難読漢字
難読漢字(なんどくかんじ)とは、読み方が熟字訓など表外のものであったり、当用漢字外の漢字や国字が入っているために、一般の人にとって読みにくい漢字系文字の総称。日本では特に一般の日本人にとって読みにくいものを指す[1]。
概要[編集]
そもそも漢字は数が数万字以上(Unicodeが7万字を収録。詳細は漢字の項参照)あり、また、部品から正確に読みを知ることは困難で、読みも一種類でないことが多いため、学校や一般社会であまり使われない漢字は、正しく読むことが難しい性格の文字である。人によって読めない漢字は一定ではなく、どれだけの人が正しく読めないと難読といえるのか、明確な基準があるわけではないが、少なくとも過半数の人が読める字は難読とは呼べないだろう。また、読める人の比率は時代、流行、通信技術などの要因で常に変わっており、恒久的な基準があるわけでもない。日本では日本漢字能力検定や日本語検定において熟字訓や当て字についての出題がある。
かつては「薔薇(ばら・そうび)[2]」なども難読漢字の典型的存在であったが、そうした代表格として頻繁に引用された結果、一般にはこれを難読とはしない姿勢が強まるというパラドックスも生じている。また、もともと漢語を表記するための漢字で和語の熟字訓として読ませているため、難読であるが、中国人にとっては部品をみればおよその音が推測できる形声漢字が使われており、中国語圏では、書くのは煩雑な字であっても難読とはいいづらい。
他にもよく知られた難読字の例としては、画数がもっとも多い国字である「(たいと)」が挙げられる。これも極めて珍しい苗字であり、かつ一般に使われる文字ではないため、当初は難読に属するものであったが、BTRON仕様OSの「超漢字」が多漢字を使用できることをアピールする目的で看板的にこの文字を使い、一部では非常に知られる文字となった。
中国語においても百姓読みのような部品につられた読み間違いをしやすい漢字、破音字と呼ばれる複数の読みがある漢字、知らない部品から構成されていて読みが想像できないような漢字は難読な漢字ではあるが、多くは「難字」と呼ばれる。
日本語における難読漢字の例[編集]
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熟字訓[編集]
- 黄蜀葵(とろろ)
- 鹿尾菜(ひじき)
- 年魚・香魚(あゆ)[2]
- 吉丁虫(たまむし)[2]
- 車前草(おおばこ)[2]
- 蒲公英(たんぽぽ)
- 紫陽花(あじさい)[2]
- 紫雲英(れんげそう、げんげ)[2]
- 麪包・麵麭(ぱん)
- 金字塔(ピラミッド)[2]
- 最中(もなか)[2]
- 田圃(たんぼ)[2]
- 鞋底魚(したびらめ[注釈 1])[3]
- 草鞋(わらじ)[3]
- 板山葵(いたわさ)[3]
- 強請・強談(ゆすり)[2]
- 可惜(あたら)[2]
- 美人局(つつもたせ)
- 態態(わざわざ)
- 帯刀歩射副部領(たちはきのかちわきことり)
- 山車(だし)
- 稗官者流(わがはい)[4]
- 聾座敷・対陣敵國(むこうじょうめん)
- 甲乙丙丁(しょへんにへん)
- 過去将来(こしかたゆくすえ)
- 不知所之(まいご)
- 凹騎(ふたりのり)
- 軟軟痿痿(ぐにゃぐにゃ)
- 陶椀羹殿(ちゃわんもり)
- 懊惱腹(むしゃくしゃばら)
- 強請奨勵(むりやり)
- 赤繩(えにし)
- 木綿弾弓(わた)[5]
- 四時占候諺語(ひよりのよしあし)
- 舳脇左側舳脇右側(とりかじおもかじ)
- 錫銅鏡鼻(なまり)
- 金命水命投走無命(からきいのちをたすかりて)
- 守金奴(かねのばんにん)
- 加豆及店(かずのこ)
- 日日日日日日日日日日(ひたちやまがごろついてくさつに)[6]
動物[編集]
- 年魚・香魚(あゆ)[2]
- 吉丁虫(たまむし)[2]
- 鞋底魚(したびらめ[注釈 1])[3]
- 岩魚(いわな)
- 金襖子(かじかがえる)
- 水鼈(とちかがみ)
