JR東海383系電車

JR東海383系電車
383系による特急「しなの」
(2012年9月13日 山崎駅 - 島本駅
基本情報
運用者 東海旅客鉄道
製造所 日本車輌製造
川崎重工業
日立製作所
製造年 1994年 - 1996年
製造数 76両
運用開始 1995年4月29日[1]
主要諸元
編成 6両(基本編成)
4両・2両(付属編成)
MT比はいずれも1:1)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500 V
架空電車線方式[2]
最高運転速度 130 km/h(曲線通過 +35 km/h)[2]
起動加速度 2.1 km/h/s[2]
減速度(常用) 3.8 km/h/s(非増圧)
5.1 km/h/s(増圧時)[2]
編成定員 6両:355名(グ44+普311)
4両:227名(グ44+普183)
2両:112名(普通車のみ)
編成重量 6両:213.5 t
4両:141.0 t
2両:75.0 t
全長 20,800 mm(中間車)
21,915 mm(非貫通先頭車)
21,000 mm(貫通先頭車)[2]
全幅 2,852 mm[2]
全高 3,725 mm[2]
車体 ステンレス[2]
(前頭部のみ普通鋼
台車 自己操舵機能付き制御振子ボルスタレス台車
ヨーダンパ付
C-DT61・C-TR245A[2]
主電動機 C-MT65形
主電動機出力 155 kW
歯車比 5.57[2]
編成出力 155 kW×12= 1,860 kW(6両編成)
制御方式 VVVFインバータ制御
GTOサイリスタ素子
制御装置 C-SC35形
制動装置 回生発電併用電気指令式ブレーキ
抑速ブレーキ付き[2]
保安装置 ATS-STATS-PT
第36回(1996年
ローレル賞受賞車両
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383系電車(383けいでんしゃ)は、1994年平成6年)に登場した東海旅客鉄道(JR東海)の振子式特急形車両である[2]

概要

1973年(昭和48年)から特急「しなの」で使用されており陳腐化していた381系を置き換える目的で開発された[2]曲線通過時の車体傾斜にコンピュータ制御を採り入れた制御付自然振子方式を採用し、自然振子方式の381系に比べ曲線通過性能や乗り心地[注 1]を改善させた。

1994年(平成6年)8月に量産先行車(A1編成)が落成し、各種試験走行を経て1995年(平成7年)4月29日に臨時「しなの」91・92号で営業運転を開始した[2]。量産車は1996年(平成8年)6月より製造され、同年12月1日のダイヤ改正で「しなの」の定期列車を全て置き換えた[2]

1995年通商産業省(現・経済産業省)グッドデザイン商品(現・日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞)選定[3]、1996年鉄道友の会ローレル賞受賞[4]

構造

車体

ステンレス製の軽量構体を採用し[2]運転台を含む前頭部のみ普通鋼製である。外部塗色はステンレス地肌の無塗装で、車体側面中位にピンストライプ様の意匠としたブラウンの帯を、正面および客室窓直下の車体全周にオレンジ色の帯を配する[2]。客室窓および正面窓枠周囲は黒色である。客用扉は、主に自由席として使用する車両には片側2か所、他の車両は片側1か所に設ける。車体断面は客窓部分のみが垂直で、屋根肩と窓下裾部を車体傾斜に備えて大きく絞っている。

輸送状況の変化に応じ複数の編成を併結・切り離しする運用方をとるため、中間に連結する必要のある運転台付車両の前頭部には貫通路[注 2]が設けられ、貫通扉として両開き式のプラグドアを備える[2]。基本編成の長野方先頭に連結される運転台付グリーン車クロ383形(基本番台)のみは貫通扉を設けず、先頭部には前面展望に配慮したパノラマ様式のフロントガラスを設ける[2]

車内

グリーン車は青色基調、普通車はグレー基調の配色である[2]。従来車両に比べ居住空間の拡張がなされ、座席は前後の間隔(シートピッチ)をグリーン車で 1,200 mm、普通車で 1,000 mm に拡大したほか、座面の幅もグリーン車で 460 mm 、普通車で 455 mm を確保している[5]。側窓は天地寸法を 850 mm に拡大している[2]

バリアフリー対応として、モハ383形0番台に車椅子対応設備を設けるほか、客用扉にドアチャイムを設置する[2]

