行政対象暴力

行政対象暴力(ぎょうせいたいしょうぼうりょく)とは、暴力団等の反社会的勢力、または過剰な要求をする民間(民間企業、団体、個人)等が金銭や各種の利権その他の経済的・金銭的利益・特権を供与させるために地方公共団体その他の行政機関またはその職員などを対象として、「差別」批判・威力・暴力等を背景に行政サービスの提供や公的給付の支給などを威圧的な言動・居座りといった手段で要求する違法または不当な要求を行う行為全般のことである。対行政暴力(たいぎょうせいぼうりょく)、官対象暴力(かんたいしょうぼうりょく)とも称する。官暴(かんぼう)とは後者を略したものであり、「官による暴力」という意味ではない。

かつて完全にタブーになっていたが、2000年代後期以降から同和行政を悪用した部落解放同盟等の部落関係団体による行政対象暴力や同和利権等も摘発されるようになった[1]。 2019年の全国自治体アンケートでは、過去1年間の不当要求者の「一般市民」が67.3%を占めている[注 1][2]

概説[編集]

大まかに言えば民事介入暴力の類型の一つであり、脅迫または強迫によって義務のないことを行わされる点では同一のものであると言える。大きく異なるのは、行政機関に対して金品の直接的な要求だけではなく便宜供与(行政指導あるいは許認可)を求めるケースが多い[注 2]点にあり、その結果的、被害者たる行政機関(あるいは行政機関の職員)が不適切な公権力の行使により新たな不法行為を犯すおそれがある。その後さらに、このことを理由にしてさらなる不当要求をされるおそれもある。そのようなことが起これば、一般的に行政に求められる無謬性効率性公平性等が損なわれ、行政機関の統治機構としての正統性が低下することになる。

また、行政対象暴力は、民事介入暴力に比べて新たに発生した問題[注 3][注 4]であるため、比較的対策が遅れていたが、企業対象暴力への対応を参考とし、弁護士会等と連携して講習を行い、さらに、不当要求への組織的な対応を規定したコンプライアンス(法令遵守)条例や要綱を制定する動きが見られ[注 5]、対策が進められている。また、行政対象暴力は暴力団だけが引き起こすとは限らない。団体・個人等もコンプライアンスの欠如、人権感覚のない者を中心として、これらの行為がなされる場合もある。

一般には暴力団などが実体のない政治団体(右翼標榜暴力団)などの肩書きを隠れ蓑に要求を通そうとするケースや、同和団体など市民運動や社会運動を標榜する者からの不当要求が多く、暴力団などについては基本的には暴力団対策法により対処が行われることになる。

暴力団ではない者の場合は暴力団対策法での対応ができないので、コンプライアンスを遵守しながら、代理人である場合は基本権限の確認や、対応マニュアルに沿った慎重な対応を行う必要がある。ただし悪質な場合に対応するために、各行政機関では行政対象暴力の排除についてもマニュアル化されつつあり、監視カメラや録音機の設置された部屋で警備員同席のもとで応対したり、庁舎管理等に関する省令・訓令・条例等により訪問者に退去命令を出したりすることがある。さらに悪質な場合には、不退去罪などといった法令を適用し警察力で排除することもやむを得ないとする場合も多い。

具体的な手口[編集]

行政対象暴力行為者[編集]

暴力団等の反社会的勢力、 部落解放同盟等の同和団体、その幹部や関係者[1][3]エセ同和団体、「一般市民[2]」など。

具体的な行政対象暴力例[編集]

  • 機関紙雑誌その他の出版物の購入強要
  • 市民活動団体・政治団体・人権団体として、許認可行政指導監督その他の権限などを自己または第三者に有利な形で行使するように強要。
    • 生活保護[1]雇用保険などの違法給付を強要など
    • 自己解釈により、行政調査による確認行為を妨害し、思い通りの申請、届出結果を得ようとする。
    • 老齢年金の裁定請求の際、上部機関に「職員をクビにしろ」旨の文書や交渉を行い、決定される年金額の引き上げを図ろうとする。
    • 企業舎弟公共事業への直接参入(指名競争入札への参加、受注業者に対する下請負参入)を強要
    • 公共事業の受注業者に対する現場への自動販売機の設置・出版物の購入等の斡旋を強要…など
  • 公共工事現場や公道管理瑕疵により発生したトラブルなどに対し、必要以上の補償を求める。
  • 部落解放同盟の力が強大だった高知県では、幹部が関わる縫製企業へ求められるまま県は公的資金を注入だけでなく、予算の違法流用まで行わされていた。実行させらていた公務員は1円も取得していなかったが、行政対象暴力者に逆らわないのが県のためと実行していた[3]
  • 教育委員会に対し、因縁をつけて継続的に恐喝を行う[4]

これらの要求等に対して、以下の手法が用いられる場合が多い。いずれも企業対象暴力でも見られる手法である。

  • 庁舎に侵入して長時間居座る
  • 執拗に電話をかけたり電子メールを送りつける
  • 机を叩いたり蹴ったりするなどして威圧する。また、職員に暴力を振るう
  • えせ同和団体に協力しないことなどに対して、「公務員は差別を容認する」「それが差別だと言っているんだ」などと言いがかりをつける
  • 決裁権のある幹部職員への面会を要求し、即決を迫る

テロリズムとの関係[編集]

テロリズムとは、暴力等による恐怖または不安によって目的を達成しようとする点で類似しているが、テロリズムは、「広く恐怖または不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動」[5]とされているように、思想的あるいは政治的目的の達成のためになされる。これに対して、行政対象暴力は、民間人が公務員に対して不法に経済的利益を得ることが目的である。この点でテロリズムと行政対象暴力は異なっている。

防止対策・正式な手続の確保[編集]

日本では古くは大宝元年(701年)大宝律令によって、文書と手続きの形式を重視した文書主義が導入され、明治政府によって明治5年(1872)太政官達「司法職務定制」によって代書人が定められる。平成5年には行政手続法が制定され、行政手続の適正を確保する法整備が為された。正式な行政手続をする意味において、手続等の専門家に行政書士社会保険労務士税理士司法書士土地家屋調査士海事代理士などがある。これらの隣接法律職と呼ばれる職業は、役所の監督を受けつつ、役所の定める書式に従って書類を作成、提出する事が職能になっており、また、暴力団員等の登録が各士業法で禁じられている事などから、一般的には行政対象暴力を防ぐ意味で機能している。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 週刊プレイボーイ平成20年7月28日30号による。民事介入暴力の略語である「民暴」(みんぼう)をもじったもの。
  2. ^ 2003年(平成15年)警察白書には、行政が受けた不当な要求行為の形態として、行政指導等の要求が14.6%、許認可等の決定に関する要求が13.8%(複数回答)との調査結果があり、不適切な公権力の行使を促す要求が少なくないことが分かる。
  3. ^ 警察白書において「民事介入暴力」の語は1979年(昭和54年)から確認できるが、「行政対象暴力」の語は比較的最近の2000年(平成12年)から確認できる。1999年(平成11年)以前の警察白書において行政は主にフロント企業の公共事業からの排除に関して触れられている。
  4. ^ 首長や管理職員にいわゆる「事なかれ主義」が蔓延しており、結果として不当要求を受け入れ続けてきたこともこの問題の根底にある。
  5. ^ 平成18年警察白書第三章第二節によると平成17年(2005年)末で87.9%の地方公共団体がコンプライアンス条例又は要綱を制定している。

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 警察白書 警察庁 昭和48年版から平成18年版までの暴力団関係の項目

関連項目[編集]

外部リンク[編集]