CST-100

CST-100 スターライナー
ISSに接近するスターライナー
所属 ボーイング
主製造業者 ボーイング
任務 乗員輸送機
輸送ロケット

アトラス V

ヴァルカン
打上げ場所 ケープカナベラル空軍基地
質量 13,000 kg
軌道要素
軌道 低軌道
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CST-100 スターライナー (Crew Space Transportation-100)[1] は、ボーイング社がNASA商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の下で開発中のカプセル型有人宇宙船である。想定されている任務は国際宇宙ステーション (ISS) や[2]、民間企業によるビゲロー商業用宇宙ステーションのような宇宙ステーションへ乗員を輸送することである。

概要[編集]

打ち上げ前のスターライナー

外観はロッキード・マーティンがNASAのために開発しているオリオン宇宙船と似たカプセル形状である[3]。正確な寸法は発表されていないがアポロ指令船よりも大きくオリオン宇宙船よりも小さい[4]低軌道への輸送のみに使用される予定のため、オリオン宇宙船のような地球外軌道まで飛行するための装置は搭載しない。スターライナーは最大7人の乗員を乗せる事が出来[5]、生命維持装置は低軌道仕様で小型軽量化されるため、室内空間の容積は大きくとれる。

軌道上に最大7ヶ月間(210日間)滞在し[6]、最大10回再使用できるような設計である[5]

NASAは2010年にCCDev-1契約として、ボーイング社にこの宇宙船の基礎設計として1800万ドルを払った[7]。また2011年のCCDev-2契約では9300万ドルの契約を受注した。

スターライナーはアトラス Vヴァルカン、とファルコン9を含む様々なロケットに適合するよう設計されるが、当面はアトラスVでの打上げを予定している[5][8]

スターライナーはパラシュートで降下した後、6基のエアバッグを展開して衝撃を吸収する形で陸上へ着陸する。非常時には洋上着水も可能であるが、この場合はエアバッグは使わない。打上げ時に使わなかったアボートシステム (LAS)(宇宙船の底部に装着するPusher方式を選定)の推進薬は、宇宙ステーションの高度の引き上げに使う事も可能[9]

開発[編集]

打ち上げ脱出システムの試験

確定契約の全額の支払いを受けるにはCCDev-1のスペース・アクト・アグリーメント英語版で2010年に設定された以下マイルストーンを満たす必要がある。

  • 打ち上げ脱出システム (LAS) の押し出し式 (pusher-type) か牽引式 (tractor-style) の比較検討と選定
  • システム定義の確認(レビュー)
  • 脱出装置の実証試験
  • 熱遮蔽(ヒートシールド)の製造の実証
  • アビオニクスシステム統合施設の実証
  • 乗員モジュール (CM) 与圧壁の組立ての実証
  • 着陸システムの実証(落下試験と着水時(にひっくり返らないよう)直立試験)
  • 生命維持用の空気再生の実証
  • 自動ランデブーとドッキング (AR&D) ハードウェア/ソフトウェアの実証
  • 乗員モジュールモックアップの実証[10]

ボーイングはこの計画が承認を受け、十分な予算を確保できた場合は、このカプセルを2015年には運用できるようにする予定だと述べた。この計画はNASAの支援なしでは実現は困難であり、商業利用の観点からは国際宇宙ステーション (ISS) 以外の目的地の確保も必要であるため、ビゲロー・エアロスペースと協力する事は重要であるとも述べた[4]

2014年9月16日にNASAは、CCDevの第4ラウンドにあたるCCtCAP (Commercial Crew Transportation Capability) プログラムへの参加企業としてボーイング社とスペースX社の2社を選んだと発表した。この契約では、NASAからボーイング社に42億ドル、スペースX社に26億ドルの資金が提供され、NASAの宇宙飛行士を最低1人搭乗させた有人宇宙飛行を最低1回実施してその性能を証明することが定められている。初打ち上げは当初2017年とされていたが[11][12]、その後の開発の遅れにより2019年12月となった[13]

設計[編集]

カプセルのモックアップ

ボーイングは、NASAのアポロ計画スペースシャトル国際宇宙ステーションや、国防省のオービタル・エクスプレス英語版計画の経験に基づいて本宇宙機を設計している[4]

スターライナーはオリオン宇宙船からの技術的な流れはないが、ロッキード・マーティン社からの技術支援を受けてビゲロー社が開発を進めていたと伝えられたオリオンの派生機種であるオリオン・ライトと時々混同された[14]。ドッキング機構としてはアンドロジナスドッキング機構を使用し、熱シールドにはボーイング軽量アブレータ (BLA) を使用する[15][16]

名称[編集]

当初のボーイングの報道発表ではCST-100やスターライナーという名称ではなかった。CST-100という名称が世間に最初に伝えられたのはビゲロー・エアロスペースのCEOのRobert Bigelowによるもので、彼は2010年6月にこのカプセルをCST-100と呼称した[17]。CSTは'C'rew 'S'pace 'T'ransportationの略で、数字の100は宇宙空間との境界であるされる高度100 kmのカーマン・ラインをあらわす[18][19]

2015年9月4日、ボーイングによりこの宇宙船にスターライナー (Starliner) という名称が与えられたことが発表された[1]。この名称は、同社の歴代の旅客機ストラトライナードリームライナーに連なるネーミングとなっている[20]

打ち上げ記録と予定[編集]

