ。ただしこれはラインハルトが関わった戦闘の一種であるが、軍事行動では無いので昇進には繋がっていない。

シャフハウゼン子爵の屋敷でアンネローゼと面会したラインハルトとキルヒアイスは、子爵夫人ドロテーアから、ヘルクスハイマー伯爵に故なく決闘を申し込まれており、しかも伯爵の差し金で練達した代理人を雇う事が出来ない事を知った。残された道は、荒事と縁のない子爵自身が死を覚悟で決闘に臨むか、理不尽でもハイドロメタル鉱山を差し出すかである[注 1]。ラインハルトは強者の横暴を許せぬ義侠心からアンネローゼの数少ない友人の危機を看過できず代理人に立候補し、居合わせたヴェストパーレ男爵夫人が乗り気になって話を進め、代理人に決定した。当初、ラインハルトの練習は、決闘に用いられる火薬式の古風な短筒の扱いに慣れていないため成果が上がらなかったが、その練習の音を聞きつけて射撃場に現れた男コルネリアス・ルッツ少佐が、火薬式銃の撃ち方を指導し、ラインハルトはようやくコツをつかんで決闘に臨むことが出来た。この時ルッツが左腕を使って右腕を支持し、そして心臓をかばうようアドバイスした事が、後に効果を上げる。

その一方で、決闘の事を知ったベーネミュンデ侯爵夫人とグレーザー医師が、これを機にラインハルトを殺害するべく暗殺者(黒マントの男)を手配した。黒マントの男はラインハルトの決闘相手として予定されていたゴルトシュミットに決闘を申し込んで射殺し、代わってラインハルトの決闘相手として、ヘルクスハイマーに自分を売り込んだ。何も知らぬヘルクスハイマーはリッテンハイム侯に、小憎らしいラインハルトを打ち負かして恥をかかせるよう命じられていたのに切り札ゴルトシュミットを失ってしまったため、即座に応じて主命を果たすべく代理人を任せた。

決闘の場所はリッテンハイム侯爵家荘園の私設競馬場となり、その観客席は見世物気分で見物に来た貴族たちで満席となった。最初キルヒアイスは玄人相手の策として身体を移動させる事を進言したが、決闘本来の目的を重視するラインハルトは聞き入れなかった。だが、黒マントの男に死神を思わせるほどの凶気を感じたラインハルトは考えを変え、キルヒアイスの進言通り右側に飛んで相手の照準を狂わせ、左腕を撃たれながらも相手の利き腕である右肩に深手を負わせて勝利した。だが黒マントの男は剣による再戦を要求。この執拗さと、ルッツの助言通り左腕を前に突き出していなければ心臓を撃ち抜かれていた事実によって、二人とヴェストパーレ男爵夫人は黒マントの男がラインハルトを本気で殺すつもりだという事に気がついた。

決闘は剣によって再開されたが、利き腕を怪我しているにもかかわらず黒マントの男が逆手で一方的に押しまくり、ラインハルトは危機に陥った。だがそこに近衛兵たちが馬で乱入し、「決闘を中止し、鉱山の利権は折半して事を収めよ」という皇帝の勅命が言い渡された。これについてヴェストパーレ男爵夫人は「アンネローゼが皇帝に仲裁を頼んだ」と推測している。これに対しヘルクスハイマーは不満を表明したが、勅命が全ての法に優先する帝国では「陛下のご意思に逆らえば謀反になる」と近衛兵に明言され、苦渋の面持ちで引き下がった。

一方のシャフハウゼン子爵夫妻とマグダレーナは、利権が半分でも確保出来た事とラインハルトが負傷しながらも生き残った事を喜んだが、剣で負け、さらに皇帝に助けられた結果になったラインハルトは怒りに震えていた。唯一その事に気がついたキルヒアイスはその場を離れるようにラインハルトに促し、ラインハルトも表面上は冷静を保ちながら退去した。

黒マントの男はなおもラインハルトをつけねらい、傷が癒えるのを待っていた。だが、ベーネミュンデ侯爵夫人は待てず、即座に任務を遂行しなければ黒マントの男の方を始末せよとグレーザーに伝えた。2月に入り、ラインハルトの傷は癒えたが、アンネローゼの援護と皇帝の力で助けられた事は未だ心の傷となっていた。そこに黒マントの男から再戦の申し込みがあり、ラインハルトはキルヒアイスには内密で応じる事にしたが、キルヒアイスはラインハルトの様子からそれを察していた。なお、この時、ラインハルトが日本の剣術の資料を閲覧している場面があり、これが後に決闘の場で活きる事になる。

冬の森の中、騎乗したラインハルトと黒マントの男の剣での決闘が、貴族の見世物ではない本物の「死合い」がはじまった。ラインハルトは黒マントの男に落馬させられ、しかも剣を折られたが、相手の剣を真剣白刃取りで奪って蹴り倒し、決着を付けた。黒マントの男は自決し、依頼者の名前を漏らさぬまま絶命した。一方、物陰から見ていたキルヒアイスは、ラインハルトに銃を向ける第二の暗殺者(グレーザー医師)を発見して銃撃を阻止したが、取り押さえる事は出来なかった。ラインハルトはキルヒアイスの助太刀に気づいたが、やはり気づかぬふりをした。そして二人は互いを気遣いつつも、そ知らぬ顔のまま日常へと戻っていった。

アルレスハイム星域の会戦[編集]

宇宙暦792年/帝国暦483年[4]、帝国軍と同盟軍の戦い。なお、この戦闘及び後日談を描いた「汚名」の原作小説は、当初は通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。

帝国軍カイザーリング中将が指揮する艦隊がアルレスハイム星域で同盟軍に奇襲をかけようとした[5]が、艦隊の一部が命令を待たずに発砲を開始してしまう。数で同盟軍に劣り、かつ潜伏中で柔軟な艦隊運動が取れないカイザーリング艦隊は同盟軍艦隊の反撃に遭い、損耗率6割に達する損害を被り敗走、「敗者に敗因あって、勝者に勝因なき」とまで言われたほどの戦いとなった。

カイザーリング中将は生還したものの軍事法廷にかけられ指揮能力の欠落を非難されたが、ひたすら沈黙して謝罪も弁明もしなかったためさらに法廷の心証を害し、結局少将に降格された上で退役処分(事実上の懲戒免職)とされた[6]。そして、その汚名は帝国中に広がってキルヒアイスの耳にまで入った。しかしこのアルレスハイム星域の会戦における帝国軍敗退の真相には、ある事実が隠されていた。

カイザーリング元少将及び当会戦の真相については#クロイツナハIIIの麻薬密売組織捜査も参照。

第5次イゼルローン攻防戦[編集]

第5次イゼルローン攻防戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦792年/帝国暦483年5月
場所:イゼルローン要塞
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
クライスト大将
ヴァルテンベルク大将
シドニー・シトレ大将
戦力
イゼルローン要塞
要塞駐留艦隊
(13,000隻)
第4艦隊ほか
(51,400隻)

宇宙暦792年/帝国暦483年5月。イゼルローン要塞を巡る帝国軍と同盟軍の5度目の戦い。外伝「黄金の翼」で描かれた(初出は道原版コミックだが、その原作となる小説ものちに刊行された)。ラインハルト(少佐)が初めて軍艦(駆逐艦エルムラントII)の艦長として戦いに参加した戦闘であり、キルヒアイス(中尉)も副長として同乗している。また、上司としてレンネンカンプ(大佐)が登場。さらに同盟側には第4艦隊司令官ドワイト・グリーンヒル中将、アレクサンドル・ビュコック提督(階級・指揮する艦隊は不明)、総司令官の副官としてヤン(少佐)が参加している。

同盟軍の兵力は艦艇約51,400隻、総司令官は宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将。帝国軍はイゼルローン要塞とその駐留艦隊約13,000隻。要塞司令官はクライスト大将。駐留艦隊司令官はヴァルテンベルク大将。

5月6日に戦闘がはじまり、当初はトゥールハンマーの射程外に於ける艦隊戦で開始されたが、数に勝る同盟軍が圧倒した。ラインハルトの指揮するエルムラントIIも、巡航艦を破壊するという戦果を挙げた後に後退している。劣勢となった帝国艦隊は、やがて要塞に後退を始めたが、この機を逃さずシトレが急速な前進を指示して両軍の艦艇が入り乱れる状態になり、帝国軍は敵が射程内でありながらトゥールハンマーが撃てないという事態が生じた。同盟軍は一気に要塞を攻略しようと要塞に肉薄、さらに無人艦を火船として次々と突入自爆させたが、進退窮まったクライストがトゥールハンマーの発射を命令、味方の帝国軍艦艇ごと同盟艦隊を砲撃した。これによって並行追撃作戦は失敗に終わり、同盟艦隊は残存兵力をまとめて撤退した。

この混乱に乗じて、ベーネミュンデ侯爵夫人の意をうけた帝国軍務省憲兵隊のクルムバッハ少佐がラインハルト暗殺を企てたが、キルヒアイスの援護もあって返り討ちにされた。

敗者となった同盟軍では、それまで寄り付けなかった要塞壁に肉薄して大損害を与えたことから総司令官のシトレが高く評価された一方、兵力で帝国軍を圧倒しながらイゼルローン攻略に失敗した事から、ヤンはイゼルローンを外部から攻略することが不可能であると確信した。後にシトレはこの功績によって元帥に昇進し同盟軍制服組トップとなる統合作戦本部長に就任。半個艦隊でのイゼルローン攻略をヤンに命じる事になる。

ヘーシュリッヒ・エンチェンの同盟領単艦潜入[編集]

OVA版オリジナルエピソード(「外伝・奪還者」)。

宇宙暦792年/帝国暦483年12月~翌年1月。ラインハルトが指揮する巡航艦ヘーシュリッヒ・エンチェンによる同盟領への単独潜入とそれに関連した戦闘。

巡航艦にはラインハルトが艦長(中佐)、キルヒアイスは保安主任(中尉)として乗り込んでいた。また、ワーレン少佐が副長として乗り込んでおり、作品の中で間接的に登場したミュラー中尉やアイゼナッハ少佐とともに、ラインハルトの知遇を得る機会として描かれている。

12月、平時の無聊を解消すべく猛訓練に励み、自らも白兵戦訓練に参加していたラインハルトに、上官のレンネンカンプ大佐が、機密保持の誓約書までついた特務の話を持ちかけてきた。その大佐を通じて紹介された統帥本部作戦3課のアーベントロート少将から説明された特務の内容は、先の決闘事件で敵対したヘルクスハイマー伯爵がその後失脚し、軍事機密である指向性ゼッフル粒子発生装置の試作機を携えて同盟に亡命を企図しているので、密かに同盟領に潜入して先回りし、伯爵の亡命の阻止と装置の奪回ないしは船を撃沈する、というものであった。任務の困難さと機密の保持という特殊な条件、また軍歴に残らない点からラインハルトには拒否する権利も与えられたが、いかなる戦いも負けない退かない投げ出さないことを身上とするラインハルトは命令を受諾した。なお、この作戦には統帥本部から派遣されてきたフォン・ベンドリング少佐が監察官として同行した。

命令を受けた翌日、ヘーシュリッヒ・エンチェンは訓練という名目でイゼルローン要塞を進発、回廊の同盟側出口付近で、既に知らされていたキルヒアイス以外の乗組員に事情が伝えられた。その直後、ラインハルトは同盟の哨戒部隊をおびき寄せて帝国の哨戒部隊と戦わせ、その隙に同盟領への侵入を果たすと、ベンドリングの情報をもとに辺境空域を大きく迂回してフェザーン回廊の出入り口まで進み、そこでフェザーンの駐在武官ミュラーからの情報を受けてヘルクスハイマー伯爵の船を追跡し、同行している護衛艦を撃沈した上で伯爵の船にキルヒアイス指揮下の陸戦隊が突入し、白兵戦の末の船を制圧、さらに船倉で装置を発見した。だが、伯爵とその一族は脱出ポッドの事故により死亡[7]、唯一、伯爵の娘であるマルガレーテという10歳の少女だけが生き残った。

指向性ゼッフル粒子発生装置の制御コンピューターにはプロテクトがかけられており、通常のゼッフル粒子の発生以外は、指向性の制御もデータの閲覧も装置の移動も不可能だった。キルヒアイスとベンドリングは、プロテクトの解除方法を知っていると思われるマルガレーテからそれを聞き出そうと試みるが、父親の仇扱いされて協力は得られなかった。やむなく伯爵の船ごと同行させるが、途中で同盟の追跡部隊と遭遇してしまう。ラインハルトは追いすがる同盟軍巡航艦と激しいチェイスをしながら、通常型のゼッフル粒子で大爆発を起こして追跡部隊を撃退した。しかしそれによって包囲網は着実に狭まり、当初予定していた航路は完全に封鎖されてしまった。

ラインハルトが脱出方法を模索している間に、キルヒアイスはマルガレーテの心を解きほぐし、ようやく警戒を解いた。その時、マルガレーテは亡命の真相に繋がる話をキルヒアイスとベンドリングに告げ、この時のベンドリングの態度にキルヒアイスが疑念を抱いた。一方、フェザーンの駐在武官から新しい航路案と補給計画が示された。この時キルヒアイスがマルガレータとベンドリングの現状をラインハルトに伝えた上で、マルガレーテとの取引を提案した。熟考の末、他に選択肢が無いと結論したラインハルトはマルガレーテと取引し、伯爵の船や財産と共に同盟への亡命を認めることを条件にプロテクト解除方法を入手した。

そして開示されたデータの中には、ブラウンシュヴァイク公爵家を探っていたヘルクスハイマー伯爵の一族がリッテンハイム侯爵に狙われた経緯と、その大元になった「ブラウンシュヴァイク公爵の娘エリザベートが遺伝病持ちである」という情報が含まれていた。皇位継承権第一位のあるエリザベートが遺伝病持ちであれば、皇位が継げなくなるばかりか、ブラウンシュヴァイク公爵家もただではすまない。だがリッテンハイム侯爵の娘で第二の皇位継承者であるサビーネは、エリザベートとは母親が姉妹同士の従姉妹であった。つまりサビーネの母、そしてサビーネ自身もまた同じ血統、同じ病気持ちだという可能性があるだけでも皇位が継げなくなるばかりか、リッテンハイム侯爵家も危機にさらされてしまう。余計なことを知りすぎてしまったヘルクスハイマーは命を狙われ、巻き添えで妻を消され、一族を引きつれて帝国から夜逃げするしかなかったのであった。実はベンドリングはこのデータの奪取ないしは消去を真の目的として同行していたが、その内容と貴族の身勝手さにショックを受け、任務の放棄とマルガレーテの保護者として一緒に亡命する旨をラインハルトに告げた。彼の態度にある程度の納得を感じたラインハルトはこれを許可し、装置をヘーシュリッヒ・エンチェンに移設した後、伯爵の船を解放、マルガレーテやベンドリングと別れてイゼルローン回廊に向った。

回廊付近で待ち伏せしていた同盟の部隊中央部を指向性ゼッフル粒子で撃破したヘーシュリッヒ・エンチェンは、回廊への突入を果たしたが、その時点でエネルギーが尽きた。慣性航行を続けながら機雷で相手の追撃を振り切ろうとしていたところに、ようやく帝国の補給艦と接触したが護衛艦を伴わずただちに補給を受けることは不可能に近かった。ところが補給艦から物資を宙に放出してヘーシュリッヒ・エンチェンに受け取らせるという補給方法が提案され、奇抜だが理に適っていると判断したラインハルトはその方法を受諾、物資の回収とエネルギーの補給に成功し同盟の追跡部隊を振り切った。なお、この時にワーレンが、補給艦の艦長が「沈黙艦長」と異名をとるアイゼナッハ少佐であるとラインハルトに告げている。イゼルローン要塞に帰還したラインハルトはすぐにアーベントロート少将の元に出頭し、任務の報告とともに、任務とは別に知りえた裏の事情を承知している事を告げ、これを伏せておく事と引き換えに自身とキルヒアイスの昇進を約束させた。

なお、この任務は極秘任務であるため戦歴には残らず、昇進も理由付けのため17歳の誕生日を待っての事となる。また、この作戦の中で指向性ゼッフル粒子を初めて使用したが、公式記録では3年後のアムリッツア会戦となっている(OVA版ではこの間のカストロプ動乱においても使用されている)。

幼年学校の事件捜査[編集]

宇宙暦793年/帝国暦484年4月~5月、帝都憲兵本部に出向中だったラインハルトが捜査した殺人事件。なお、この事件を描いた原作短編「朝の夢、夜の歌」は、当初は通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。

世直しを志しているのに、今の腐敗した世で弱者に専横を振るう憲兵隊に出向させられたラインハルトは不本意だった。しかし、憲兵隊の方もまた、有能だが態度が悪く、しかも皇帝の寵姫の身内という扱いに困る立場にいるラインハルトに来られて迷惑していた(そもそも一般的な組織では、外部からの出向者自体が歓迎されない)。そんなとき、ラインハルトとキルヒアイスの母校である帝国軍の幼年学校で殺人事件が発生した。二人は期限付きで捜査の全権を与えられるという形で、体よく憲兵本部から放り出された。

懐かしの母校は変わっていなかったが、ラインハルトたちはその変わらなさに今の世の硬直と停滞と老朽を感じ、それを象徴する老校長シュティーガーの態度に失望しながら、捜査を開始する。被害者ライフアイゼンは、食糧倉庫に忍び込んだところを頭部を強打されて変死していた。成績は凡庸、学年首席の優等生ハーゼによると、生徒間に敵がいたかは不明だが、成績が上がらないのを己の努力不足ではなく他人のせいにする傾向があった。そして捜査が進展しない中、学年次席のベルツが刺殺され、第二の犠牲者となった。

奇妙なことに、ベルツの殺害現場では白壁に飛び散った血痕は拭い取られていたが、床の緑色のタイルに飛び散った血痕は拭い切れていなかった。そのことからラインハルトは、犯人は赤緑色盲ではないかと考える。それは、弱者や障害者を排除することを当然とするゴールデンバウム王朝下では本来生存さえ許されない、もちろん幼年学校から士官学校へ入って士官として栄達することなど許されない障害であった(原作発表当時の現実社会でも、赤緑色盲は社会的に大きなハンディキャップであった)。さらにライフアイゼンの死の真相と学年次席で第二の優等生のベルツが死んで誰が得するかを考え合わせたラインハルトは、ついに真犯人を探し出す。

だが、それは自分なりに最善を尽くしているつもりで邪道に走ってしまった弱者相手の、虚しくやりきれない勝利であった。せめてもの救いは、この功績でラインハルトたちが昇進し、危険でもやりがいのある戦場へと戻れることであった。

なお、この事件のさなか、ラインハルトの父セバスティアンが酒の飲みすぎで頓死した。アンネローゼは心から悲しんだが、ラインハルトは「これで姉上も俺たちも半分は解放された」と、安堵の色を見せた。

ヴァンフリート星域の会戦[編集]

宇宙暦794年/帝国暦485年3月21日~。ラインハルトがグリンメルスハウゼン艦隊所属の准将、キルヒアイスが大尉として参加。

ヴァンフリート星域の会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年3月21日~
場所:ヴァンフリート星域
ヴァンフリート4=2宙域
結果:決着つかず
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥 ラザール・ロボス元帥
戦力
艦隊総数約32,700隻 第5艦隊
第6艦隊
第8艦隊
第12艦隊

宇宙暦794年/帝国暦485年3月21日0240分、ヴァンフリート星域にて対峙していた帝国軍艦隊と同盟軍艦隊のうち、帝国軍右翼部隊と同盟軍左翼部隊が衝突し、戦闘が開始された。ラインハルトの所属するグリンメルスハウゼン艦隊は帝国軍左翼に展開しており、ラインハルトは左翼部隊に敵の側面を攻撃させることを考えるも、老耄の人であるグリンメルスハウゼンは一向に動こうとせず、ラインハルトはただ戦況を傍観するしかなかった。

やがて艦隊戦は個々の分艦隊がバラバラに行動して相手の後背を狙って渦を巻くように移動したために敵味方が入り乱れて膠着し、結局両軍とも大した戦果を挙げられなかった。この艦隊運動をラインハルトは酷評しているが、数百隻単位の分艦隊指揮官でしかない彼には相変わらずどうすることもできなかった。

その後の膠着状態の最中、ミュッケンベルガーはグリンメルスハウゼン艦隊に後方基地建設の任を与えた。その実は戦力として期待できない老害のグリンメルスハウゼン艦隊を戦略的には無用と思われた地域へ遠ざける厄介払いであった。なおミュッケンベルガーは、このころはまだ皇帝の寵姫の弟である成り上がり者ラインハルトを気にかけていなかった。衛星ヴァンフリート4=2に向かい、設営を開始しようとする同艦隊だったが、ヴァンフリート4=2には既に同盟軍が駐屯しており戦闘に至った。

帝国軍の攻撃を受けた同盟軍基地司令セレブレッゼ中将は艦隊に救援要請を発し、最も近くにいた同盟軍第5艦隊が真っ先に救援に駆けつけた。これに呼応してミュッケンベルガー率いる帝国軍本隊もヴァンフリート4=2に急行、衛星上空にて艦隊戦が展開された。艦艇数では帝国軍が上であったが航行可能空間の狭いヴァンフリート4=2宙域では数の利を生かせず、第5艦隊は単独でも互角に戦ったが、物量差を覆すことはできず、ビュコックは第12艦隊のボロディン中将に救援を求めた。

やがてボロディン率いる第12艦隊が救援に駆けつけるも、航行可能空間の狭さが災いし同盟軍も大兵力を展開できなかった。ボロディンは苦心しつつもビュコックの期待通りに狭い宙域に効果的に艦隊を展開させるが、展開を完了させる直前に後方から他の同盟軍艦隊[8]が大挙して押し寄せてくる。同盟軍の援軍は前方の第5、12艦隊を後ろから押す形になり、ボロディンの努力もむなしく狭い空間に大軍がひしめき合って身動きが取れない状態になってしまった。戦闘では両軍の艦艇が入り乱れる中、誤射や他の艦との衝突で撃沈されるなど同士討ちが多発した。その後は互いに大きな戦果を挙げることができないまま、4月末まで戦闘がだらだらと続いた。

衛星ヴァンフリート4=2の戦い[編集]

衛星ヴァンフリート4=2の戦い
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年4月6日~
場所:ヴァンフリート4=2
結果:決着つかず
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ヘルマン・フォン・リューネブルク准将 シンクレア・セレブレッゼ中将
ワルター・フォン・シェーンコップ中佐
戦力
グリンメルスハウゼン艦隊所属の陸戦隊
兵力10万人
基地守備隊
ローゼンリッター連隊
兵力2万人
損害
基地司令官捕縛

宇宙暦794年/帝国暦485年4月6日~。グリンメルスハウゼン艦隊所属の陸戦隊将官リューネブルク(同盟からの逆亡命者、元ローゼンリッター連隊長)准将が指揮し、ラインハルトが副将としてその部下にされた帝国軍陸戦隊と、衛星ヴァンフリート4=2に建設された同盟軍後方基地守備隊との戦い。

元々はミュッケンベルガーがグリンメルスハウゼン艦隊を厄介払いするためにヴァンフリート4=2に後方基地設営を命じたのだが、同衛星には既に同盟軍が駐屯していた。ラインハルトは通信の解析結果から同盟軍の存在を予測し、ヴァンフリート4=2の偵察活動を提案するも、事なかれ主義が蔓延していたプフェンダー以下グリンメルスハウゼン艦隊参謀陣に反対される。しかし、同艦隊所属の陸戦部隊司令官リューネブルク准将がラインハルトの意見に賛同したはいいが指揮権を横取りし、ラインハルトは怒りと屈辱を抱いたままリューネブルクの下で働かされることになった。

一方、帝国軍の来襲を知った同盟軍基地司令セレブレッゼ中将は同基地に駐屯していたローゼンリッター連隊に偵察を命じた。副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ中佐は藪蛇を危惧してこれに反対するも、功を焦る連隊長ヴァーンシャッフェ大佐は自ら装甲車で出撃し偵察を強行した。その数時間後にはシェーンコップもリンツらを引き連れて出撃している。やがて両軍は互いに敵軍を捕捉するも、リンツが「敵はこちらより一桁は多い」と述べたように帝国軍が数で上回り、同盟軍は撤退にかかった。しかし、シェーンコップたちのかつての上官リューネブルクはかつての部下たちの行動を読み、撤退ルートの途上に装甲車を配置して待ち伏せた。戦闘では帝国軍が圧倒し、同盟軍は装甲車7台中4台が破壊もしくは大破し数十名の戦死者が生じた。連隊長ヴァーンシャッフェ大佐も重傷を負い、基地に帰還後に死亡している。一方帝国軍は戦死者はおらず軽傷が数名のみであり、この遭遇戦は帝国軍の勝利に終わった。

その後、帰還したリューネブルクは敵の存在を報告すると共に同盟軍基地の攻略を提案し、それを承認したグリンメルスハウゼンは主将をリューネブルク、副将をラインハルトとする陸戦隊を派遣した。一方、同盟ではシェーンコップは死亡したヴァーンシャッフェの代理(連隊長代理)に任命され、ローゼンリッターの指揮を執ることとなった。

基地攻防戦ではシェーンコップをはじめとする各陸戦隊の勇戦や、後方基地のため豊富に備蓄された火器、渓谷の出口にあり帝国軍が大軍を展開できない地の利等により同盟軍が帝国軍を何度か撃退していた。しかし、戦闘では素人であるセレブレッゼが指揮系統を放射状に広げた一方で、有線ミサイル車を巧みに運用したリューネブルクの指揮等によりやがて同盟軍の防衛線が突破され帝国軍は基地内に突入、同盟軍も少なくない犠牲を払った。当時のシェーンコップの愛人であるフィッツシモンズ中尉もこの時戦死している。

やがて前進したリューネブルクは、かつての部下であるデア・デッケンと遭遇、交戦する。その報を聞いたシェーンコップはデア・デッケンを助けリューネブルクと決着をつけるべく基地内を駆け抜け救援に向かった。その途中で基地に突入したキルヒアイスと戦っており、両者は互角の戦いを繰り広げるが決着はつかなかった。なお、互いに装甲服を着用し顔が見えなかったため、彼らは互いの正体を知ることはできなかった。シェーンコップはキルヒアイスに名を尋ねているが、答える寸前に爆発に遮られ、両名共にその場を離れている。

シェーンコップはデア・デッケンとリューネブルクが戦っていた場所に到着するが、デア・デッケンはすでに息絶えていた。悲しむシェーンコップにリューネブルクが襲い掛かるが勝負は一進一退のまま決着はつかなかった。

ほぼ同時刻、乱戦の最中においてラインハルトとキルヒアイスは、偶然出くわした同盟後方部隊の総司令官であるセレブレッゼ中将を捕虜にするという、本人たちにも意外な手柄を立てた。また同盟軍守備隊の発した救援要請を受けたアレクサンドル・ビュコック中将率いる同盟軍第5艦隊がヴァンフリート4=2上空に到着。グリンメルスハウゼン艦隊はあわてて陸戦を中断して避退し、戦いはうやむやのうちに死傷者の山と生存者の憤懣だけを残して終わった。

第6次イゼルローン攻防戦[編集]

第6次イゼルローン攻防戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦794年/帝国暦485年10月~12月10日
場所:イゼルローン要塞
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥 ラザール・ロボス元帥ヤン・ウェンリー大佐
戦力
イゼルローン要塞
要塞駐留艦隊
(約20,000隻)
第7艦隊
第8艦隊
第9艦隊
(約36,900隻)

宇宙暦794年/帝国暦485年10月~12月10日。ラインハルト・フォン・ミューゼルが少将として参加、2千数百隻の分艦隊を指揮した。所属した母艦隊は不明。

同盟軍の兵力は艦艇約36,900隻、総司令官はラザール・ロボス元帥。他には総参謀長ドワイト・グリーンヒル大将、作戦参謀ヤン・ウェンリー大佐、補給担当キャゼルヌ准将、駆逐艦エルムⅢ艦長アッテンボロー少佐、シェーンコップ率いるローゼンリッター連隊、本隊所属の空戦部隊にポプランとコーネフが参戦している。また、OVA版では第7艦隊司令官ホーウッド中将、第8艦隊司令官アップルトン中将、第9艦隊司令官アル・サレム中将が登場し、さらに劇中には登場しないがアンドリュー・フォーク中佐が作戦参謀として参戦している事がキャゼルヌの口から語られている。

帝国軍はイゼルローン要塞と駐留艦隊(約20,000隻)。ミュッケンベルガー元帥が要塞で総指揮を執り、駐留艦隊はメルカッツ大将が指揮を執った。参謀として装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将、ゼークト大将、シュトックハウゼン大将(当時から要塞司令官だったかは不明)、シュターデン少将が参戦し、前線指揮官として、ミッターマイヤー准将、ロイエンタール准将、ビッテンフェルト大佐、ケンプ大佐、彼らの部下としてレッケンドルフ大尉、オイゲン大尉が参戦している。また、ケスラーが病気のグリンメルスハウゼンの代理として要塞に赴き、リューネブルク夫人が起こした事件とグリンメルスハウゼンが記した機密書類についてラインハルトと会話している。

