BGM-71 TOW

BGM-71 TOW
アフガニスタンで運用されるアメリカ陸軍のTOW(2009年)
種類 対戦車ミサイル
原開発国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
運用史
配備期間 1970年 - 現在
配備先 #運用国の項目を参照
開発史
開発者 ヒューズ・エアクラフト
開発期間 1963年 - 1968年
諸元
全長 1.16 - 1.17 m(プローブ収納状態)
1.41 - 1.51 m(プローブ展開状態)
直径 0.152 m

炸薬量 3.9 - 5.9 kg

翼幅 0.46-m
誘導方式 半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)
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BGM-71 TOW(トウ)は、アメリカ合衆国で開発された対戦車ミサイル。名称は Tube‐launched, Optically‐tracked, Wire‐guided(発射筒で発射され、光学的に追跡され、有線で誘導される)の頭文字に由来する。アメリカ軍における制式名称はBGM-71

1970年以来、世界で最も多く利用されている対戦車ミサイルである。現用のTOWは、第3世代主力戦車装甲を貫通できるとされている。陸上自衛隊では、1982年からAH-1S専用に導入されている。

概要[編集]

TOW ミサイルのカットモデル。先端から成形炸薬弾頭、ロケットモーターと側面に開いた噴射口、制御システムが収納されている

ミサイルは、チューブ型コンテナに納められており、発射機にチューブごと装着して発射する。この発射機は約7年間整備無しに使用できるとされている。誘導方式は半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)であり、ミサイルの出す光と照準中心とのズレを修正する事で誘導する。そのため、発射から着弾まで射手が照準中心に目標を捕らえ続ける必要がある。発射後もミサイルと発射機は二本のワイヤーで接続されており、誘導情報はそのワイヤーにより電気的にミサイルへ伝達される。

アメリカ陸軍のほか、陸上自衛隊西側諸国の多くで使われており、歩兵による運用のほか、車載型ミサイルや攻撃ヘリコプターに搭載されて運用される。長年の使用に伴い弾頭や誘導方式に改良が加えられ、さまざまなバリエーションがある。

しかし、着弾まで誘導し続ける必要があることから、誘導中に敵に発見・反撃される危険があり、現在は撃ち放し式TOWの導入が課題となっている。

歴史[編集]

レッドストーン兵器廠による、後のTOWとなる将来型HAW(Heavy Antitank Weapon)システムのための最初のコンセプトモックアップ

開発は、ヒューズ・エアクラフト1963年-1968年にかけて行われ、地上およびヘリコプターからの射撃性能を持つXBGM-71Aが試作された。1968年に試作品の試験契約が結ばれ、1970年までアメリカ陸軍で運用試験が行われた。

地上発射型はM40 106mm無反動砲MGM-32A対戦車ミサイルの後継として、ヘリコプター搭載型はAGM-22空対地ミサイルの後継装備品として採用された。

1972年からはベトナム戦争に投入され、南ベトナム側に配備されたTOWは、UH-1B ヘリコプターに搭載され、北ベトナム軍によるイースター攻勢と対峙した。TOWは改修を重ね、1978年にはTOW改、1983年にTOW 2AおよびBと発展し、現在でも改修は続いている。

イラク戦争でもアメリカ軍はTOWを運用している。2003年7月22日の攻撃でも使用され、この攻撃でウダイ・フセインクサイ・フセインが死亡した。

派生型[編集]

現在は、レイセオンヒューズからライセンスを取得し、生産と開発を行っている。

制式名称 通称 概要
XBGM-71A・BGM-71A TOW ヒューズ製。試作および初期生産型TOW。
BGM-71B TOW BGM-71Aからの改良。射程の延長。
BGM-71C ITOW(improved TOW, TOW改) BGM-71Bからの改良。炸薬の改良。
BGM-71D TOW 2 BGM-71Cからの改良。誘導装置とロケットモーターの改良および弾頭の大型化。
BGM-71E TOW 2A BGM-71Dからの改良。爆発反応装甲に対応したタンデム弾頭の採用。
BGM-71F TOW 2B BGM-71Dからの改良。ホップアップによる上面攻撃性能の付加。
BGM-71G BGM-71Fからの派生。徹甲弾。試作品のみ。
BGM-71H TOW Bunker Buster BGM-71Eからの改良。バンカーバスター型。
TOW 2N ワイヤレス型。
FOTT 開発計画のみ。
TOW-FF 開発中。撃ち放し式
TOW 2B Aero TOW 2B(BGM-71F)からの改良 射程の延長。旧名:TOW 2B(ER)

