ゲルズ

スキールニルの歌』の一場面。

ゲルズ[1]ゲルド[2]ゲルダ[3]とも。古ノルド語: Gerðr)は、北欧神話に登場する豊穣神フレイの妻となった巨人の女性である。 その名前は「垣で囲まれた播種された耕地」を意味すると考えられている[4]

彼女はあらゆる女の中で最も美しいとされ、彼女の腕の輝きにより空と海が明るくなったと描写されている[5]

スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』第37章によると、ゲルズの父はギュミル(「海」の意[4])、母はアウルボザという。母は山の巨人といわれている[6]

伝承によっては、フレイが殺したとされる巨人ベリが彼女の兄とされる場合がある。 (ベリ#ゲルズの兄を参照)

『スノッリのエッダ』第二部『詩語法』では、エーギルに招かれたアース神族の女神の一覧にゲルズが含まれている[7]。しかし『古エッダ』の『ロキの口論』序文で同様に挙げられた、エーギルの館を訪ねる神々と妖精の中にはゲルズはいない[8]。また、第一部『ギュルヴィたぶらかし』第35章で列挙される女神の中にも彼女の名前はない[9]

ユングリング家のサガ』によると、フレイとゲルズの間の息子はフィヨルニルという[10][11]

フレイが彼女に求婚した経緯は『古エッダ』の『スキールニルの歌[12]、および『ギュルヴィたぶらかし』第37章[6]で語られている。高座フリズスキャールヴから戯れにヨトゥンヘイムを眺め、ゲルズを見つけたフレイは、彼女の美しさに一目惚れをし、召使いのスキールニルを求婚のために差し向ける。彼女は、スキールニルから11個の黄金の林檎ドラウプニルを贈られてもフレイの愛を拒んだが、スキールニルは最終的には呪いのルーン文字を刻むと脅したため、ようやく「バリの森」でフレイと会うことに同意した。

この物語は「天と地の聖婚」を表していると考えられている。つまり、冬の凍った大地の中に閉じ込められていた生命が、春に暖かな光を浴びて甦ることの象徴であるという解釈である。また2人が会う「バリの森」の「バリ」(en)は、「バル」(大麦)が語源であろうと考えられている。[13]

脚注[編集]

  1. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』などにみられる表記。
  2. ^ 『北欧の神話』などにみられる表記。
  3. ^ 『北欧の神話伝説(I)』(松村武雄編、名著普及会〈世界神話伝説大系 29〉、1980年改訂版)244-252頁などにみられる表記。
  4. ^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』67頁。
  5. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』63頁。
  6. ^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』253-254頁。
  7. ^ 「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」(谷口幸男、『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3)1頁。
  8. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』80頁。
  9. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』251-253頁。
  10. ^ 『北欧の神話』111頁。
  11. ^ 『ヘイムスクリングラ - 北欧王朝史 -(一)』(スノッリ・ストゥルルソン、谷口幸男訳、プレスポート・北欧文化通信社)53頁。
  12. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』63-67頁。
  13. ^ 『北欧の神話』116頁。

参考文献[編集]

関連項目[編集]