WHIP

WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched、「投球回あたり与四球・被安打数合計」)とは、野球における投手成績評価項目の1つで、1投球回あたり何人の走者を出したかを表す数値。与四球数と被安打数を足した数値を投球回で割ることで求められる(死球失策など、安打や四球以外による出塁は数えない)。米大リーグ台湾プロ野球では、WHIPは防御率などとともに公式に記録・公開されている指標である(日本プロ野球では非採用)。一方で、WHIPは他の多くの統計の副産物であるとして、投手を評価する際に基本的に無視されるべきであるという指摘もある[1]

概要[編集]

WHIP = (与四球 + 被安打) ÷ 投球回

一般に先発投手であれば1.00未満なら球界を代表するエースとされ、1.20未満ならエース級、逆に1.40を上回ると問題であると言われる。また、ショートリリーフの投手の場合、投球イニングが少なく、ワンポイントとしてイニングの途中で交替することが多いため、自分の残した走者を後続投手が返すか否かで防御率が大きく変わってくる。そのため、WHIPはショートリリーフの投手の評価により適している[2]

問題点[編集]

野手の影響を大きく受ける被安打を内容に含んでおり、WHIPの高低は投手の働きだけでなく野手の守備に左右される。このため現在のセイバーメトリクスではWHIPを投手の働きの分析に用いることに関して強い疑問が呈されており、分析には用いられなくなっている[3]。WHIPは長打も単打・四球と同様にカウントされるため、四球は少ないが長打を打たれやすい投手は、WHIPが示す評価ほどの成績を残せないという欠点がある。また、WHIPは投手がコントロールしにくいとされるBABIPに大きく依存している指標であるため、投球内容を適切に表しているとはいえない。これらの理由からWHIPに批判的な意見も多く[4]、大手データサイトのFanGraphsでは、「WHIPは愚かな指標である。一部の人々はVORPとtERAと並んで、目新しいマネーボールスタットとして参照するのが好きだが、WHIPはプレイヤーのスキルをあらわすものではない。もちろんランナーを出さないのは良い投手である傾向があるが、それは絶対ではない。WHIPは他の多くの統計の副産物であり、投手を評価する際に基本的に無視されるべきである[1]」と、投手評価に使用することを全面否定している。

記録[編集]

日本球界においては、WHIPは公式記録とはなっていない。任意に集計したシーズン記録(規定投球回数以上)では、景浦將大阪)が1リーグ時代の1936年秋季に記録した0.719が最高記録である。2リーグ制後では、村上頌樹阪神)が2023年に記録した0.741が最高。また、通算WHIP(通算2000投球回以上)のNPB記録は村山実(阪神)の0.954。

アメリカのメジャーリーグや台湾の中華職業棒球大聯盟などでは公式記録となっている。メジャーリーグのシーズン記録(規定投球回数以上)はペドロ・マルティネスレッドソックス)が2000年に記録した0.737、救援投手(40イニング以上)では上原浩治(レッドソックス)が2013年に記録した0.565。 通算記録(通算2000投球回以上)はアディ・ジョスクリーブランド・ナップス)の0.968。

MLB通算記録[編集]

順位 選手名 WHIP
11 トミー・ボンド 1.091
12 ベーブ・アダムズ 1.092
13 フアン・マリシャル 1.101
14 ルーブ・ワッデル 1.102
15 ラリー・コーコラン 1.1048
16 ディーコン・フィリップ 1.1051
17 サンディー・コーファックス 1.106
18 エド・モリス 1.108
19 ウィル・ホワイト 1.111
20 チーフ・ベンダー 1.113
  • 2000投球回以上が対象。記録は2023年シーズン終了時点[5]

MLBシーズン記録[編集]