ヒューズは、1989年にワイヤレス型のTOW 2Nを開発したが、アメリカ軍には採用されなかった。レイセオンはTOWの改良を続けているが、FOTT(Follow-on to TOW, TOW後継装備)計画は1998年に中止され、TOW-FF(TOW Fire and Forget, 撃ち放し式TOW)計画も2001年3月に短縮が決定した。2001年 - 2002年、レイセオンとアメリカ陸軍は、TOW 2Bのさらなる長射程化を共同で研究した。これは、当初TOW 2B(ER)と呼ばれていた(ER=extended range=射程延長)が、現在はTOW 2B Aeroと呼ばれている。これは2004年から生産されているが、「BGM-○○」といった米軍の制式名称は未だ定められていない。

現用のTOWは撃ち放し式では無く、半自動の有線指令方式であり、第2世代のミサイルに近い。つまり、誘導装置は発射装置に接続されていて、射手は命中まで目標を見続ける必要があるということである。このため、撃ち放し式のTOWや、撃ち放し可能な後継機種の開発が進められている。

一方、第3世代より後の対戦車ミサイルは、目標的を主に赤外線感知によるためエンジンを備えた車両など熱源以外の照準が困難だったり、フレア等に欺瞞されやすい。特にミサイルが自己追尾する撃ち放し式は高価につくにもかかわらず依然として目標識別能力が射手の人力には及ばない。無線誘導は妨害に対し脆弱である。これらと比べ、TOWのようなSACLOS誘導のミサイルには、射手の目に見える限り確実に狙い撃てる使い勝手の良い面もあり、アメリカ軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車等で2024年現在もTOWの運用が継続されている[1]

TOWの後継として「CCMS-H」(Close Combat Missile System-Heavy、近接戦闘ミサイルシステム-重量級[2])が開発中だが、TOWを上回る射程、飛翔速度、行進間射撃能力に加えて、TOWの発射機と管制システムにそのまま対応すること、同程度の最小射程と、撃ち放しだけでなく標的の再指示機能が要求されている [3] [4]。ブラッドレー後継として2030年代前半の戦力化が企図されているXM30機械化歩兵戦闘車英語版でもTOWの運用が見込まれている[5]

イランは、革命前のパフラヴィー朝時代に購入したTOWのリバースエンジニアリングを行い、コピーにあたるトゥーファンを製造している。

運用[編集]

TOWは、アメリカ軍ではBGMに該当する。これは、地上および空中射撃(B)、対地攻撃用(G)、誘導弾(M)の意味である。「B」は、ミサイルそのものが無改造で各種の発射機から射撃できるものにのみ付与される。

M220発射機[編集]

M220発射機は歩兵が使用するが、搭載可能な車種も多くある(M151ハンヴィーM113など)。

この発射機は、設計上は個人携行が可能だが、実際には巨大すぎるとの声がある。赤外線センサによる夜間射撃性や、軽量化といった改良も加えられている。

練度の低い兵士がTOWで敵戦車を撃破したという記録も残っており、それが評価へ影響を与えた一因となっている。

TUA(TOW Under Armor)[編集]

M2/M3ブラッドレーM1134 ストライカー装甲車ATGMM901 ITVなどの車種は、各種車両専用の装甲化された発射機が開発されている。これらの発射機あるいは搭載車両は、TUATOW Under Armor)と呼ばれることもある。カナダ軍は、1990年代ボスニア紛争にこれらの車両を派遣している。