- 竜蝨(げんごろう)
- 白駒(はっく)
- 雁擬(がんもどき)
- 島柄長(しまえなが)
- 紙魚(しみ)
- 小灰蝶(しじみちょう)
- 麝香猫(じゃこうねこ)
- 桃花鳥・朱鷺(とき)
- 鯣(するめ)
- 胡蜂(すずめばち)
- 於菟(おと)
- 𩹷(いとう)
- 八目鰻(やつめうなぎ)
- 不如帰(ほととぎす)
- 螽斯・蟋蟀(きりぎりす)
- 一文字挵蝶(いちもんじせせり)
- 椿象(かめむし)
- 海鞘・老海鼠(ほや)
- 金亀子(こがねむし)
- 尉鶲(じょうびたき)
- 紅娘(てんとうむし)
- 悪鬼貝(いばらがい)[7]
- 琵琶螺(うずらがい)
- 三井寺歩行虫(みいでらごみむし)
植物[編集]
- 車前草(おおばこ)[2]
- 蒲公英(たんぽぽ)
- 紫陽花(あじさい)[2]
- 紫雲英(れんげそう、げんげ)[2]
- 辣韭(らっきょう)
- 秣(まぐさ)
- 李(すもも)
- 羊歯(しだ)
- 雨久花(みずあおい)
- 蕎麦葉貝母(うばゆり)
- 枸杞(くこ)
- 雪花菜(おから)
- 万寿果(ぱぱいあ)
- 山桜桃梅(ゆすらうめ)
- 木耳(きくらげ)
人物名[編集]
- 蒲生氏郷(がもううじさと)
- 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)
- 伊弉冉尊(いざなみのみこと)
- 杜甫(とほ)
- 沙翁(シェイクスピア)
- 天鈿女命(あまのうずめのみこと)
単位[編集]
- 浬(かいり、ノット)
- 哩(マイル)
- 米(メートル)
- 瓦(グラム)
- 瓩(キログラム)
- 瓲・屯(トン)
- 立(リットル)
- 啢(オンス)
- 粁(キロメートル)
- 碼(ヤード)
- 吋(インチ)
- 呎(フィート)
当て字[編集]
- 紐育(ニューヨーク)
- 堪比日(ケンブリッジ)
- 維納(ウィーン)
- 瑞典(スウェーデン)
- 土耳古(トルコ)
- 芬蘭(フィンランド)
- 独逸(ドイツ)
- 華盛頓(ワシントン)
- 墨西哥(メキシコ)
一字の漢字[編集]
- 潴(みずたまり)
- 霰(あられ)
- 霙(みぞれ)
- 雹(ひょう)
- 鮴(ごり、めばる)[2]
- 擽る(くすぐる)
- 鮎[注釈 2](なまず)[3]
- 鸛 (こうのとり)
- 嚏 (くしゃみ、くさめ)
- 鉞 (まさかり)
- 蕣 (あさがお)
- 畤(まつりのにわ)
- 旻(あきぞら)
- 翅(はね)
- 虬(みずち)
- 遖(あっぱれ)
- 臟(はらわた)
- 悃(まごころ)
- 逵(おおどおり)
- 鼈(すっぽん)
- 堋(あずち)
- 釦(ぼたん)
- 瘢(しみ、そばかす、きずあと)
- 簾(すだれ)
- 羮(あつもの)
- 譖(そしり)
- 硲(はざま)
- 柵(しがらみ)
- 箕(ちりとり)
- 巽(たつみ)
- 諱(いみな)
- 筌(うえ)
- 暘(ひので)
- 臑(すね)
- 鉈(なた)
- 掌(たなごころ)
- 碗(わん)
- 兌(だ)
- 坎(かん)
- 艮(ごん)
- 爻(こう)
- 湌(たべもの、のみもの)
- 簫(しょうのふえ)
- 彗(ほうきぼし)
- 棍(わるもの)
- 腴(あぶら)
- 茄(あしぶえ)
- 廟(みたまや)
- 甍(いらか)
- 閾(しきい)
- 醬、醤(ししびしお)
- 昊(なつぞら)
- 諡(おくりな)
表外音[編集]
- 反吐(へど)[2]
- 反古(ほご)[2]
- 外郎(ういろう)[2]
- 不惜身命(ふしゃくしんみょう)
- 一寸法師(いっすんぼうし)
- 皿 (べい)
- 頃 (けい)
- 鹿 (ろく)
- 鶴 (かく)
- 須 (しゅ)
- 呂 (りょ)
- 届 (かい)
- 市井(しせい)
- 袈裟(けさ)
- 暢気、呑気(のんき)
表外訓[編集]
- 殿(しんがり)[2]
- 匿う(かくまう)[2]
- 集る(たかる)[2]
- 麗か(うららか)[2]
- 皇(すめらぎ、すめろぎ)[2]
