鬼界カルデラ

鬼界カルデラの位置
薩摩硫黄島硫黄岳(2015年5月、東方より撮影)
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鬼界カルデラ(きかいカルデラ)は、薩摩半島から約50 km南の大隅海峡にあるカルデラ海底火山[1]。直径は約20 km[2]薩南諸島北部にある薩摩硫黄島竹島がカルデラ北縁の外輪山に相当する。カルデラ中央海底には、単一の火口に由来するものとしては世界最大規模の溶岩ドームがある[3]。溶岩ドームからは現在も火山性ガスの気泡が噴出しており[2]、地下にはマグマ溜りが存在すると考えられている[3]。薩摩硫黄島はランクAの活火山に指定されている。

先史時代以前に複数回の超巨大噴火を起こしている。約7300年前の大規模カルデラ噴火は過去1万年の内では世界最大規模で、火砕流九州南部にも到達し、九州南部の縄文文化を壊滅させたと推測されている[3]。近年の研究では、屋久島、口永良部島、大分県、徳島県などで噴火に伴い発生したと考えられる津波の痕跡が発見されたとの報告がある[4]

地形[編集]

カルデラは東西約21 km、南北約 18kmの楕円形であり、約7300年前の噴火で形成された内側のカルデラと、それ以前に形成された外側のカルデラの二重となっている。カルデラ底部の水深は400 - 500 m。海底には多数の海底火山があり起伏に富んだ地形になっている。カルデラ外輪山として竹島、硫黄島が海面上にある。硫黄島の硫黄岳、稲村岳、及び昭和硫黄島後カルデラ火山。外輪山の矢筈岳、硫黄島西部の平坦部は先カルデラ火山。硫黄島から南東方向の中心部付近には海底の高まりがあり、後カルデラ火山活動によって形成された中央火口丘と推定される。このうち1つの浅瀬は海面上にあり、3つの岩礁からなっている。神戸大学などの研究チームが2016年から2017年にかけて行った海底調査では、直径約10 km、高さ約600 m、体積約40 km3の溶岩ドームを確認した[2][5]

主な噴出物[編集]

幸屋火砕流と鬼界アカホヤの広がり。九州南部・東部、四国本州瀬戸内海沿い、および和歌山県で20 cm以上あり、広くは朝鮮半島南部や東北地方にも分布する。
  • 約96万年前
  • 約63万年前
    • 小瀬田火砕流 (Ksd):屋久島種子島に層厚10 m以上で分布する火砕流堆積物。分布範囲、ジルコンから鬼界カルデラが供給源と推定されている[6]
  • 約14万年前
    • 小アビ山火砕流 (Kab):硫黄島と竹島に分布している流紋岩質の火砕流堆積物。層厚は竹島で20 - 100 m、硫黄島で数 m - 50 m。(VEI-7?) 最下層に降下軽石層があり、下部の火砕流堆積物は強く溶結している。
  • 約9万5000年前
    • 長瀬火砕流:軽石を含む流紋岩質の火砕流堆積物。非溶結で大量の火山豆石を含む。
    • 鬼界葛原(きかいとずらはら)火山灰 (K-Tz):長瀬火砕流から巻き上げられた火山灰 (Co-ignimbrite ash)。九州地方から関東地方にかけて分布する広域テフラで、長瀬火砕流と合わせた総体積は約150 km3(138 km3 DRE、DRE=マグマ噴出量)。
  • 約1万6000 - 9000年前
  • 約9000 - 7300年前
    • 長浜溶岩流 (NGH):硫黄島西部の平坦部を構成する流紋岩質の溶岩流で、海面からの層厚は80 m以上にも及ぶ。下部は垂直で太い不規則な柱状節理が発達している。
  • 約7,300年前(暦年補正)
    • 船倉(幸屋)降下軽石 (K-KyP):体積は約20 km3 (12.8 km3 DRE)。
    • 船倉火砕流
    • 竹島(幸屋)火砕流 (K-Ky):体積は約50 km3。広く薄く分布しているのが特徴の火砕流堆積物 (low-aspect ratio pyroclastic flow) で、このような特徴の火砕流としてはAso-4 (90 ka)、タウポ火砕流 (18 ka) が知られる[7]
    • 鬼界アカホヤ火山灰 (K-Ah):幸屋火砕流のco-ignimbrite ash fall. 体積は100 km3以上(幸屋火砕流と合わせて84 km3 DRE以上)。国内では宮城県以南に分布する広域テフラ[8]。種子島・屋久島において噴火と連動し生じた複数回の地震痕跡を確認したとの報告がある[9]
    • 合計総体積約170 km3 以上 (96.8 km3 DRE)[注 1][10][2]
  • 約7300年前以降(後カルデラ火山)

有史以降の火山活動[編集]

  • 1934年(昭和9年)- 1935年(昭和10年):硫黄島から約2km東方で海底噴火。
直径約300 m、標高約50 mの昭和硫黄島が形成された。
  • 1936年(昭和11年):薩摩硫黄島の硫黄岳で噴煙を観測。
  • 1988年(昭和63年):薩摩硫黄島の硫黄岳で噴煙を観測。
  • 1999年(平成11年)-2004年(平成16年):薩摩硫黄島の硫黄岳で断続的に噴火。

調査研究史[編集]

昭和初期に付近の島々を調査した地質学者の松本唯一は、ここに巨大なカルデラが存在していることを指摘し、鬼界ヶ島にちなんで鬼界火山と命名[11]。1943年に鬼界カルデラとして学会に提唱した[12]。1976年にはアカホヤと呼ばれていた地層がこのカルデラを起源としていることが確認された[13]