ラインハルトに限らず、この戦いでは一個艦隊司令以上の上級指揮官よりも、ミッターマイヤー、ロイエンタールら下位の指揮官の活躍が目立った戦いであった。10月から11月にかけてはイゼルローン回廊同盟側出口付近にて宙域の争奪戦が行われた。ミューゼル分艦隊は前哨戦で様々な陣形・戦術の運用を実戦で検証しつつワーツ分艦隊、キャボット高速機動集団を撃破するなど数々の戦果を挙げ、約36,900隻を擁する同盟軍を悩ませた。学生時代ヤンに敗れた秀才ワイドボーンもこの時ラインハルトの奇襲をうけて戦死している。同盟軍のグリーンヒル大将は作戦参謀ヤン・ウェンリー大佐に対策を命じ、ラインハルトの手の内を読んだヤン発案による時間差の包囲作戦を実施した。ラインハルトは危機に直面したが、同盟軍が戦力の出し惜しみをしたため助かった(その出し惜しみが後の同盟にとって致命傷となる)。その後、帝国軍は同盟軍を要塞におびき寄せるべく後退し、前哨戦は同盟軍の勝利に終わった。

12月1日に開始された要塞攻防戦で、同盟軍は過去5度の攻略失敗を踏まえてホーランド少将が立案した作戦を実施した。これは要塞主砲トゥールハンマーの射程の境界をD線(デッド・ライン)と称し、同盟軍本隊がそのD線を出入りして帝国軍を挑発する「D線上のワルツ作戦」を展開して囮となり、帝国軍を退きつける間に、ホーランドが小型ミサイル艦隊を潜入させて要塞本体への奇襲攻撃を実行するというものであった。だが、ホーランドの策を看破していたラインハルトはミサイル艦隊を捕捉撃破し、さらに同盟軍本体を側面から強襲して損害を与えた。同盟軍本隊とラインハルト率いるミューゼル分艦隊の戦力差は15対1と圧倒的に同盟が優勢であったが、同盟軍はトゥールハンマーの射界と回廊の航行不能宙域の間に狭い紡錘陣形でしか展開できず、ラインハルトは15倍の敵の先端部のみと互角に渡り合った。しかし、同盟軍の伸びきった陣形を見たミュッケンベルガーはトゥールハンマーの使用を諦めて他の帝国艦隊に側面を突かせた。対する同盟軍もヤンとグリーンヒルの発案で予備兵力を投入、結局戦闘は第5次イゼルローン攻防戦と同様の混戦となってしまった。

藤崎版では帝国軍と同盟軍が混戦状態に至ったのは、「D線上のワルツ作戦」とその陰に隠れていたホーランド率いる小型ミサイル艦隊を看破したラインハルトがミサイル艦隊を側面から強襲して損害を与え、そこからさらに同盟軍本体を攻撃するところまでは原作と同様であるが、ラインハルトばかりが活躍するのを妬んだ貴族出身の艦隊司令官たちが、同盟軍を攻撃しようとしてトゥールハンマーの射程内を横切ったところを、グリーンヒルが好機と判断して攻勢を仕掛け、そのままD線内で両軍が混戦状態に陥るという流れになっている。ラインハルトにとっては、帝国側が優位に立っていた戦況が貴族出身の艦隊司令官の愚行によって覆されるのは予想の内であり、「これだから何の功績も無く貴族の特権で出世してきた奴らは!」と愚痴をこぼしている。

混戦の打開を図ったラインハルトは積極的な献策によってミュッケンベルガーの了解と密かな敵意を得て、同盟軍と帝国軍を引き離してトゥールハンマーを使用できるようにすべく、自らの艦隊を囮として同盟軍を要塞から引き離すことに成功し、それを見たメルカッツも艦隊を後退させ、同盟軍を要塞主砲の射程内におびき寄せることに成功した。策に乗せられトゥールハンマーを撃たれた同盟軍は大損害を受け、敗走した。ラインハルトはこの功績によって中将に昇進する。ヤンはラインハルトの意図を見抜き、自分でも精力的と思える程様々な作戦を立案したが、悉くロボスに却下され、同盟軍の敗退を傍観することしかできなかった。しかし、いくつかの作戦立案の功績が評価され准将に昇進している。圧倒的戦力差があった第5次と比較して、今回は帝国・同盟の艦隊はほぼ同数であり、その割に同盟は健闘したと言えるが、それは戦略面で何ら意味の無い事であった。

この乱戦の最中、シェーンコップ率いるローゼンリッターは、リューネブルクとの決着をつけるべく強襲揚陸艦で帝国艦を次々と襲撃、リューネブルクへの「伝言」を書き残して挑発するという策でリューネブルクを追い込んだ。元々帝国軍内部で肩身が狭かった亡命者リューネブルクはこの件で居場所がなくなり、司令官であるミュッケンベルガーに呼びつけられて責任を取らされる形で自ら揚陸艦で出撃し、シェーンコップとの一騎討ちに及んで敗死した。

なお、本会戦と既述のヴァンフリート星域会戦をあわせた長編「千億の星、千億の光」は、原作発表順では帝国側の最終エピソードである(1988年)。

第3次ティアマト会戦[編集]

第3次ティアマト会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年2月
場所:ティアマト星域
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥ラインハルト・フォン・ミューゼル中将 アレクサンドル・ビュコック中将ウィレム・ホーランド中将
戦力
ミュッケンベルガー艦隊
ミューゼル艦隊
(約35,400隻)
第5艦隊
第10艦隊
第11艦隊
(約33,900隻)
損害
第11艦隊壊滅

宇宙暦795年/帝国暦486年2月。ラインハルトが中将として、そして一個艦隊指揮官として参加。そもそもこの会戦は皇帝フリードリヒ4世の在位30周年記念に花を添えるためというだけの理由での出征が発端であり、当然宇宙艦隊司令長官のミュッケンベルガーは消極的であった[9]。しかし、そんな無益な出征をおこなうゴールデンバウム王朝自体が許せないラインハルトは、消極的どころか苛立っていた。

対する同盟軍は、新しく第11艦隊司令官に就任し、同盟軍史上最年少の中将[10]として「ブルース・アッシュビーの再来」とマスメディアに持ち上げられていたホーランド中将が「第2次ティアマト会戦の再現」を豪語[11]し、第11艦隊の投入が決定された。またシトレの意向でビュコック中将の第5艦隊、ウランフ中将の第10艦隊が投入されることになった。さらに国防委員会の承認が得られ次第、パストーレ中将の第4艦隊とムーア中将の第6艦隊も投入されることになっていた。

会戦の序盤、同盟軍の第11艦隊では、先任のビュコック中将が増援を待つ方針をとったのを消極的と見たホーランドが苛立ち、ビュコックの命令を無視して艦隊を率いて孤軍突出、帝国軍をかき乱し、大損害を与え、帝国軍を撤退寸前まで追い込んだ。しかし、ラインハルトはこのホーランドの采配を「速度と躍動性には優れているが、他の部隊との連携を欠き、補給の伸長を無視している」と酷評している。ホーランドがラインハルトの部隊を攻撃すると、ラインハルトは後退して、第11艦隊が攻勢終末点に到達するのを待った。自分の将才を過信するホーランドはビュコックの三度の後退勧告も「先駆者は常に理解されぬもの」と無視し、突撃を繰り返した。OVA版では、ホーランドはさらに調子に乗って、オーディンまで侵攻して皇帝を処刑してやる、俺はリン・パオやアッシュビーをも超えてやると夢想を繰り広げるが、その瞬間、第11艦隊は後先考えない攻勢の果てに攻勢終末点に到達して力尽き、敵中に立ち往生して絶好の静止目標と化してしまった。

それを読んで待ち構えていたラインハルトはすかさず全艦の主砲の三連斉射を命じ、その三連斉射一度で第11艦隊を蹴散らして戦局を逆転させた上にホーランドをも旗艦ごと戦死させた。そして第二の三連斉射でとどめを刺して、本物の将才というものを見せつけた。

帝国軍本隊は敗走する第11艦隊を追撃したが、あらかじめこの展開を予想して準備していたビュコックの第5艦隊、ウランフの第10艦隊が緊密かつ巧妙に連携した防戦を展開、大した戦果を挙げることは出来なかった。第3次ティアマト会戦は両軍にとって、これまでの無数の戦い同様に不本意な形で終了した。ラインハルトはこの戦いの功績によって大将に昇進。また帰還後に新造戦艦ブリュンヒルトを下賜される。

OVA版では、この戦いが全シリーズの最終エピソードとして制作された。OVA版は第一作「わが征くは星の大海(OVA版オリジナル)」(1988年)で、ブリュンヒルトに座乗したラインハルトが宇宙のかなたから登場するシーンで始まり、そして本作(2000年)ラストでラインハルトがキルヒアイスとともにブリュンヒルトに駆け込んで退場してゆくシーンが、全編の終幕となった(Blu-ray版では順番が変更されている)。

なお、道原かつみのコミック版では、逆にこの戦いが冒頭になり、ラインハルトが第11艦隊を撃滅するシーンから物語が始まっている。

藤崎竜のコミック版では主にラインハルト、ミュッケンベルガーを中心とした帝国艦隊とホーランド率いる第11艦隊との戦いに焦点が置かれる形で描かれている。また、当時の門閥貴族の間で徐々に目障りな存在になりつつあるラインハルトを戦死させるという思惑も絡み合っており、多くの陰謀を抱え込む形で戦端が開かれる事になった。

当初はラインハルト艦隊も前線に配備される予定であったが、直前にミュッケンベルガーはラインハルトを呼びつけ、後方待機を命ずる。彼は門閥貴族に戦争に介入される事を嫌悪し、その渦中にあるラインハルトを戦端から遠ざけようとしていた(戦争の最中に貴族の思惑で引っ掻き回されることを危惧したためでもある)。同じ頃、ラインハルトの座乗艦「タンホイザー」には単に軍務省の官僚的な人事の結果配されたに過ぎず、能力も識見もない貴族出身の参謀長、ノルデン少将が着任していた。

一方、自由惑星同盟軍も帝国軍の動きを察し、アレクサンドル・ビュコックを筆頭にウランフ、ホーランド指揮下の艦隊をティアマト宙域に展開させて迎え撃った。しかし英雄志向の強いホーランドは作戦会議の席でビュコック、ウランフとの連携を拒絶。挙句、不遜な物言いに加えて大挙して通信回線に割り込んできたホーランドの部下達の気迫も相俟って、作戦会議はホーランドの専横を止められないまま打ち切られてしまう。

戦端が開かれると同時に、ホーランドの旗艦であるエピメテウスが単艦で突撃。それに第11艦隊の僚艦達が追随して加速し、遂には艦隊全体の突撃へと肥大していった。今までのセオリーを全く逸脱したこの戦法によって、ホーランドと第11艦隊は完全なワンマンプレーの様相で戦場を蹂躙。一時は旗艦ヴィルヘルミナにさえ迫る勢いで帝国艦隊の多くを葬っていった。直後にホーランドは無傷のまま待機するラインハルト艦隊に狙いを定め、追撃。一方、この機を待っていたラインハルトは後退を命じてホーランド艦隊の「息切れ」を狙った。

これに対してホーランドは、帝国艦隊が「撤退」ではなく「後退」している事を看破し、罠と理解しつつも追撃を敢行。しかし艦隊の活動限界点に入って第11艦隊の僚艦は次々に脱落。最後まで追い縋った旗艦エピメテウスもまた、孤立無援のまま立ち往生する結果となった。これを好機と見たラインハルトは3度の一斉射でエピメテウスを轟沈。第11艦隊の多くは直後に駆け付けたビュコック、ウランフ両提督の艦隊によって辛くも壊滅を免れた。

なお、原作と異なりラインハルトは敗死したホーランドを「幾つも評価すべき点が見られた指揮官」とそれなりに評価している。また、原作では何ら活躍しなかったノルデン少将も、藤崎版では「ラインハルトを戦死させるために大貴族が送り込んだ間者」として描かれている。

グランド・カナル事件[編集]

宇宙暦795年/帝国暦486年第3次ティアマト会戦の後に生じた戦闘。

会戦後の帝国軍の再侵攻にそなえてイゼルローン回廊同盟側外縁の同盟軍が展開した辺境星区において、人為的ミスから物資輸送が滞り、対応しきれない軍に代って民間船約100隻が物資を運ぶ事になったが、宇宙艦隊司令長官ロボスが不明確な形で戦力の保護を命じたため、これに過剰に反応した護衛部隊が巡航艦グランド・カナルを除いて途中で引き返してしまい、そこで哨戒行動をとっていた帝国軍の巡航艦2隻と遭遇、戦闘が開始された。1対2で勝算の無いグランド・カナルは奮戦し、撃沈されるも、ひきかえに民間船の多くを脱出させる事に成功した。同盟軍は自らの不手際を隠す意味もあって艦長のフェーガン少佐を初め戦死者全員を英雄として祭り上げた。なお、ヤン・ウェンリーはその意図を見抜いて皮肉を込めたコメントをインタビューで述べたが、マス・メディアは伝えなかった。

OVA版では同盟軍が辺境星区に展開した理由は第3次ティアマト会戦の準備のため、時系列も同会戦が開始される前とされ、ホーランドが登場して、「会戦前に戦力温存を図るのは当然。1隻の犠牲で9隻が救われた。ロボス閣下は間違っていなかった」と、軍の意向に沿ったコメントをインタビューで述べる等の変更がある。

クロプシュトック事件 (原作時系列)[編集]

帝国暦486年3月、ブラウンシュヴァイク公爵の私邸に於ける門閥貴族の親睦パーティーで発生したクロプシュトック侯爵による爆破テロ事件と、それに続く討伐の総称。

このパーティーにはラインハルトも招待されていたが、パーティーのさ中に男爵夫人の一人が貧血を起こして倒れ、従者達によって椅子に座らされ、その椅子に置かれていた黒いケースが会場の外に運び出されようとした瞬間爆発を起こした。当初の場所から移動させられていたため、ラインハルトやブラウンシュヴァイク公爵など、会場内にいた者の多くが命拾いした。

かつてブラウンシュヴァイク公オットーと政争を繰り広げたクロプシュトック侯ウィルヘルムが爆破事件の犯人であると判明したため、激怒したブラウンシュヴァイク公は自ら司令官となって艦隊を率い、クロプシュトックの領土である惑星に赴いた。だがブラウンシュヴァイク公及び配下の指揮官が全て戦闘経験の無い貴族であったため、補佐役として「戦闘技術顧問」という肩書きの実戦指揮官が同行し、アドバイスを行う事になった。この戦闘技術顧問の中にウォルフガング・ミッターマイヤーオスカー・フォン・ロイエンタール(ともに少将)がいた。

クロプシュトックは私兵を揃えて迎撃態勢を取っていたが兵力の劣勢を覆せず、クロプシュトック領は戦闘開始後一週間で討伐艦隊に制圧された。ミッターマイヤーはこの時、自分に指揮を任せれば3時間で決着をつけられると言っているが、実際には彼に指揮権は無く、彼の発した様々なアドバイスも無視あるいは却下され続けていた。

ミッターマイヤー暗殺未遂事件[編集]

上記のクロプシュトック事件(原作時系列)に関連して発生した出来事。ミッターマイヤーとロイエンタールがラインハルトの陣営に加わる経緯となった。

クロプシュトック領を制圧後、貴族達による略奪と虐殺を防ぐためにミッターマイヤーは腐心していたが、数人の青年貴族が起こした老婆に対する凌辱と略奪・殺害の現場を見るに至り、その主犯格の男を直ちに銃殺した。軍規に基づいた行動ではあったが、その主犯の男がブラウンシュヴァイク公の縁者であり、しかもミッターマイヤーはそれを承知の上で銃殺した。メンツを潰されたブラウンシュヴァイク公はこれに激怒しミッターマイヤーを逮捕したが、正当な理由が無いため処罰出来ずにいた。軍法会議でミッターマイヤーの潔白が証明される前に暗殺される危険を感じたロイエンタールは、面識こそ無いが明らかに門閥貴族と反目していると思われるラインハルトを訪ね、ミッターマイヤーの救出を嘆願した。いくばくかの質問の後、ロイエンタールの嘆願が罠では無いと確信したラインハルトは、ロイエンタール及びキルヒアイスとともに軍刑務所に乗り込み、ミッターマイヤーを殺そうとしていたフレーゲルと相対した。一触即発の状態となったが、後から登場したアンスバッハの機転でその場は収まり、フレーゲルは不満たらたらの体ながら撤収した。命を救われたミッターマイヤーは、ロイエンタールともどもラインハルトに忠誠を誓った。

5月9日、ミッターマイヤーは起訴猶予で釈放され、ロイエンタールとともにラインハルトの艦隊に配属されたが、その最初の戦いである惑星レグニッツァ上空の戦いで、コルプト子爵(ミッターマイヤーが銃殺した青年貴族の兄)に命を狙われる事になる。

OVA版では両事件は分離され、クロプシュトック侯事件にミッターマイヤー・ロイエンタールは関与していない(詳細はこちら)。またミッターマイヤーがブラウンシュバイク公の縁者を銃殺して逮捕され、ラインハルトに助けられるエピソードもOVA版のクロプシュトック候事件とは別に存在する(どのような事件があったかの詳細は不明)。

グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ暗殺未遂事件 (原作時系列)[編集]

帝国暦486年5月16日、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが皇帝から愛人としての立場を解かれ、意を受けたリヒテンラーデ侯によって後宮からの退出を命じられた。皇帝に見捨てられた事にショックを受けたシュザンナは、その原因がアンネローゼにあると逆恨みして部下に襲撃を命じた。

翌17日、ピアノ演奏リサイタルから帰るアンネローゼ一行(ラインハルトとキルヒアイスを含む)を襲撃させた。だが警戒を怠らなかったラインハルトとキルヒアイス、及び救援に駆けつけたミッターマイヤーとロイエンタールによって襲撃犯は撃退され、一部は拘束されてシュザンナの意を受けた行為である事を白状した。

道原版コミックスでは、襲撃を直接指揮していたベーネミュンデ侯爵家の執事が捕まった際に「シュザンナ様と共にあることはできなくても、共に滅びることはできる」の一言と共に自害している。執事にとっては叶わぬ恋慕の感情が高じての、一種の無理心中であったかのように描写されていた。

OVA版ではシュザンナ自らが襲撃に参加、アンネローゼを手にかけようとするが、オーベルシュタインの機転によって撃退されている(後述)。

翌日、グリューネワルト伯爵夫人が暗殺されたという虚報を聞かされて歓喜したシュザンナは、皇帝からの呼び出しという不自然な通告にも疑問を抱かず、意気揚々と出かけた。だが、そこはノイエ・サンスーシではなく典礼尚書であるアイゼンフート伯爵の邸宅であった。全てを悟ったシュザンナは狂乱と悪態の限りを尽くした後、毒入りの酒を無理やり飲まされ、死亡した。

藤崎版コミックスでは本事件は発生しておらず、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナはフリードリヒ4世の葬儀にも出席しているほか、リップシュタット戦役にも加担することなくオーディンの下町で生きていた。フェザーンの工作員であるボルテックに唆される形で皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の誘拐事件に参加し、自由惑星同盟に亡命している。

惑星レグニツァ上空の戦い[編集]

惑星レグニツァ上空の戦い
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年9月4日
場所:惑星レグニツァ上空
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ラインハルト・フォン・ミューゼル大将 パエッタ中将
戦力
ミューゼル艦隊 第2艦隊
損害
ほぼ損害なし 艦艇の5分の4に損害
(劇場版第1作の描写)

宇宙暦795年/帝国暦486年9月4日。帝国軍ラインハルト艦隊と同盟軍第2艦隊の戦い。第4次ティアマト会戦の前哨戦に位置されている戦い。ラインハルトがミッターマイヤー/ロイエンタールを配下として戦った最初の戦いであり、戦艦ブリュンヒルトが実戦に登場した初めての戦いでもある。

長年の悲願であるイゼルローン要塞攻略を目指す同盟軍は要塞に7度目の攻勢をかけるべく第2/第10/第12艦隊の3個艦隊を投入し、イゼルローン回廊同盟側出口の一つであるティアマト星系を進軍していた。同盟軍艦隊の内、先行していた第2艦隊が木星型惑星レグニツァの大気圏内を航行している所を帝国軍が探知し、折り悪くフレーゲル男爵と本気の口論を始めたラインハルトは、レグニツァへの出動という形で体よく要塞から追い出された。

惑星レグニツァの大気圏はレーダーがほとんど効かず、両軍共に目視で探査、航行しており、双方全く予期しない嵐の中の遭遇戦という形で砲撃戦が開始された。当初はパエッタ中将率いる同盟軍第2艦隊が優勢で完勝寸前のように思われた。だがラインハルトは惑星レグニツァの大気に核融合ミサイルを撃ち込み、水素とヘリウムからなる大気を爆発させ、巨大なガスの奔流を第2艦隊に向けて叩きつけるという奇策を用い、戦局を一瞬で逆転させた。形勢不利を悟ったパエッタは自軍を撤退させ、一方のラインハルトも逆襲を被る危険を避けるため撤退した。両軍にとって消化不良な一戦であり、両軍の被害は互いに自然環境が不利に働かなければ自軍が勝っていたと主張しうる程度のものであった。この戦いの直後、戦艦アルトマルクの艦長であるコルプト子爵が、戦乱に乗じてミッターマイヤーの乗艦に砲撃したが、撃砕はならず、逆にミッターマイヤーの反撃によって撤退する同盟軍艦隊の正面におびき出され、同盟軍の一斉砲撃を受けて艦もろとも四散している。

劇場版第1作では描写が大きく異なる。帝国軍総司令官ミュッケンベルガー元帥は同盟軍の侵攻に向け、本国からの増援として回廊内に到着したばかりの「スカートの中の大将」ラインハルトを「招かれざる客」とみなし、そんな客は要塞に着く前に消えてくれれば幸いとばかりに、惑星レグニツァに向かわせた。パエッタは数において優勢でありながら有利な戦況を作り出せず、「体当たり攻撃」などという愚劣な命令を出してヤンを呆れさせている。ラインハルトはたった1発の核融合ミサイルで同盟軍を混乱に陥らせたが、ヤンはラインハルトの策を察知し、その意を受けたアッテンボローが、旗艦パトロクロスの舵を勝手に動かして艦を離脱させ、パトロクロスとそれに追随した少数の艦を救っている。そして、パエッタは呆然と撤退を呟くだけだった。なおOVA版でのアムリッツァ星域会戦では、ヤンはこの戦いでラインハルトが使った戦法を用い、恒星アムリッツァに核融合ミサイルを撃ち込むことで恒星の核融合反応を増大させ、それにより増大した太陽風を追い風にしてミッターマイヤー艦隊に急接近し、損害を与えた。

この戦いは劇場版第1作最初の、すなわちOVA版における最初の戦いとなった。

藤崎竜の漫画版では、若干の設定変更が加えられた上で一部描写が加味されている。なお、星系名は「レグニッツァ」と表記されている。

ブリュンヒルトを下賜されたラインハルトは、フレーゲルとの確執の末にミッターマイヤー、ロイエンタール両名の忠誠も手に入れていた。しかしラインハルトを敵視するフレーゲルはそのことを許さず、ミュッケンベルガーを強引に説き伏せて作戦参謀としてイゼルローン要塞に赴く。そしてラインハルト、キルヒアイス、ロイエンタール、ミッターマイヤーの4名と彼等の直属艦隊のみでレグニッツァ星系に展開した同盟軍を叩くように命を下していた(こうすることで、4人全員を同盟軍に始末させるのが目的であり、ラインハルトに面と向かって「これで君の戦力はおよそ1万だ。同盟軍は3万を超えているけどね」と嫌味を込めた発言をしている)。ところがラインハルト艦隊はロイエンタールの陽動とミッターマイヤーの奇襲によって同盟軍の先鋒である第2艦隊を蹂躙。これに危機感を抱いたパエッタ中将はやむを得ずレグニッツァの雷雲の中へと逃げ込んだ。
一方、パエッタの旗艦パトロクロスには作戦参謀として従軍するヤン・ウェンリーとジャン・ロベール・ラップの両名がおり、混乱の渦中にある艦内で冷静に状況を分析していた。レグニッツァの表面を構成するガスの危険性を察したヤンはすかさず撤退を上申するも、パエッタは状況が不利になっている事に気付かず棄却。入れ替わりにラップがガス状惑星の危険性を説明したことで、ようやく撤退を決意したのであった(乱気流のため光通信すら難しい状況であったが、パトロクロスが撤退行動をとった事で一部の艦も脱出を始めている)。
一方、第2艦隊の上方に構えていたロイエンタール、ビッテンフェルト、ミッターマイヤー旗下の艦隊はここぞとばかりに手持ちの核融合ミサイルを全弾投下、惑星表面に大爆発を起こして第2艦隊の艦を多数葬り去ってしまう。パトロクロス以下少数の艦は辛くも難を逃れたが、結果として同盟軍は第2艦隊の戦力の8割喪失という大敗を喫したのであった。
結果として帝国側では、勝利者であるラインハルトがこれまで以上に帝国軍の兵たちから「優秀な司令官」として慕われ、さらなる出世への道を切り開くこととなった。その一方で同盟側では、「敗軍の将」のごとく負傷しながらも生還したパエッタが痛みに耐えながらも総司令官のロボスに自ら報告を行い、兵力の過半数を失ったことから続く第4次ティアマト会戦には後方に回されたが、この敗北による「不名誉」はその後もパエッタについて回り、後のアスターテ会戦に際しては率いる兵力こそ原作小説と同じく、パストーレの第4艦隊やムーアの第6艦隊よりも多かったが、第2艦隊の兵たちの中には「レグニッツァでボロ負けした奴」や「トリューニヒト国防委員長に取り入って、この会戦に参加させてもらった」と陰口を発する者がおり、「率いる兵力の規模と、部下からの蔑視の度合いがどちらも大きい」という異常な状況を生み出した。

第4次ティアマト会戦[編集]

第4次ティアマト会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦795年/帝国暦486年9月11日
場所:ティアマト星域
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥 ラザール・ロボス元帥
戦力
ミュッケンベルガー艦隊
ミューゼル艦隊
第2艦隊
第10艦隊
第12艦隊
損害
同盟軍とほぼ同等 艦艇18,651隻以上
死者228万以上
(劇場版第1作の描写)[12]

宇宙暦795年/帝国暦486年9月11日。ラインハルトが大将/左翼部隊の司令官として参加。ラインハルト率いるミューゼル艦隊の戦力は、惑星レグニッツァ上空の戦いでほぼ損害が生じていないとされているので、引き続いてすべて参加していれば12,200隻、将兵130万人ほどの規模を保っていた事になる。

惑星レグニッツァ遭遇戦後も両軍は強大な戦力を維持していた。同盟軍はレグニッツァでの失敗を取り返そうと意気込むパエッタ中将の第2艦隊を前衛として進軍を開始し、一方の帝国軍もティアマト星域で同盟軍を迎撃する作戦が立案された。なお、ミューゼル艦隊はミュッケンベルガー元帥直々に艦隊左翼部隊に指名されたが、これはラインハルトの失敗を狙う帝国上層部の罠であることが会戦当日に判明する。

ラインハルトは、ミュッケンベルガーの策謀によって単独で突出させられ、危うく囮にされるところを、「右に転進して敵の眼前を横断する」という常識外の大胆な運動で敵味方の不意をついて危機を脱した(これについてラインハルトは「こんな邪道は二度と使わぬ」と述べている)。誰もが呆然と見守る中、ミューゼル艦隊は両軍の前面を通り過ぎて同盟軍の左翼側面に回りこみ、有利な占位に成功した。一方、我に帰った両軍の主力は衝突せんばかりの距離に接近しており、そのまま芸のない正面からの乱戦にもつれこんだ。当初はラインハルトの側面攻撃が功を奏し、帝国軍が優勢に戦いを進めた。しかし、同盟軍参謀長グリーンヒル大将の提案により、同盟軍は陽動のため1部隊を派遣して帝国軍の退路を断つ動きをさせると、帝国軍は狼狽し、同盟軍が有利に戦いを進めるようになった。同盟軍の陽動部隊はラインハルトの部下のロイエンタールにより壊滅させられた。その後も同盟軍が優勢に戦いを進めたが、ラインハルトは同盟軍が疲労しているのを見てとり、部下のミッターマイヤーを先鋒として同盟軍の後方から中央突破を図った。疲労してエネルギーを消耗していた同盟軍はこの攻撃に苦戦したが、同盟軍のウランフは後背のラインハルトに対しては後退し、逆に前方に打って出て帝国軍本隊に突撃、優勢に戦いを進めた。しかしラインハルトはウランフ艦隊を追撃して帝国軍本隊を救援し、巧みな指揮で同盟軍を翻弄し大損害を与えた。

相次ぐ大損害を受けた同盟軍はついに撤退したが、帝国軍本隊もまた同盟軍に勝るとも劣らぬ損害を被り、同盟領への進撃を断念して撤退した。結局この戦いもまたなんらの戦略的意義もなく、ただラインハルトたちの株を上げ、ゴールデンバウム王朝の終わりを早めただけに終わった。

なお、劇場版第1作では一部描写が異なっている。会戦序盤、ラインハルトが敵前横断を行った際にその意図を見抜いたヤンがパエッタに攻撃を強く具申するが、罠だと踏んだパエッタは指揮権を盾に頑なに却下するというOVA特有の彼の頑迷さを表す描写が追加されている。会戦中盤~終盤の陽動作戦についても、少数の無人操縦艦で構成された陽動部隊を送り込み、その指揮をヤン・ウェンリーが執るよう変更されている。陽動部隊は大量のデコイを放出して帝国軍を動揺させるが、策を見抜いていたミッターマイヤーが指揮下の高速戦艦を送り込み、撃破されている。ヤンの乗るユリシーズはこの攻撃を切り抜けたが、陽動作戦は失敗し帝国軍は全面攻勢を開始した。その後、同盟軍が包囲殲滅され、帝国軍が勝利する寸前の所でヤンが戦艦ユリシーズで単艦敵陣に侵入、旗艦ブリュンヒルトの下方に密着してラインハルトを人質にとり、同盟軍本隊の脱出を成功させるという演出が盛り込まれた。したがってOVA版では、この戦いで二人が互いの存在を知った事になっている。

