ウバメガシ

ウバメガシ
姫越山、三重県度会郡大紀町にて(2019年12月29日撮影)
ウバメガシ、姫越山、三重県度会郡大紀町にて
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ブナ目 Fagales
: ブナ科 Fagaceae
: コナラ属 Quercus
亜属 : コナラ亜属 subgen. Quercus
: ウバメガシ Q. phillyraeoides
学名
Quercus phillyreoides A.Gray (1858)[1]
和名
ウバメガシ

ウバメガシ(姥目樫[2]学名Quercus phillyraeoides)は、ブナ科コナラ属分類される常緑広葉樹の1。別名、イマメガシ(今芽樫)[3]ウマメガシ(馬目樫)[3]バベ[1]

日本産の常緑のカシ類では特に丸くて小さく、また硬い葉を持つカシである。海岸や岩場に多く、しばしば密生した森を作る。日本の暖地では海岸林の重要な構成樹種の一つである。 また乾燥や刈り込みに強いことから街路樹などとしてもよく使われ、その材は密で硬く、特に備長炭の材料となることでよく知られている。和歌山県県の木である。高知県室戸市の市の木[4]や、徳島県美波町の町の木[5]として制定されている。

名称[編集]

和名ウバメガシの「ウバメ」は、「姥芽」の意味で、芽出しの色が新緑ではなくて茶褐色であるということに由来する[6]。漢字で「馬目」とも書かれるが、これは当て字だと言われている[6]。一説には、若い芽にタンニンが含まれていて、昔は女性のお歯黒に使ったことがあるというので、その名がつけられたともいわれる[6]

特徴[編集]

常緑広葉樹低木から高木[7]、高いものだと20メートル (m) 近くまで成長するが、通常は5 - 6 m程度の低木が多い。樹形は、ごつごつしていて、樹皮は黒褐色で独特の縦方向のひび割れが入り、短冊状に剥がれる[2]。一年枝には黄褐色の柔らかい毛が密生し、後にもやや残る[2]。海岸にある群落は、枝が密に出ていて灌木状に密に絡む[8]

互生するが枝先には輪生状につき、長さ3 - 6センチメートル (cm) の倒卵形で、やや表側に盛り上がっており、葉縁には波状の鋸歯がある[3]。葉身は革質でやや厚くて硬く、表面は濃緑色でやや光沢があり、裏面は淡緑色をしている[3]

花期は4 - 5月[3]雌雄同株で、黄色い雄花は枝の下部から穂状に垂れ下がり、黄緑色の雌花は楕円形で、上部の葉の付け根に1 - 2個つく[3]堅果(いわゆるどんぐり)は長さ2 cm前後で楕円形、翌年の10月になると褐色に熟し[3]、生食できる[7]

冬芽は狭卵形で、赤味を帯びた多数の芽鱗に覆われており、枝の先に数個ついて、葉の付け根には側芽がつく[2]

常緑性の樹種であるが、性質や形態、生態的地位も、落葉性のカシワによく似ていることが指摘されている[6]。特に、海岸に近いところや岩場や礫地の斜面など、生えてくる土地の選択性においては、共通するところがある[6]。生長は非常に遅く、材は年輪を詰んだ緻密で極めて硬いものができる[6]。比重が大きく、水に入れると沈む。

分布と生育環境[編集]

日本朝鮮半島中国中部、南部、西部とヒマラヤ方向に分布する[9]

日本には、本州房総半島三浦半島伊豆半島以西の太平洋側、四国九州、それに琉球列島に分布する[7][3]。ただし、沖縄県では伊平屋島伊是名島、それに沖縄本島から僅かな記録があるのみである[10]。沖縄県が分布の南限である。カシ類としては、四国から瀬戸内海の沿岸部、九州の沿岸部でよく見られる樹種である[6]

暖かい地方の海岸部に自然分布し、潮風や乾燥に強い特性を持つ[11]。海沿いの岩場や山地に多く[7]、特に海岸付近の乾燥した斜面に群落を作るのがよく見かけられる。トベラヒメユズリハとともに、海岸林を構成する代表的な樹木である。

小柄の葉は乾燥への適応とも考えられ、日本における硬葉樹林的な植物であるとの見方もある。ただし、四国では瀬戸内海側でも太平洋側でも見られ、瀬戸内側は降水量が少ないが、太平洋側はむしろ多雨地帯であり、降水量が少ない地域の特徴である硬葉樹林と直接に比較するのは難しい[12]。また艶やかで硬いので、落ち葉になっても分解が遅く、そのぶん保水力がある。

ウバメガシ林[編集]

ウバメガシはしばしば本種が優占する森林を形成する。いわゆるウバメガシ林は植生区分の上からはスダジイ群団の中に位置するもので、その環境に応じて生じる土地的極相でもある。四国での調査では大きくは二つのパターンがある。一つは比較的樹高が高い(10mくらいまで)もので、高木層にはタブスダジイなどが混じり、スダジイ林に性質が近い。亜高木層にタイミンタチバナが多く、林床は暗くて植物が少ない。他方で海岸の岩場に生じるものは樹高がせいぜい3mの灌木林で、トベラマルバシャリンバイネズミモチマサキハマヒサカキが混じる。林床にはヒトツバタマシダツワブキコウヤボウキなどが出現する。また、高木にクロマツが入る場合もある[12]

紀伊半島におけるウバメガシ[編集]