2016年から2017年かけて行われた海底調査の結果、直径約10 km、高さ約600 m、体積約30 km3にもなる巨大な溶岩ドームが確認され、現在も活発な噴火活動が続いていることが判明した。

2018年にはジャニーズの俳優で歌手の滝沢秀明と神戸大学海洋底探査センターとの協力で行われた海底地形探査で、世界最大級巨大溶岩ドームの構造が鮮明になり、滝沢が海域潜水採取した岩石の分析からは鬼界カルデラ直下のマグマが巨大カルデラ形成元となり噴火する可能性が示された[14]。調査同行したNHKの映像記録が、滝沢秀明の火山探検紀行 巨大カルデラの謎に迫るで放送され[15]、英ネーチャーウェブ誌上論文にも名を連ねた[16]

神戸大学の練習船深江丸」よりも海底下地中の構造を深く探査できる海洋研究開発機構 (JAMSTEC) の海底広域研究船「かいめい」が2021年度に投入された[3][17]

日本ジオパーク[編集]

2015年9月4日に、三島村・鬼界カルデラジオパークとして「日本ジオパーク」に認定された[18][19]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 資料によっては6300年前と記載しているものがある。これは、放射性炭素年代測定で暦年補正を行っていない場合の年数である。西日本、特に九州の先史時代から縄文時代初期の文明も、この噴火で絶滅したと考えられている。また、食料を求めて火山灰の無い地域へ移り住み絶滅を免れたとする説もある。

出典[編集]

  1. ^ 鬼界カルデラ総合調査<研究紹介<海域地震火山部門<JAMSTEC”. www.jamstec.go.jp. 2022年2月15日閲覧。
  2. ^ a b c d 鬼界カルデラに特大の溶岩ドーム 超巨大噴火後に形成か朝日新聞デジタル(2017年3月31日)2020年8月18日閲覧
  3. ^ a b c d 海底巨大火山 浮かぶ全貌/鬼界カルデラ、マグマを調査」『日本経済新聞』朝刊2020年8月6日(サイエンス面)2020年8月18日閲覧
  4. ^ 山田昌樹、藤野滋弘、王宇晨、楠本聡、前野深、佐竹健治「[講演要旨]徳島県田井ノ浜の沿岸低地で見つかった鬼界カルデラ噴火による津波堆積物と数値シミュレーション」(PDF)『歴史地震』第35号、歴史地震研究会、2020年、276頁、2021年10月31日閲覧 
  5. ^ 巽好幸; 鈴木桂子; 松野哲男; 市原寛; 島伸和; 清杉康司; 中岡玲奈; 中東和夫 et al. (2018-02-09). “Giant rhyolite lava dome formation after 7.3 ka supereruption at Kikai caldera, SW Japan”. Nature Scientific Reports. (Nature Publishing Group) 8 (1): 1-9. doi:10.1038/s41598-018-21066-w. https://doi.org/10.1038/s41598-018-21066-w 2018年2月9日閲覧。. 
  6. ^ a b 伊藤ほか「屋久島に分布するテフラのU-Th-Pb年代測定から推定された鬼界カルデラの活動史」『第122年学術大会(2015長野) セッションID: R3-O-4』、日本地質学会、2015年、doi:10.14863/geosocabst.2015.0_1072017年5月8日閲覧 
  7. ^ 藤原 誠、鈴木 桂子「幸屋火砕流堆積物及びその給源近傍相のガラス組成と堆積様式」『火山』第58巻第4号、2013年、489-498頁、doi:10.18940/kazan.58.4_4892019年11月21日閲覧 
  8. ^ 町田洋, 新井房夫「南九州鬼界カルデラから噴出した広域テフラ―アカホヤ火山灰」『第四紀研究』第17巻第3号、日本第四紀学会、1978年、143-163頁、doi:10.4116/jaqua.17.143ISSN 0418-2642NAID 130001558874 
  9. ^ 成尾英仁, 小林哲夫「鬼界カルデラ,6.5ka BP噴火に誘発された2度の巨大地震」『第四紀研究』第41巻第4号、日本第四紀学会、2002年8月、287-299頁、doi:10.4116/jaqua.41.287ISSN 04182642NAID 10009477140 
  10. ^ Question #5960”. 火山についてのQ&A集. 特定非営利活動法人日本火山学会. 2007年5月18日閲覧。
  11. ^ 鹿児島湾の特異性」『九州山岳 第2号』[要ページ番号]
  12. ^ 藤本雅太郎「松本唯一先生の論文『九州の四大カルデラ火山』を読む」『熊本地学会誌』第146巻、熊本大学、2007年11月、2-8頁、ISSN 0389-1631NAID 110006428861 
  13. ^ 火山灰は語る』「Ⅳ 富士テフラの間から発掘された九州の巨大噴火」163頁-208頁
  14. ^ 鬼界海底カルデラ内に巨大溶岩ドームの存在を確認
  15. ^ 滝沢秀明の火山探検紀行 巨大カルデラの謎に迫る
  16. ^ [1]
  17. ^ 巨大海底火山「鬼界カルデラ」の過去と現在(海洋研究開発機構 2022/04/28)
  18. ^ “日本ジオパークに栗駒など3地域 世界への白山手取川推薦見送り”. 47NEWS (時事通信). (2015年9月4日). https://web.archive.org/web/20150913222722/http://www.47news.jp/CN/201509/CN2015090401001963.html 2015年9月5日閲覧。 
  19. ^ “三島村・鬼界カルデラがジオパークに 認定の報に大きな拍手”. 読売新聞. (2015年9月5日). http://www.yomiuri.co.jp/local/kagoshima/news/20150904-OYTNT50172.html 2015年9月5日閲覧。 

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯30度47分 東経130度19分 / 北緯30.79度 東経130.31度 / 30.79; 130.31