また、ウランフやボロディンは登場しない[13]。パエッタについても、この戦いにおいてヤンの献策を容れなかった不明を恥じてヤンの能力を認めることになるが、その続編となるOVA版/劇場版第2作においては原作に準じて再びヤンの進言を却下しており、彼の描写がいささか苦しくなっている[14]

帝国軍はラインハルト、ミュッケンベルガー以外の艦隊司令官については描写がないが、ボーステック社のゲームではアイゼナッハ、シュターデン、エルラッハ、フォーゲルらが参戦している。

この戦いの後ラインハルトは上級大将に昇進し、さらに断絶していたローエングラム伯爵家の名跡を継いで、名ばかりの貧乏貴族から本当の貴族へと立身出世した。

クロイツナハIIIの麻薬密売組織捜査[編集]

宇宙暦795年/帝国暦486年11月。アルレスハイム星域の会戦の後日談。この原作小説である「汚名」は、当初は通常の単行本に収録されていなかったが、西暦2002年3月発行の徳間デュアル文庫「銀河英雄伝説外伝1・黄金の翼」に収録された。外伝シリーズの中でも比較的早い時期に制作されている。なお、現行のBlu-rayリマスター版では、この「汚名」が全編の最終エピソードとなっている。

第4次ティアマト会戦とアスターテ会戦の間に、ラインハルトとキルヒアイスは休暇をとる事が出来た。ローエングラム家の家督を相続する各種手続きが必要なラインハルトの勧めで、キルヒアイスは先に一人で観光地クロイツナハIIIに赴いたが、滞在先のホテルで老人を襲う暴漢と遭遇し、これを撃退した。キルヒアイスは、その老人が帝国暦483年のアルレスハイム星域会戦で惨敗した、愚将の汚名高いカイザーリング退役少将だと知るが、伝えられるような暗愚さが相手に無い事を奇異に感じる。

その一方でキルヒアイスは、暴漢が正気を無くしている事にも気がついたが、事情聴取のため赴いた現地警察のホフマン警視から、暴漢が現役軍人でサイオキシン麻薬の中毒患者であると説明され、得心が行った。だがサイオキシン麻薬の取引があるという密告があったのでその捜査に協力しろという申し出には納得が行かずに断ろうとしたものの、警察と軍隊との軋轢の存在を訴えられ、さらに麻薬中毒患者から生まれた奇形児の写真を見せられ、義憤にかられたキルヒアイスは協力の申し出を受諾した。

カイザーリングから招待された夕食の席で、キルヒアイスはバーゼル退役中将夫妻の話を聞かされ、バーゼルの妻ヨハンナの立体写真を見せられた。老人だが美しいと感じられるヨハンナに対するカイザーリングの気持ちと明哲な態度を知ったキルヒアイスは、なおさらアルレスハイム星域会戦の敗北の理由が分からなくなった。店を出た帰り道、ホフマンの出迎えを受けたキルヒアイスは、カイザーリングを襲った麻薬中毒の暴漢が、かつてカイザーリング艦隊所属の兵士だった事を聞かされた。その夜、キルヒアイスに暗殺の手がのび、カイザーリングへの疑惑は一層増したが、その一方でバーゼル夫妻が予定より早くクロイツナハIIIに到着している事を知り、それがカイザーリングに伝わっていない事にキルヒアイスは不審を感じる。翌朝、カイザーリングの紹介でバーゼル退役中将と会ったキルヒアイスは、その人間性にやや不信を感じて到着日時の虚偽を改めて確認し、疑っている事を敢えてバーセルに気づかせた。その後、キルヒアイスは展望レストランで様子がおかしい男を見つけて尾行し、逆にフライングボールの競技場に誘い込まれてナイフを持った男達に襲われた。キルヒアイスはフライングボール特有の低重力フィールドで苦心しながらも反撃し、さらにシャッターを開けてその流血沙汰を外部にさらして野次馬に警察を呼ばせ、窮地を脱する。

その直後、ホフマンからキルヒアイスは、バーゼルがかつてアルレスハイム星域会戦の時にカイザーリングの下で艦隊の補給を担う後方主任参謀を担当しており、最初にカイザーリングを襲った麻薬中毒の暴漢がその補給部隊の兵士で、しかもバーゼル自身が会戦の直前に憲兵隊から麻薬不法所持の件で取調べを受け、カイザーリングの証言で無罪になっていた事を聞いた。そしてキルヒアイスは、バーゼルこそが帝国軍内における麻薬密売組織の元締で、その麻薬禍によって中毒患者の将兵が暴発したというアルレスハイム星域の会戦の真相に気がつき、その証拠を得る決意でカイザーリングを訪ねて証言を促したが、ヨハンナに対するカイザーリングの想いがそれを拒んだ。アンネローゼに対する自分の想いと重ね合わせたキルヒアイスは、それ以上は何も言えなかった。

ホフマンの手引きでヨハンナと面会したキルヒアイスは、密告したのがヨハンナで、しかも匿名でバーゼルにも忠告したものの、それが逆効果となってバーゼルはカイザーリングが自分を裏切ったと考えて命を狙った、という構図を聞かされた。しかしそれでもなおバーゼルを愛するヨハンナは証言を断り、キルヒアイスとホフマンは、最後の手段としてバーゼルが自白するようにしむけた。策にかかったバーゼルはキルヒアイスを買収しようと試み、それが失敗するとキルヒアイスを殺そうとしたが、一連の発言がすべてホフマンによって録音されており、バーゼルは諦めた様子でヨハンナに事情を伝えたいと電話を入れた。それが証拠隠滅を命じたものだと気がついたキルヒアイスは、ヨハンナの部屋に駆けつけた。ヨハンナはバーゼルの意に沿って資料を暖炉で燃やそうとしており、キルヒアイスの説得にも耳を貸さず、彼女を止めるには撃つより他になかったがキルヒアイスは撃てなかった。しかし、後方から現れたカイザーリングがヨハンナを撃ち、自分を撃ったのがカイザーリングだと気づいたヨハンナは微笑みながら死んでいった。事件は解決したが、キルヒアイス自身には考えるべき問題がいくつか提起された。

そして、ようやく到着したラインハルトに羽を伸ばせたかと聞かれたキルヒアイスは、「私の羽は、ラインハルト様のおそばでこそ伸ばせるのです」という感慨深い一言を述べた。

旧帝国暦/宇宙暦時代 (本編開始後)[編集]

アスターテ会戦[編集]

宇宙暦796年[15]/帝国暦487年2月。イゼルローン回廊から同盟領に侵攻するラインハルト率いる帝国軍艦隊と、それを迎撃する同盟軍艦隊との戦闘。ラインハルトが上級大将に昇進し、同時にローエングラム伯爵家の名跡を継いでから初めての出征で、また原作およびOVA本編の最初のエピソードである。

アスターテ会戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙歴796年/帝国歴487年2月
場所:アスターテ星域
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将 パエッタ中将
パストーレ中将
ムーア中将
戦力
ローエングラム艦隊
20,000隻
動員兵力245万人
第2艦隊(15,000隻)
第4艦隊(12,000隻)
第6艦隊(13,000隻)
合計40,000隻
動員兵力406万人
損害
戦死/行方不明20万人
(OVA版では15万人)
戦死/行方不明200万人
(OVA版では150万人)

劇場版(第2作)においては、かなり掘り下げた改変がされている。そこでは、ラインハルトの実力を試すという帝国軍三長官の思惑、ならびにラインハルトの勝利と栄達を阻もうとするブラウンシュヴァイク公爵の策謀によって幕僚のミッターマイヤーとロイエンタール、参謀長のメックリンガー、ブリュンヒルト艦長のシュタインメッツが転属させられ、残されたのはキルヒアイスだけであった。この出征におけるラインハルトの配下はミッターマイヤーとロイエンタールの評するところ「融通の利かない」メルカッツ、「扱いづらい」ファーレンハイト、「実戦には向かん」シュターデン、「足手まといにしかならん」エルラッハにフォーゲルとなり、「手足を縛られた上に、重石までつけられた」状態であった。兵力は艦艇約2万隻。さらにフレーゲル男爵によって、出征の情報がフェザーンのルビンスキーを通じて同盟にリークされるという念の入りようであった。

一方同盟側では、情報を得た国防委員長トリューニヒトの命により、ヤンとラオの所属する第2艦隊(OVA版と劇場版、藤崎版コミックスではアッテンボローも所属している)、フィッシャーの所属する第4艦隊、そしてジャン・ロベール・ラップの所属する第6艦隊の、あわせて3個艦隊、合計4万隻が動員された(劇場版第2作はOVA第三期開始の宣伝もかねた「顔見世興行」的な要素が強い作品で、ストーリーは各陣営の主要キャラクターが多数登場する展開に改変された)。

なお、道原版コミックスでは、原作やOVA版と異なり「双璧」ミッターマイヤーとロイエンタールの両者ともラインハルト指揮下で参加している[16]。彼らはラインハルトが忠誠を尽くすに足るかをこの戦いで見定め、ラインハルトもまた彼らの戦闘指揮をこの戦いで評価する事となる(同P167。また、同作ではP236-237等で第4次ティアマト会戦のエピソードを混入しており、その描画方法からラインハルト指揮下での両者のデビュー戦と読む事ができる。第四次ティアマト会戦自体はP144で描かれているが、それに両者が参戦しているかどうかは描かれていない)。なお、二人が参戦したために提督の顔ぶれはメルカッツ・シュターデン・ファーレンハイト・ミッターマイヤー・ロイエンタールという布陣になっている(ただしエルラッハ少将もP230で登場している)。

同盟軍はこの数と地の利を使ってダゴン星域会戦と同じ包囲殲滅戦を企図したが、逆にラインハルトの各個撃破の好餌となった(藤崎版コミックスでは更に設定が掘り下げられ、同盟軍はトリューニヒト国防委員長の意向によって「第2、第4、第6艦隊にそれぞれ戦果を競わせ、最大の功を挙げた者を重用する」という約定が3人の司令官に伝えられていた。そのためパエッタ中将をはじめとした各司令官は連携を取らなかったという内容が加味されている。また、同盟軍がダゴン星域会戦と同じく包囲殲滅戦を企図したのも、ダゴン星域会戦が今なお同盟市民にとって人気のある戦いなのでそれを再現するとトリューニヒトが明言しており、この戦い自体が彼にとっての「人気取り会戦」であった)。当初はラインハルトの幕僚たちは各個撃破に徹するラインハルトの作戦を理解出来なかったが、唯一作戦に好意的印象を持ったとキルヒアイスに印象づけたファーレンハイトが先鋒となり、正面から接近していたパストーレの第4艦隊約12,000隻を最初に攻撃、先制攻撃で優位に立った。帝国軍の動きを予測していなかった第4艦隊は対応が遅れ、一方的に撃破されることとなった。

この時点で第2艦隊の次席幕僚を務めていたヤンは、直ちに第6艦隊と合流を図り戦力の集中を図るべきとパエッタに進言したが、それは第4艦隊がすでに敗退しており、彼らを見殺しにするという前提であった。第4艦隊の奮戦を期待し感情的になるパエッタは進言を却下し、間に合うはずもない第4艦隊の救援に向った。これによってラインハルトの勝利がほぼ確定した(藤崎版コミックスでは上記の追加設定のため、ヤンが第6艦隊との連携を進言したにもかかわらずパエッタは棄却している)。

戦闘開始4時間でパストーレ中将は戦死して第4艦隊は壊滅し、対するラインハルトの艦隊はほとんど損害が生じなかった。なお、第4艦隊の組織的抵抗が途絶えた時点で、メルカッツはラインハルトに対し戦術上当然である掃討戦を具申しているが、ラインハルトは戦力の温存を理由に却下。第4艦隊残存戦力を放置して第6艦隊へと進軍を開始する。この判断は吉と出、続く第6、第2艦隊との戦闘を数的にも有利に進めることができた。約4時間後、時計回りに迂回したラインハルトの艦隊は、今度はメルカッツの艦隊を先鋒にして、第6艦隊の側背(4時半の方向)から攻撃を開始した。第6艦隊司令官のムーアはその場での反転迎撃を企図し、禁忌とされる敵前回頭を指示。その結果全艦が無防備な側面をさらけ出した状態で砲撃を受けて、第6艦隊は壊滅した。ムーアは降伏勧告を拒絶して乗艦のペルガモン及びジャン・ロベール・ラップとともに戦死した。

第4・第6艦隊を撃破したラインハルト艦隊は、そのまま第2艦隊との戦いに臨んだ。両軍はほぼ正面から対峙するが、劣勢な第2艦隊はすでに逃げ腰で、ラインハルト艦隊の先制を許してしまう。戦闘開始直後に旗艦パトロクロスの艦橋が被弾し、パエッタは重傷を負って、健在な士官で最高位のヤンが指揮権を引き継いだ。ヤンは各個撃破で不利になる事態を見越して戦闘開始前に各艦の戦闘コンピュータにいくつか対応策をあらかじめ入力しておき、状況にあわせて指定したものを実施させる方法で指揮した。この時ヤンが使った「ラインハルト艦隊の中央突破を逆用して後背にまわり、引き分けに持ち込む」作戦が功を奏し、戦況はお互いの艦隊が相手の艦隊の後尾に食らいつくという、さながら2匹の蛇が互いの尾を狙って喰らい合うような形で環状状態となる。この際、帝国軍のエルラッハ少将が命令を無視して敵前回頭を行ったところで乗艦が被弾し戦死している。戦いは消耗戦となり、ラインハルトはこれ以上の戦闘は無意味であるとして撤退し、ヤンも追撃を行わなかったため、戦闘は終了した。

なお、ラインハルトの各個撃破戦術を打ち破って上記の環状状態を生み出したヤンはこれを「人類の有史以来、幾度も繰り返されてきた光景」と評する一方、己が策を破られて消耗戦へと持ち込まれたラインハルトはこれを「無様な陣形」と評した。

会戦全体で見ると、帝国軍はほぼ完勝を収めた上戦死者を約20万人に抑えたのに対し、同盟軍は迎撃に出た3個艦隊の内第4・第6の2個艦隊が壊滅、戦死者は帝国軍の10倍の約200万人という大損害を被った(OVA版では戦死者は両軍とも下方修正され、帝国軍は15万人・同盟軍は150万人となっている)。同盟はこの会戦での敗北を誤魔化すため、指揮を執ったヤンを英雄として大々的に喧伝した(藤崎版ではさらにトリューニヒトが同盟市民からの支持を得ようと、戦いを終えてハイネセン宇宙港へと戻ってきたヤンをサプライズで大勢の市民と共に出迎え、ヤンは自分が嫌っているトリューニヒトが市民の支持を得るための駒としての役目を、他でもない自分自身が担ったのに憤慨した)。

この戦いの武勲によってラインハルトは元帥に昇進し、元帥府を開いてミッターマイヤー・ロイエンタール以下有能な将兵を多数集め、さらに宇宙艦隊副司令官に任命され、事実上帝国正規艦隊の半分を己の私兵とした。

第7次イゼルローン攻防戦[編集]

第7次イゼルローン攻防戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年5月
場所:イゼルローン要塞
結果:同盟軍の勝利、イゼルローン要塞陥落
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将
ハンス・ディートリヒ・フォン・ゼークト大将
ヤン・ウェンリー少将
ワルター・フォン・シェーンコップ大佐
戦力
イゼルローン要塞
要塞駐留艦隊
(15,000隻)
第13艦隊
(6,400隻・将兵70万人)
ローゼンリッター連隊(200名程)
損害
守備隊20名弱戦死
艦艇数千隻撃沈
捕虜数50万人
なし

宇宙暦796年/帝国暦487年5月。少将に昇進し、半個艦隊規模で新設された同盟軍第13艦隊の司令官となったヤン・ウェンリーに対し初の任務として命じられた、イゼルローン要塞の攻略戦。

過去のイゼルローン要塞攻略戦従軍の経験を踏まえて「イゼルローン要塞は外部からの攻撃では陥落しない」と考えていたヤンは要塞を内部から占領する事を考え、その実行役に帝国からの亡命者で組織され、同盟軍最強と名高い「薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊」を選んだ。まず、偽の救難信号によってゼークト大将の駐留艦隊を要塞から引き離し、その隙に拿捕した帝国軍の艦船を使って要塞内部に帝国軍兵士に変装したローゼンリッターを送り込んだ。

要塞内に潜入したローゼンリッターは、駆け付けた警備兵に「同盟軍がイゼルローン回廊を無事通過する手段を得ている」と嘘を伝え、要塞司令官シュトックハウゼン大将の元に案内させた。

原作ではID偽装もしていたが何らチェックも受けず、易々とたどり着いている。
『Die Neue These』では艦から司令室に至るまで相応の距離を移動する描写があり、その上でローゼンリッター隊員の身体スキャニングなど、詳細な「関門」を潜り抜けている。最後のIDチェックについては些か手こずったが[17]、しびれを切らしたシュトックハウゼンが部下に一刻も早く連れてこいと急き立てたため、うやむやのうちにクリアした。

これらの関門を上手くクリアし、最終的にシェーンコップが要塞司令室にてシュトックハウゼンを拘束、人質に取ることで要塞中枢部を制圧、要塞を無力化することに成功した。

こうして要塞への侵入・制圧に成功した第13艦隊だったが、誘い出された要塞駐留艦隊はいまだ健在であった。ゼークト側へ「要塞内部で叛乱」との偽情報を流し疑心暗鬼を誘う。これを受けて要塞へ引き返そうとする(ここで本当の敵の意図を察したオーベルシュタインは罠だと帰還するのを止めるため説得しようとするが、ゼークトはそれを聞き入れなかった。愚行に呆れた彼は軍務を放棄、要塞陥落寸前に単身シャトルで脱出している)。何も知らない帝国軍艦隊に対し、ヤンは要塞主砲を2回放って数千隻の艦艇を破壊したうえ、降伏あるいは逃亡を勧告する。しかしこれを侮辱と受け取ったゼークトは「全艦突入して玉砕し、以て皇帝陛下の恩に報いる」と返信、艦隊全艦に命令して突撃を開始した。自身の独りよがりな軍事ロマンチシズムを他の兵を巻き込んでまで展開するゼークトに対し、ヤンは要塞主砲の第3射でゼークトの旗艦ほか艦艇1000隻ほどを「消滅」させた。これを見た駐留艦隊の各艦は次々と艦首を翻し、帝国領方面へ撤退していった。

OVA版では要塞守備隊幕僚のレムラー中佐が要塞の全システムを凍結させ、外部の艦隊との接触の切断を試みており、シェーンコップらがロック解除のため中央制御室に赴いて帝国軍守備兵と戦うシーンが追加され、それに伴いヤンが第13艦隊の小規模性を生かし要塞に主力艦隊が入港しているように見せかけて時間稼ぎを行っている。またヤンの命令による要塞主砲の発射も2回のみで、1回目の発射後にシェーンコップの指摘が入り、ゼークトに降伏勧告を行うという流れとなっている。
コミックスでは、シュトックハウゼンの拘束とあわせて艦船内に搭載していたローゼンリッター本隊の揚陸艦を突入させている。

その後ヤンはハイネセンにイゼルローン要塞占領の通信を入れ、同盟軍は7度目にして悲願のイゼルローン要塞攻略を果たした。ヤンはこの功績により中将に昇進した他、味方に一人の犠牲も出さずにイゼルローンを陥落させたため「奇跡のヤン(ミラクル・ヤン)」「魔術師ヤン(ヤン・ザ・マジシャン)」と称されるに至った。ヤンが司令官を務める第13艦隊も、第2艦隊の残存兵力を吸収して1個艦隊に昇格している。

この歴史的敗北は帝国を揺るがし、国事に無関心な皇帝フリードリヒ4世さえもが国務尚書を通して事情の説明を要求してきたほどである。帝国軍三長官(軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官)はそろって辞表を提出し、合わせてシュトックハウゼン・ゼークト両司令部唯一の生還者であるオーベルシュタインを、自分だけ生きて帰ってきたこと自体を白眼視して詰め腹を切らせようとした。しかし、オーベルシュタインはこの危機を逆用して、ラインハルトに己もまたゴールデンバウム王朝そのものを憎んでいるという本心を吐露して自らを売り込んだ。そしてラインハルトは皇帝に提示された三長官の地位を辞退し、彼ら全員の留任と引き換えにオーベルシュタインの助命及び元帥府への編入を取り付た。

この作戦は、当初よりローゼンリッターの連隊長のシェーンコップの裏切りの可能性が指摘されており、当の本人がその事を示唆しているが、ヤンは承知の上で「対策は無意味」としてあえて作戦を決行した。失敗しても自分とシトレが責任を取るだけでリスクは少なく、成功した場合は多大な成果をもたらすとの判断による。またオーベルシュタインは、艦隊を要塞からおびき出すこと、再度艦隊を要塞へ呼び戻すこと、この二点については「同盟の罠である」と看破し、意見具申を行っており、この点でも失敗の可能性があった。

ヤンと命令者であるシトレは、「この作戦が成功すればイゼルローン要塞の武力を背景に帝国と和平協定を結び、つかの間ではあっても有意義な平和が到来する」と期待した。しかし、その思惑とは正反対に、あまりにも鮮やか過ぎる成功が民衆に更なる戦果への期待をかきたて、後の自由惑星同盟軍による帝国領侵攻という無謀な作戦につながり、ひいては同盟滅亡の原因となり、ヤンはむしろこの作戦の成功を悔やむ事になる[18]

カストロプ動乱[編集]

カストロプ動乱
戦争:カストロプ動乱
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年5月
場所:カストロプ領
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 カストロプ叛乱軍
指導者・指揮官
シュムーデ提督
ジークフリード・キルヒアイス少将
マクシミリアン・フォン・カストロプ
戦力
シュムーデ艦隊
(3000隻)
キルヒアイス艦隊(2000隻)
メディアによって差異あり
損害
シュムーデ艦隊壊滅 反乱軍盟主の死亡、反乱鎮圧

宇宙暦796年/帝国暦487年5月。財務尚書だった故・カストロプ公オイゲンの不正蓄財に対する調査と、財産の返還を後継者である息子のマクシミリアンに求めたところ、彼はこれを拒否して武力抵抗に及んだ。帝国はシュムーデ提督率いる艦隊を討伐軍として派遣したが敗北する(原作では2度目の敗北が存在する)。ラインハルトの工作によってキルヒアイスが次に派遣された。

そしてキルヒアイスは鮮やかに勝利し、討伐作戦は成功した。この功績によってキルヒアイスは中将に昇進し、実質的にローエングラム陣営のNo.2となった。この戦いで、マクシミリアンによって監禁されていたマリーンドルフ伯フランツが救い出されたOVAではこの時ヒルダがキルヒアイスと会った事になっている。なお、カストロプ動乱は、原作/OVA/コミックで経過が異なる。

原作
キルヒアイスはまずカストロプ本領へ進軍すると見せかけマリーンドルフ領の解放及びマクシミリアン軍への陽動を行う。本領に帰還している最中のマクシミリアン軍から小惑星帯に艦隊を隠し、敵艦隊の後背を取って完勝。
OVA版
カストロプ領にはフェザーンを通して入手した「アルテミスの首飾り」と同じ戦闘衛星が配備され、シュムーデ艦隊を鎧袖一触で壊滅させた。キルヒアイスはシュムーデ艦隊より少ない戦力で指向性ゼッフル粒子を使って破壊している。なお、兵卒(クルト伍長)の台詞で「指向性」であることを説明しているため、この発言が正しければ、原作と異なりこの動乱鎮圧が指向性ゼッフル粒子の初の実戦使用となる。OVA外伝「奪還者」の最後のシーンで「公式記録上ではアムリッツァ会戦で初めて指向性ゼッフル粒子が使用された」という説明がなされている。
道原かつみ版コミック
マクシミリアンの妹エリザベートが率いる私設艦隊5,000隻と、それを惑星上から砲撃支援するマクシミリアンの反射衛星砲という強固な防衛網を敷くカストロプ陣営に対し、キルヒアイスは小惑星を用いた攻撃をしかける。カストロプ陣営はミサイルによる軌道操作で対抗するが、相次ぐ小惑星攻撃に業を煮やし、私設艦隊を出撃させた。
だがエリザベートの艦隊が小惑星とすれ違ったとき、キルヒアイスの真の狙いが明らかになる。小惑星に隠れた小型艇部隊が艦隊をかすめて地表に降下、地上のビーム砲を破壊する一方、別の小惑星が突如破裂。その破片によって陣形を乱された隙を突いて、キルヒアイス艦隊が急襲・殲滅。防衛網を悉く突き崩されたカストロプ軍は壊滅した。
藤崎竜版コミックス
全体としては他のメディアよりも原作小説に準拠した展開であるが、キルヒアイスが討伐軍の司令官に任じられたことや、マリーンドルフ伯フランツがカストロプ公マクシミリアンの下に説得に訪れるも囚われたことは、いずれもフレーゲル男爵の策謀の結果とされている。
また、ヒルダがキルヒアイス艦隊の巡航艦の兵士に成りすまして乗り込むも見つかり、その後はキルヒアイスと行動を共にしている。
Die Neue These
キルヒアイス艦隊以前にカストロプ領に侵攻戦闘したシュムーデ艦隊についての描写はなく、防衛側マクシミリアン率いる私設艦隊10,000隻と侵攻側キルヒアイス少将率いる帝国艦隊5,000隻による純然たる艦隊決戦となる。マクシミリアンは「主君のため命を捧げるのは臣下の誉れ」という言葉とともに全艦突撃を命じるが、帝国艦隊がシールド全開で私設艦隊をほぼ不殺のまま包囲する。キルヒアイスが意図的に設けておいた包囲の穴を私設艦隊はマクシミリアンの命令で突破するが、最後尾のマクシミリアン座乗の私設艦隊旗艦のみを帝国艦隊は穴を閉じて包囲。私設艦隊旗艦直前に移動してきた帝国艦隊旗艦バルバロッサからキルヒアイスが部下の助命を前提としてマクシミリアンへ降伏勧告をする。マクシミリアンは戦闘継続を命ずるも戦闘は行われず、艦橋にいる周囲の臣下から射殺される。その後私設艦隊は降伏勧告を受諾し、マクシミリアン以外の流血がないまま戦闘は終結。なお、マクシミリアンは発言する度に周囲の幕僚に殴る蹴るなどの暴行を加えていた。

そして、四作いずれにおいても、マクシミリアンは部下に殺される形で死んでいるが、その描写もメディアごとに微妙に異なる。

  • OVA版:フェザーンへの亡命を目論み、家臣の一人に焼身自殺して身代わりになれと命令を下すも、自殺を命じた家臣本人に刺されたうえ、周囲の他の部下や寵姫たちにも次々と刺されて殺される。
  • 道原版:敗北確定後に執事から「どうか潔くご自害を、ヴァルハラまでは私もお供いたします」と諭されても、自分の敗北を認められず降伏も拒否して喚いていたところを、背後から執事に拳銃で射殺されたように描写されている。
  • 藤崎版:キルヒアイスに敗北後、領地の財貨を根こそぎ没収して自由惑星同盟への亡命を図る(藤崎版ではフェザーンは「おとぎ話」と呼ばれるような秘密の存在であり、フェザーン商人と取引がある者でもフェザーン本星の場所は知らないため)が、見限った家臣によって金貨の詰まった袋を頭部に落とされて殺害される。
  • ノイエ版:座乗艦がキルヒアイス艦隊に包囲されながらも降伏勧告を無視し、私設艦隊に戦闘継続を命じるが、一隻たりとも命令に従わずに戦闘を拒否。艦橋の部下たちに八つ当たりのように暴行を加えながら重ねて攻撃を命じるが、部下の1人の「臣下のために命を捨てるのも主君の務めと存じます」の一言と共に複数の艦橋要員から銃撃され死亡するという、フレーゲル男爵(藤崎版を除く)に似た死に方をする。

クロプシュトック事件(OVA版時系列)[編集]

同事件のOVA版。原作ではアスターテ会戦前に起こっているとされる事件だが、OVA第1期に組み込むため、発生時期や各設定を変更して、本編第9話「クロプシュトック事件」とした。

全体的な構成は原作版に近いが、以下のような差異が存在する。

  • 発生時期は原作では帝国暦486年3月、OVA版では同487年の半ば
  • 原作では貧血を起こして倒れた男爵夫人を椅子に座せたのは従者だが、OVA版ではラインハルト。
  • 爆弾が仕掛けられていたのは原作では黒いケース。OVA版では杖。
  • 爆発後、ラインハルトに職務質問した警備担当は、原作ではメックリンガー、OVA版ではシュトライト。
  • テロが失敗に終わった後、クロプシュトックは原作では領地の惑星に逃げ込み、ブラウンシュヴァイク公率いる討伐艦隊を迎撃したが、OVA版ではオーディンの屋敷に火をつけ自害した。従ってミッターマイヤーが討伐艦隊のオブザーバーとして同行し、そこでブラウンシュヴァイク公の縁者を銃殺する一件はOVA版には存在せず、第87話で描かれた軍刑務所の拘禁/暗殺未遂のくだりも、この事件の関連によるものとは説明されていない。
  • 討伐を命じられた陸戦隊の指揮官として、この回でフェルナーが登場している。

グリューネワルト伯爵夫人アンネローゼ暗殺未遂事件 (OVA版時系列)[編集]

同事件のOVA版。原作ではアスターテ会戦前に起こっているとされる外伝の事件だが、OVA第1期に組み込むため、発生時期や各設定及び経緯を変更して、本編第11話「女優退場」として発表された。