打ち上げ日時 (UTC) ミッション名 乗員 期間 結果 備考
2019年11月4日
14:15
緊急脱出用ロケット試験 N/A 95秒 成功 ニューメキシコ州ホワイトサンズ・ミサイル実験場で行われた緊急脱出用ロケットの試験。3つのパラシュートのうち1つが、正しく装着されておらず開かなかったが、パラシュートシステムは適切に機能した。[21]
2019年12月20日
11:36
Boe-OFT英語版 N/A 2日 部分的失敗 無人テスト飛行。打ち上げは成功したが、ミッションの主目的であったISSとのドッキングは、ソフトウェアの不具合により、過剰に推進剤を消費してしまったため、中止された。[13]
2022年5月19日 Boe-OFT2英語版 N/A 成功 2019年12月20日の失敗により、追加の無人テスト飛行が必要と判断された。2021年7月30日の予定が打ち上げ直前にトラブルでキャンセルされた[22]。現地時間で2022年5月19日に打ち上げ成功[23]。米国時間2022年5月20日、ISSにドッキング成功[24]、25日、ニューメキシコ州に着陸し帰還成功[25][26]
2024年4月[27] Boe-CFT英語版 アメリカ合衆国の旗 クリストファー・ファーガソン
アメリカ合衆国の旗 マイケル・フィンク
アメリカ合衆国の旗 ニコール・マン英語版他1名
2~4ヶ月 初の有人テスト飛行
2025年[27] Boeing Starliner-1 アメリカ合衆国の旗 スニータ・ウィリアムズ
アメリカ合衆国の旗 ジョシュ・カサダ英語版 他2名
6ヶ月 初の実用ミッション飛行
2025年 Boeing Starliner-2 4名予定 6ヶ月
2026年 Boeing Starliner-3 4名予定
2027年 Boeing Starliner-4 4名予定
2028年 Boeing Starliner-5 4名予定
2029年 Boeing Starliner-6 4名予定

技術協力[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b Boeing Revamps Production Facility for Starliner Flights”. NASA (2015年9月4日). 2015年9月21日閲覧。
  2. ^ Boeing Submits Proposal for NASA Commercial Crew Transport System”. 2018年3月24日閲覧。
  3. ^ New Boeing Spaceship Targets Commercial Missions” (2010年6月25日). 2018年3月24日閲覧。
  4. ^ a b c Boeing space capsule could be operational by 2015”. 2018年3月24日閲覧。
  5. ^ a b c Commercial Human Spaceflight Plan Unveiled”. Aviation Week (2010年7月20日). 2010年9月16日閲覧。
  6. ^ 乗員が搭乗した状態ではなく、宇宙ステーションにドッキングした状態で最大7ヶ月間滞在
  7. ^ NASA Selects Boeing for American Recovery and Reinvestment Act Award to Study Crew Capsule-based Design”. 2018年3月24日閲覧。
  8. ^ Commercial Crew and Cargo Program”. 2010年10月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  9. ^ Boeing CST-100 Commercial Crew Transportation System” (February, 2011). 2011年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  10. ^ NASA CCDev Space Act Agreement with Boeing”. 2018年3月24日閲覧。
  11. ^ NASA、民間有人宇宙船の開発にボーイング社とスペースX社を選定”. sorae.jp (2014年9月17日). 2014年9月17日閲覧。
  12. ^ Stephanie Schierholz (16 September 2014). "NASA Chooses American Companies to Transport U.S. Astronauts to International Space Station" (Press release). NASA. 2014年9月17日閲覧
  13. ^ a b スターライナー、軌道投入失敗。国際宇宙ステーションへ到達できず”. Sorae (2019年12月21日). 2019年12月22日閲覧。
  14. ^ Klamper, Amy (2009年8月14日). “Company pitches 'lite' spaceship to NASA”. MSNBC.com. http://www.msnbc.msn.com/id/32418057/ns/technology_and_science-space/ 2009年9月7日閲覧。 
  15. ^ SpaceUp HOU 2011 - Commercial Space Flight Panel
  16. ^ Boeing CST-100 Slideshow
  17. ^ Bigelow Aerospace Joins the Commercial Spaceflight Federation”. 2018年3月24日閲覧。
  18. ^ "Boeing CST-100 Spacecraft to Provide Commercial Crew Transportation Services" (Press release). 19 July 2010. 2018年3月24日閲覧
  19. ^ New Spaceship Could Fly People to Private Space Stations”. 2018年3月24日閲覧。
  20. ^ ボーイング社の新型宇宙船CST-100、名前は「スターライナー」に”. Sorae.jp (2015年9月5日). 2015年9月21日閲覧。
  21. ^ https://spaceflightnow.com/2019/11/04/boeing-starliner-pad-abort/
  22. ^ 米ボーイング、新型宇宙船打ち上げを延期 システム障害で」『Reuters』、2021年8月3日。2022年4月4日閲覧。
  23. ^ 松村武宏. “新型宇宙船「スターライナー」打ち上げ成功! 5月21日にISSへ到着予定”. sorae 宇宙へのポータルサイト. 2022年5月20日閲覧。
  24. ^ ついに到着! ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」がISSにドッキング”. sorae 宇宙へのポータルサイト. 2022年5月21日閲覧。
  25. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2022年5月26日). “【フォト特集】新宇宙船、エアバッグ使い着陸 ボーイングが無人試験”. 産経ニュース. 2022年5月26日閲覧。
  26. ^ 米ボーイング新宇宙船スターライナー 無人飛行試験終え地球帰還”. 毎日新聞. 2022年5月26日閲覧。
  27. ^ a b 宇宙船「スターライナー」、初の有人飛行試験に向け作業進む–安全性に問題”. UchuBiz (2024年2月1日). 2024年2月1日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]