機器類

振子機構動作中

主回路制御はVVVFインバータ方式を採用し[2]、スイッチング素子GTOサイリスタ(4500 V / 500 A)を用いた主変換装置は東芝[6]および東洋電機製造[7][8]製である。集電装置はシングルアーム式パンタグラフのC-PS27形で、いずれもJR東海の在来線用車両では初の採用である。なお、制御装置類は東芝原設計。

曲線通過対策として搭載された本系列の車体傾斜機能は、台車に搭載したベアリングガイド式の車体傾斜機構をコンピュータ制御の空気シリンダで動作させる制御付き自然振子方式[注 3]である[2]。車体傾斜を曲線走行時の超過遠心力のみに依存する381系の自然振子方式にみられた「振り遅れ」「揺り戻し」を解消し、乗り心地を改善して曲線通過速度の向上を図った[2]。最高速度は 130 km/h 、曲線通過速度は最大で本則[注 4]+35 km/h(半径600 m 以上)である[2]

パンタグラフはシングルアーム式で車体の屋根に直接搭載され[9]、制御付き振子機能の使用は架線の対策がなされた名古屋駅 - 松本駅[注 5]に限られる[10]。パンタグラフ折りたたみ高さは 3,850 mm まで下げられ[2]建築限界が中央本線中津川駅以東より小さい身延線への入線も振子機能を停止した条件下で可能である[注 6]

ブレーキは回生発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキである[2]。発電ブレーキを搭載するのは、列車本数の少ない区間では回生ブレーキが機能しないこと(回生失効)があるためである。

保安装置ATS-STATS-PTを搭載する。

補助電源装置は静止形インバータ (SIV) のC-SC36形(東洋電機製造[7][8]製)、電動空気圧縮機 (CP) はスクロール式を採用する[5]

台車

C-DT61形台車
C-DT61形台車
C-TR245形台車
C-TR245形台車

枕ばねに空気ばねを用いたボルスタレス台車 C-DT61 形(動力台車)とC-TR245 形(付随台車)で、軸箱支持は円錐ゴム支持、車体傾斜機構としてベアリングガイド式の振子装置をもつ[2]。曲線通過時に線路への横圧を抑えるための機構として、片側の軸箱(車体端側)の支持剛性を柔らかい設定として車軸を常に線路と直角に保つ自己操舵機構を搭載する[2]

当系列の自己操舵機構は、1990年頃から東京大学生産技術研究所の須田義大助教授(当時)らの協力のもと開発が進められた。

1991年に完成した試作自己操舵台車C-DT955形2台は神領電車区のモハ380-58に装着され、1991年12月から営業運転に充当し長期耐久試験に供された。当時の自己操舵機構は、381系や165系にて各輪軸の横圧は各台車の進行方向前側が後側より常に大きくなっていることに着目し、進行方向前側の支持剛性を柔らかい設定としたものであった。そのため進行方向に合わせて支持剛性を変える必要性が生じ、各軸箱には支持剛性の可変機構が内蔵された。

1994年8月に落成し量産先行車にも同じ機構が採用されたが、平均横圧は期待通り低減できたものの、各輪軸の横圧発生状況は想定と異なる結果となった。詳しい分析の結果、ボルスタレス台車では常に前側ではなく、車両端側の横圧が大きくなっていることが判明した。そこで1996年6月から落成した量産車では、車両端側の支持剛性を柔らかい設定で固定とし、可変機構を省略したことで保守性も向上した新しい自己操舵機構とした。先行車についても量産車と同様に改造された[11]

なおこの2種類の自己操舵機構は、それぞれ別にJR東海が特許を出願している[12][13]

形式

編成中の電動車と付随車が同数となるMT比 1:1 の列車組成とし、電動車は全て偶数向き(東海道本線上での下り神戸方)に連結される[2]。主回路を構成する電装機器をすべて1両の電動車に搭載する 1M 方式を採用している。各車両の形式はすべて「383形」で[2]、偶数形式(382形)は存在しない[2]

以下の通りである[2]