発生時期は原作では帝国暦486年5月、OVA版では同487年の半ば

フリードリヒ4世がアンネローゼを伴ってオペラ見物をした帰り、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが声をかけたが、皇帝は特に関心を示す様子も無くそのまま退去した。その愚痴を聞いたフレーゲルがシュザンナを煽り、アンネローゼ暗殺の意思を啓発させたうえで、フレーゲル自ら手配を行った。ただしフレーゲル自身の名前は出ないように配慮し、シュザンナに疑惑と責任を集中させるように部下に命じている。

この直後、シュザンナがアンネローゼを狙っていることを示唆する密告を受け取ったラインハルトは、キルヒアイスと相談の上オーベルシュタインに調査を命じたが、同時にシュザンナがアンネローゼの暗殺を企てているという噂が宮廷や貴族社会でも広がり始め、それが原因でシュザンナは皇帝から愛人としての立場を解かれ、意を受けたリヒテンラーデ侯によって後宮からの退出を命じられた。狼狽するシュザンナにフレーゲルが再び近づき、暗殺の決行を促した。

この直後、アンネローゼの元にラインハルトが大怪我をしたという虚報が届き、その報を届けた軍の関係者に同行した。だが、その途中でミッターマイヤーとロイエンタールを乗せた車がすれ違い、ミッターマイヤーが車の中のアンネローゼを発見した。車の様子に不審を抱いた二人はラインハルトにその事を告げようとしたが、ラインハルトはこの時イゼルローン要塞の奪回に関する会議で多忙を極めていたため、代わりにキルヒアイスにその事を告げる。キルヒアイスは暗殺の密告と照らし合わせて抜き差しならぬ事態であると気が付き、ミッターマイヤー及びロイエンタールとともに車の行方を追った。

一方、ひと気の無い場所でアンネローゼを乗せた車が襲撃され、アンネローゼは森の中の山荘に連れ込まれた。山荘の中で待ち構えていたシュザンナは、アンネローゼに殺害の意図を告げ、酒に毒を入れて飲ませようとしたが、間一髪で3人が到着した。銃撃戦に勝利して護衛を倒した3人は山荘の中に突入したが、シュザンナがアンネローゼを盾にしていたためうかつに動けなくなってしまった。だが後から到着したオーベルシュタインが山荘の電源を切って照明を落とし、混乱の中でシュザンナと手下はアンネローゼを置いて逃亡した。

会議終了後に事態の報告を受けたラインハルトは、オーベルシュタインからフレーゲルが黒幕であることを知らされるが証拠が無いため反撃が出来ず、不本意ながらもキルヒアイスの進言を容れて宮廷警察に任せるしかなかった。一方、作戦の失敗を聞いたフレーゲルは、叔父ブラウンシュヴァイク公爵の力を借りてシュザンナに全ての責任をなすりつけた。シュザンナの処置は概ね原作版と同じであるが、勅命を読み上げるのはリヒテンラーデ侯爵の役目となったほか、処刑の現場にブラウンシュヴァイク公爵は立ち会っていない。

同盟軍の帝国領侵攻[編集]

宇宙暦796年/帝国暦487年8月~。アンドリュー・フォーク准将の案が採用されて実行された作戦。ヤンの第13艦隊を含む8個艦隊が帝国領に侵攻した。

この作戦が実行に移された背景として、ヤン・ウェンリーによる第7次イゼルローン要塞攻略の成功がある。味方の血を一滴も流すことなく要塞奪取に成功したが故に、同盟市民の間にはさらなる戦果を求める声が高まった。そこへ、ヤンを超える功績を打ち立てる機会を欲していたフォーク准将が、正規の手続きによらず個人的に、最高評議会議長ロイヤル・サンフォードに帝国領への侵攻作戦案を持ち込んだ。サンフォード議長とコーネリア・ウィンザー情報交通委員長ら多くの閣僚は、この作戦を以て帝国に勝利することで低下しつつあった政権の支持率を挽回できると目論んで充分な検討をせぬままに議決に踏み切り、最高評議会構成員11名のうちジョアン・レベロ財政委員長、ホワン・ルイ人的資源委員長、ヨブ・トリューニヒト国防委員長の3名が反対した他は全員が賛成して(原作では棄権した委員が2名)、作戦実施が決議された。

しかしその作戦計画の実態は稚拙極まりないもので、立案者であるフォーク准将の説明に曰く「大軍をもって帝国本土へ侵攻する」「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」といった抽象的かつ曖昧な語句に終始し、これをビュコックは「要するに行き当たりばったり」と酷評した。また、帝国軍の迎撃についても「容易に撃退できる」、帝国民衆の人心掌握についても「同盟軍が来れば進んで協力するに違いない」などの希望的観測に満ち溢れたものであった。

これに対して迎撃を一任されたラインハルトはオーベルシュタインが提案した焦土作戦を以て応じ、当初は帝国軍が領地から物資を引き上げつつ戦わずして引いたため、同盟軍は抵抗も無く進撃して、200の恒星系を占領し、そこで暮らす5000万の帝国国民を「解放」した。だが、まもなく同盟艦隊が補給線の限界点に達し、かつ「解放した市民」が欲する物資を提供するために同盟から大規模な補給部隊が送られたが、キルヒアイスの攻撃をうけて壊滅的打撃を受ける。補給を受けられなくなった同盟軍は現地において物資を徴発(実態としては略奪)せざるを得ず「市民」の反感を買った。さらに各星域において、帝国軍が大規模な攻勢に転じたため、同盟各艦隊はことごとく惨敗。同盟軍はアムリッツァ星域付近に集結し再反撃を画策したが、ここでも帝国軍の猛攻に曝されて、さらに損害をだしてイゼルローンへ撤退を余儀なくされた。

この一連の作戦により喪失した将兵は動員した約3,000万人のうち、実に70%近くに相当する2,000万人に達した。これはアスターテ会戦の10倍の損害であり、当時の同盟軍全兵員の約4割をこの作戦により失ったことになる。この敗戦により同盟軍は慢性的な兵員不足に陥り、戦力が大幅に弱体化した。

さらに損耗した戦力を回復させるために人員を軍にまわした結果、社会のあらゆる面において人的資源が枯渇し、侵攻作戦以前から社会運営に支障をきたしていたものが、この敗戦の後は運用効率が大幅に悪化したため、各種の事故も多発するようになった(原作やコミックスでは、それら社会機構の弱体化により生じた事故について触れられている)。この作戦は同盟を決定的に弱体化させ、ひいては滅亡の一大要因となった。

この責任を取って、作戦総司令官であった宇宙艦隊司令長官のロボスと統合作戦本部長のシトレは退役。総参謀長のグリーンヒルと後方担当参謀のキャゼルヌはそれぞれ査閲部長と第14補給基地司令官に左遷。作戦を立案したフォークに至っては、作戦中にビュコックに叱責された事が原因でストレス性の盲目を発症。病院に送られるという結果になった。同盟の最高評議会のメンバーも全員辞表を提出したが、出征に反対したレベロとホワンは慰留され、やはり反対したトリューニヒトは最高評議会議長の地位に昇りつめた。

一方、侵攻作戦前まで帝国平民の間では同盟軍に対する敵意がそれほどなかったが、この侵攻作戦で補給の滞った同盟軍が苛烈なまでに物資の徴発(略奪)を行ったため、帝国平民は同盟に対し敵意を抱くこととなった。これは焦土作戦を提案したオーベルシュタインや、それを採用したラインハルトの目論見通りであった。

アムリッツァ前哨戦[編集]

同盟各艦隊の侵攻星域と、10月10日に一斉に反攻に転じた帝国艦隊は以下の通り。

  • 第3艦隊(ルフェーブル)は惑星レージング上空でワーレン艦隊と交戦。OVA版では戦闘中に乗艦のク・ホリンが撃破された僚艦と接触し、そのまま付近の衛星に打ち付けられて撃沈。ルフェーブルは戦死した。
  • 第5艦隊(ビュコック)はビルロスト星系でロイエンタール艦隊と交戦。最初から撤退の準備を整えていたため、3割の犠牲を出しながらも離脱に成功した。
  • 第7艦隊(ホーウッド)はドヴェルグ星系でキルヒアイス艦隊と交戦し、敗走した。OVAでは圧倒的な数の艦隊に包囲され、戦闘描写なく降伏している。「Die Neue These」では、キルヒアイス艦隊の攻撃により戦闘可能艦が1割程になる大損害を受け事実上無力化された。その後はキルヒアイス艦隊からは放置されたが、ホーウッドが残存部隊を再編してキルヒアイス艦隊へ捨て身の奇襲攻撃をかけた。
  • 第8艦隊(アップルトン)はヴァンステイド星域でメックリンガー艦隊と交戦。早々に撤退しアムリッツァに向かったが、3割の犠牲を出した。
  • 第9艦隊(アル・サレム)はアルヴィース星系でミッターマイヤー艦隊に急襲され、ほとんど反撃も出来ないまま敗走。乗艦のパラミデュースが被弾してアル・サレムが重傷を負ったため、副司令官のモートン少将が指揮権を引き継ぎ、部隊を統率して敗走した(OVA版では、同盟軍の兵士が、ミッターマイヤー艦隊の迅速さを「疾風」に例えている。ミッターマイヤーに関して疾風という言葉が時系列上初めて使用されたのはこの時。「Die Neue These」ではこれのオマージュとしてアル・サレムのセリフとして登場)。
  • 第10艦隊(ウランフ)は、惑星リューゲン上空でビッテンフェルト艦隊と交戦。艦隊の4割が戦闘不能となった段階で脱出作戦に移行。結局半数が撃破され、残りは脱出。ウランフは殿軍として脱出を援護したが、旗艦盤古が撃沈され戦死。コミック版では脱出した半数(4200隻)の指揮をアッテンボローが執っており、後にイゼルローン駐留艦隊として再編成されるヤン艦隊の戦力に編入されている。外伝においても、艦隊の全滅をアッテンボローの指揮で防いだ旨の記述がある(この功績で少将に昇進)。「Die Neue These」では経緯がより詳しく描かれており、第10艦隊は星系データを利用した射程外からの攻撃という地の利を活かしたビッテンフェルト艦隊に苦戦、三方から包囲され戦闘可能艦が1000隻余りという状況に追い詰められる。ウランフは唯一生き残った分艦隊司令官であるアッテンボローに損傷艦を任せ、自らは残存戦力を率いて血路を開き、残存艦の半数を脱出させ戦死した。
  • 第12艦隊(ボロディン)はボルソルン星系でルッツ艦隊と交戦。戦力のほとんどを失った後、ボロディンは自殺した。指揮権を引き継いだコナリー少将は降伏する。「Die Neue These」では、第12艦隊は超長距離狙撃を行うルッツ艦隊に接触することもできず、8割の艦艇が航行不能となりボロディンは自殺した。
  • 第13艦隊(ヤン・ウェンリー)はヤヴァンハール星系でケンプ艦隊と交戦。半月陣形を活用した艦隊運用で優位に立った後、隙をついて撤退し、第7艦隊との合流点であるドヴェルグ星域に向った。この戦いでポプラン、コーネフの同僚であるシェイクリとヒューズが戦死したことを知ったポプランは戦況の悪化を実感する。ドヴェルグ星系ではホーウッドを下したキルヒアイス艦隊と交戦したが、撤退命令を受けアムリッツァに向った。連戦と無理な撤退戦にもかかわらず、損害は1割程度に収まっている。藤崎竜の漫画版ではケンプ艦隊の苦戦は帝国軍の想定の内であり、第13艦隊をキルヒアイス艦隊の方向へ誘導するための布石として利用された。「Die Neue These」では、キルヒアイス艦隊との交戦中、第13艦隊の脱出援護を目的とした第7艦隊残存部隊の奇襲攻撃によりキルヒアイス艦隊が一時的に混乱状態に陥ったところで離脱に成功した。

アムリッツァ星域会戦[編集]

アムリッツァ星域会戦
戦争:同盟軍の帝国領侵攻
年月日:宇宙暦796年/帝国暦487年10月14日
場所:アムリッツァ星域
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥 アレクサンドル・ビュコック中将
アップルトン中将
ヤン・ウェンリー中将
戦力
ローエングラム艦隊
キルヒアイス艦隊
合計10万隻余
第5艦隊
第8艦隊
第13艦隊

宇宙暦796年/帝国暦487年10月14日

帝国領に侵攻した同盟軍は投入した8個艦隊の内、前哨戦で第3/第7/第12艦隊の3個艦隊が全滅し、第9/第10艦隊も司令官を失った上半数近い損害を出し、司令部が健在だった第5/第8/第13艦隊もそれぞれ損害を出していた。ノイエ版では第7/第10/第12艦隊が壊滅、第3/第8艦隊が多大な損害を被り、第5/第9/第13艦隊もそれぞれ損害を被るも第3/第8艦隊よりは損耗率を抑えており、第13艦隊は9割の戦力を有していた(第5/第9艦隊の損耗率は不明)。藤崎版コミックスでは具体的な兵力が示されており、半壊した艦隊は何れも5000隻、三割の被害を受けた部隊は9000隻(第十三艦隊のみ11000隻)であり、合計艦数49000隻、帝国軍は主力のみで74000隻に達しており、参謀長のグリーンヒル大将は撤退を具申するも、ロボス総司令官はこのままでは引き下がれないとして、確たる今後の方針もないまま残存艦艇にアムリッツァ星域への集結を命じた。これに対してラインハルトは「奴らがアムリッツァを墓に選んだのなら、その願いをかなえてやろう」と冷笑し、キルヒアイスらの別動部隊を含む10万隻余りの艦隊を投入して同盟軍を圧倒した。

同盟軍は第5/第8/第13艦隊をそれぞれ左翼、中央、右翼の軸とし、これに第9/第10艦隊の残存艦艇を合流させ恒星アムリッツァ上に布陣した。また後方からの攻撃を避けるべく後背には機雷原を敷設した。ノイエ版では旧銀河連邦時代に放棄されたアムリッツァ採掘近傍の採掘惑星を盾に布陣しており、第10艦隊の残存艦艇を指揮下に収めた第13艦隊を左翼、第5艦隊を中央、第9艦隊を右翼の軸として前面に展開させ第3/第8艦隊を採掘惑星を盾にするように布陣させている。対する帝国軍はラインハルトの直属艦隊に加え各星系から同盟軍を追撃してきたロイエンタール、ミッターマイヤー、メックリンガー、ビッテンフェルト、ケンプ各艦隊を同盟軍前方に布陣させた。

会戦開始直後、同盟軍右翼の第13艦隊が恒星アムリッツァに核融合機雷を打ちこみ、その爆風を利用して帝国軍先鋒ミッターマイヤー艦隊に急接近し、多少の損害を負わせた。第13艦隊の突出を見た帝国軍左翼のビッテンフェルト艦隊は第13艦隊側面を突くべく突進し、ヤンはこれを躱すが、これにより中央でラインハルト艦隊と戦っていた第8艦隊の側面が露わになってしまい、直進してきたビッテンフェルト艦隊の攻撃をうけて第8艦隊は壊滅、潰走した(OVA版ではこの時アップルトンは戦死、原作ではそのような描写はない)。ここでビッテンフェルトは第13艦隊に再度攻撃を加えるべくその場で全艦隊に回頭を命じるが、その隙を突いて第13艦隊がビッテンフェルト艦隊に向け回頭し、猛攻撃を加えた。この時、ビッテンフェルト艦隊はワルキューレの発進を準備していたために回頭や回避運動が遅れて十分な対応がとれず、第13艦隊はかなりの戦力を削ぐことに成功した。その後ビッテンフェルトは強引に突破を図り何とか殲滅は免れている。ノイエ版ではワルキューレ発進後に第13艦隊がシールド用のエネルギーまで全て攻撃に注ぎ込んで猛攻を加え、黒色槍騎兵艦隊は味方のワルキューレが射線上に居るため思うように反撃できず、更にビュコックの第5艦隊の横撃を受けて大損害を負った。

アムリッツァ付近にて激戦が繰り広げられている中、キルヒアイス、ワーレン、ルッツの連合艦隊3万隻が同盟軍の背後に展開されていた機雷原を指向性ゼッフル粒子で除去して進攻し、同盟軍を挟撃することに成功した。なお、帝国軍の公式記録上では、この時初めて実戦で指向性ゼッフル粒子が使われた事になっている。これにより大勢は決し、同盟軍の残存戦力は撤退を開始した。ヤンはビュコックに残存戦力の集結とイゼルローン要塞への撤退の指揮を依頼すると共に、自らの第13艦隊を殿とし帝国軍の前に立ち塞がった。帝国軍は圧倒的な兵力を以て第13艦隊を包囲するも第10/第13艦隊との連戦で戦力が弱体化していたビッテンフェルト艦隊が穴となり完全な包囲網を敷くことはできなかった。第13艦隊は同盟軍の撤退を見届けた後、ビッテンフェルト艦隊を突き崩し脱出に成功した。

コミックスでは、キルヒアイス艦隊がミニブラックホールを用いて同盟軍後背の機雷原を突破したことで、挟撃されて恐慌したアップルトンの敵前回頭もあって同盟軍は甚大な被害を受ける。しかし、開戦前にヤンが恒星アムリッツァに仕込んでおいた、レーザー砲台を積んだ無人の太陽ボートでビッテンフェルト艦隊を打ち破り、第13艦隊が確保した退路から残りの艦隊も戦場から脱出している。 ノイエ版ではヤンが無人艦隊を包囲の切れ目に接近させたことで危機感を覚えたビッテンフェルトが延翼運動を行い、ただでさえ消耗した戦力が薄く分散してしまう。ここに損傷艦が多く戦力外だったアッテンボロー麾下の第10艦隊残存部隊が廃棄された採掘場の小惑星を無人艦を使い加速させて突入、小惑星の岩盤に激突した帝国艦隊が次々に爆沈していく、混乱する黒色槍騎兵艦隊に同盟軍は残った火力を集中、壊滅しつつある艦隊の中でビッテンフェルトは最後の一兵まで死守しようとしたもののオイゲン大佐の諌めに従って退却。同盟軍は脱出に成功した。

この戦いによって同盟は参加した将兵3000万の内2000万を失うという歴史的大敗を喫し、全将兵の四割が戦死するという致命傷を負う。更に艦隊も第13艦隊を除いて全てが壊滅状態に陥ってしまい、後のクーデターで第11艦隊も失って実質的な艦隊戦力が首都直営の第1艦隊を除けば、ヤンの第13艦隊以外の全ての艦隊戦力を失ってしまう。加えて、軍備維持のために民間から更に人材を移動させた上にアスターテ会戦での遺族補償とイゼルローンの捕虜の食糧事情、更にこの戦闘での2000万人分の遺族補償までが嵩んでしまい、軍事、経済、社会の全てに於いて同盟に回復不可能の打撃を与えてしまう。この一連の事態は同盟内では「アムリッツァの愚行」と呼ばれ、同盟が滅亡する決定打の一つとなる。

リップシュタット戦役[編集]

帝国暦488年4月6日~。帝国の門閥貴族が結束してリップシュタットの盟約を結んだリップシュタット貴族連合と、帝国の権勢を手に入れた宇宙艦隊司令長官ラインハルトと帝国宰相リヒテンラーデ侯爵の枢軸による権力争いである。リップシュタットは、貴族連合の盟主であるブラウンシュヴァイク公の別荘が建っている場所であり、ここで盟約の調印式が行われたことからこう呼ばれる。ラインハルトは彼ら貴族連合側を「賊軍」と呼称した。

貴族連合軍の拠点はガイエスブルク要塞。その他レンテンベルク要塞やガルミッシュ要塞も貴族連合軍の拠点として利用された。参加した貴族は3,740名。正規軍と私兵の総兵力は2,560万人。総艦艇数は15万隻以上。盟主はブラウンシュヴァイク公爵。副盟主はリッテンハイム侯爵。参加した主な貴族はフレーゲル男爵、ランズベルク伯爵、ヒルデスハイム伯爵他。参加した主な貴族系の軍人はメルカッツ上級大将、シュターデン大将、アンスバッハ准将、オフレッサー上級大将、ファーレンハイト中将他。連合軍の総指揮官はメルカッツが指名されたが、ブラウンシュヴァイク公、リッテンハイム侯を始め自分勝手な艦隊運用を行うことが多かった。

貴族連合軍に対抗するのはラインハルトの元帥府に登用された提督で、ラインハルト自らが陣頭指揮を執り、ミッターマイヤー大将、ロイエンタール大将、ケンプ中将、ミュラー中将、ケスラー中将、メックリンガー中将、ビッテンフェルト中将、及び参謀のオーベルシュタイン中将が連合軍との直接対決を担当した。辺境を制圧する別働隊はキルヒアイス上級大将が指揮を執り、ルッツ中将とワーレン中将が指揮下に入り、後にシュタインメッツ中将が合流した。

4月6日に帝国政府は貴族連合軍の討伐命令を発した。最初の戦闘は4月19日からのアルテナ星域会戦である。8月には貴族連合軍は支配星域のほとんどを失いヴェスターラントの惨劇によって人心も失った。貴族連合軍は最後の戦いと称して残存戦力を投入したガイエスブルク要塞攻防戦でも惨敗し、9月にはラインハルト軍によってガイエスブルク要塞は制圧され、貴族連合盟主のブラウンシュヴァイク公爵は部下のアンスバッハによって服毒による自害を強いられた。

9月9日に行われた捕虜の謁見でブラウンシュバイク公の遺体を手土産に投降したと見せかけたアンスバッハがラインハルトの暗殺を謀るが、キルヒアイスが身を盾にして防いだため未遂に終わる。オーベルシュタインの策謀でこの事件の犯人に仕立て上げられたリヒテンラーデが排除され、ローエングラム独裁体制が確立する。

藤崎版ではリップシュタットの盟約が結ばれる直前にブラウンシュバイク、リッテンハイム両者のもとにルビンスキーが超高速通信でコンタクトを取っており、この内乱自体がフェザーンの企図したものとされている。

アルテナ星域会戦[編集]

帝国暦488年4月19日~。ミッターマイヤー艦隊14,500隻とシュターデン艦隊16,000隻による、リップシュタット戦役における最初の武力衝突。

アルテナ星域においてミッターマイヤーは600万個の核融合機雷を敷いて相手の心理的動揺を誘った。両軍は3日間機雷原を挟んで対峙したが、ミッターマイヤー自ら流した「本隊の到着を待って全面攻撃に移る」との通信を傍受した門閥貴族たちが動こうとしないシュターデンに堪え切れず、半ば脅迫して開戦に踏み切らせた。

シュターデンは艦隊を本隊と別働隊の2手に分けてミッターマイヤーを挟み撃ちにしようと動いたが、その動きを読んだミッターマイヤーが先に動いて別働隊8000隻を攻撃。指揮官のヒルデスハイム伯爵を含めて全滅させ、さらに機雷原を時計方向に迂回してシュターデン本隊を背後から急襲。半減した艦隊は背後から襲われて敗北し、負傷したシュターデンはレンテンベルク要塞に逃げ込んだ(石黒監督アニメ版では胃を患っており、外傷が無いまま吐血で入院した)。 道原かつみのコミック版でもミッターマイヤーの動きはほぼこの通りだが、後方から襲撃されてもシュターデンは負傷も吐血もせずに、耳をふさいで戦況から目を逸らしていた。ところが、事前ミーティングでは5日後に到着する予定だったラインハルトの本隊がこのタイミングでアルテナ星域に到着したことで、勝機を失ったことを理解したシュターデンはレンテンベルグ要塞への後退を命じている。

ノイエ版ではミッターマイヤーが機雷原を構築した際に艦隊が航行可能な「啓開航路」を設けており、これを利用して原作同様に2手に分かれた敵艦隊の内ヒルデスハイム率いる別働隊の方を攻撃する。別働隊側は完全に背後を取られた状態だったため、ミッターマイヤー艦隊から一方的に砲撃を受ける形となり、さらにこれによって発生した爆発に反応した機雷が次々と別働隊に突入していき、別働隊は壊滅した。その後、本隊を率いるシュターデンは事を知るや、艦隊戦力の半数を失ったとあっては勝ち目は無いと判断し、レンテンベルク要塞へと撤退した。この敗報はガイエスブルク要塞に届き、オフレッサーにレンテンベルク要塞へ向かうようとの命が下されることとなった。

レンテンベルク要塞攻略戦[編集]

帝国暦488年4月~。フレイヤ星域のレンテンベルク要塞(貴族連合軍)とラインハルト本隊の戦い。

ラインハルトの本隊が周辺宙域の艦隊戦を制圧した後、中心部の核融合炉を奪取するために第6通路で白兵戦が行われた。制圧部隊の指揮はミッターマイヤーとロイエンタールが担当したが、守備隊を指揮する装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将の見せる化け物じみた白兵戦技量の前に、突入部隊は9回(石黒監督アニメ版では8回)にわたって攻撃したものの撤退を強いられる。この直後にオフレッサーは通信を介してラインハルトを挑発するが、その中でアンネローゼを侮辱したことからラインハルトは激昂し、ロイエンタールとミッターマイヤーに生け捕りを命じる。正攻法では埒が明かないと考えた二人は、落とし穴という原始的な罠を仕掛けることでオフレッサーの捕獲に成功し、オーベルシュタインはただちに彼をそのまま貴族連合に引き渡した。オーベルシュタインは、オフレッサーの部下は悉く処刑したうえで本人だけを無傷で貴族連合軍に還せば、オフレッサーがラインハルトと内通して貴族たちを裏切ったという疑心暗鬼を生じせしめると考えていた。

そしてオフレッサーはオーベルシュタインの思惑通り裏切り者と決め付けられて銃殺され、ラインハルト嫌いの急先鋒として有名だったオフレッサーが裏切り者とされた事で貴族連合軍内に動揺が生まれた。なお、シュターデンは要塞内の病院で捕虜にされた。

ノイエ版ではミッターマイヤー、ロイエンタール両名が事前に仕掛けを施した橋状の通路まで誘い込み、橋を落とした上でその下に満たしていた流体金属に電流を流して固形化させることでオフレッサーを捕らえている。

なお、この戦いの時に『ミンチメーカー』の異名を持つオフレッサーによる凄惨な戦いぶりと、ロイエンタールとミッターマイヤーに「お前たちの死体を鍋に放り込んでフリカッセを作ってやる」などと挑発したため、2人とその部下である装甲擲弾兵はしばらくの間フリカッセを食べることが出来なかった。特に道原かつみ版の漫画では戦闘後の食事がフリカッセであったため、勝者であるはずの将兵を更に苦しめる結果となった。

キフォイザー星域会戦[編集]

帝国暦488年7月~。盟主のブラウンシュヴァイク公爵と反目した副盟主のリッテンハイム侯爵が、50,000隻の艦艇を率いてガイエスブルク要塞を離れ、ガルミッシュ要塞を本拠地とし、辺境制圧を担当していたキルヒアイス(コミック版では30,000隻、OVAでは40,000隻)とキフォイザー星域で対決した。

相手の艦隊陣形の不備を見抜いたキルヒアイスは、これを烏合の衆と評し、斜線陣形を敷いてルッツとワーレンに正面対決を任せる一方、自分は本隊として高速巡航艦800隻を率いて相手の右側面から突入、リッテンハイム軍は総崩れとなった。混乱したリッテンハイムはガルミッシュ要塞に転進と主張するところの撤退をはじめたが、その航路上に居た自軍の補給部隊を躊躇なく攻撃し、壊滅させて航路を拓き撤退した。リッテンハイム軍のうち要塞に撤退できたのは3000隻に満たず、18000隻が完全破壊され、5000隻が何処かに逃げ去り、残りは拿捕されるか降伏した。

補給部隊の生き残りであるコンラート・リンザー中尉が貴族連合軍を見限り、要塞に降伏を呼びかける事をキルヒアイスに申し出たが、その前に要塞の司令官室で、リッテンハイムに置き去りにされた敗残兵ラウディッツ中佐がゼッフル粒子を用いて自爆し、リッテンハイムは爆死した(藤崎版では、同席していたサビーネも爆死している)。キルヒアイスはその隙を突いてガルミッシュ要塞に兵を送り込み、制圧に成功した。

この戦いで、貴族連合軍は副盟主と全兵力の3割を失った。

シャンタウ星域会戦[編集]

帝国暦488年7月~。ロイエンタール艦隊とメルカッツ率いる貴族連合軍による会戦、貴族連合軍はシャンタウ星域を獲得し開戦以来はじめて勝利した。

貴族連合軍は三波にわたってロイエンタール艦隊を攻撃し全て撃退されたが、ロイエンタール艦隊の損害も意外に大きく、ロイエンタールはメルカッツが前線に立った事を見抜いた。そしてロイエンタールはメルカッツと本気で戦うことと貴族連合軍に勝ちを譲ることのリスクを天秤にかけて後者を選び、シャンタウ星域の放棄を決断[19]、7月9日、ロイエンタールは全戦線にわたって攻勢を行い、これに対しメルカッツは迎撃ののちタイミングをとらえて反撃、ロイエンタールは中央部隊を後退させつつ全軍を凹形陣形に編成。敵の動きの不自然さからメルカッツはロイエンタールが逃走する可能性を感じたが、これ以上戦う事なくシャンタウ星域を確保できるとして、貴族連合軍は追撃のスピードをゆるめた。ロイエンタール艦隊はその後も慎重に後退を続け、星域の外縁部に達し敵味方の距離が開くと艦隊をまとめて逃走した。

ガイエスブルク要塞宙域の艦隊戦[編集]