航空機搭載型[編集]

ヘリコプターの場合、AH-1 コブラ搭載のM65射撃管制システムが最初であるが、UH-1 ヒューイ用のXM26も開発された。MD 500の軍用型であるMD 500ディフェンダー用のランチャーも開発されている。AH-56 シャイアン用のシステムも開発が着手されたものの、後に中止された。

AH-1は、最大8発をチューブ型ランチャーに装填された状態で、胴体中央部左右のスタブウイングに搭載する。

TOW ITAS[編集]

M41 TOW ITASImproved Target Acquisiton System、改良型目標捕捉システム)は、M220発射機とハンヴィー専用発射機の後継機である。ITASは現在、航空機に搭載されるか、アメリカ陸軍アメリカ海兵隊およびその予備軍の歩兵用に運用されている。

ITASは、対戦車部隊の攻撃力向上に加えて、混成隊に不可欠な機能を与えている。TOW ITASを装備した対戦車部隊は、脅威度の高い目標を撃破できるのみならず、偵察・目標捕捉能力を有し、後方射界や市街地戦闘能力に優れる。

運用国[編集]

登場作品[編集]

映画[編集]

ゴジラシリーズ
ゴジラvsビオランテ
若狭での「サンダ―ビーム作戦」にて、陸上自衛隊AH-1Sに搭載されたものが、抗核エネルギーバクテリアの影響で動きの鈍ったゴジラに対して使用される。
ゴジラ2000 ミレニアム
東海村での対ゴジラ戦にて、陸上自衛隊のAH-1Sに搭載されたものが、ゴジラを作戦地域へ誘導するために使用される。
シン・ゴジラ
ゴジラの東京都内侵入を防ぐために行われたB-2号計画「タバ作戦」にて、木更津駐屯地所属のAH-1Sに搭載されたものが、立川駐屯地所属のAH-64Dヘルファイアとともに、ゴジラに対して使用される。
戦国自衛隊1549
オープニングにて、極秘実験中の事故により戦国時代タイムスリップした第三特別実験中隊所属のAH-1Sに搭載されたものが、タイムスリップ直後に襲撃してきた戦国武者たちに対して使用される。

アニメ・漫画[編集]

『COMBAT BIBlE2』
漫画版第5章にて、M2A2 ブラッドレー歩兵戦闘車搭載型・歩兵運用型・AH-64 アパッチ搭載型が、T-62に対して使用される。
最臭兵器
陸上自衛隊AH-1Sに搭載されたものが、毒ガス兵器と化しつつ東京へと向かう主人公に対して使用される。
続・戦国自衛隊
戦国時代タイムスリップしたアメリカ海兵隊M2/M3 ブラッドレー歩兵戦闘車ハンヴィーに搭載されたものが、「関ヶ原の戦い」では西軍に味方する自衛隊に、「大坂の陣」では戦国武者たちに対して使用される。
太陽の牙ダグラム
21世紀から見れば約200年未来の話ではあるが、アニメ版第1話などに現行型と形状もほぼ同じ、有線誘導式TWO(トゥ)ミサイルが登場する。
魔法少女特殊戦あすか
ウクライナで活動していた米軍特殊魔法戦即応部隊(MORG)がハンヴィーに搭載されたものを使用。T-14戦車に向けて発射するが、T-14のアクティブ防護システムに迎撃されて命中せずに終わる。

小説[編集]