ウバメガシ林(西光寺山

紀伊半島南部では、内陸部の崖地にウバメガシの優占する森林があり、やや特殊な昆虫相を維持している。代表的なものとしてはウラナミアカシジミの固有亜種ナンキウラナミアカシジミがある。この、内陸部にあるウバメガシ林は、紀伊半島に独特の例外的存在であるかのように言われることがあるが、実際には、西日本各地に内陸のウバメガシ林が点在し、それぞれの地域で「ここは例外である」と言われている。和歌山県大塔山系法師山の山頂にはウバメガシの低木があり、多分最高標高の生育地である。

また、紀伊半島南部では、あちこちの低山の斜面に、備長炭の用材としてウバメガシが優占するように育成された森林があったが、最近の需要の増加のため、減少が目立つ。かつては細心の注意で維持されたものであった。山にある立ち木の状態で炭焼き師の手に売られた後は、伐採後の樹木の生長に気配りしつつ伐採された。たとえば伐採の後、ひこばえの成長に配慮して、鋸は絶対に使わず、斧のみを使って伐採したとの伝承がある。鋸を使うとひこばえが多数出過ぎて、後の成長が良くないと言われる。切り口を斜めにすることで雨露が溜まらないようにしたり、不要な芽を掻き取ることで質の良い後継木を育てる工夫もなされている。

栽培[編集]

植栽適期は、3月上旬 - 4月、6 - 7月、9 - 10月とされる[3]。ウバメガシは自然樹形が乱れるため、庭や生け垣の植栽樹は、適度に剪定して形を整えてやる必要がある[11]

利用[編集]

ウバメガシの生垣 法金剛院
ウバメガシの備長炭

良質ので有名な備長炭の原料として知られる[7]。木炭は堅くて強い火力を誇り、ウナギを焼くには最上のものとして知られている[8]。材は非常に堅く、曲がりくねっていて真っ直ぐな木材が採りにくいことから建築材などには向いていない[8]

植栽として庭木にされたり[7]、落葉が少なく常緑で病気に強く、また切り詰めに耐えることから、街路樹生垣としても利用されている[3]。よく見られるのは低木で、大木や古木は珍しい。葉がやや細くて葉脈が凹んだものをチリメンガシといって、園芸盆栽に利用される。これら園芸用の採取により個体数が減少している。

分類[編集]

日本に自生するカシでは唯一コナラ亜属(subgenesis Quercus)に属し、他に日本に自生するアカガシ亜属(subgenesis Cyclobalanopsis)のカシよりはナラ類に近縁である。南欧に自生するコルクガシQuercus suberとは特に近縁であり交雑する。

以下のような品種も知られる。

チリメンガシ Quercus phillyraeoides f. crispa 別名ビワバガシ
フクレウバメ Quercus phillyraeoides f. subcrispa
ケウバメガシ Quercus phillyraeoides f. wrightii

レッドリスト[編集]

生育地である下記の地方公共団体が作成したレッドデータブックに掲載されている。

天然記念物[編集]

国指定

都道府県指定

市町村指定

  • 呉市 : 磯神社のウバメガシ群落 - 広島県呉市仁方町戸田 磯神社境内
  • 尾道市 : ウバメガシ
  • 愛南町 : ウバメガシ林相 - 愛媛県南宇和郡愛南町
  • 津久見市 : 姥目公園のウバメガシ - 大分県津久見市中央町7番
  • 名護市 : 許田のウバメガシ - 沖縄県名護市許田122
  • 宇和島市 : 石応堂崎のウバメガシ樹叢 - 愛媛県宇和島市石応堂崎 観音寺境内
  • 岬町 : 小島住吉神社のウバメガシ社叢 - 大阪府泉南郡岬町多奈川小島 住吉神社境内
  • 尾道市 : 五柱神社のウバメガシ - 広島県尾道市因島三庄町
  • 西脇市 : 西光寺山のウバメガシ群落 - 兵庫県西脇市中畑町西光寺山
  • 岡山市 : 水門町のウバメガシ - 岡山県岡山市東区水門町924
  • 津久見市 : 千怒新地のウバメガシ - 大分県津久見市大字千怒字新地6239番地
  • 土佐清水市 : 立石のウバメガシ - 高知県土佐清水市立石
  • 小豆島町 : 西村高木明神社の社叢 - 香川県小豆郡小豆島町西村 高木明神社境内
  • 小豆島町 : 西山稲荷神社の社叢 - 香川県小豆郡小豆島町坂手 西山稲荷神社境内

出典[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus phillyreoides A.Gray”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2021年6月20日閲覧。
  2. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 141.
  3. ^ a b c d e f g h i j 山﨑誠子 2019, p. 36.
  4. ^ 室戸市の概要”. 2023年12月20日閲覧。
  5. ^ 美波町の概要”. 2024年1月8日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 114.
  7. ^ a b c d e f 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 102.
  8. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 115.
  9. ^ 林弥栄 2011, p. 143.
  10. ^ 初島住彦 1975, p. 221.
  11. ^ a b 山﨑誠子 2019, p. 37.
  12. ^ a b 山中二男 1958, p. 4.

参考文献[編集]

  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、141頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、113 - 115頁。ISBN 4-12-101238-0 
  • 初島住彦『琉球植物誌(追加・訂正版)』沖縄生物教育研究会、1975年。 
  • 林弥栄『日本の樹木』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2011年11月30日。ISBN 978-4635090438 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、102頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 山﨑誠子『植栽大図鑑[改訂版]』エクスナレッジ、2019年6月7日、36 - 37頁。ISBN 978-4-7678-2625-7 
  • 山中二男「四国のウバメガシ群落」『高知大学学術研究報告』第7巻第9号、1958年、1-6頁。 
  • 沖縄県文化環境部自然保護課 編『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(菌類編・植物編) : レッドデータおきなわ』沖縄県文化環境部自然保護課、2006年2月。 

関連項目[編集]