クロ383形
運転台をもつ制御車(グリーン車)で、設備の差異で以下の区分がある。
  • 0番台 (Tsc1)
    同系列で唯一の貫通扉を装備しないパノラマ型先頭車。定員は44名である。6両編成の長野方先頭車として連結される。
  • 100番台 (Tsc2)
    併結運用に対応するため前頭部に貫通扉を備える。定員は44名である。4両編成の長野方先頭車として連結される。
クモハ383形 (Mc)
運転台をもつ制御電動車で、前頭部に貫通扉を備え、客用扉は片側2か所に設ける。定員は60名である。全編成の名古屋方先頭車として連結される。
モハ383形
運転台のない中間電動車で、6両および4両編成に組成される。設備の差異で以下の区分がある。
  • 0番台 (M1)
    車椅子対応設備を有し、定員は59名、客用扉は片側2か所である。
  • 100番台 (M2)
    一般の座席設備のみを有し、定員は68名、客用扉は片側1か所である。6両編成にのみ組成される。
クハ383形 (Tc)
運転台をもつ制御車で、2両編成の長野方に組成される。車端部にトイレを設ける。
サハ383形
付随車で、6両および4両編成に組成される。設備の差異で以下の区分がある。
  • 0番台 (T1)
    客用扉は片側1か所で、車端部に和式トイレを設ける。定員は64名である。6両編成にのみ組成される。
  • 100番台 (T2)
    客用扉は片側2か所で、車端部に洋式トイレを設ける。定員は60名である。

編成表

2021年4月1日現在、神領車両区に17編成76両が配置されている[14]

長野寄りにパノラマグリーン車を連結の6両基本編成と、貫通型グリーン車連結の4両増結編成、全車普通車の2両増結編成の3タイプが存在する。

383系 編成表
 
← 長野・松本・白馬
名古屋・大阪 →
6両編成 編成番号 クロ383
-0
(Tsc1)
モハ383
-0
(M1)
サハ383
-0
(T1)
モハ383
-100
(M2)
サハ383
-100
(T2)
クモハ383
-0
(Mc)
備考
A1 1 1 1 101 101 1
A2 2 2 2 102 102 2
A3 3 3 3 103 103 3
A4 4 4 4 104 104 4
A5 5 5 5 105 105 5
A6 6 6 6 106 106 6
A7 7 7 7 107 107 7
A8 8 8 8 108 108 8
A9 9 9 9 109 109 9
4両編成 編成番号 クロ383
-100
(Tsc2)
モハ383
-0
(M1)
サハ383
-100
(T2)
クモハ383
-0
(Mc)
A101 101 10 10 10
A102 102 11 11 11
A103 103 12 12 12
2両編成 編成番号 クハ383
-0
(Tc)
クモハ383
-0
(Mc)
A201 1 13
A202 2 14
A203 3 15
A204 4 16
A205 5 17

運用

2022年3月14日現在、以下の列車で使用されている。

  • 「しなの」(名古屋駅 - 長野駅間)
  • 「ホームライナー瑞浪」(名古屋駅 - 瑞浪駅間)

6両基本編成と増結用編成である4両編成・2両編成の走行距離を極力均等化するため、4両編成と2両編成のみで組成された定期運用が存在する。かつては季節列車化以前の夜行急行ちくま」での運用があったほか、313系8000番台の増備まで暫定的に快速セントラルライナー」でも運用されたことがある[15]。また2016年3月25日までは、「しなの」1往復で西日本旅客鉄道(JR西日本)の大阪駅まで乗り入れていた。

臨時列車では、多客期に運行される松本駅・白馬駅発着の「しなの」にも使用されているほか、2014年7月9日に発生した大雨の影響で中央本線が不通になった際には、11日に上松駅まで運転再開してから運行された「しなの」の停車駅に準じた臨時快速の運用に同年8月5日の全線再開まで使用された。2005年には、愛・地球博の開会式での要人輸送の団体臨時列車として、愛知環状鉄道線を走行している。


今後の予定

本形式の後継車両として、振子動作位置などを改善した次世代振子装置を設置する「385系電車」の量産先行車8両1編成を2026年度を目処に導入し、各種試験を実施したのち2029年度から量産車の増備を開始する予定であることが、2023年7月20日に発表されている[16]

