透視投影

透視投影(とうしとうえい、: perspective projection)は投影線が視点に収束する投影である[1][2]中心投影(ちゅうしんとうえい、: central projection)とも[3][4]

「投影」は投影図法と投影図の両方を指しうるため、写し方を透視図法(とうしずほう、: perspective drawing method)あるいは透視投影法(とうしとうえいほう)、写した図を透視投影図(とうしとうえいず、: perspective drawing)あるいは透視図(とうしず)と呼び分ける場合もある[5][6]

概要

[編集]
透視投影によるワイヤーフレームで描いた前方後円墳(仲津山古墳)

透視投影では視点を設定しすべての投影線を視点へ収束させたうえで投影をおこなう(#仕組み)。これはすべての投影線が互いに平行である平行投影と対照的である[7]

1点に投影線が収束することから対象物をで見た像と近い表現が得られる[8]。これにより透視投影図は遠近感を得やすい。

絵画芸術では遠近感を感じさせたり写実性の高い表現をするために透視投影がしばしば取り入れられる(詳細は遠近法を参照)。視点たるカメラで撮影する写真では透視投影が行われている。また写実的な3次元コンピュータグラフィックスでもレンダリングの一環として透視投影が利用される(詳細は3次元コンピュータグラフィックス#原理を参照)。

透視投影・透視投影図は俗称として「パース」とも呼ばれる[9](用例: 「パースが狂っている」)。

仕組み

[編集]
透視投影

透視投影では、全ての投影線視点へ収束する制約を設けたうえで投影をおこなう[1]。すなわち、3次元空間内の各点から視点へ向け投影線を伸ばし投影面との交差より投影図を得る。

視点

[編集]

透視投影における視点(してん、: point of sight)は全ての投影線が収束する点である[1][10]投影中心(してん、: center of projection)とも[11]

視線

[編集]

透視投影における視線(してん、: line of sight)は空間内の点と視点を結んだ直線である[1][12]

視線は「投影線」の透視投影における別名である。必ず視点を通る投影線、とも定義できる。ヒトの視覚における「視線」は視野中心の方向を指す(ある瞬間に1方向しかない)が、透視投影における「視線」は空間内の無数の点と視点を結んでいる無数の投影線を指す(ある瞬間に無数にある)ため意味が全く異なる。混同してはならない。

特性

[編集]

全ての投影線視点へ収束する制約により、透視投影は特有の性質をもつ。

平行面の形状維持

[編集]

透視投影は、投影面と平行な面上の物体形状が像でも維持される特性を持つ。

この特性は視点の取り方に依らず常に成立する。

透視投影による平行面の形状維持

この特性は右図を用いて次のように説明される:

投影面に平行な面上に線 と線 がある。2つの線の端から視点 へ投影線を伸ばすことで、投影先 , , , が求められる。透視投影において平行面上の物体形状が像でも維持されるということは、 … (1) と等価である(相似で全体スケールだけ変わる)。ここで に着目すると より二つの三角形は相似である。 も同様である。そして相似比はどちらの三角形ペアも -投影面の距離と -平行面の距離の比になる。相似比を とすると、 となり (1) が成立する。すなわち、投影面と平行な面上の物体形状が像でも維持される。∎

遠方の縮小

[編集]

透視投影は、物体と投影面の距離が離れるほど像が小さくなる特性をもつ[13][14]

この特性は視点の取り方に依らず常に成立する。この特性により大小遠近法および短縮法と同じ効果を得られる。

この特性は右図を用いて次のように説明される:

透視投影による遠方の縮小

投影面に平行で長さが同じ線分が 3 本ある(図左側)。透視投影の特性により平行移動しても像の形状が維持される(像の長さに影響しない)ため、各線分の中心が視点に対して一直線上に並ぶよう平行移動する(図右側)。もし透視投影により離れた像が小さくなるなら、同じ長さである 3 本の線分が投影面上で異なる長さになる。図に着目すると、平行移動された線分が作る平行四辺形の延長線上に常に視点がありそこへ向かって辺上から投影線が伸びていることがわかる。ゆえに奥の線分から伸びる投影線は常に手前の線分から伸びる投影線の内側に入る。このため奥の線分は投影面により短く投影される。すなわち、物体と投影面の距離が離れるほど像が小さくなる。∎