帝国暦488年8月~。貴族連合軍を挑発によって要塞からおびき出し、ラインハルトとオーベルシュタインがつくりあげた縦深陣によって貴族連合軍の艦隊を叩いた戦い。

シャンタウ星域の獲得によって狂喜する貴族連合軍に対し、ラインハルトは古典的な決戦状(内容は非常に挑発的)を送りつけ要塞を出て戦うよう挑発。 メルカッツは出撃を禁じていたが、ミッターマイヤー艦隊のたび重なる挑発的な行動に一部の若手貴族が出撃、ミッターマイヤーは偽りの敗北を演じ、以後貴族連合軍もメルカッツの命令を軽視するようになる。そして、もともと貴族連合軍の現状に失望していたメルカッツは失望を通り越して絶望を感じるようになった。

そして、盟主であるブラウンシュヴァイク公自身が出撃してきたとき、ラインハルトは貴族連合軍を縦深陣へと引きずり込み、本気を出して包囲殲滅しようとした。貴族連合軍は大打撃を受けて実質的に壊滅し、ブラウンシュヴァイク公の旗艦までもが被弾したとき、後衛のメルカッツが来援して退路を確保、ブラウンシュヴァイク公を救った。しかし、ブラウンシュヴァイク公はメルカッツを「なぜ、もっと早く助けに来なかった!」と叱責し、恩を仇で返した。ただし藤崎竜版では、箔をつけるために同乗させていたエリザベートが、旗艦被弾時に死亡したが故のことであり、遺品の髪飾りを片手に人目もはばからず泣き崩れていた。

ガイエスブルク要塞攻防戦[編集]

帝国暦488年8月(宇宙暦797年)。敗北の連続及びヴェスターラントの惨劇による民心の離反によって追い詰められた貴族連合軍が、半ば自暴自棄でラインハルトに艦隊決戦を挑んだ。ファーレンハイトはこの案に反対し出撃を拒否したが、メルカッツは帝国に殉じ、また妻子を人質にとられていたことから出撃した。OVA版ではこの時、メルカッツはファーレンハイトに「自分よりまだ若いので生きよ」と別れを告げた。

貴族連合軍の波状攻撃をラインハルトの陣営が要撃する形で一進一退が続き、貴族連合軍の抵抗力が限界に達した時点でラインハルトが総攻撃を命令。キルヒアイスらは高速巡航艦隊を率いて短時間で貴族連合軍に大損害を与えて圧倒し、貴族連合軍を潰走させた。ほぼ同時に、オーベルシュタインが潜入させておいた工作員ハウプトマン大尉の扇動によってガイエスブルク要塞で反乱が発生、主砲室(ガイエスハーケン)を制圧した。この敗戦で貴族連合軍は恐慌を来たし、貴族連合軍陣営では貴族主体の高級士官と平民主体の兵士とに分かれての同士討ちが相次いだ。残存する貴族連合軍の多くは降伏か逃亡した。

ファーレンハイトは要塞内で捕虜となったが、後日の謁見でラインハルトに従う事を誓い、ローエングラム陣営に帰順した。メルカッツは自殺しようとしたが、副官のシュナイダーに制止された。シュナイダーは同盟への亡命を薦め、懐疑的なメルカッツにヤン・ウェンリーを頼る事を提案した。それによってメルカッツは決心し、同盟に亡命した。

対ラインハルト強硬派のフレーゲル男爵は滅びの美学を唱えて戦艦の一騎討ちを画策したが相手にされず、最後は自分を見限った参謀のシューマッハを射殺しようとして、逆に周囲の部下に射殺された。シューマッハと部下は戦艦ウィルヘルミナを駆ってフェザーンに亡命した。

藤崎竜版コミックスでは、先の戦いで一人娘のエリザベートが死亡したこともあり、他メディア[20]よりも急速に貴族連合軍の瓦解が進んだ[21]ため、その描写は大きく変化した。

最後の攻防戦は行われないまま、メルカッツ提督はシュナイダー少佐の勧めに従って亡命。さら一部の貴族が、ラインハルトへの降伏の手土産にブラウンシュヴァイク公爵の首を差し出そうとして[22]自決するよう恫喝した。ブラウンシュヴァイク公爵は他メディアと同様にアンスバッハにラインハルトの簒奪を阻止するよう命令を下した後、服毒自殺目前で命乞いをするが、「滅びの美学の完成」を唱えたフレーゲル男爵の手によって無理矢理毒入りワインを飲まされ自決させられ[23]、直後にフレーゲル男爵自身も同じ毒入りワインをあおって自決した。

リップシュタット戦勝記念式典の悲劇[編集]

帝国暦488年9月9日、ガイエスブルク要塞で発生したテロ事件。

この日に至るまでに、ヴェスターラント虐殺の黙認を巡ってラインハルトとキルヒアイスの間にすれ違いが生じ、双方の精神的関係が変化する程の感情的対立を引き起こした。これに加えて、オーベルシュタインがキルヒアイスへの特別扱いを止めるように進言していた事もあって、以前はキルヒアイスのみ許されていた銃器の携行が認められず、キルヒアイスは丸腰で式典会場に入った。

捕虜となった高級士官の引見が始まり、ファーレンハイトがラインハルト陣営への帰順を表明して提督の列に加わった後、アンスバッハが服毒死したブラウンシュヴァイク公爵の死体と供に入場してきた。提督達は最初嘲笑をもって迎えたが、その死体にはハンド・キャノンが仕込まれており、アンスバッハはそれを取り出してラインハルトを狙った。だが一瞬早くキルヒアイスが飛び掛り、狙点が狂ったハンド・キャノンはラインハルト後方の壁を爆砕した。OVA版では、更にオーベルシュタインがラインハルトの前に立ちはだかり、盾となった様子が描かれている。

ラインハルトの謀殺に失敗したアンスバッハは、それでもキルヒアイスを振りほどこうとしてもがき、指輪に仕込んだレーザー銃でキルヒアイスの胸部と頸部を撃ち抜いたが、それでもキルヒアイスはアンスバッハを離そうとせず、他の提督が二人を引き離すまでその状態が続いた。

アンスバッハは自らの失敗を笑いながら歯に仕込んだ毒で自殺し、提督達は後処理に奔走するが、ラインハルトはそれらの一切が耳目に届かない精神状態となり、半ば無意識の様子でキルヒアイスに近づいた。既に視力が失われる状態になりながらも、キルヒアイスは「宇宙を手にお入れ下さい」という、その後のラインハルトにとって神聖不可侵となる誓約の言葉と、アンネローゼへの謝罪の言葉を告げ、そのまま息を引き取った。

惑星オーディン制圧作戦[編集]

帝国暦488年9月に発生した、ラインハルトの配下の提督達による帝国首都制圧作戦。

式典から3日を経てもラインハルトが虚脱状態のままでいる事を懸念した提督達は、何らかの対策を講じる必要性を感じたが、謀略の類が苦手な彼らは効果的な手段を思いつけずにいた。ロイエンタールが意を決し、そもそもの原因であるオーベルシュタインにアドバイスを求めるように提案したが、それを待っていたかのようにオーベルシュタインが現れ、アンネローゼに説得してもらう事と、さらにこの期に乗じて帝都を制圧し、かねてから謀略をめぐらしていると情報があったリヒテンラーデをキルヒアイス殺害の主犯に仕立て、先手を打って排除する事を進言した。提督達は、その没義道な策と反省の色も見せないオーベルシュタインに不快と嫌悪を感じながらも半ばリヒテンラーデへの八つ当たりで進言を受け入れ、各艦隊から高速艦艇二万隻強を選りすぐって首都星オーディンに向かった。

通常は20日を要する行程を14日で踏破したため脱落艦艇が相次ぎ、作戦開始の時点でオーディンに到達出来たのは3,000隻程度だった。ミュラーがその内の800隻で衛星軌道を制圧し、他の艦艇は首都周辺に強行着陸して帝国中枢に向かった。ミッターマイヤーが宰相府で国璽を奪取した一方、ロイエンタールはリヒテンラーデを拘禁した。この様子を屋敷のバルコニーから眺めていたヒルダは、新しい時代の到来を予感している。なお、リヒテンラーデを処断した事が、後にロイエンタールとエルフリーデ・フォン・コールラウシュとの関係に関わってくる。

これと前後して、ラインハルトはオーベルシュタインの手配でアンネローゼと超光速通信で会話を交わし、少なくとも虚脱状態からは抜け出した様子が描かれている。また、その後のロイエンタールとの通信の内容が、後の叛乱の呼び水となっているように描かれている。

ラインハルトが一応味方であったリヒテンラーデの親族たちに下した処分は、「リヒテンラーデ本人は自決、女子供は辺境に流刑、そして10歳以上の男子は全て死罪」という過酷なものであった。これにより、ゴールデンバウム王朝を良くも悪くも支えてきた門閥貴族階級は事実上滅亡し、彼らに支えられてきたゴールデンバウム王朝も名目上の存在となった。

救国軍事会議のクーデター[編集]

宇宙暦797年3月30日~8月。後にリップシュタット戦役と呼ばれる帝国の内乱で、ラインハルトが貴族を討伐するにあたり、介入を防ぐために同盟に内乱を引き起こすべくクーデターを仕掛けた。エルファシルを巡る戦いで捕虜になっていたアーサー・リンチ元少将が工作員となって同盟に逆潜入し、救国軍事会議となるメンバーを募りクーデターの実行を促した。3月30日にアンドリュー・フォークがクブルスリー大将を襲って重傷を負わせたのを皮切りに4月3日に惑星ネプティス、4月5日に惑星カッファー、4月8日に惑星パルメレンド、4月10日に惑星シャンプールの4か所で次々に反乱が発生し、さらに4月13日、ハイネセンで演習に偽装した兵力展開が行われ、そのまま決起に至った。なお、銀河帝国では4月6日にはリップシュタット戦役に突入している。

救国軍事会議の議長はドワイト・グリーンヒル大将。スポークスマンはエベンス大佐。主な参加者は情報部のブロンズ中将、第11艦隊司令官のルグランジュ中将など。

しかしヤンが参加を拒否し、さらに救国軍事会議に敵対を表明したため、内乱状態となる。

ヤン艦隊はドーリア星域会戦で第11艦隊を全滅させ、更にハイネセンの防宙システム「アルテミスの首飾り」を完全に破壊し、救国軍事会議を無力化させた。

これに先んじて、ヤン暗殺に失敗して寝返ったバグダッシュが、ヤンの意を受け、このクーデターが帝国の謀略によるものであると放送した。リンチがそれを認めたため、救国軍事会議は大義名分を失った。グリーンヒルは降伏を決意したが、その前にリンチを始末しようとして逆に射殺される。しかしその数秒後にリンチも射殺された。エベンスはリンチと謀略の存在の秘匿を命じた後、通信でヤンに降伏を宣言・自決、クーデターは鎮圧された。

帝国と同盟で相前後して内乱が生じ、いずれも大損害を被ったとはいえ、帝国側ではラインハルト独裁の新体制で社会が活性化したのに対し、同盟側では帝国領土侵攻作戦失敗の傷を更に深めるという反対の結果となる。またヨブ・トリューニヒト政権はクーデターを経て更に権力体制が強化される事となり、同盟の弱体化は更に進むこととなった。

ドーリア星域会戦[編集]

宇宙暦797年5月18日。ルグランジュ中将の第11艦隊とヤン艦隊の戦い。

第11艦隊がヤン艦隊を挟撃するため艦隊を二分したのに対し、この動きを察知したヤンは先行して第11艦隊本隊7000隻に左側面から接近・攻撃し、亀裂が生じた箇所にグエン・バン・ヒューの分艦隊が突入。強力な抗戦を跳ね除けて第11艦隊本隊を前後に分断し、後方を半包囲して殲滅。さらにルグランジュの率いる前方部隊を撃滅した(ルグランジュは自殺)。つづいて、フィッシャー率いる後衛部隊が抑えていた第11艦隊別働隊(最高責任者が定められておらず行動が遅れた)をフィッシャーと挟撃し撃破した。戦闘全体において、第11艦隊の各艦は絶望的な戦況に関わらず降伏を拒否して激しく抵抗し、全滅した。

石黒監督版OVAでは、ルグランジュは第11艦隊を二分しておらず、そのままグエンの中央突破を受けている。ヤン艦隊は、ルグランジュが指揮する後方部隊を半包囲して撃破したのち、アッテンボローが交戦していたストークス率いる前方部隊を殲滅した。

藤崎版では、後述のハイネセン侵攻と組み合わせる形で、独自の展開になっている。

Die Neue Theseでは、原作通り第11艦隊は本隊と別働隊に二分し、ヤン艦隊を両側面から挟撃する策を取ったが、対するヤンは別働隊の足止めをフィッシャーに委ね、本隊に戦力を集中させて数的優位を形成。グエンの突撃によって第11艦隊本隊を分断して後方集団を半包囲する一方、ルグランジュの指揮する前方集団の動きはアッテンボローが阻止した。第11艦隊は度重なる降伏勧告も拒否していたが、ルグランジュが自身の責任において降伏を命じた(直後に自殺)。

ハイネセン進攻[編集]

宇宙暦797年8月。惑星ハイネセンで発生したヤン艦隊の進攻。

ヤンが考案した作戦で「アルテミスの首飾り」を破壊して救国軍事会議を無力化し、降伏に至らしめた戦い。

バーラト星系第6惑星シリューナガルから1立方キロメートル/10億トンの氷塊を1ダース切り出してバサード・ラム・ジェット・エンジンを装着、光速に近い速度まで加速、相対性理論に添って重量を増した氷塊をアルテミスの首飾りに衝突させ破壊するという戦法が採られた。救国軍事会議メンバーの戦意を挫く心理的・政治的効果を狙い、また、元々アルテミスの首飾りの存在が首都星の傲慢の原因であると見做していたヤンは全ての衛星の破壊を命じたが、これは後に査問会に呼びつけられる口実の一つとなった。

藤崎竜のコミックス版では、首飾りとルグランジュ艦隊によるヤン艦隊への挟撃作戦が取られたが、ヤンが原作同様に1ダースの氷塊を射出して首飾りを残らず破壊。直後にルグランジュ艦隊はグエン・バン・ヒューの猛攻を受けて劣勢に追い込まれた。しかしその後、救国軍事会議が降伏を表明したために、ルグランジュ艦隊は壊滅する前に戦闘を停止している。

イゼルローン回廊帝国側宙域の遭遇戦[編集]

宇宙暦798年/帝国暦489年1月。イゼルローン駐留艦隊の内、アッテンボロー少将が率いる2,200隻の分艦隊が、回廊の帝国領方面を哨戒している最中に、ケンプ艦隊の分艦隊であるアイヘンドルフ艦隊1,630~1,790隻(OVA版において艦内放送で告知された推定艦艇数の最小値~最大値)と遭遇し、戦闘状態に突入した。アッテンボローの分艦隊は兵士の多くが補充されたばかりの新兵であり、その中に、軍曹待遇に昇進してスパルタニアンの搭乗資格を得たばかりのユリアン・ミンツも含まれる。原作ではアッテンボローの初登場の場面である。

アイヘンドルフ艦隊は当初ヤン艦隊の名前を恐れて積極的な攻勢を躊躇ったが、8~9時間後、相手の多くが素人であると気づき攻勢に転じようとした。しかし前後してヤン艦隊のほぼ全軍1万隻以上(OVA版でのラインハルトへの報告では帝国軍の10倍の戦力)が援軍に駆けつけたため、急遽撤退に転じた。ヤンは帝国軍が戦意を失って逃走したため、無用な流血を避けるためと元来の性格のため追撃戦は行われなかった。シェーンコップは、これを「戦わずして勝つ」と評した。

ユリアン・ミンツは軍曹待遇で初陣となったこの戦いでワルキューレ3機撃墜と巡航艦1隻を完全破壊し、曹長待遇に昇進した。

第8次イゼルローン攻防戦[編集]

第8次イゼルローン攻防戦
戦争:銀河帝国と自由惑星同盟の戦い
年月日:宇宙暦798年/帝国暦489年4月
場所:イゼルローン要塞
結果:同盟軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
カール・グスタフ・ケンプ大将
ナイトハルト・ミュラー大将
アレックス・キャゼルヌ少将
ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ客員中将
ヤン・ウェンリー大将
戦力
ガイエスブルク要塞
要塞駐留艦隊
(16,000隻)
動員兵力200万人
イゼルローン要塞
要塞駐留艦隊
増援艦隊 5,000隻
損害
総司令官戦死
ガイエスブルク要塞喪失
艦艇15,000隻
戦死/行方不明180万人
艦艇5,000隻弱

宇宙暦798年/帝国暦489年4月~5月。帝国軍科学技術総監シャフト技術大将の提案した「ガイエスブルク要塞をイゼルローン回廊にワープさせ、イゼルローン要塞との戦いに利用する」というプランに基づいて実行された戦い。投入された艦艇は16,000隻。動員された将兵は200万人。作戦司令官はケンプ大将。副司令官はミュラー大将。ワープ装置の設置と実験も両者が行い、3月19日にワープ実験に成功、ラインハルトによって作戦が正式に承認される。

これに先立ち、フェザーンのアドリアン・ルビンスキーとルパート・ケッセルリンクの工作によってヤンに叛乱の意図ありという情報が同盟内に流され、ヤンはハイネセンに呼び戻されて同盟政府の査問会にかけられた。その最中の4月10日、ガイエスブルク要塞がイゼルローン回廊に出現し、戦闘が開始された。この知らせにより、査問会は不承不承ヤンを解放し、4つの寄せ集めの独立艦隊約5000隻を援軍として救援に向わせた。到着は最短で4週間後であった。

宇宙暦798年/帝国暦489年4月10日、哨戒に出ていた同盟軍ギブソン艦隊(OVAではニルソンのユリシーズに変更されている)がイゼルローン回廊にてガイエスブルク要塞のワープアウトに遭遇し、イゼルローン要塞司令部に敵来襲を報告した。ヤン不在のイゼルローン要塞は、司令官代理のキャゼルヌ少将が指揮を執り、キャゼルヌはハイネセンに敵襲の報を知らせると共に、ヤンが要塞に帰還するまで防御に徹する戦略を採る事にした。ガイエスブルク要塞は互いの要塞主砲の射程内に入るまで、イゼルローン要塞に接近を続け、数時間後、ガイエスブルク要塞の主砲ガイエス・ハーケンとイゼルローン要塞の主砲トゥールハンマーの撃ち合いという派手な砲撃戦によって開戦の火蓋が切られた。

次に、帝国軍は強襲揚陸艦を進行させて装甲擲弾兵による要塞の占領を試みるが、要塞外壁にてシェーンコップ率いるローゼンリッター連隊の迎撃にあい、揚陸作戦は失敗した。しかし、ケンプにとってはこれは序の口に過ぎず、帝国軍は数日の膠着期間を挟んで次の作戦を開始した。ケンプは駐留していたミュラー艦隊を出撃させ、要塞後方に配置したうえで、ガイエスブルク要塞をさらにイゼルローンへと接近させた。再び要塞主砲による撃ち合いが始まったが、やがて引力によって両要塞の流体金属層が前面に引き寄せられて厚みを増したことで、イゼルローン要塞の側はトゥールハンマーが流体金属に没して使用不可となってしまうと同時に後方の流体金属層が干上がり、外壁が露出し、そこにミュラー艦隊が猛攻を仕掛け、史上初めて艦砲によってイゼルローン要塞の外壁が破られた(イゼルローン要塞の流体金属層はOVA独自の設定であり、これを利用した戦法も同様にOVA独自のものである)。

ミュラーは外壁に開いた穴からワルキューレと強襲揚陸艦を突入させ、要塞内部の制圧を図るも、要塞から緊急発進した戦闘機隊によって防がれた。その最中、メルカッツ客員提督が駐留艦隊の指揮を提案し、キャゼルヌもそれを承認した。要塞より出撃した艦隊はミュラーの裏をかいて敵艦隊を各分艦隊と浮遊砲台のクロスファイアポイントに誘導し、包囲攻撃をかけた。ミュラーの必死の防戦と要塞のケンプがアイヘンドルフ/パトリッケン両少将に予備兵力5,000隻を与え救援に向かわせたため、ミュラー艦隊はかろうじて脱出に成功した。しかし、帰還したミュラーはケンプから叱責を受け、後方に下がるよう命令されている。これを受けミュラーは今回の任務に際して功を焦った様子が見られるケンプ[24]が功を独占するつもりではと疑念を抱き、帝国軍内部に不協和音が生じることとなった。

同盟軍はキャゼルヌ司令官に実戦指揮の経験が少ない事と、彼がヤンの到着を待つという戦略を採ったため、常に後手に回る展開となった。しかし、幕僚の努力に加えて客員提督であるメルカッツの助言や艦隊指揮を得て、帝国軍をよく防いだ。また、ヤンの不在が帝国軍には知られず、前遭遇戦のアイヘンドルフ同様ケンプが自重した事もあって、攻略されるには至らなかった。ミュラーは後方に回されると同時期に捕虜からの情報と相手の様子からヤン不在とイゼルローンへの援軍を予測し、約3000隻を索敵と警戒の網として回廊全体に張り巡らしたが、ケンプが意見を却下したため確認と待ち伏せが出来なかった。

その後は膠着状態が続き、5月に帝国の偵察部隊が同盟の援軍を発見した。ケンプは時間差による各個撃破を立案したが、ユリアンがその作戦を見抜いて逆手に取る事を提案した。これにより、帝国軍は挟撃されて殲滅されかかったが、窮地に追い込まれたケンプがガイエスブルク要塞をイゼルローン要塞にぶつけて破壊する事を思いついた。そもそもラインハルトとヤンはいずれもガイエスブルク要塞による特攻を考慮しており、もし最初にその戦術を採られれば対処のしようがないとヤンは述べている。しかしヤンはガイエスブルク要塞が動き出す瞬間を狙って16基の移動用エンジンの1基を艦隊全体のピンポイント砲撃で破壊した。結果、ガイエスブルク要塞はバランスを崩して艦隊を巻き込みながらスピンを始め、そこをイゼルローン要塞がトゥールハンマーで砲撃し、ガイエスブルクは爆発・崩壊に至った。ケンプは要塞内で死亡。要塞内及び周辺宙域の帝国軍残存部隊のほとんどが爆発に巻き込まれる形で損害を被り、ミュラーは旗艦リューベックの艦橋で肋骨4本(OVAでは、肋骨が数本と診断されている)の骨折を含む全治3ヶ月の重傷を負いながらも、艦橋に医療ベッドを据え付けさせて敗残兵を纏めて撤退の指揮を執り続けた。こうして、ジークフリード・キルヒアイス終焉の場でもあるガイエスブルク要塞は、宇宙から消え失せた。

その後援軍の一隊であるアラルコン少将と駐留分艦隊のグエン少将以下約5,000隻がヤンの意思に反して追撃に向ったが、援軍として途中まで来ていたミッターマイヤー上級大将とロイエンタール上級大将の両艦隊に逆撃され全滅。それを知ったヤンは撤退し、帝国側も引き上げたため、戦いは終了した。

帝国軍は15000隻以上の艦艇と180万人の将兵を失ったが、ケンプは敗死しながらも上級大将に特進。ミュラーも罰は受けなかった。シャフトは敗戦の責任こそ問われなかったものの、用済みと判断したフェザーン側の密告により汚職が暴露され、ケスラー率いる憲兵隊に逮捕された。

OVA版では、この戦いの裏には「アムリッツァクーデターで同盟が傷ついたのに合わせ、今度は帝国に傷ついてもらってパワーバランスを維持しよう」というルビンスキーの意図があった、という設定が付け加えられ、移動要塞の技術もシャフトが開発したのではなく、フェザーンからの横流しということになっている。

しかし、ラインハルトの改革によって立ち直った帝国と、アスターテ会戦・アムリッツァ会戦・クーデターの傷が癒えぬ同盟との国力差は、すでに「調整不能」なまでに開いてしまっていた。それを知ったルビンスキーは、フェザーン伝統の勢力均衡策を放棄。同盟を切り捨てて「勝ち馬」ラインハルトに全面的に乗り換える、そしてフェザーンではなくルビンスキー個人が「馬」を御して銀河を制することを決意する。

なお、道原版コミックではこの戦闘とヤンの査問会は全面カットされ、ケンプは明確な描写もなくいつの間にか登場しなくなっている。

神々の黄昏(ラグナロック)作戦[編集]

宇宙暦798年/帝国暦489年8月~翌年5月。ラインハルトの魔手から救出した皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁して銀河帝国正統政府の樹立を画策したレムシャイド伯らと、彼らの亡命を受け入れた同盟政府を皇帝誘拐の共犯者として懲罰を与える、という名目でラインハルトが発令した同盟への侵攻作戦。この誘拐は「ラインハルトに同盟討伐の口実を与えて取引しよう」と画策したルビンスキーの策であったが、ラインハルトはその策を見抜いて恫喝を加えたうえで、一気にフェザーンをも制圧した。宣戦布告は8月20日(銀河帝国正統政府の樹立宣言と同日)。軍内部への具体的な説明と作戦名の発表は9月19日。最終的な人事の発表は11月8日。最初の戦闘は11月20日(第9次イゼルローン要塞攻略作戦)。戦闘終了は翌年5月5日(バーミリオン星域会戦)。公式の書類上の終結は5月25日(バーラトの和約)。

フェザーン回廊に向う本隊の布陣は、

  • 第1陣:ミッターマイヤー上級大将
  • 第2陣:ミュラー大将
  • 第3陣:ローエングラム元帥(オーベルシュタイン上級大将とヒルダ中佐待遇もブリュンヒルトに同乗)

  及び直属艦隊:アルトリンゲン中将、カルナップ中将、ブラウヒッチ中将、グリューネマン中将、トゥルナイゼン中将

  • 第4陣:シュタインメッツ大将
  • 第5陣:ワーレン大将。遊撃隊はビッテンフェルト大将とファーレンハイト大将。

イゼルローン要塞への陽動作戦は、司令官がロイエンタール上級大将。指揮下にルッツ大将とレンネンカンプ大将、後詰めとしてアイゼナッハ大将が配された。なお、ケスラー大将とメックリンガー大将はそれぞれ首都防衛司令官/後方担当として残留した。

ルビンスキーの逃亡はゆるしたもののフェザーンの制圧、イゼルローン要塞の奪還、そしてランテマリオ会戦での同盟軍主力の撃破までは、ほぼラインハルトの思惑通りに進んだ。しかし、同会戦の終了間際から、イゼルローン要塞を放棄したヤンが艦隊を自由に運用して対抗し始めたため、帝国軍は圧倒的な戦力を持ちながらも補給に不安をきたして次第に不利になっていく。ラインハルトはヤンとの決戦を行うため、自分をおとりにしてヤンを誘い出し、包囲する作戦に出た。ラインハルトを戦場で倒す事が同盟存続の唯一の道であると考えていたヤンは、罠である事を承知の上でラインハルトとの艦隊決戦に赴き、バーミリオン星域で対戦した。戦闘自体は途中でミュラーの来援があったものの、ヤンが事実上の勝利をおさめたが、ブリュンヒルトが砲撃される直前、ヒルダの提案を受けたミッターマイヤーとロイエンタールがハイネセンの同盟政府を降伏に至らしめたため、戦闘は停止した。

戦闘停止後の混乱時に、ヤンはメルカッツに「動くシャーウッドの森」を託して逃亡させた。艦艇は60隻。同行者は副官のシュナイダーやポプラン、リンツ及び将兵11,820人。なお、この中にカーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長が含まれている事が後日判明する。また、戦闘終了から24時間後の5月6日23時に、ヤンとラインハルトは史上唯一の会談に臨んでいる。

この作戦の後の6月22日、オーディンに戻ったラインハルトは皇帝に即位し、ローエングラム王朝が成立した。ミッターマイヤーは宇宙艦隊司令長官に、ロイエンタールは統帥本部総長に、オーベルシュタインは軍務尚書に就任。3者とも元帥号を授与された。それ以外の主要提督もそれぞれ上級大将に昇進したが、特にバーミリオン会戦での功績が認められたミュラーは3元帥に次ぐ上級大将の主席とされた。同盟では、ヤンが退役して念願だった年金生活に入り、フレデリカと結婚した。ビュコック、アッテンボロー、シェーンコップも退役したがキャゼルヌは辞表を却下され後方本部長代理に任じられた。ムライ、パトリチェフ、フィッシャーは辺境勤務に任じられた。ユリアンはボリス・コーネフやルイ・マシュンゴ、途中で合流したポプランらと供に親不孝号地球に向った。

第9次イゼルローン攻防戦[編集]

宇宙暦798年/帝国暦489年10月9日~翌年1月19日

神々の黄昏作戦中の陽動として行われた戦闘。しかしロイエンタールが指揮する帝国軍三個艦隊約3万6000隻はヤンをイゼルローンに拘束し、今後の策を立てる余裕を与えぬために、ルッツ曰く「嫌がらせの攻撃」、ロイエンタール曰く「あらゆる布石を惜しまない」、陽動といえども手を抜かぬ攻勢をかけた。

最初の戦闘では、ヤンは旗艦ヒューベリオンを囮とすることで帝国軍の突出を誘い、その隙にローゼンリッターがロイエンタールの旗艦トリスタンへの突入に成功、シェーンコップとロイエンタールとの一騎討ちに至った。

その後も戦闘は断続的に続き、レンネンカンプがアッテンボローの罠にかかって3割(約2000隻)の損害を出した。12月9日にロイエンタールは援軍の要請(に見せかけたフェザーン侵攻作戦の開始要請)をラインハルトに上申した。フェザーンが占領された後の1月19日に、ヤンが放棄したイゼルローン要塞にロイエンタールが無血で進駐。本戦闘は終了した。

なお、ロイエンタールはヤン艦隊の追撃を進言したベルゲングリューンに対し、「野に獣がいなくなれば猟犬は無用になる。だから猟犬は獣を狩りつくすのを避ける…(「狡兎死して走狗煮らる」)」という、極めて意味深な返答をして却下している。

フェザーン侵攻作戦[編集]