順位 選手名 所属球団 WHIP 記録年
1 ペドロ・マルティネス ボストン・レッドソックス 0.737 2000年
2 前田健太 ミネソタ・ツインズ 0.750 2020年
3 ガイ・ヘッカー プロビデンス・グレイズ 0.769 1882年
4 ウォルター・ジョンソン ワシントン・セネタース 0.780 1913年
5 トレバー・バウアー シンシナティ・レッズ 0.795 2020年
6 ティム・キーフ トロイ・トロージャンズ 0.800 1880年
7 ジャスティン・バーランダー ヒューストン・アストロズ 0.803 2019年
8 アディ・ジョス クリーブランド・ナップス 0.806 1908年
9 グレッグ・マダックス アトランタ・ブレーブス 0.811 1995年
10 エド・ウォルシュ シカゴ・ホワイトソックス 0.820 1910年
  • 規定投球回以上。記録は2023年終了時点[6]

参考記録[編集]

1000投球回以上2000投球回未満
順位 選手名 WHIP
1 ジェイコブ・デグロム 0.993
2 マリアノ・リベラ 1.000
3 クリス・セール 1.047
4 トレバー・ホフマン 1.058
5 チャーリー・スウィーニー 1.067
6 レブ・ラッセル 1.080
7 ゲリット・コール 1.0866
8 ジム・デブリン 1.0868
9 スモーキー・ジョー・ウッド 1.0869
10 ジャック・フィースター 1.089
  • 記録は2023年シーズン終了時点[5]
ライブボール時代以降
順位 選手名 所属球団 WHIP 記録年 備考
1 ペドロ・マルティネス ボストン・レッドソックス 0.737 2000年 ア・リーグ記録[7]
2 前田健太 ミネソタ・ツインズ 0.750 2020年 [8]
3 トレバー・バウアー シンシナティ・レッズ 0.795 2020年 ナ・リーグ記録[9]
4 ジャスティン・バーランダー ヒューストン・アストロズ 0.803 2019年 [10]
5 グレッグ・マダックス アトランタ・ブレーブス 0.811 1995年
6 ジャスティン・バーランダー ヒューストン・アストロズ 0.829 2022年
7 デーブ・マクナリー ボルチモア・オリオールズ 0.843 1968年 左投手記録
8 ザック・グレインキー ロサンゼルス・ドジャース 0.844 2015年
9 ボブ・ギブソン セントルイス・カージナルス 0.853 1968年 [11]
10 サンディー・コーファックス ロサンゼルス・ドジャース 0.855 1965年
  • 1920年以降、規定投球回以上。記録は2023年終了時点[12]

評価基準[編集]

WHIP 評価
1.00以下 素晴らしい
1.10 非常に良い
1.25 平均以上
1.32 平均
1.40 平均以下
1.50 悪い
1.60以上 非常に悪い

脚注[編集]

  1. ^ a b Strategy Session – Don’t Get WHIPped FanGraphs Fantasy Baseball .2009年1月9日.
  2. ^ 鳥越規央著『9回裏無死1塁でバントはするな』(祥伝社新書)
  3. ^ WHIP(Walks plus Hits per Innings Pitched) 1.02 ESSENCE of BASEBALL .2019年4月8日.
  4. ^ Strategy Session – Don't Get WHIPped
  5. ^ a b Career Leaders & Records for Walks & Hits per IP” (英語). Baseball-Reference.com. 2024年3月27日閲覧。
  6. ^ Single-Season Leaders & Records for Walks & Hits per IP” (英語). Baseball-Reference.com. 2024年3月27日閲覧。
  7. ^ 同年の被安打率5.31は歴代6位
  8. ^ 同年の被安打率5.40は歴代9位
  9. ^ 同年の被安打率5.05はMLB記録
  10. ^ 同年の被安打率5.53は歴代10位
  11. ^ 同年の防御率1.12は歴代4位
  12. ^ Single-Season Leaders & Records for Walks & Hits per IP” (英語). Baseball-Reference.com. 2024年3月27日閲覧。

関連項目[編集]