Op.ローズダスト
東部方面航空隊所属のAH-1Sに搭載されたものが、テログループ「ローズダスト」によって東京中に仕掛けられたT-Pexを無力化するために使用される。
ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり
小説・漫画・アニメ版にて、異世界へ派遣された陸上自衛隊のAH-1Sに搭載されたものが、イタリカ防衛線では城壁に集中する盗賊団に、炎龍討伐戦では新生龍2体に対して使用される。各作品で、発射後に延びるワイヤーも描写されている。
『中国完全包囲作戦』(文庫名:『中国軍壊滅大作戦』)
先端に対爆発反応装甲用の爆破プロープを取り付け、ホップアップ機能を有するという設定の「TOW3」が登場。アメリカ陸軍第1機甲師団所属のM2A3 ブラッドレーに搭載されており、紅軍所属の99式戦車を多数撃破する。
日本国召喚
陸上自衛隊のAH-1Sに搭載されたものが、グラ・バルカス帝国第4機甲師団の戦車への攻撃に使用される。ウェブ配信漫画版では、同じくAH-1Sに搭載されたものがロウリア王国軍のワイバーンに対する空対空攻撃に使用される。

ゲーム[編集]

ARMA 2
SACLOS誘導方式が再現されており、目標に命中するまで照準を合わせ続ける必要がある。
Wargame Red Dragon
NATO陣営の各種装甲戦闘車両ヘリコプターに搭載されている武装としてTOW・ITOW・TOW 2が登場する。
WARHAWK
飛行機のみの装備アイテムであり、光学画像誘導爆破タイミングを決めることが可能。
WarRock
様々なステージに配置されているほか、ハンヴィーにも搭載されている。
エアロダンシング 4 New Generation
AH-1S対戦車ヘリコプターに搭載されており、目標に命中するまで標的を画面内に保持し続けることで誘導方式を再現している。
コール オブ デューティシリーズ
CoD:BO
ジープ・ラングラーに搭載されたTOW 2B(ゲームの設定年代が1960年代なので本来は存在しない)を使い、北ベトナム軍T-55撃破するミッションがある。
CoD:G
M1エイブラムスに搭載されているのものを使用できる。
バトルフィールドシリーズ
BF2
三脚に据え付けられた固定型のほか、ハンヴィーやLAV-25に搭載された車載型が登場する。
BFBC
マルチプレイの一部マップに三脚に据え付けられた固定型が登場する。
BFBC2
TOW 2が三脚に据え付けられた固定型・ハンヴィーやM3A3 ブラッドレーに搭載された車載型・戦闘ヘリコプター搭載型として登場しており、固定型と車載型は誘導機能が再現されている。
また、中でも固定型はSACLOS誘導方式が再現されており、目標に命中するまで照準を合わせなければならないほか、曲がり角を曲がらせるとコードが切れ、ミサイルが暴走するところまで再現されている。
BF3
三脚に据え付けられた固定型のほか、LAV-25に搭載された車載型が登場する。『BFBC2』同様に誘導方式が再現されている。
BF4
歩兵用・歩兵戦闘車用・高速戦闘艇用・戦闘ヘリコプター用が登場。『BFBC2』同様に誘導方式が再現されている。
BF2042
主力戦車用として登場。アンロックすると主力戦車M1A5とT28のウェポンステーションにて使用可能になる。
マーセナリーズ
国連軍のM3歩兵戦闘車や韓国軍M966 ハンヴィーなどに搭載されている。
マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス
連合軍のハンヴィーとM2ブラッドレー歩兵戦闘車、ユニバーサル石油のテクニカルの武装として登場する。誘導方式が再現されており、目標に命中するまで照準を合わせ続ける必要がある。しかし、一定の時間がたつと操作不能になる。
メタルギアソリッド4
無人兵器月光に搭載されている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 同世代の79式対舟艇対戦車誘導弾を装備する89式装甲戦闘車にも同様のことが言える
  2. ^ なおCCMS-MediumはFGM-148 ジャベリン
  3. ^ Army Wants to Replace the Cold War-Era TOW Missile with a New Longer-Range Tank Killer”. Military.com (2021年4月8日). 2024年2月12日閲覧。
  4. ^ Army Details Desired Characteristics, Capability Demo Plans For TOW Missile Replacement”. DEFENCE DAILY (2022年6月30日). 2024年2月12日閲覧。
  5. ^ LYNX XM30 AMERICA’S NEXT INFANTRY COMBAT VEHICLE”. ラインメタル. 2024年2月12日閲覧。

外部リンク[編集]