宇宙暦798年/帝国暦489年12月。イゼルローン要塞への陽動攻撃に乗じて、神々の黄昏作戦の本隊が行った侵攻作戦。

第一陣のミッターマイヤー艦隊が出陣したのは12月9日と推定。当初はイゼルローン方面への援軍という名目で出陣し、兵士にもそう説明されていた。ミッターマイヤー艦隊の全兵士にフェザーン占領が目的であると伝えられたのは12月13日。艦隊がフェザーンの衛星軌道に到達したのは同24日。フェザーンには対抗するだけの軍事力が無いため、第1陣のミッターマイヤー艦隊二万隻強のみで即日無血占領が完了したが、ルビンスキーはいち早く逃走し、拘束には失敗した。第2陣のミュラー到着は同月28日、ラインハルトの本隊到着は同月30日16時50分。

この時、駐在武官としてフェザーンに赴任していたユリアンは、ヤンとの事前の打ち合わせでこの事態を予想しており、マシュンゴ及び弁務官のヘンスローとともに逃亡。翌年1月24日に、マリネスクの手引きにより、ベリョースカ号でフェザーンを脱出した。なお、ドミニク・サン・ピエールの手配でデグスビイ司教が同乗しており、フェザーンと地球教に繋がりがある事をユリアンに話した後、薬物中毒で死亡した。

ランテマリオ星域会戦[編集]

ランテマリオ星域会戦
戦争:神々の黄昏作戦
年月日:宇宙暦799年/帝国暦490年2月8日
場所:ランテマリオ星域
結果:帝国軍の勝利
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥 アレクサンドル・ビュコック元帥
戦力
ラインハルト艦隊
シュタインメッツ艦隊
ミッターマイヤー艦隊
ミュラー艦隊
ワーレン艦隊
ファーレンハイト艦隊
ビッテンフェルト艦隊
戦闘用艦艇11万2700隻
支援用艦艇4万1900隻
将兵1,660万
第1艦隊
第14艦隊
第15艦隊
艦艇3万2900隻
将兵520万6000人

宇宙暦799年/帝国暦490年2月8日。フェザーンを占領して同盟領に侵攻した帝国軍本隊と同盟軍本隊の戦い。

帝国軍は1月30日にポレヴィト星域に集結し「双頭の蛇」の陣形に編成を変えた。第1陣=ラインハルト、第2陣=シュタインメッツ、第3陣(事実上の先陣)=ミッターマイヤー、第4陣=ミュラー、第5陣=ワーレン、予備兵力=ファーレンハイト/ビッテンフェルト。戦力は戦闘用艦艇11万2700隻、支援用艦艇4万1900隻、将兵1,660万人。

同盟軍は2月4日にバーラト星系から進発した。司令官がビュコック、総参謀長がチュン・ウー・チェン、副官がスーン・スールズカリッター。参加艦隊はパエッタ中将の第1艦隊に加えて、同盟中から集めた艦艇で新設された第14艦隊と第15艦隊。新設された二つの艦隊の司令官には、第14艦隊にはモートンが、第15艦隊にはカールセンが、それぞれ中将に昇進して任命された。兵力は艦艇数3万2900隻、将兵520万6000人。この戦いに先立ってビュコックは元帥に、チュン・ウー・チェンは大将に昇進している。

2月8日13時40分、同盟軍は帝国軍ミッターマイヤー艦隊の側面5.1光秒の距離に位置し、その5分後に攻撃を開始した(OVAでは13時に5.2光秒の距離に位置し、攻撃開始のタイミングを計っていたが、味方の一部が勝手に砲撃を始めてしまうという混成艦隊の弱みが出てしまったため、そのまま全軍に攻撃を命令し、戦闘状態に突入した)。ビュコックは慎重に戦闘を進めるつもりだったが、帝国軍の示威行動に驚いた同盟軍の一部が動揺し、半狂乱になって攻撃を行った。この攻撃がミッターマイヤー艦隊に亀裂を生むという意外な戦果をあげ、そのまま押し込む形で同盟軍前衛部隊は前進し、帝国軍に少なからぬ損害を与えた。だが、ほとんどヒステリーに近い状態になって行った攻撃により、同盟軍の陣形は乱れ、統制も失われかけていた。またビュコックは、ミッターマイヤー艦隊がすぐに体勢を立て直すであろう事を察し、同盟軍全軍に後退と陣形の再編を命じた。同盟軍が後退するタイミングで、体勢を立て直したミッターマイヤー艦隊が反撃に転じ、さらに他の帝国軍艦隊が同盟軍の左右両翼に攻撃を開始したため、同盟軍は一転して守勢に立たされる。同盟軍はビュコックの指揮の下、地の利を生かして戦線を立て直すが、攻勢に出ることは望めなくなる。翌2月9日、同盟軍は守勢に徹してヤン艦隊の到着に望みをつなぐ作戦に転じて恒星風のエネルギー流を挟んで反対側に布陣しなおした。ミッターマイヤーも負けない事に徹したビュコックの戦術に手こずる事となる(原作小説では具体的な戦術の描写は無いが、OVA版においては、チュンの献策により、帝国軍前衛部隊の艦艇の機関部だけを破壊し漂流させて「盾」することで帝国軍主力からの攻撃を防いでいる)。だが、消耗戦の末に戦力差は明確となってくる。9日11時、同盟軍にとどめを刺す事を決めたラインハルトは、待機していたビッテンフェルトに出撃を命じた。ビッテンフェルトは帝国軍と同盟軍の間のエネルギー流を強行突破すると、同盟軍の集中攻撃に耐えながら反撃して同盟軍主力を粉砕、勝敗が決した。だがその時、帝国軍の背後からヤン艦隊が接近している事が判明したため、帝国軍は一時パニックを起こした。その隙に同盟軍本隊の残存戦力は戦線離脱に成功した。ラインハルトは体勢を立て直すため一時撤収し、戦場から2.4光年離れたガンダルヴァ星域の第2惑星ウルヴァシーを占領して侵攻の拠点とした。ヤンはビュコックの本隊と合流し、バーラト星系に撤退した。

なお、この時、帝国軍の駆逐艦ハーメルンIVを乗っ取ったユリアン達が、最後尾のフィッシャー艦隊に接触し、合流を果たしている。

ライガール・トリプラ両星域の会戦[編集]

宇宙暦799年/帝国暦490年3月1日~。ヤン艦隊と、帝国軍のシュタインメッツ/レンネンカンプ艦隊との連戦。

この直前にゾンバルト少将が護衛する補給艦隊がヤン艦隊によって全滅させられたため、ラインハルトはウルヴァシーの恒久基地化の邪魔になるヤン艦隊を排除するべく、シュタインメッツ艦隊に探査を命じた。そして3月1日、ライガール・トリプラ両星域の中間にあるブラックホールの安全領域ぎりぎりに(危険宙域である半径9億6千kmから僅かに外れた半径10億kmに)ヤン艦隊が凸形陣で布陣している事を知り、本隊に連絡した。これをうけて本隊からはレンネンカンプ艦隊が援軍に赴いた。

同日21時にヤン艦隊とシュタインメッツ艦隊が戦闘状態に突入。当初は背水の陣を敷いたヤン艦隊をシュタインメッツ艦隊が半包囲する形での砲撃戦を展開していたが、翌日5時30分にヤン艦隊が中央突破・背面展開戦法を使ってシュタインメッツ艦隊の包囲陣を破り、後方に回ってブラックホールに追い込み始めた。罠にかけられたことを知ったシュタインメッツは果敢に応戦(OVA版では、「態勢を入れ替えられたのなら、また入れ替えればいい」と同じく中央突破・背面展開による反攻まで試みている)するがついに力尽き、ある程度の犠牲が出る事は覚悟して4時方向に転進(つまりヤン艦隊に横腹を見せ)、シュバルツシルト半径ギリギリをかすめて高速を得るブラックホールを利用したスイングバイ航法で脱出に成功した。しかし、その間延々と狙い撃ちにされた上にブラックホールに多くの艦艇を呑まれ、最終的に8割の損害を出した。

なお、この戦いの後、亜光速の氷塊や移動要塞やブラックホールといった、SFならではのガジェットを用いた戦いは行われていない。

シュタインメッツ艦隊との戦いの後逃走する事を考えていたヤンは、援軍がレンネンカンプ艦隊だと知り予定を変更。「戦うことなく自分からわざと後退する」という艦隊運用で心理戦を仕掛け、タイミングを計って攻勢を仕掛けた。先のイゼルローン攻略戦で後退するヤン艦隊を追撃して罠にはまったレンネンカンプ艦隊は、ヤンの読みどおり疑心暗鬼に陥って今度は後退してしまい、そこにヤンの先制攻撃を受けて潰走。同日13時にようやく秩序を回復したものの、その時既にヤン艦隊に逃げられてしまっていた。

この戦いに先立って、ヤンは元帥に昇進し、勤労意欲に目覚めたアイランズ国防委員長の承認により、ヤン及びヤン艦隊がほぼ自由に戦術と戦略を組み立てる事が出来るようになった。帝国駆逐艦乗っ取りという功績で中尉に昇進したユリアンと銀河帝国正統政府を事実上見限ったメルカッツが復帰し、キャゼルヌも中将に昇進してイゼルローンから引き続き同行、シェーンコップは中将に、フレデリカは少佐に昇進した。さらにOVA版ではモートンとカールセン、及び第14/15艦隊の残存部隊が合流している。

タッシリ星域の会戦[編集]

宇宙暦799年/帝国暦490年3月。ヤン艦隊とワーレン艦隊の戦い。

ゾンバルト少将が護衛していた補給艦隊が全滅したため、ウルヴァシーの物資が不足し始めた。この事態を打開するため、ワーレンが自分自身の艦隊で同盟の補給基地を襲って物資を奪う案を上申し、ラインハルトの消極的な承認を得て進発した。これを察知したヤンはタッシリ星域で護衛が不十分に見える補給コンテナ群を配置し、故意にワーレン艦隊に奪わせた。ワーレン艦隊の中央部分に取り込まれた補給コンテナ群が、自動射撃装置による僅かな反撃を開始したため、ワーレンは物資を奪う事を断念して補給コンテナ群を攻撃した。しかしその補給コンテナ群は液体ヘリウムを満載していたブービートラップであり大爆発が発生(原作では言及されていないが、OVA版において「ヘリウム爆発」との表現がある)。そこにヤン艦隊が砲火を浴びせたため、ワーレン艦隊は大きな損害を出しつつ敗走した。また会戦の後にワーレンは星域から離脱するヤン艦隊を偵察、同盟各地の補給基地を転々として特定の拠点を設けない、いわば同盟領全域を利用したゲリラ戦を展開している事、すなわち正攻法での捕捉撃滅が不可能であることを突き止めた。

バーミリオン星域会戦[編集]

宇宙暦799年/帝国暦490年4月24日~5月5日。ヤン艦隊とラインハルトが直接指揮する艦隊の戦い。当初から参加した兵力は、帝国軍が艦艇18,800隻/将兵229万5400人。同盟軍が艦艇16,420隻/将兵190万7600人。ただし帝国軍は途中からミュラー艦隊約8,000隻が参戦した。

バーミリオン星域会戦
戦争:神々の黄昏作戦
年月日:宇宙歴799年/帝国歴490年4月24日~5月5日
場所:バーミリオン星域
結果:諸説あり
交戦勢力
銀河帝国 自由惑星同盟
指導者・指揮官
ラインハルト・フォン・ローエングラム ヤン・ウェンリー
戦力
ラインハルト艦隊
ミュラー艦隊
ヤン艦隊
第14・15艦隊の残存戦力
損害
艦艇14,820隻
戦死/行方不明159万4400名
艦艇7,140隻
戦死/行方不明89万8200名

ヤン艦隊をおびき出すため、ラインハルトは全艦隊を同盟領各地の占領のために分散させて本陣を手薄にした。ここまではヤンの読み通りだったが、ラインハルトはヤンの読みをも超えて自ら直属艦隊を率いてハイネセンに向かい、「分散させた諸艦隊が最も遠ざかった時、ラインハルト自身はハイネセンに突入している」という状況を作り出した。それによって、ヤンはそれより前に、諸艦隊が近くにいるうちにラインハルトと戦わざるを得なくなった。罠である事を承知の上でヤンはラインハルトとの「決闘場」となるバーミリオン星域に向かった。

正面から対峙した両艦隊が砲撃を開始したのは4月24日14時20分。双方とも相手の奇策に対応しようと考えていたため、結果として平凡な正面攻撃の応酬で始まった。砲戦が続くなかトゥルナイゼンが功をあせって突出、帝国軍の艦列を乱しヤン艦隊の集中砲火を浴びる事となった。一方の帝国軍も反撃し、主砲を撃ち合う消耗戦の様相を呈していく。ラインハルトもヤンも互いに予期せぬ乱戦状態のまま3日も戦い続けた。

帝国軍の援軍が到着する事を予想したヤン艦隊は、27日に艦隊の再編成を行い速攻に転じた。いち速くラインハルトの旗艦を撃破して、勝敗を決しようという作戦である。最初からこうなる事を見越していたラインハルトは、時間稼ぎを目的としてペティコートのように24段に及ぶ防御陣を敷いて対応した。そして突破された防御陣は再結集して最後尾の防御陣となり、ヤン艦隊は永遠に防御陣を突破できない物心両面から疲労と損傷を蓄積させていくという作戦である。ヤンは帝国軍の防御壁を第8陣まで突破したがラインハルトの戦術を見抜くことが出来なかった。その後ユリアンが見抜いてその見解を披露した。

その見解に基づき、ヤンは4月30日に一旦後退して小惑星帯に入る。そこで艦隊を二分し、まず帝国軍の左翼から攻勢をかける。帝国軍ではラインハルトが囮艦隊を使った作戦であることを見抜くも、この左翼に突出してきた艦隊が囮か本隊かの判断に迷う。総参謀長オーベルシュタインに促される形で、ラインハルトはこの攻勢部隊が本隊であるとし、24段の防御隊形を解除しての攻撃を命令した。しかしこの部隊は、マリノ率いる2,000隻の分艦隊と牽引した隕石で1万隻程度の艦艇に見せかけた擬似艦隊であり、完全にラインハルトは裏をかかれた。各分艦隊が囮に引き寄せられてブリュンヒルトから離れた瞬間、ヤンの本隊が小惑星帯から進発してブリュンヒルトに向った。帝国軍の各分艦隊はブリュンヒルトの方向へ引き返し、同盟軍本艦隊の縦列に側面から攻勢をかけることで分断を図った。それを予期していたヤンは本艦隊を凹型(右舷90度に会頭)に再編、囮艦隊は隕石群を帝国軍に撃ち込み、本艦隊と挟撃して完全な包囲下に収める。帝国軍分艦隊はラインハルト座乗の総旗艦ブリュンヒルトと完全に分断されてしまう。

この時、同盟軍は帝国軍の艦隊ほとんどを包囲下に置く事に成功したため、同時にヤン艦隊の一部艦隊が、わずかな護衛に伴われるのみのブリュンヒルトに接近した。だが同盟軍が砲撃を開始する寸前に、ミュラー艦隊8,000隻(OVAでは強行軍に脱落艦が相次いで当初は6割ほど)がバーミリオン星系に到着しブリュンヒルトの防御にあたる。このミュラー参戦が5月2日のことである(時刻は不明)。ミュラーが最初に反転してきたのは、占領したリューカス星域の補給基地で抵抗が起きなかったためである。ミュラーの参戦により戦線は再び膠着し、戦艦アキレウスが撃沈しモートンが戦死した。

その後、ヤンはカルナップが包囲網を突破しようとしている事に気がついてその部分の包囲網を解き、ミュラーが逆に味方を救出するため包囲網に入るように仕向けた。ミュラーとカルナップが逆方向から殺到して混乱状態になった瞬間、ヤン艦隊は一点集中砲火を仕掛けてカルナップを戦死させ、さらにミュラーの旗艦リューベックをも大破、撃沈に至らしめた。ミュラーは辛うじて脱出に成功し戦艦ノイシュタットを旗艦としたが、これも撃沈され、更に移乗した戦艦オッヘンブルクまでも撃沈される。なおも戦艦ヘルツェンに移乗し、計4度司令部を移して奮戦するものの、ヤン艦隊の進撃を完全に食い止める事は出来なかった。それでもこの抗戦で稼いだ時間が大きな意味を持つこととなり、ミュラーはこの戦いぶりから後に「鉄壁ミュラー」と勇名を讃えられることとなる。

5月5日22時40分、ヤン艦隊は再びブリュンヒルトを射程内にとらえようとしていた。しかし、事前にヒルダの策を受けたミッターマイヤー・ロイエンタールの別働隊約3万隻がハイネセン上空を制圧。自らの命が危うくなったヨブ・トリューニヒトは、日頃の大口を忘れて時間稼ぎさえせずに無条件停戦命令を下し、戦闘は終結した。足掛け12日にも及んだバーミリオンの戦いの最終的な参加将兵と損耗率は帝国軍が26,940隻/326万3100人、艦艇損傷率87.2%、死傷率72%。同盟軍が16,420隻/190万7600人、艦艇損傷率81.6%、死傷率73.7%、となっており両軍合わせて約250万もの犠牲者が出た。

なお、この戦闘に先立つ4月11日、ヤン艦隊は小惑星ルドミラの補給基地で半日休暇を取ったが、その際ヤンはフレデリカにプロポーズし受諾されている。また、フレデリカに密かな恋心を抱いていたユリアンは、二人の結婚を祝福しつつもそれを忘れるためという一面もあって、戦闘後に生き残ったら地球教の調査に向う事をキャゼルヌに伝えている。

このバーミリオン星域会戦においてどちらが勝利したかについては、作中における後世の歴史家の意見は分かれている。公正さを主張したい歴史家は「戦術では同盟の勝利。戦略では帝国の勝利」「戦場では同盟の勝利。戦場の外では帝国の勝利」などと主張している。当事者であるヤンは戦術より戦略を重視する立場から、ラインハルトは勝利を得たのでなくて譲られたという事から、ともに自らを勝利者とは認めず、互いに相手に対して劣等感を抱いていたと説明されている。なおヤン艦隊の一部幕僚は、自分たちの負けを認めず、ラインハルトに勝利を譲ってやっただけと考えていた(回廊の戦いにおけるアッテンボローの扇動より)。

ハイネセン制圧作戦[編集]

宇宙暦799年/帝国暦490年5月5日。ミッターマイヤーとロイエンタールによる同盟首都星ハイネセンの侵攻作戦。

バーミリオン会戦におけるラインハルトの危機を感じたヒルダが、5月2日に独断でエリューセラ星域にいたミッターマイヤーと面談し、「今から救援に行くよりそちらの方が早い」と「同盟首都ハイネセンを占領し、同盟政府にヤンに戦闘停止を命じるよう強要する」策を促した(これはヒルダの持論でもあった)。当初は懐疑的だったミッターマイヤーも説得を受けて同意し、隣のリオヴェルデ星域にいるロイエンタールに連絡して同行を要請した。ロイエンタールは様々な想いを抱きながらも同意し、ミッターマイヤーとともにバーラト星域に急行した。両艦隊とも5月4日にバーラト星系に到着。翌5日にはハイネセンの衛星軌道に達し、同盟政府に無条件降伏を勧告、国防委員長のアイランズとビュコックは最後まで抵抗することを主張した。しかし、それまで職務放棄し、また日頃国民を扇動、最後の最後まで抵抗しろと主張していたトリューニヒトが反対派の抵抗を地球教徒の手を借りて排除し、時間稼ぎ一つしようとせずに降伏勧告を受諾。ブリュンヒルトを眼前に捉えていたヤン艦隊に即時停戦することを命令した。そしてトリューニヒトは苦悩も反省の色もなく、厚顔にも自分と家族の安全の保証、帝国での地位までもを自分から要求した。「アルテミスの首飾りがヤンによって全て破壊されていなければ抗戦できた。ヤンが何だ」というのが、本人の弁であった(ただしOVA版においては、既に帝国軍は過去のカストロプ動乱時にアルテミスの首飾りとまったく同じ防衛兵器を完全に破壊している)。

この作戦によって帝国軍はハイネセンを無血開城する事が出来、神々の黄昏作戦は帝国軍の勝利に終わった。また、この作戦を考案したヒルダの戦略/政略センスが非凡なものである事が知られる事となった。ただしバーミリオン星域の戦闘で負けたまま勝利を譲られた形になったラインハルトのプライドは大きく傷つき、しばらくの間はヒルダに対して複雑な感情を抱かずにいられなかった事を自ら口にしている。

ゴールデンバウム王朝の終焉と、ローエングラム王朝の開闢[編集]

宇宙暦799年/帝国暦490年6月20日

エルウィン・ヨーゼフ二世が「救出」されたあとの帝位は、生後わずか八ヶ月の女児カザリン・ケートヘンが(形の上で)継いでいた。そのカザリン・ケートヘンの父親であり親権代行者でもあるペクニッツ公ユルゲン・オファーは、オーベルシュタインに呼び出され、「女帝」カザリン・ケートヘンの退位宣言書と「帝位をラインハルトに禅譲する」宣言書を突きつけられた。立ち尽くして冷汗と脂汗を流すユルゲン・オファーに対し、オーベルシュタインはペクニッツ家の安泰およびカザリン・ケートヘンへの生涯年金支給の保証書をも提示した。それで冷汗と脂汗は安堵の汗に変わってユルゲン・オファーは二通の宣言書に署名し、かくしてゴールデンバウム王朝は人知れず滅亡した。

宇宙暦799年[25]/新帝国暦1年6月22日

ラインハルトは新無憂宮において大々的に即位式及び戴冠式を行い、自ら帝冠を戴いた。ローエングラム王朝が、ここにはじまった。だがその場には、ラインハルトが最も求める二人の姿はなかった。

新帝国暦/宇宙暦時代[編集]

キュンメル事件~地球教支部での戦闘[編集]

宇宙暦799年[26]/新帝国暦1年7月6日、ハインリッヒ・フォン・キュンメル邸で発生したラインハルト暗殺未遂事件及び憲兵隊による地球教支部の制圧。

7月1日、フランツ・フォン・マリーンドルフが、余命いくばくも無い甥のキュンメル男爵が自邸への行幸を望んでいる事を新皇帝となったラインハルトに打ち明けた。同情したラインハルトはその願いを聞きいれ、6日、16名の随行者を伴ってキュンメル邸を訪ねた。中庭に通された一行は、地下にゼッフル粒子が充満し、スイッチ一つで起爆できる事をキュンメルから聞かされ、騒然となった。だがラインハルトは平然とした様子を崩さず、それがキュンメルの苛立ちを誘った。

その一方で、帝国に「保護」されていたトリューニヒトが憲兵隊司令部のケスラーと面会し、キュンメルの計画と背後の地球教の存在を暴露した(この理由については諸説あるが、それを踏み台に帝国の政治に関わろうとした、という説が有力)。ケスラーはトリューニヒトを実質的に拘禁した後キュンメル邸に連絡を入れ、通話不能と分かると、近隣の武装憲兵隊の責任者であるパウマン准将以下2400名を現場に向かわせた。更にラフト准将の隊に、カッセル街19番地の地球教オーディン支部の出動を命じた。支部では戦闘となり、憲兵隊と信者の双方に犠牲者が出たが、最終的に憲兵隊が制圧に成功し、ゴドウィン大司教を逮捕した。

この時、膠着状態となっていたキュンメル邸にようやくパウマン准将の隊が到着した。キスリング達はその気配に気づき、機会をうかがっていた。だがその間に、キュンメルはラインハルトが胸の(キルヒアイスの遺髪と写真が入っている)ペンダントを無意識に触っている事に気が付き、それを見せるように命令した。それによって自分の無意識の行動に気が付いたラインハルトは、その命令を拒絶した。シュトライトやキスリング達がラインハルトに時間稼ぎの説得を試みたが、譲れない内容を秘めたラインハルトは頑として応じなかった。逆上したキュンメルは無理に奪おうとし、ラインハルトはキュンメルの横面を殴りつけてそれを防いだ。その空白を突いてキスリングがキュンメルにタックルして起爆スイッチを奪い、身体が衰弱していたキュンメルはその衝撃に耐えられずに危篤状態になり、ヒルダの腕の中で死亡した。さらに邸内に隠れていた地球教の信者がラインハルトを銃撃しようとするが失敗し、ラインハルトは無事に引き上げた。

この事件の後、マリーンドルフ親娘は自主的に謹慎したが、ラインハルトは短期間で復帰を命じ、また「殺人犯の凶器まで処罰する必要はない」と、地球教に扇動されたキュンメルの罪も不問に付した。その一方、10日の御前会議で真の「殺人犯」である地球教討伐を決定し、ワーレンにその任を命じた。

ヤン・ウェンリーを巡る惑星ハイネセンの戦い[編集]

宇宙暦799年/新帝国暦1年7月16日~24日

7月16日、マスカーニ少将指揮下の同盟軍工作部隊がレサヴィク星系において、バーラトの和約によって保有を禁止された戦艦と宇宙母艦(空母)の爆破処分の準備作業を行っていた時、素性を隠して「義勇兵集団」と名乗った動くシャーウッドの森の一党が作業部隊を襲撃し、破壊される寸前だった艦艇の内戦艦464隻/宇宙母艦80隻を「入手」した(された側は「強奪」と表現した)。また「義勇兵集団」の呼びかけに応じたハムディー・アシュール少佐以下4,000名もの「お調子もの」が合流した。

「この一件はヤンが企ててメルカッツが実行した」という密告が同盟要人によって帝国の高等弁務官府にもたらされ、レンネンカンプはそれを根拠にフンメル首席補佐官と話し合い、同月20日、同盟政府に対してヤンを逮捕するように勧告した(その直後、オーベルシュタインから超光速通信が入り、レンネンカンプに「これを利用してヤン一党を一網打尽にすべき」と更なる陰謀が吹き込まれている)。帝国の勧告を受けたジョアン・レベロは窮地に立たされ、ホワン・ルイのアドバイスでさらに決断に迷ったが、(OVA版では密告者の一人である)オリベイラの提案を受け入れて逮捕した。

22日、自宅にいたヤンが中央検察庁の使者(と名乗った半ダースほどのダークスーツの男達)に逮捕された。フレデリカは事前にその危険性を感じていたが、ここに至って我慢の限界を感じ、ヤンを奪回すべく、シェーンコップとアッテンボローに連絡をとった。同盟政府の意を受けた警察が二人を追尾し始めたが、ローゼンリッターの迎撃に遭い壊滅、二人はローゼンリッター(及びバグダッシュ)と合流してジョアン・レベロを拉致し、同盟軍にヤンとレベロの身柄交換を要求した。この時、統合作戦本部長の任にあったロックウェルが応対し、この件が広まれば帝国につけこまれると考え、レベロを見殺しにしてヤンを謀殺することを決断したが、この事を予期していたシェーンコップ達がヤンの監禁場所に向かっていた。間一髪で救い出されたヤンは、シェーンコップやフレデリカ達とともにレベロを監禁している場所に行き、自分達がレンネンカンプを人質にしてハイネセンを離れるので、策謀に加わらなかったキャゼルヌやムライ、フィッシャー、パトリチェフの責任を追及しないでほしいと提案、レベロは不承不承ながら受諾した。

翌早朝、高等弁務官府がおかれているホテル・シャングリラをローゼンリッターが急襲、レンネンカンプの拉致に成功したが、自分がヤンに負け、さらにレベロに売られた事を悟ったレンネンカンプは、監禁された部屋で首吊り自殺を遂げた。ヤン達はレンネンカンプがまだ生きている事にして交渉を続行、同盟軍から巡航艦レダIIを手に入れ、24日にハイネセンを脱出している。なお、脱出直前に事態を知らされたキャゼルヌは、迷うこと無く後方勤務本部長代理の職を捨て、家族とともにヤン一党と合流している(後日、冗談の範囲であるが、キャゼルヌ夫人がこの時のことを口にしている)。

地球教討伐作戦[編集]

宇宙暦799年/新帝国暦1年7月27日。ワーレン艦隊による地球教本部(地球・ヒマラヤ山脈のカンチェンジュンガ山)への討伐作戦。発端となったキュンメル事件の発生は7月6日。出征を決定した御前会議は10日。ワーレン艦隊が太陽系外縁部に到達したのは24日。同日艦隊旗艦サラマンドルの艦橋で討伐を阻止するためにワーレンを狙ったテロが発生。27日に昏睡から脱したワーレンはコンラート・リンザー中佐及び2個大隊に地球教本部の偵察と進路設定を命令。30日までに作戦が終了。8月1日にはワーレン艦隊第1波はオーディンへの帰路に着いた。

御前会議においてビッテンフェルトは主戦論を展開し、自分をその任に就けてほしいと願い出たが、ラインハルトはその願いを却下し、ワーレンに討伐を命じた。これは神々の黄昏作戦でヤンに敗北した3提督の内、ワーレンだけが名誉挽回の機会を得ていなかった事による。命令を受けたワーレンがオーディンを出立した日は明記されていないが、日を置かず高速艦艇だけ(5440隻)で出立し、航行途中で艦隊編成をしている点から、御前会議の翌日もしくは翌々日ではないかと推測される。太陽系外縁部に到達した24日、艦隊旗艦サラマンドルの艦橋で行われた作戦会議の後、ワーレンは兵士に扮した地球教徒に毒を塗ったナイフで襲われた。一命を取り留めたが、毒に侵された左腕を失ったワーレンは、その事から右腕の無いリンザーを思い出し、先行を命じた。