- 潮(うしお)[2]
- 帝(みかど)
- 邸(やしき)
- 輩 (やから)
- 邪 (よこしま)
- 賊 (にしもの)
- 樹 (き)
- 戦ぐ(そよぐ)
- 演う (うたう)
- 宜しい (よろしい)
- 玩ぶ (もてあそぶ)
- 遜る (へりくだる)
- 与る (あずかる)
- 準える (なぞらえる)
- 労う (ねぎらう)
- 屈む (かがむ)
- 濃やか (こまやか)
- 厳か (おごそか)
- 慮る (おもんぱかる)
- 敏い (さとい)
- 威す (おどす)
- 囚われる (とらわれる)
- 因む (ちなむ)
- 象る (かたどる)
- 潜る (くぐる)
- 戦く (おののく)
- 給う (たまう)
- 堆い (うずたかい)
- 愉しい (たのしい)
- 晩い (おそい)
- 質す (ただす)
- 徐に (おもむろに)
- 右ける (たすける)
- 団い (まるい)
- 記す (しるす)
- 円か (まどか)
- 兆す (きざす)
- 強ち (あながち)
- 拉げる (ひしゃげる)
- 課てる (わりあてる)
- 親ら (みずから)
- 均す (ならす)
- 猛し (たけし)
- 拡がる (ひろがる)
- 沙 (いさご)
- 少く(しばらく)
- 白らか(あきらか)
- 約やか(つづまやか)
- 該わる(そなわる)
- 若しも(もしも)
- 瞬ぐ(まじろぐ)
- 肯んずる(がえんずる)
- 胡んぞ(いずくんぞ)
- 賂う(まいなう)
- 認める(したためる)
- 徐に(おもむろに)
- 戯れる(じゃれる)
- 了う(しまう)
- 序で(ついで)
- 燥ぐ(はしゃぐ)
- 戦慄く(わななく)
- 頻り(しきり)
- 凡そ(およそ)
- 円やか(まろやか)
- 霊び(くしび)
- 忽せ(ゆるがせ)
- 記念(かたみ)
- 炎(かぎろい、ほむら)
- 武士(もののふ)
- 潮(うしお)
- 卓(つくえ)
- 徒(いたずら)
- 一入(ひとしお)
- 忠実、実(まめ)
- 咲う(わらう)
- 玉響(たまゆら)
- 発哀い、哭い(ねつかい)[8]
- 蹣零す(はねおとす)
- 鹹し(しわはゆし)
- 精悍し(かいがいし)
- 搴束り(はしょり)
- 纏綿に(むつまかに)
- 一二か(つまびらか)
- 沸騰り(にえくりかえり)
- 仂ない(はしたない)
- 恚る(ふしこる)
- 攪てる(ほだてる)
- 令献す(まつりだす)
- 允当い(むりもない)
- 比える(よそえる)
- 経く(わなく)
- 驟き(うごつき)
- 上下し(たたかわし)
- 壊了し(だいなし)
- 具足る(そだる)
- 千千穢い(じじむざい)
- 呻吟う(さまよう)
- 糊塗し(ごまかし)
- 佶屈い(ぎこちない)
- 調弄い(からかい)
- 危坐り(かしこまり)
- 不図なし(おもいがけなし)
- 影護たし(うしろめたし)
- 獰悪し(はらぐろし)[9]
- 横道た(だいそれた)
- 転仆び(ふしまろび)
- 鶴夜る(かきくもる)
- 酸鼻む(なみだぐむ)
- 鬱勃な(おつりきな)
- 光乖い(いらっしゃい)
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 三省堂例解新国語辞典「難読」の項
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 三省堂 「大活字難読語便覧」 ISBN 4385137838
- ^ a b c d e 東京堂出版「日常漢字の訓よみ辞典新装版 当て字の辞典」
- ^ 『あて字用例辞典:名作にみる日本語表記のたのしみ』雄山閣、1994年。
- ^ 『宛字外来語辞典』柏書房、1991年。
- ^ 『当て字・当て読み漢字表現辞典』三省堂、2010年。
- ^ 『難訓辞典』東京堂出版、1956年。
- ^ 『日本難訓難語大辞典』遊子館、2007年。
- ^ 『あて字用例辞典:名作にみる日本語表記のたのしみ』雄山閣、1994年。