上記の説明は同じ大きさの異なる複数の物体を用いており、大小遠近法と同じ効果が得られることの直接的な説明になっている。奥行きある単一物体を用いて説明すると短縮法と同じ効果が得られることを直接的に説明できる。これは右図を用いて次のように説明される:

透視投影による遠方の縮小

投影面に対し奥行きをもった線分 へ向かって投影面を平行移動し、図のように近傍点 へ添わせる。この状態で中間点 と遠方点 から視点 へ投影線を伸ばすことで、投影先 が求められる( はその場が投影先)。もし透視投影により距離依存のサイズ変化が起きるとすれば、像の形状維持を意味する式 … (2) が成立しないことになる。ここで に着目すると、(2) が成立するのは が成立するときのみである(∵ 初等幾何)。しかし が三角形であるためこれは成立しない。 のみが投影面の反対側にあるため、 側がすぼむ形の非平行に常になっている。ゆえに (2) は成立せず、また遠方側の投影である はより短くなっている。すなわち、物体と投影面の距離が離れるほど像が小さくなる。∎

視点 が無限遠にあるとき となるため (2) が例外的に成立する。つまり像の大きさが奥行きに依存しなくなる。これは平行投影と同じ性質であり、平行投影が 無限遠の透視投影と同値であることを反映している。またこのことから視点と物体が遠ざかるほどサイズ変化量が小さくなっていくことがわかる。

平行線の収束

[編集]

透視投影は、投影面と平行ではない空間内の平行線が無限遠において一点(消失点)へ収束する特性をもつ[15]

この特性は投影面の取り方に依らず常に成立する。

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d "透視投影では、視点から物体までの視線が、一つの視点に集められるという特徴があります。" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-21 閲覧.
  2. ^ "透視投影 perspective projection" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-18 閲覧.
  3. ^ "透視投影は、中心投影とも呼ばれ" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-18 閲覧.
  4. ^ "中心投影 central projection; conical projection ... 透視投影 perspective projection; central projection" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-18 閲覧.
  5. ^ "透視図法 method of perspective drawing ... 透視投影法 perspective projection procedure; perspective drawing method" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-18 閲覧.
  6. ^ "透視図 perspective; perspective drawing ... 透視投影図 perspective drawing" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-18 閲覧.
  7. ^ "透視投影 ... 平行投影と対置される投影法" 以下より引用。日本機械学会. (2017). 透視投影. 機械工学事典. 2024-07-22閲覧.
  8. ^ "対象物を目で見た時と同じような表現ができる" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-18 閲覧.
  9. ^ "透視投影は ... パースとも呼ばれます。" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-22 閲覧.
  10. ^ "視点 point of sight" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-21 閲覧.
  11. ^ "投影中心 center of projection" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-21 閲覧.
  12. ^ "視線 visual line; visual ray; line of sight" 日本図学会 2024 より引用。2024-07-21 閲覧.
  13. ^ "高層ビルを見上げた時や、遥か彼方に向かって伸びる道を見た時に、遠くになるほど幅が細くなり" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-22 閲覧.
  14. ^ "透視投影 ... 遠くのものが小さく描かれる" p.12 より引用。藤堂. (2015). コンピュータグラフィックス - 第5回 CG のための数学的基礎2 投影変換. 明治大学.
  15. ^ "消失点(もしくは消点)とは、高層ビルを見上げた時や、遥か彼方に向かって伸びる道を見た時に、遠くになるほど幅が細くなり、やがて一ヶ所に向かって収束していくように感じられる点のこと" 武蔵野美術大学 2024a より引用。2024-07-21 閲覧.

参考文献

[編集]

関連項目

[編集]