これに先立つ7月10日、ユリアン一行が地球に到着し、14日に地球教本部に潜入している。先行の命令を受けたコンラート・リンザーは本部内でフェザーンの商人達であると名乗ったユリアン一行の協力を得て各所を制圧し、地球教本部の内部構造を突き止めた。ワーレンはその情報をもとに一箇所を除く各所出入り口をミサイル攻撃でふさぎ、サラマンドルを強行着陸させて装甲擲弾兵を送り込んだ。戦いは最初から帝国軍が圧倒したが、命を投げ出して反撃してくる教徒の異様な振る舞いに神経が耐えられない兵士が続出した。やがて地球教徒自身による本部の爆破が発生し、戦いは終了した。総大主教が脱出せず生き埋めになった事は、脱出したド・ヴィリエ大主教が後日ユリアンに射殺される寸前に語って判明した。

これと平行して、ユリアン達は地球教本部の資料室を発見し、コンピュータに記録されていたデータを一枚の光ディスクにコピーしている。戦闘後に、リンザーから「協力してくれたフェザーンの商人」としてワーレンに紹介されたユリアンはオーディンへの同行を願い出ており、8月1日の艦隊第1波帰還の時に親不孝号で同行している。

大親征[編集]

宇宙暦799年/新帝国暦1年11月~。ヤンの逮捕に始まるハイネセンの混乱の報告を受けたラインハルトが、バーラトの和約を破棄して同盟を併呑するために決定した作戦。ただし回廊の戦いを本作戦の一部とする説もある。

11月1日、レンネンカンプの密葬が行われた後の会議で自由惑星同盟への再侵攻が決定され、ビッテンフェルト艦隊に先発しての出撃命令が出された(11月10日出撃)。

11月10日、ラインハルトが全宇宙のFTL通信を利用して自由惑星同盟の非を打ち鳴らす演説を行い、同時にバーラトの和約の破棄と再度の宣戦布告を宣言した。

11月11日の会議で発表された艦隊陣容は以下の通り(隊列順)。

  • ビッテンフェルト艦隊(進発済み)
  • ミッターマイヤー艦隊
  • クナップシュタイン及びグリルパルツァー各艦隊(旧レンネンカンプ艦隊)
  • グローテヴォール、ヴァーゲンザイル、クーリヒ、マイフォーハー各艦隊
  • アイゼナッハ艦隊
  • ファーレンハイト艦隊
  • ラインハルトの直属艦隊(シュトライト、リュッケ、キスリング、ヒルダ、エミール、加えてロイエンタールが統帥本部総長としてブリュンヒルトに乗艦。ロイエンタール艦隊の運用はベルゲングリューンが担当)
  • ミュラー艦隊

また、イゼルローン要塞のルッツ艦隊にも出動命令が下される事になった。オーベルシュタインはフェザーンに残留し留守を預かった。

一方、同盟では一旦退役していたビュコックが自主的に復帰し、宇宙艦隊司令長官代理であったチュン・ウー・チェンが正式な手続きもなしに長官の座を返却し、補佐役として艦隊編成を行っている。

また、ビュコックは次の戦いを「大人だけの宴会」だと称し、スーン・スールをはじめとする、30歳以下の将来ある将兵の志願を認めなかった。チュン・ウー・チェンは同時にムライ、パトリチェフ、フィッシャーを辺境任務から呼び戻し、5,560隻の艦艇と供にヤンの元に送り出した。

12月、イゼルローン再奪取の実行部隊がエル・ファシルから進発した日に、ビュコック率いる自由惑星同盟軍最後の宇宙艦隊もハイネセンから進発した。

イゼルローン再奪取作戦(第10次イゼルローン攻防戦)[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年1月2日~14日。エル・ファシル革命予備軍となったヤン一党によるイゼルローン要塞の攻略、及びイゼルローンに駐留しているルッツ艦隊との交戦。行動部隊の陣容は、艦隊指揮がメルカッツ、突入部隊がシェーンコップとローゼンリッター、ユリアン、ポプラン、マシュンゴ、及び参加希望者。情報操作担当がバグダッシュ。ヤンが直接指揮を執る事に対して独立政府が難色を示したため、ヤン及びアッテンボローがエル・ファシルに残留した。また、カリンが自分の娘だと知ったシェーンコップが、カリンの参加希望を却下した。その理由は明確には示されていない。

情報操作のための最初の通信がバグダッシュから発せられたのは1月2日。ラインハルトの名前で、艦隊が大親征に参加する事を命じていた。だが翌3日に、前日とは逆に出撃禁止及び内通者捜索の命令が届き、捜索の結果、幾人かの逮捕者が出た。この事で、ルッツは後者の通信の方を信用し、これ以降に届いた出撃を促す通信を無視するようになった。

1月7日、5本目に届いた出撃命令(これがラインハルトからの本当の命令)が届いてもルッツが動かない事を知ったバグダッシュは、脅迫めいた通信を送ってルッツの幕僚を戦慄させた。さまざまな思慮の末、これがヤンの罠だと結論づけたルッツは、逆に罠にかけるべく出撃、要塞を留守にすると見せかけて反転し、要塞と挟み撃ちにする作戦を立案した。ルッツ艦隊の出撃は12日、翌13日にはその報がヤン一党に届き、イゼルローン要塞に向けて出動した。

だがルッツの思惑に反して、イゼルローン要塞は、ヤン一党がトゥールハンマーの射程距離に入った時点で、バグダッシュが発した「健康と美容のために、食後に一杯の紅茶」という通信を受領し、要塞の制御システムをつかさどるコンピュータが機能を停止していた。これは「第9次イゼルローン攻防戦」でヤンが要塞を放棄した時に仕掛けた罠であり、これによってゲートの開閉も防御システムの稼動も不可能となった。

ヤン一党の突入部隊は要塞の軍港に強行着陸し、白兵戦の末、23時20分にAS28ブロックの第4予備制御室を占拠した。ユリアンが制御卓から「ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくママレードでもなく蜂蜜で」と回路に入力してシステムの制御を掌握し、23時25分、帰還途上のルッツ艦隊にトゥールハンマーを発射。これに気づいたルッツは急遽散開行動を命じたものの、艦隊の1割を失った。そしてその光景を見た要塞守備隊の戦意も失われ、守備隊は次々と潰走・降伏していった。

14日0時45分、帝国軍の守将ヴェーラー中将が、部下の安全な退去と引き換えに要塞の放棄に応じる事を打診。意思決定を委ねられたユリアンは7分後に条件を受諾する返答を送り、戦闘は終了した。要塞内の帝国軍、及び損害を被ったルッツ艦隊は撤退した。なお、0時59分に、ピストル自殺を遂げたヴェーラー中将の遺体が執務室で発見された。

マル・アデッタ星域会戦[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年1月16日。バーラト星系に侵攻を続ける帝国艦隊と、それに対抗しようとする同盟艦隊の交戦。1月8日、ミッターマイヤー艦隊の前方に1,000隻以上の艦艇が出現。同10日、同盟軍が20,000隻以上の戦力を有している事が判明。同13日、帝国軍の前方、恒星マル・アデッタ付近に同盟軍が布陣。同16日に戦闘開始。

マル・アデッタは不安定な状態の恒星で周囲に無数の小惑星を従えており、同盟軍はその小惑星帯内の狭い回廊の中に「篭城」していた。マル・アデッタ星域の戦略上の価値は前年に両軍が対峙したランテマリオ星域より低いとされていたが、戦術的には遥かに難所とされていた。そのため、数で勝る帝国軍には「一隊が同盟軍を抑えて、本隊がその隙に同盟首都ハイネセンを陥とす」策もあり、「常識的な事を言わなければならない」という見地で幹部を代表してシュトライトがそれを述べた。しかし、それは文字通り「言ってみただけ」であり、ラインハルトは「老将の死を覚悟の挑戦、受けねば非礼にあたる」とマル・アデッタで戦う事を選び、もともと乗り気だった幹部たちもそれに同意した。その為、会戦当初の地の利は同盟軍に傾くことになった。

同盟の艦隊司令官はビュコック。参謀長はチュン。分艦隊司令官はカールセン。参加幕僚はザーニアル少将/マリネッティ少将(この二人はOVA版のみ登場)など。戦力は推定で艦艇20,000~22,000隻/将兵230万~250万人(自由惑星同盟がこの後滅亡するなどの事情で、正確な記録が無いと設定されている)。なお、副官のスールは別の命令を受けてムライ達に同行してヤンの元に向った。

戦闘態勢に入った帝国軍の陣容は、中央部がラインハルトの直属艦隊。左翼がミッターマイヤー艦隊、右翼がアイゼナッハ艦隊、後衛がミュラー艦隊、予備兵力がファーレンハイト艦隊、前衛はクナップシュタイン/グリルパルツァーの両艦隊。なお、先行したビッテンフェルト艦隊は連絡が取れず、戦闘開始時には参戦出来なかった。

16日10時30分、正面からの砲撃戦開始。第1撃の後、同盟軍が小惑星帯に撤退。グリルパルツァー艦隊が追撃したが逆撃され、3割の損害を出して撤退。ラインハルトはファーレンハイト艦隊を同盟軍の背後に差し向け、同時にクナップシュタイン艦隊に陽動を命じた。13時にクナップシュタイン艦隊が攻撃を開始したが、逆に多くの損害を出して苦戦に陥る。15時40分にファーレンハイト艦隊が同盟軍背後にまわり込む事に成功したが、16時20分、左側背からカールセンの分艦隊が攻撃を開始。ファーレンハイト艦隊は後退を余儀なくされた。20時30分、カールセン艦隊は迂回して帝国軍本隊の背後に回り込み、ミュラー艦隊と戦闘を開始。その背後にはファーレンハイト艦隊が、さらにその背後にはクナップシュタイン艦隊を機雷で足止めしたビュコックの同盟本隊が続いた。その後、2つの同盟艦隊は連携を以って帝国軍本隊攻撃を試みたが、ミュラー艦隊とファーレンハイト艦隊、21時18分に右翼から迂回して戦いに加わったアイゼナッハ艦隊の抵抗に遭い、進軍を止められていた。22時、恒星風の影響で帝国軍の艦列が乱れたのを機に、同盟軍は一気に進撃を試みたが、側面からミッターマイヤー艦隊が突入したためまたも進撃を止められた。そして22時50分、先行していたビッテンフェルト艦隊が戦域に到着し、攻勢が限界に来ていた同盟軍に攻撃を加えた。23時10分、カールセンが乗艦ディオメデスと共に戦死。この時点で8割が失われた同盟軍は敗走を開始したが(OVA版ではビュコックが全鑑に対し戦線離脱を許可している)、艦隊旗艦のリオ・グランデと、その意を汲んだ100隻程度の艦艇が、味方の退路を確保するため戦闘を継続した。

23時30分、(ヒルダに説得された)ラインハルトの意を受けたミッターマイヤーが降伏を勧告したが、ビュコックは勧告を拒否。ラインハルトは砲撃を命じ、リオ・グランデは破壊され、ビュコックとチュン、艦長のエマーソンは乾杯しながら消滅した。

この会戦の後、自由惑星同盟は国家としては滅亡を遂げ、「銀河帝国軍対自由惑星同盟軍」という戦いの図式はこれを以って終了した。

一方ヤンは、ビュコック戦死の凶報を聞いて、己の判断の甘さを心から悔いた。もしヤンが、ビュコックが残存艦隊を率いてラインハルトと戦う事を要塞攻略戦時に知らされていたら、ヤンはおそらく(ビュコックとともに)生涯で初めて勝算なき戦いに身を投じたであろう、という見方も存在する。

自由惑星同盟の終焉[編集]

帝国軍はマル・アデッタ星域の会戦で最後の同盟軍艦隊を撃破したが、その直後の祝宴のさなかにイゼルローン要塞が再奪取された事を知った。状況の変化に帝国軍は愕然としたが、作戦に変更は無く、そのままハイネセンに向って再発進した。ラインハルトは急行する事を考えていたが、ヒルダの助言によってゆっくりと進行し、同盟の動揺を誘った。意図は的中し、2月2日に同盟元首のジョアン・レベロが統合作戦本部長のロックウェル大将とその部下たちに射殺され、自由惑星同盟は降伏を宣言した。帝国軍はハイネセンを無血開城し、ラインハルトは手始めにロックウェルら裏切者の売国奴たちを許すことなく銃殺に処した。しかし、ラインハルトは彼ら以外の同盟市民には一切危害や処罰を加えず、その予想外の寛大さに同盟の世論は反抗心をくじかれ、帝国支配を暗黙の是とした。

そして宇宙暦800年/新帝国暦2年2月20日、ラインハルトは冬バラ園の勅令(正式名称は宇宙暦800年2月20日の勅令)で、一貫して辺境の叛徒扱いだった自由惑星同盟を国家として公認し、同時に同盟の消滅を宣言した。

回廊の戦い[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年4月20日~5月18日。ヤン一党(エル・ファシル革命予備軍)と帝国軍の戦い。ヤン・ウェンリー最後の戦いであり、ラインハルトが一度に動員した戦力としては最大級のものとなった。

元よりこの戦いは、言ってみればラインハルトの私戦の性格が強いものであった。あえて多大な犠牲を払ってイゼルローン要塞を攻略する意味は無く、回廊の出入り口を封鎖しておけば、ヤン一党はいずれ衰退を余儀なくされる。あくまでヤンと勝負してみたいというラインハルトの欲求こそが、戦いの最大の動機であった。ロイエンタール、ミッターマイヤーともにこの戦いにラインハルトが親征することに反対しており、ヒルダに至っては面と向かってラインハルトに反対の意を表明していた。しかしラインハルトは、それを承知で戦いに臨んだ。

4月20日の時点で、ヤン一党の兵力は艦艇28,800隻(うち3割近くが修理や整備を必要とする傷物とされている。実戦参加した隻数は記述が無いが、OVAではメックリンガー艦隊を牽制するに当たって2万隻以上を投入して、ナレーションがヤン艦隊のほぼ全軍と解説している)/将兵254万7400人。ヤンは流浪時に乗艦としたユリシーズをそのまま旗艦とし、ヒューベリオンはメルカッツが乗艦とした。アッテンボローはマサソイト、フィッシャーはシヴァ、マリノは引き続きムフウエセを乗艦にしている。

前哨戦[編集]

初戦で対決したのは、先発したビッテンフェルト艦隊15,900隻とファーレンハイト艦隊15,200隻、加えて帝国領からイゼルローンに接近したメックリンガー艦隊15,900隻。

戦いに先立って、ビッテンフェルトはヤンに挑発的な降伏勧告を送り、ヤンはそれを利用してメルカッツの裏切りという虚偽の通信を送り返した。ビッテンフェルトとファーレンハイトは信用しなかったが、相手の出方を待つ必要に迫られ、結果として受動的な立場に追い込まれた。この策謀で2艦隊の足を止めたヤンは、20,000隻以上を率いてメックリンガー艦隊に向かった。自分の艦隊より大きな兵力の接近により、メックリンガーはヤン艦隊は全体として5万隻以上存在するものと判断し慎重に後退し、それを確認したヤンは反転してビッテンフェルト/ファーレンハイト艦隊に向かい、4月27日、アッテンボローの擬態で回廊に引きずりこまれたビッテンフェルトと交戦状態に突入、平行してファーレンハイトも攻撃を開始した。

戦いは消耗戦となったが、狭い回廊のために身動きがとれず、さらにフィッシャーの巧みな運用によってヤン艦隊に包囲される形となり、帝国軍がより多くの損害を出していた。ビッテンフェルトは正面突破に活路を得ようとしたが、ヤンの包囲は崩れず、一旦後退した。代って前線に突出したファーレンハイト艦隊は、おとり役を演じたアッテンボローの艦隊に砲火を集中し、一旦はヤンの本隊に肉薄したが、突出したため反撃を受ける事となった。この時再編成を済ませたビッテンフェルト艦隊が合流したが、一箇所に集まったため逆に集中砲火を浴びる結果となり、ファーレンハイト艦隊は右翼のメルカッツ艦隊に追い込まれた(この時右翼艦隊に所属していたカリンが初めてスパルタニアンで実戦に出陣し、一機を撃墜して無事に生還している)。

4月30日23時15分、回廊から脱出する僚艦の援護射撃をしていたアースグリムの艦橋が被弾した。ファーレンハイトは瀕死の重傷を負い、幕僚も死亡した。ファーレンハイトは従卒の幼年学校生に遺言を伝えて死亡。アースグリムは同25分に撃沈した。2艦隊は回廊から撤退し、ラインハルトの本隊に合流に向った。ビッテンフェルト艦隊の損害は艦船15,900隻中6220隻、人員190万8000人中69万5700人、ファーレンハイト艦隊の損害は艦船15200隻中8490隻、人員185万7600人中109万5400人。戦死したファーレンハイトは元帥に昇進し、メルカッツは3日間の喪に服し作戦会議に代理出席したシュナイダーも喪章を胸につけて席に着いた。

本戦[編集]

帝国軍本隊はビッテンフェルト/ファーレンハイト艦隊の残存部隊と合流し、5月3日に回廊に侵攻した。この時点での帝国軍本隊の兵力は艦艇14万6600隻/将兵1620万余人。対するヤン一党の兵力は2万隻を切っていた。

アッテンボローが回廊の入り口に500万個の連鎖式爆発機雷を敷設しており、帝国軍はこれを排除しなければ回廊に突入出来なかった。帝国軍はこれに対して統帥本部総長ロイエンタールの案を採用し、まずブラウヒッチ大将の艦隊が半日をかけて機雷原にトンネル状の通路を穿ち、ヤン艦隊に攻撃を開始、ブラウヒッチがヤン艦隊の耳目を集めている間に指向性ゼッフル粒子を使って同時に5箇所のトンネルを開け、そこから各艦隊を侵攻させる、ヤン艦隊が分散する隙に最初にブラウヒッチが開けたトンネルから本隊が突入した。この作戦によって帝国軍は回廊内に橋頭堡を築くに至った。

5月4日12時0分、総旗艦ブリュンヒルトが回廊に突入。分艦隊を指揮するアッテンボローは集中砲火によって対抗し、そこから砲撃戦が展開される。だが狭い回廊内では混乱も多く、ミッターマイヤーの立てた半包囲作戦も通信状態も十分とは言えず、大部隊が行動する空間的余裕も乏しかったため味方が作戦通りに動いてくれず失敗した。これを問題としたミッターマイヤーは、後方では戦場の様子が把握しにくいとして20時15分に総旗艦ブリュンヒルトから自らの旗艦ベイオウルフに移乗して陣頭指揮を執り始めた。疾風ウォルフの戦線参加で帝国軍は勢いづいたが、戦闘自体は膠着したままだった。バイエルラインの部隊約6000隻を突出させてヤン艦隊の一角を突き崩そうとした作戦が失敗に終わった後、ミッターマイヤーは戦力を火力重視と機動力重視の部隊を1000隻程に細分化してヤン艦隊の戦力を削り取る作戦を使ったが、これも遊兵を作り出す結果となった。

5月6日、ヤン艦隊はメルカッツの作戦で帝国軍の左翼を集中砲火し、帝国軍本隊が左翼に移動した瞬間を狙ってマリノの分艦隊がブリュンヒルトに向った。シュタインメッツがこれに気づいて防御陣を敷いたが、そのためヤン本隊に向う事が出来ず、ヤンとメルカッツの艦隊の集中砲火を浴びた。11時50分、艦隊旗艦フォンケルが被弾し艦橋が大破、シュタインメッツは破壊された船体の下敷きになり、親しくしていた女性の名前を呼んだ後に絶命した。報告を受けたラインハルトは、シュタインメッツに代ってヒルダを大本営幕僚総監に任じたが、帝国軍の混乱は収まらなかった。

戦線崩壊の危機を感じたロイエンタールは、バルトハウザー艦隊に側面攻撃をさせてヤン艦隊の足を止め、その間に本隊を後退させて体勢を整える作戦を献じたが、各艦隊がロイエンタールの思い通りに動かず、逆にヤン艦隊につけ入る隙を与えた。あと一歩でブリュンヒルトを討ち取るという時、ラインハルトが瞬時にヤン艦隊の艦列の攻撃ポイント(OVAでは、俯角30度・2時方向)を見抜き、自ら砲撃を指揮した。効果的に損害を与えられたヤン艦隊は撤退し、ロイエンタールは改めてラインハルトの天才ぶりを認識したが、この時ラインハルトの身体に異変が起こっていた。

5月7日23時、一旦要塞に撤収して態勢を整えたヤン艦隊は再び戦闘を開始した。ミュラー艦隊が前線に出て交戦を開始、さらに帝国軍の各艦隊もヤン艦隊に攻撃を加えたが、数が多いゆえに回廊の地形を有効に利用出来ず、戦線は混乱を極めた。8日になっても状況は変化しなかったが、そんな中、ベイオウルフが被弾し、一時はミッターマイヤー戦死の報が帝国を駆け巡った。本人みずから虚報である事を報告したが、この事がきっかけとなり、ラインハルトは戦法の変更を決意。9日の御前会議で作戦の変更が告げられ、10日に戦闘が再開された。一艦隊が縦列突撃しつつ最後の一発まで撃ちまくってから反転し、その直後に次の艦隊が、そして次の次の艦隊も続けて突入し続けるという、単純だが最も効果的なタックマッチ戦法であった。

この手段を選ばない物量作戦に直面したヤンは、慎重に艦隊を運用して対抗し、第1陣のミュラー艦隊、第2陣のアイゼナッハ艦隊、第3陣のミッターマイヤー傘下の提督たちが指揮する艦隊(ミッターマイヤー自身は、旗艦ベイオウルフの損傷もあってラインハルトに出撃を禁止された)、15日19時20分の第4陣の黒色槍騎兵艦隊(ビッテンフェルト艦隊に旧ファーレンハイト艦隊を含む)の後退までは持ちこたえた。だがこの時フィッシャーが戦死し、ヤン艦隊は艦隊運用の要を失ってしまう(フィッシャーの艦隊運用に依存する所が大であったヤン艦隊にとっては致命傷であった)。しかし、同時に帝国軍も多大な犠牲を出し、純戦術的には帝国軍の猛攻をヤン艦隊が耐え抜き、帝国軍が一時撤退を余儀なくされたという状況であった。

ヤンは意気消沈しつつ機雷を敷設しなおし、帝国軍の撤退を見て、イゼルローンに一時戻る事を決めたが、その途中である18日、ラインハルトから停戦と会見を呼びかける通信文が届き、戦闘は終了した。帝国艦隊と異なり連戦を強いられたヤン艦隊のメンバーは、出番のなかったローゼンリッターのメンバーを除き、過度の睡眠不足となっており、フィッシャーを失ったことによる艦隊運用の困難とあいまって、これ以上戦闘を継続するのは不可能といえる状態まで追い込まれており、この時に帝国軍がさらなる攻撃を行っていれば、ヤン艦隊の敗北は必至の状況(もちろん帝国軍はその事実を正確に把握していないが)であった。この時、帝国軍は200万の将兵と2万2400隻を失った。

なお、ラインハルトが圧倒的に有利な状況にありながら停戦と会見を呼びかけたことに対し、ヒルダは、ヤンに対する敬愛、多大な犠牲を出した事への自責の念、戦況の推移に対しての苛立ち、そして戦闘以外で状況を打開できないかというラインハルトの総合的な判断によるものであると推察した。しかし、ラインハルト自身はあくまでも「キルヒアイスが夢に出てきて、これ以上の流血は無用と諌めた」と主張した。そして、帝国軍の誰もがそれで納得した。

ヤン・ウェンリー暗殺事件[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年6月1日2時55分

5月20日、イゼルローン軍はラインハルトからの通信文を討議した上で、会見に応じる事を決定し、5月25日、ヤン及び随員のパトリチェフ、ブルームハルト、スール、加えてロムスキーとその側近達がラインハルトとの会見に応じるため巡航艦のレダIIで出発した。なお、ヤンの副官であるフレデリカは風邪で同行出来なかった。また、明確な理由は不明ながら、ヤンはユリアンを同行させなかった。

レダIIが出発して3日後、ボリス・コーネフ達がイゼルローンとの通信可能宙域に到着し、アンドリュー・フォークがヤンの暗殺を謀っているという情報をもたらした。ユリアンやシェーンコップ達は直ちにレダIIの後を追った。

5月31日23時50分、3次元チェスを終えたヤンは、自室に向かってシャワーを浴び、翌6月1日0時25分にベッドに入ったが、寝付けないため睡眠導入剤を服用して怪奇小説を読み始めた。0時45分、眠ろうとしたヤンの元に「帝国軍(の内部に浸透していた地球教の暗殺部隊)からフォークの暗殺計画と武装商船の奪取に関する通信が届いたため艦橋に来て欲しい」と連絡が入った。薬のため半分寝ぼけた状態のヤンが艦橋に出向いたのと前後して、フォークが乗っ取った武装商船を帝国軍の駆逐艦が破壊したと通信が入った。挨拶のため移乗したいという駆逐艦からの要請にスールは疑問を口にしたが、ロムスキーやその側近は要請を受諾した。レダIIに移乗した途端に本来の姿を現した地球教徒達は、ロムスキー達を射殺してヤンを探し始めた。事態の急変に気が付いたヤンの随員達は、ヤンを逃がす一方で応撃を開始したが、ヤンを奥の扉に押し込んだパトリチェフが射殺され、続いてスールが負傷した。

2時4分、レダIIと帝国軍の駆逐艦がいる宙域にユリシーズが到着し、ユリアンとマシュンゴ、そしてシェーンコップが率いるローゼンリッターの隊員達がレタIIに乗り込んで来た。ユリアン達は敵を倒しながらヤンを探し始めた。

2時40分、一人で船内を歩いていたヤンの前に、帝国軍の軍服を来た男が現れ、ヤンを銃撃してそのまま逃走した。太ももの動脈叢(そう)を撃ち抜かれたヤンは、多量の出血によって立っていられなくなり、通路の壁ぎわに座り込んで、そのまま意識を失くし、2時55分に死亡した。33歳であった。

3時5分、ユリアンがヤンの遺体を発見した。直後に現れた帝国軍の軍服を着た数名がユリアンの狂乱によって殴り殺された後、マシュンゴが死体を抱きかかえてシェーンコップ達の元に戻った。ブルームハルトの死を見届けたシェーンコップは、続いてヤンの死を知り、震える手で敬礼を施した後、ユリアンに敵が地球教徒である事を知らせた。ヤン達の遺体と生け捕りにした地球教徒をユリシーズに移した後、3時30分、ユリアン達はその場を離れた。

6月3日11時30分、ユリシーズがイゼルローンに帰還した。ユリアンはキャゼルヌ夫人に促されて自分でフレデリカに報告し、6日、司令官代行としてヤンの葬儀を行った。同日19時10分、イゼルローンから発せられたヤンの死を知らせる通信文を帝国軍が受信し、25分、ヒルダによってラインハルトの元に届けられた。ラインハルトは憤激にかられてヒルダに八つ当たりした後落ち着きを取り戻し、ミュラーを弔問の使者に指名した。

結局ラインハルトは喪中の敵を討つを潔しとせず、またミッターマイヤーはイゼルローン攻略に元より反対だった事から、帝国軍は撤退する事になった。ロイエンタールはヤン存命中の(採るべき)戦略が死後においてもそうとは限らない(ヤンがいたからこそイゼルローン攻略はすべきではなかったのであり、ヤンがいない今は攻略の好機)という事から撤退には賛成では無かったのだが、ラインハルトとミッターマイヤー双方が攻略に反対しているなら自分のほうが折れるべきという事で、撤退に賛成する事になる。翌7日、帝国全軍に撤退命令が発令され、各提督達は戦後処理に奔走する事となった。

ウルヴァシー事件[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年10月7日。ガンダルヴァ星系の惑星ウルヴァシーで発生したラインハルト暗殺未遂事件。

9月9日、新領土の総督となったロイエンタールがラインハルトに行幸を求めた。これと前後してロイエンタールの叛意が帝都で噂になっており、それに基づいてオーベルシュタインが自制を求めたが、ラインハルトはそれを却下し、一個艦隊の護衛も拒絶した。だが今回は、ミッターマイヤー以外の提督達も不安を拭い切れず、ラインハルトに指名されたミュラーに加え、ルッツも、ハイネセンにいる妹とその夫の話を持ち出して同行を志願した。ラインハルトはこれを認め、さらにミッターマイヤーの提案によって50~100隻の護衛が認められた。なお、これに先立って私的な問題が生じていたヒルダはフェザーンに残留した。

10月7日、ハイネセンに先立って戦没者慰霊のためにウルヴァシーに立ち寄り、21時10分に司令部に隣接した迎賓館に入った一行は、23時30分になって、ヴィンクラー中将率いる駐留軍50万の動向に不審な様子がある事を知り、とりあえず総旗艦ブリュンヒルトに戻る事を決めた。だが軍事宇宙港に向かう途中で車が襲撃され、さらに通信でブリュンヒルトが攻撃を受けている事が判明したため、一行は近隣の人造湖でブリュンヒルトと合流する事にした。車を捨てて人造湖に向かう途中で、虚報でおびき出されていたリュッケとも合流したが、その直後にラインハルトを狙う帝国軍人達と遭遇した(その上官の言葉でラインハルトに賞金10億帝国マルクがかけられている事が判明している)。その一人が寝返って仲間を撃ち、謝罪の後に同行を許されたが、直後に後続の追撃者に射殺されてしまい、このままでは追撃されると判断したルッツが、居残って退路を守る事を申し出た。ミュラーは反対し、更にミュラーに加えてキスリングも残ると申し出たが、ルッツの決意が固いと察し、苦渋の思いで銃のエネルギー・パックを渡して先を急いだ。ラインハルトはルッツに、最後は降伏しろと命じたが、ルッツはそれに反してブリュンヒルトが離水するまで抵抗を続け、最後は左胸部と側頭部を撃ち抜かれて絶命した。