脚注

注釈

  1. ^ 381系は日本国有鉄道(国鉄)設計・製造の唯一の営業用振り子式車両であったが、車体傾斜を遠心力のみに依存する自然振子式は曲線に進入してから車体が傾くまでに時間差があり、車両による傾斜のタイミングや角度の差異との相乗効果で乗り物酔いを誘発しやすいとの評価があった。
  2. ^ の連結・解放は手動で行う。
  3. ^ 予め走行する路線の線形データを車上装置に記録させ、速度発電機からの速度信号と地上のATS地上子の電波信号を受信して、車上装置に記録した情報を元に距離演算して列車が路線のどの地点にいるかを判断し、カーブ前後で車体傾斜角を制御する方式。カーブ内では自然振子方式と同様に、超過遠心力により傾斜を維持する。本系式のみならず、制御付き自然振り子方式を採用している他の系式もほぼ同じである。
  4. ^ 本則とは、国鉄の運転取扱基準規程第121条2項の線路の分岐に接続しない曲線における曲線半径別制限速度を指す。JRの運転規則においては、曲線における電車・気動車の基本の速度、あるいは基本の速度イに相当する。
  5. ^ 381系と同一の区間設定である。
  6. ^ 1995年3月に富士駅 - 南甲府駅間で試運転を行ったことがある。

出典

  1. ^ “JR7社14年のあゆみ”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 9. (2001年4月2日) 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah 「新車ガイド JR東海383系特急形直流電車」『鉄道ファン』第36巻第12号、交友社、1996年12月、59-64頁。 
  3. ^ 旅客車 [383系特急形直流電車「しなの」383系特急形直流電車]”. GOOD DESIGN AWARD. 2015年10月19日閲覧。
  4. ^ 1996年 ブルーリボン・ローレル賞選定車両”. 鉄道友の会. 2015年10月19日閲覧。
  5. ^ a b 鉄道ジャーナル』1994年11月号、鉄道ジャーナル社、1994年、86-87頁。 
  6. ^ 東芝「東芝レビュー」1995年3月号「1994年の技術成果」230P。
  7. ^ a b 東洋電機製造「東洋電機技報」1995年7月号(第92号)「94年総集編・東海旅客鉄道向け383系特急電車用電気品」p.3(試作車)。同書では東洋電機製造が383系向けに、集電装置、駆動装置、主電動機、VVVFインバータ装置、補助電源装置などを納入したことが記載されている。
  8. ^ a b 東洋電機製造「東洋電機技報」1997年4月号(第98号)「96年総集編・東海旅客鉄道向け 383系量産車用電機品」p.3(量産車)。
  9. ^ 「383系特急形直流電車」『鉄道ファン』第34巻第11号、交友社、1994年、95頁。 
  10. ^ 「振子特急でつなぐ旅」『鉄道ファン』第55巻第10号、交友社、2015年、53頁。 
  11. ^ 目地哲郎(JR東海東海鉄道事業本部車両部車両課)「JR東海383系に採用された自己操舵台車の技術」、『鉄道ジャーナル』1997年9月号、鉄道ジャーナル社、1997年、80-82頁。
  12. ^ 特許公開平4-300773号「鉄道車両用台車の軸箱支持剛性制御装置およびその制御方法」、1992年、JR東海・住友金属工業
  13. ^ 特許公開平9-109886号「列車の輪軸の支持方法と、これを用いた鉄道車両、列車及び操舵台車」、JR東海・須田義大
  14. ^ 交友社鉄道ファン』2018年7月号 「JR車両ファイル2018 JR旅客会社の車両配置表」 p.18 - p.21
  15. ^ 『鉄道ジャーナル』通巻405号、p.103
  16. ^ “特急「しなの」新型385系に置き換え決定 次世代の「振子式」 乗り心地改善へ JR東海”. 乗りものニュース. (2023年7月20日). https://trafficnews.jp/post/127057 2023年7月20日閲覧。 

参考文献

  • 東洋電機製造「東洋電機技報」
    • 1995年7月号(第92号)「東海旅客鉄道向け383系特急電車用電気品」p.3
    • 1997年4月号(第98号)「東海旅客鉄道向け383系量産車用電機品」p.3(量産車)
  • 「JR東海<セントラルライナー>に383系も動員」『鉄道ジャーナル』第405号、鉄道ジャーナル社、2000年7月、103頁。 

外部リンク

  1. ^ 地球環境保全への貢献”. 東海旅客鉄道. 2023年11月29日閲覧。