この事件は、グリルパルツァーの調査によって地球教の仕業と判明したが、背後でラングとルビンスキーが暗躍し、ロイエンタールが叛するように仕向けていた様子がうかがえる。しかし、自分の立場を強化することを考えたグリルパルツァーにより、地球教によるものという情報が隠匿され、ルッツの死も重なってロイエンタールは叛逆せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。この2つの要素が無ければこの謀略は成功していなかった可能性があるとも言われている。なお、後になってメックリンガーによる再調査が行われ、事件の真相が明らかになった。

第2次ランテマリオ会戦[編集]

宇宙暦800年/新帝国暦2年11月24日~。叛乱を起こしたロイエンタールと、討伐を命じられたミッターマイヤーの戦い。「双璧の争覇戦」とも。

きっかけとなったウルヴァシー事件が発生したのは10月7日、叛乱発生の日時は明確な宣戦布告が無いため不明だが、行方不明だったブリュンヒルトが発見された10月29日には、既に叛乱が既成事実となっていた。ラインハルトがミッターマイヤーに(拒否権付きで)討伐を命じたのは11月1日、ミッターマイヤー艦隊及び配下に加わったビッテンフェルト、ワーレン艦隊が影の城付近に集結したのは同4日、ラインハルトがロイエンタールの新領土総督の地位と元帥号を剥奪したのは同16日(会戦後に元帥号剥奪は撤回されている)、同日ロイエンタールはミッターマイヤーと最後の交信を行ったが、交渉は決裂している。

ロイエンタール側の兵力は艦艇35,800隻/522万6400人(ただしこれは新領土総督に任じられた時の兵力。その後の損害や脱落は不明だが、開戦時に約520万と記述されている)。配下のグリルパルツァーは、派遣されていたウルヴァシーの捜査から戻ってきた時点で裏切りを企んでいたが、表面上は叛乱に同調し、クナップシュタインもグリルパルツァーに説得されてロイエンタールに協力を約束した。

ミッターマイヤー側の兵力はビッテンフェルト、ワーレン両艦隊を合わせて艦艇42,770隻/将兵460万8900人。これに加えてメックリンガー艦隊11,900隻がイゼルローン方面から侵攻している。ただし開戦時はミッターマイヤー艦隊(将兵259万人)のみであり、ビッテンフェルト、ワーレンは遅れて戦場に到達する。

11月24日9時50分。対峙した両艦隊は正面から砲撃戦を開始した。当初は戦力差からミッターマイヤーが不利だったが、機動能力を最大限活用して戦況を拮抗させていた。25日8時30分、ビッテンフェルト艦隊の内脱落を免れた約1万隻が戦場に到着し、ロイエンタール軍の左翼に攻撃を開始した。同日19時、ワーレン艦隊が到着し、戦力比はほぼ対等となった。だがその直後、バイエルラインの分艦隊がロイエンタールの策略で包囲網に引きずり込まれて損害を出し、副司令官のレマー中将は戦死した。

ミッターマイヤーはロイエンタール軍の弱点が、配下になって間もないクナップシュタインやグリルパルツァーにあると考え、攻撃を集中した。29日6時9分、クナップシュタインが乗艦もろとも戦死。そのためクナップシュタイン艦隊は指揮系統を失い戦力を低下させたが、ロイエンタールは巧緻を極めて不利な戦況を転換し、旧ファーレンハイト艦隊と合併したばかりで統合がまだスムーズでないビッテンフェルト艦隊に打撃を与えた。ビッテンフェルト艦隊の各艦艇は後退の気配を見せたが、「退く奴は砲撃する」というビッテンフェルトの暴言をオイゲンが通信で流したため、かろうじて踏みとどまり、シュワルツ・ランツェンレイターと旧ファーレンハイト艦隊との反目も逆に好作用して猛反撃に転じた。30日16時、そのビッテンフェルト艦隊が後退してロイエンタール軍が一時優勢となり、火力と機動力を駆使して左側面から反包囲しようと試みたが、ワーレン艦隊の奮闘で阻止された。

戦闘はその後も続いたが、12月3日、メックリンガー艦隊がイゼルローン回廊を通過してハイネセンに向っているという報告を受けたロイエンタールは、戦闘継続を断念して後退に転じた。ミッターマイヤーはなおも追撃したが、12月7日、反転迎撃を始めようとしたロイエンタール軍に、その一艦隊であるグリルパルツァー艦隊が攻撃を加え始めた。裏切りに気がついたロイエンタールは反撃に転じたが、乗艦のトリスタンが被弾し、吹き飛ばされた艦の建材の一部がロイエンタールの左胸部を貫いた。また、グリルパルツァー艦隊の裏切り行為に対して、最も反撃を試みたのは戦闘中裏切るつもりであったことを知らなかったクナップシュタインの残存艦隊であったのは皮肉といえる。彼らは上官であるクナップシュタインが最後までロイエンタールに忠節を尽くした末に戦死したと思い込んでいた為、それを嘲笑うかのように土壇場でロイエンタールを裏切ったグリルパルツァーの背信行為に怒り狂い、自発的に猛反撃を敢行した。一方のグリルパルツァーの部下たちもまた、上官の背信行為を知らされていなかった為、突然味方を裏切れという命令に困惑し、躊躇している間に反撃を受けて爆沈される艦が相次いだ。最終的にグリルパルツァーは返り討ちにされ、ロイエンタール艦隊主力は指揮系統の潰乱により烏合の衆と化したが、ディッタースドルフ分艦隊が殿軍として残り、ロイエンタールは戦場を脱出してハイネセンに撤収、戦闘は終了した。

ロイエンタールは瀕死の身ながらなお毅然としてハイネセンに帰り着き、民事長官エルスハイマーの軟禁を解いて政務と軍務の全権を掌握してほしいと頼みこれを承諾させる。そして、ヨブ・トリューニヒトを呼び出すが、席上ラインハルトに対する侮辱の言葉を吐いたトリューニヒトを射殺する。次にエルフリーデ・フォン・コールラウシュが初めてロイエンタールとの子を連れて現れる。ロイエンタールはミッターマイヤーにその子を託せと言って殺すなら自分の銃を使えと言うが、エルフリーデ・フォン・コールラウシュは子供を置いていずこかに消えてしまう。酒盃を前にミッターマイヤーを待ったが、ミッターマイヤーは親友の死に際に間に合わなかった。また、副司令であったベルゲングリューンも直後にロイエンタールの後を追う形で自ら命を絶った。

第11次イゼルローン攻防戦[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年2月12日~14日。イゼルローン(共和政府)革命軍と帝国軍艦隊との交戦。ユリアンが初めて作戦を立案し、艦隊指揮を執った作戦でもある。この年の初頭からハイネセンで頻発したテロや暴動に関連して、イゼルローン共和政府の立場を明確にしなければならないという政略的配慮が必要になり、ユリアンが戦う事を決断した。

イゼルローン軍が進発したのは2月7日。回廊の帝国本土方面の警備を担当していたヴァーゲンザイル艦隊に向かい、それを知ったワーレン艦隊は後背を突くため2月8日に進発した。この時点で、ヴァーゲンザイル艦隊は8,500隻、旧同盟領に駐留するワーレン艦隊は15,600隻。対するイゼルローン軍はユリアン率いる本隊が6,600隻、これに加えてメルカッツが率いる別働隊が本隊に先発して出撃し旧同盟領方面に布陣した。

戦闘開始は2月12日4時35分、帝国本土方面の出口に近い宙域で、イゼルローン軍本隊とヴァーゲンザイル艦隊が交戦を始めた。砲撃戦に加えて単座式戦闘艇どうしの空中戦が展開され、ポプラン率いるスパルタニアンのチームが損失16機に対してワルキューレ104機撃墜という戦史に残る戦果をあげた。イゼルローン要塞に近づけてトゥールハンマーを使うというのがイゼルローン軍の作戦であったため、全体としては帝国軍が進み、イゼルローン軍は後退した。ヴァーゲンザイルはこの作戦に気がついていたが、平行追撃に持ち込めばトゥールハンマーを無力化出来ると考え、前進を続けた。

2日間の退却戦の後、イゼルローン軍はヴァーゲンザイル艦隊をトゥールハンマーの射程に引きずり込んだ。それに気がついたヴァーゲンザイルは退却を始めたが、トゥールハンマーの一撃を受けて混乱状態に陥った。一方のユリアンは逆方向から進撃するワーレン艦隊に向った。この時点でヴァーゲンザイル艦隊はメルカッツの別働隊を認識出来る位置にあったが、自分達が逃げるのに精一杯でワーレン艦隊にその報告をしなかった。

一方ワーレン艦隊はヴァーゲンザイル艦隊の援護のために危険宙域に留まり、トゥールハンマーのエネルギー充填までの時間を見計らってイゼルローン本隊と交戦に移った。時間的にも数的にも勝算はあったが、それまでワーレン艦隊の死角に潜んでいたメルカッツの別働隊が左側面から攻撃を開始し、結果としてワーレン艦隊はトゥールハンマーの直前で立往生する形となった。艦隊運用の目論みが外れたワーレンは態勢を整えつつ撤退を始めようとしたが、20時15分エネルギー充填を完了したトゥールハンマーの砲撃を受け、さらに200秒後に第2撃を受けた。多数の艦艇が破壊もしくは戦闘不能となったワーレンは、ヴァーゲンザイル艦隊の撤退を確認した上で、20時45分に撤退命令を出した。

21時40分に帝国軍の完全撤退を確認したユリアンはイゼルローン要塞へ帰還。帝国軍の戦死者は推定40万とささやかなものではあったが、ヤンの死後民主共和勢力が初めて帝国軍に勝利したという意味で政治的に大きな勝利となった。

オーベルシュタインの草刈り[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年3月21日~5月20日第11次イゼルローン攻防戦での敗退や新領土で発生している混乱に対して、帝国は2月18日に皇帝親征を行う事を発表した。だが翌19日になってラインハルトが高熱を発し、3日間も下がらないという状態になったため、親征は延期され、その代わりに軍務尚書のオーベルシュタインが全権代理として派遣された。

3月20日にハイネセンに到着したオーベルシュタインは、翌日から直属の陸戦部隊を使って「危険人物」とされる旧同盟の要人[27]を始めとして五千人以上を連行/収監し、4月10日、イゼルローン共和政府及び軍に対して、彼らの解放を欲するのならハイネセンに出頭せよと通達した。

これに先立つ4月1日、オーベルシュタインに同行していたビッテンフェルトとミュラー、及びガンダルヴァ星域から到着していたワーレンが、その方法を良しとせずオーベルシュタインに談判を持ちかけたが、論争の過程でオーベルシュタインが帝国の実戦部隊に対する誹謗(言われた側はそう受けとった)を口にしたため、ビッテンフェルトがオーベルシュタインにつかみかかるという事態が発生した。ビッテンフェルトは謹慎を命じられ、ミュラーとワーレンも退去を命じられた。4月4日、この経緯がラインハルトに知らされ、ラインハルトはヒルダと相談の上、延期になっていた皇帝親征を行う事を決めた。なお、ビッテンフェルトの処分に対する黒色槍騎兵艦隊の反発は大きく、4月6日にはダウンディング街において黒色槍騎兵艦隊の兵士がオーベルシュタイン指揮下の憲兵隊と乱闘に発展。乱闘は発生わずか30分で1個分隊規模から1個連隊規模へ拡大し双方に多数の重軽傷者を出した挙句、最終的には双方ともバリケードを挟んで互いに銃を向けあう騒ぎとなり、ワーレンやミュラーがこの事態の解決に奔走することとなった。

イゼルローン側は議論の末、政府代表のフレデリカと軍代表のユリアン、及び軍幹部のシェーンコップやアッテンボローがハイネセンに向かう事になった、また「佐官は残れ」というシェーンコップの提案をリンツやスールは不承不承ながら受諾したが、ポプランは無視して強引に同行した。なお、キャゼルヌは、名目上は留守のイゼルローン要塞を管理運営する責任から(ただし本当は家族がいるため)、メルカッツはユリアンの懇請によって艦隊運用のために残留した。

4月16日、旧同盟要人を収監したラグプール刑務所での暴動をきっかけにハイネセン各所でテロ事件が発生、騒乱状態となる。4月17日、乗艦のユリシーズ及び護衛部隊が回廊を出て帝国の哨戒域に入った時点でハイネセンの状況が届き、彼らは様子を見るため一旦引き上げる事となった。しかし18日、随行する巡航艦の故障がきっかけとなり、百隻ほどの帝国艦隊に追撃される事態が生じた。アッテンボローの艦隊運用によって回廊に逃げ込む事に成功し、さらにメルカッツの救援によって回廊内で安全を確保したが、ユリアンは今後の展開を見越してフレデリカのみをイゼルローン要塞に戻し、そのまま回廊の出口付近に艦隊を展開させた。

一方、騒乱事件の報はハイネセンに向かっているラインハルトにもたらされ、ラインハルトはオーベルシュタインの不手際を責めた。オーベルシュタインはその叱咤を受けながらも、4月29日にはルビンスキーを逮捕している。5月2日、ハイネセンに到着したラインハルトは、御前会議の席でビッテンフェルトによる謝罪と告発を処理した後、収監していた者たちを5月20日に解放する事を公表し、同時に、改めてイゼルローン共和政府に対して出頭を呼びかけた。これによってラインハルトは旧同盟人民より賞賛を受け、オーベルシュタインへの反感はラインハルトへの好感へと変わった。そして政治的に不利になった事を悟ったユリアンは出頭する事を考え始めていたが、実行する前にシヴァ星域会戦が発生した。

柊館(シュテッヒパルム・シュロス)炎上事件[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年5月14日。フェザーンで発生したテロ事件。

11時15分、憲兵本部に「地球教のテロ」を予告する匿名の電話があり、その15分後にローフテン地区の油脂貯蔵庫で爆発が発生、さらに市外との通信システムの一部が破壊されるなど各所で連続して異変が生じたため、憲兵隊と首都防衛部隊は戦力を分散させて対処した。これがテロを起こした犯人の目的だった事が後に判明したが、この日、ケスラーが視察のため帝国中心地区を離れていたため、当初この目論見に気が付くものはいなかった。15時になってようやくケスラーが事情を知り、目的がヒルダとそのお腹の子供である事を察知して兵力をヒルダ達のいる柊館(柊宮)に向かわせたが、既に暗殺犯たちは柊館に入っていた。

この日、アンネローゼが柊館を訪ねてきており、暗殺犯たちが次々に二人を狙ってきた。ケスラー達は館の外までたどり着いていたが、館に火事が発生しており、探査システムが役に立たないため動きがとれなかった。だが、その時外出先から戻ってきた近侍のマリーカ・フォン・フォイエルバッハがヒルダ達の所在をケスラーに教え、ケスラーは単身乗り込んで暗殺犯を射殺し、ヒルダとアンネローゼを救い出した。だがその時、ヒルダに陣痛が発生しており、アンネローゼやマリーカに付き添われて病院に搬送された。19時40分、柊館が焼け落ち、事件は一応終息した。一方、22時50分、ヒルダが(後にアレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムと名づけられる)男児を産んだ。

なお、この事件を通じて知り合ったケスラーとマリーカは、ヒルダが取り持つ形で交際を始め、2年後に結婚している。

エフライム街の戦闘[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年5月17日~18日。憲兵隊による地球教の活動根拠地の制圧。

柊館事件で逮捕した地球教徒に対し、憲兵隊は自白剤を使った尋問を行い、フェザーンでの活動根拠地がエフライム街40番地にある事、ヒルダと皇子のいるフェザーン医科大学付属病院の襲撃を企てていることを突き止めた。ケスラーが率いる武装憲兵10個中隊が包囲し、17日22時に戦闘が開始され、18日1時30分に戦闘が終了した。ケスラーいわく「美の一分子もない」死闘の果て、地球教徒224名のうち死亡221名(うち29名が服毒自殺)、重傷3名。憲兵隊側も27名の死亡者を出している。

シヴァ星域会戦[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年5月29日~6月1日。民間宇宙船ニュー・センチュリー号に端を発する遭遇戦によって始まったイゼルローン革命軍と帝国軍本隊との戦闘。物語上の帝国側対共和主義者という図式の戦いはこれが最後となる。この戦いの後、イゼルローン共和政府とローエングラム王朝との間で和平交渉が行われ、イゼルローン要塞の明け渡しやバーラト星系の自治などが合意に至った。また、帝国側の主人公ラインハルトの生涯最後の戦いでもある。

前哨戦[編集]

5月末、亡命者900名を乗せた民間宇宙船ニュー・センチュリー号がイゼルローン回廊に入る直前、動力部に異常が発生して救援信号を発した。信号は両軍を呼び寄せ、結果として戦闘が開始された。

当初はイゼルローン軍約2,000隻と、それより少ない帝国軍の警備部隊との小競り合いで始まったが、ドロイゼン艦隊数千隻が援軍に駆けつけ、一方のイゼルローン軍も要塞に援軍を求めた。戦闘開始2時間後にドロイゼンは戦略的価値を見出せない事を悟って艦隊を撤退させたが、イゼルローン軍が反転撤退出来ないように追撃の姿勢を解かなかったため、イゼルローン軍はその場に留まらざるをえなかった。一方、ハイネセンに駐留していた帝国本隊にこの戦いが報告され、ラインハルトは自ら進発する事を宣言した。

本戦[編集]

戦闘開始は5月29日8時50分。帝国軍の兵力は艦艇5万1700隻/将兵584万2400人、イゼルローン軍は9,800隻/56万7200人。戦闘開始15分後にイゼルローン軍は撤退を開始したが、帝国軍はそれはトゥールハンマーの射程に引きずり込む罠だと承知しており、戦局は一進一退を繰り返す形となった。

イゼルローン軍はヤン亡き後に多数の脱落者が発生したダメージから脱却しきっておらず、人手不足に陥っていた。そのため、相当な数の艦艇を無人操作による形だけの運用を行わざるを得ない状況で、実戦力はさらに乏しかった。しかし帝国軍の方も、この時点で総指揮官のラインハルトが体調不良に陥っており、軍の動きが鈍重になっていたため、かろうじて戦線が保たれていた。この状態に限界を感じていたビッテンフェルトは、30日23時30分に猛進を開始し、イゼルローン軍左翼のアッテンボロー分艦隊に損害を与えた。これにより、イゼルローン軍は一旦撤退する様子を見せ、ビッテンフェルトは31日2時40分にラインハルトに追撃を具申した。仮眠中だったラインハルトはベッドから起きたが、艦橋に入った途端に昏倒してしまうほど、病状は深刻だった。

大本営幕僚総監のメックリンガーは事の重大性を踏まえて事態の秘匿を謀ったが、艦隊司令長官のミッターマイヤーが乗りこんでいるベイオウルフだけには報告を入れた。ミッターマイヤーは通信の封鎖を大本営に要請した。

だが、すでにポプランがスパルタニアンの通信回路に入ってきた「皇帝、不予(貴人の病気を指す雅語)」の報をユリアンに知らせていた。ユリアンもまた愕然としつつ、知らせて来たポプランとシェーンコップ、メルカッツ、アッテンボローを集めて会議を開いた。ユリアンはこのまま撤退しても帝国艦隊は追撃して来ないだろう(すなわちトゥールハンマーの射程に誘い込むのは不可能)、そして再戦の機会があってもその時も状況は今より不利になるであろうとして、「この機に乗じて強襲揚陸艦でブリュンヒルトに乗り込み、ラインハルトを倒す」というシェーンコップの提案を採択した。そしてユリアンは自らも乗り込んでラインハルトに直談判する事を決め、ポプランとマシュンゴが同行した。

6月1日1時、イゼルローン軍はメルカッツとアッテンボローによる艦隊運用と、ユリアンによる無人艦隊の自爆撹乱というヤン直伝の奇策で帝国軍前衛部隊の態勢を崩し、そこから強襲揚陸艦イストリアを突入させ、1時55分、ブリュンヒルトにユリアン達とローゼンリッターを送り込んだ。

この時ユリアンの顔を知っていたミュラーが、敵主将自らの突入という非常事態に気づいたが、ラインハルトは「そのミンツなる者に予の元まで自力でたどり着くだけの力があるのなら、会談に応じてもよい。それだけの力もないのなら、何を要求する資格もない」と一切の手出しを禁じた。

一方、ブリュンヒルトを巻き添えにすることを恐れて手出しも救援もできない帝国艦隊は、その腹いせにイゼルローン軍への総攻撃を開始。その砲火はついにメルカッツの乗艦ヒューベリオンを捕らえ、メルカッツはついに望んでいた死に場所を得た。そしてブリュンヒルト艦内ではユリアンとポプラン、マシュンゴはラインハルトの元に向かい、ローゼンリッターが居残って追撃を防ぐことになった。だがその追撃は激烈を極め、屍山血河の中で一瞬の油断を突かれたシェーンコップもまたこの世を去った。さらにマシュンゴがユリアンを庇って銃撃を受け戦死し、ポプランは立ちはだかる親衛隊長キスリングと一騎討ちをしながらユリアンに前進を促した。

そしてユリアンはついにただ一人となり、それでもなお吶喊してラインハルトの居室に進み入り、ミッターマイヤーとミュラーが見守る中、ラインハルトに交渉の用意がある事を告げつつ失神した。ラインハルトはミッターマイヤーに戦闘停止を告げさせ、戦闘は終結した。結局、シェーンコップ、メルカッツ、マシュンゴらを含めてイゼルローン軍は参加者52万人の内20万人余の戦死者を出した(なお、この6月1日はヤン・ウェンリーの命日でもある)。帝国軍は主要提督の戦死は無かったが、ラインハルトが不治の病に侵されている事が知らされた。

ルビンスキーの火祭り[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年6月13日~3日間。ハイネセン・ポリスで発生した爆破炎上事件。後日判明した犯人の名前から、一般的な俗称として広まった。

13日20時に、脳腫瘍で市内の病院に入院していたアドリアン・ルビンスキーが、自ら生命維持装置を外して死に至った。その途端、地下で大規模な爆発が発生、旧同盟の最高評議会ビルが崩壊したのを始め多くのビルが倒壊した。同時に市内各処で火災が発生し、3日間に渡って炎上が続いた。市街地の30パーセントが焼失し、死者及び行方不明者は5000人をこえた。また、仮設大本営が置かれていた国立美術館も火災をまぬがれず、ビッテンフェルト達が避難を嫌がるラインハルトを無理やり救出したが、美術品の搬出には全く関心を示さなかったため、その後、メックリンガーから暗に非難された。

一方、オーベルシュタインが憲兵隊に不審人物を検挙させたが、その中にドミニク・サン・ピエールがいたため尋問を始めた。ドミニクは、この事件がルビンスキーによるラインハルトの殺害を狙ったテロである事を白状し、事件の真相が明白になった。

仮皇宮の戦闘[編集]

宇宙暦801年/新帝国暦3年7月26日、フェザーンのヴェルゼーデ仮皇宮で発生したテロ事件。この日、ラインハルトが危篤状態に陥っており、アンネローゼ、帝国の提督達、及びユリアン一行が仮皇宮に集められていた。なお、ミッターマイヤーだけは、家族を連れてきて欲しいというラインハルトとヒルダの頼みにより、仮皇宮を離れていた。

7月8日に正体が発覚したレオポルド・シューマッハの証言から、地球教徒の残党グループ約30名がラインハルトの命を狙っている事が判明し、オーベルシュタインに報告された。オーベルシュタインはそれを逆用して、偽情報を流して残党グループがヴェルゼーデ仮皇宮を襲撃するように仕向け、一網打尽にする事を謀った。ラインハルトを囮にするという方策を聞かされた提督達は(それでなくてもラインハルトの病状に精神状態が不安定だった事もあって)激高したが、既に事態は動いており、まず襲撃に対処する必要があった。

20時15分、ケスラーの部下が最初の一人を射殺し、同時にユリアン達も動き始めた。当初、彼らは武器を持っていなかったが、射殺された地球教徒を発見してアッテンボローがブラスターを手に入れ、さらにそれで別の地球教徒を撃退して武器を手に入れた(OVA版では、この地球教徒が2丁の銃を持っていたので、ここでユリアンとポプランも武器を手にしている)。

20時25分、ある一室が爆破され、在室していたオーベルシュタインが死に至る重傷を負った(後日の証言によると、地球教徒はこの部屋にラインハルトがいると信じ込んでいた。オーベルシュタインが自ら囮になったのかどうかは不明)。この直後、地球教徒の1グループが逃げようとする所をユリアン達が追撃し、足止めした一人を除いて射殺したが、その一人がド・ヴィリエだった。相手がヤンの仇だと気が付いたユリアンは、乱心した様子でド・ヴィリエを射殺したが、その直後に帝国軍の兵士達が現れたため、ユリアン達は武器を放棄して戦闘継続を断念した(OVA版では、ワーレンがこの帝国軍の兵士達を引き連れており、ユリアン達とは早急な意思の疎通が成立している)。

戦闘後、ミッターマイヤーが家族を伴って仮皇宮に戻ってきた。そして23時29分、ラインハルトが崩御し、ミッターマイヤー一家の退場シーンを最後に、物語本編が終了した。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 貴族社会の内部でも対立と搾取と不平等が横行しているという構図は、原作にはあまりない視点であった。

出典[編集]

  1. ^ OVA版56話によると凡そ、アラスカを除く北米南米太平洋沿岸、北海道を除く日本東アジア東南アジア南アジア西アジア北欧イギリス中央ヨーロッパの一部、南西ヨーロッパアフリカの一部とオーストラリア西部
  2. ^ OVA版56話によると凡そ、ロシアアラスカ北海道中央アジア及び東欧中央ヨーロッパの一部、西ヨーロッパ南ヨーロッパ南東ヨーロッパ南米大西洋沿岸、アフリカの一部と、オーストラリア東部を含むメラネシアポリネシアの大部分
  3. ^ 宇宙暦799年/新帝国暦1年7月27日
  4. ^ 原作では詳細な月日は不明。OVA版では、同年5月の第5次イゼルローン攻防戦(後述)の前に行われた戦いだとのみ設定された。
  5. ^ OVA版では、隕石群に隠れて奇襲を狙っていた。
  6. ^ このような比較的軽い処罰で済んだのは、皇帝フリードリヒ4世の重病が完治し、恩赦が行われたためとある。
  7. ^ OVAでは遺体を確認したキルヒアイスが「減圧事故」と説明している。
  8. ^ OVA版ではペルーンのディスプレイに8の文字が出ており、アップルトン中将の第8艦隊とわかる
  9. ^ OVA版では、戦局が一進一退でパッとせず、そろそろ何か武勲を上げてみせないとミュッケンベルガー本人の立場と面目に関わってくるという理由が付与された。
  10. ^ 32歳。後にヤン(当時29歳)に記録を抜かれる。
  11. ^ OVA版では熱弁を繰り広げるホーランドに対し、他の艦隊司令官達が怪訝な眼差しで彼を見つめる描写がある。
  12. ^ 会戦途中のグリーンヒルの弁。会戦途中での計算のため最終的な損害はより多かった。
  13. ^ 彼らと思しき人物が作戦会議に参加しているのが確認できるものの、容姿はOVA本編と大きく異なっている。
  14. ^ ただし、戦闘終了後に謝罪をしに来たパエッタが飲みに誘ったのをヤンは無碍に断っており、それによって心証を害されたことが示唆されている。
  15. ^ STORY銀河英雄伝説公式サイト
  16. ^ コミックス新書版第1巻P148を参照
  17. ^ 機械は同盟側が用意した偽造IDを認証したが、フォン・ラーケン艦長(シェーンコップ)を不審に思った警備主任レムラー少佐が認証されなかったように装い揺さぶりをかけた。
  18. ^ なお、この作戦の成功によって同盟はイゼルローン要塞を得るのと引き換えに、要塞内にいた50万人という数の帝国軍将兵を捕虜として抱え込むことになり、結果捕虜に対する財政面での負担も増すという負の側面もあった。
  19. ^ もともとシャンタウ星域は作戦全体に不可欠な星域ではなく、勢力拡大にともなって確保しただけの場所であった。
  20. ^ 本節では原作小説と道原版コミック、OVA、「Die Neue These」を指す。
  21. ^ 一例として、他メディアでは最後の攻防戦前にブラウンシュヴァイク公爵が現実逃避のための宴会を催しており、その中で「金髪の儒子を倒して、その頭蓋骨で杯を作ってやる」などとうそぶき、フレーゲル男爵を中心とした取り巻きが同調する描写があったが、藤崎版ではそのような空元気すら出せないほどにやつれ果てていた。
  22. ^ 他メディアでもそのような考えを持つ人物がいたことは描写されていたが、未遂を含めて実行に移されることはなかった。
  23. ^ 他メディアではアンスバッハの役目である。
  24. ^ 戦闘序盤、作戦が順調に進んでいる際にミュラーに対し、「イゼルローン攻防戦で勝利すれば、この場所は"ケンプ・ミュラー回廊"になるかもしれない」といった冗談にならない冗談を語り、一転して陰りが見え始めると、本国に「我が軍有利」とだけ状況報告したり、ミュラーの救援を指示する際には司令官席に当たるなどしていた。同様の疑念はアイヘンドルフ/パトリッケンらも感じている。
  25. ^ STORY・本編3期アニメ版公式サイト
  26. ^ 銀河英雄伝説 ON THE WEB - ストーリー紹介 本伝 第3期”. www.ginei.jp. 2019年11月12日閲覧。
  27. ^ 例として、旧同盟政府で人的資源委員会委員長を務めたホワン・ルイ、ヤン艦隊の参謀長を務めていたムライ元中将、旧同盟軍において第2艦隊司令官や第1艦隊司令官を歴任したパエッタ元中将、旧同盟の歴代政権のブレーンとなった元同盟自治大学学長のエンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ博士が挙げられる。

関連項目[編集]