車両使用料

車両使用料(しゃりょうしようりょう)とは、鉄道事業者が他事業者の車両を使用して自社の列車を運転した際に生じる料金のこと。

概要[編集]

車両使用料は主に直通運転において発生することが多い。

以下、2事業者間のみでの直通運転した場合の、事業者乙の車両を用いて事業者甲の列車を運転するとした際の一般的な流れについて説明する。

事業者甲の路線と事業者乙の路線が直通運転をすることになり、事業者乙の車両が事業者甲の路線において運用されることになった。この際発生するのが車両使用料である。事業者甲には、事業者甲の線内における事業者乙の車両の運用距離と運用編成数に応じた使用料金を事業者乙に支払う義務が生じる。

相互乗り入れの場合[編集]

両者の車両が互いに直通相手方の路線に乗り入れる場合、互いに相手方に対する車両使用料が発生する。これは、相互直通運転の場合は事業者甲の車両が事業者乙の路線で運転される場合もあり、その場合は事業者乙から事業者甲への車両使用料が発生するからである。

基本的には、車両運用の調整により互いに他者区間の走行距離を同等とすることで相殺するのが慣例となっている。例えば、事業者甲の路線における事業者乙の車両の運用距離のほうが、事業者乙の路線における事業者甲の車両の運用距離よりも長くなりそうな場合には、直通運転に使用する編成を事業者甲の車両中心としたり、事業者甲の車両を事業者乙の線内列車に充当したりして、運用距離を調整する。

ただし、3事業者間以上にわたる直通運転で、特に変則乗り入れを伴う場合は、例えば事業者甲に対する事業者乙への使用料を、事業者丙の車両を事業者甲の車両扱いとして乗り入れるか、あるいは事業者丙の運用を増やして事業者丙が代わりに支払う方法もある(この場合は事業者丙の路線へ事業者乙の車両をその分多く乗り入れさせて事業者乙と事業者丙との間でも相殺することがある)[1]

また、現行のダイヤで事業者甲の車両運用距離が事業者乙の車両運用距離よりも多くなった場合には、次回のダイヤ改正で逆に事業者乙の車両運用距離を事業者甲のそれよりも多くさせて、次々回のダイヤ改正までに是正する方法が採用される事例がある[2]

他にも、車両運用距離の長短の調整には、運用での調整ではなく、現金で決済を実施する事例もある[3]

電力等の消費量に著しい差が発生する場合には、その分も加味されて費用が計算される場合がある。日本国有鉄道(国鉄、現・東日本旅客鉄道<JR東日本>)常磐緩行線103系1000番台が乗り入れ先の帝都高速度交通営団(営団、現・東京地下鉄<東京メトロ>)千代田線内で、営団車両(6000系。なお当時の営団車は国鉄車と同じく抵抗制御車の5000系も運用されていた)と比較して電力消費量が多いため、営団は電気代を車両使用料に上乗せして国鉄に請求していた事例がある[4]。一方で、東西線との間では、初期の同線では営団側も国鉄側の車両と同様に抵抗制御車のみ(国鉄側は301系と103系1000番台で営団側は5000系のみであった。後者は冷房化時に界磁添加励磁制御に変更した)だったこと、また千代田線との間の調整方法とは異なり、東西線との間では、国鉄・営団時代の最初期には前述のように車両使用料超過分は現金決済だったこともあり、追加の電力費の請求はなされなかった。

このように相互直通運転において発生するのは一般には車両使用料であり、線路使用料ではない。

かつては走行キロの貸し借りで精算をしていたが、税務上物々交換は適切でないとのことで、現在は1車1キロ走行あたりの車両使用料を算出するようになり、毎月の走行距離の車両使用料に消費税額を加えたものを相手会社に支払うことで、会社間で料金のやり取りをしている[5]

片乗り入れの場合[編集]

一方の事業者の車両だけが、相手方に乗り入れて直通運転することを、「片乗り入れ」という。事業者甲の路線に事業者乙の車両が乗り入れる(事業者甲の車両は事業者乙の路線に乗り入れない)場合、事業者甲は事業者乙に対して一方的に車両使用料を支払うことになる。この際事業者乙は事業者甲に対して人件費分を払うこともあるが、基本的に相殺にはならない。

神戸高速鉄道は自社の車両を保有しておらず、鉄道事業法の施行前には乗り入れ各社(阪神阪急山陽神鉄)から車両を借り(車両使用料を支払っ)て営業を行っていた。同法の施行後には1年間の猶予期間を経て、法的には神戸高速鉄道が第三種鉄道事業者、乗り入れ各社が第二種鉄道事業者となり、従来とは逆に神戸高速鉄道が各社に線路を貸して線路使用料を受け取る形式へと変化したが、乗り入れ各社が駅務や運行管理を神戸高速鉄道へ委託して、従来と実質変化のない運営体制が2010年9月30日まで続けられた。

脚注[編集]

  1. ^ 三者相互直通運転当時の京浜急行電鉄では、都営地下鉄浅草線を介して京成電鉄の路線へと直通する列車には、京成線に乗り入れる列車が定期列車(当時は主に京成高砂駅 - 都営地下鉄浅草線 - 京急川崎駅間の急行および押上駅 - 三浦海岸駅間の特急)では、自社車両および東京都交通局所属車両のみであった(京成電鉄所属車両は1968年の三者相互直通運転開始以降1991年まで定期列車では運転されていなかった)ため、京浜急行電鉄所属車両に対する京成電鉄所属車両の担当分を東京都交通局所属車両が多めに京急線に入る=京急に対する京成の使用料を東京都交通局が立て替える形態となることで設定された。しかしそうなると今度は都営地下鉄浅草線で京成電鉄所属車両をその分多めに走らせなければならないことから、京成線と都営地下鉄浅草線との間で運転されている定期列車(当時は主に西馬込駅 - 京成佐倉駅および京成成田駅間の急行)には、ほぼすべての列車を京成電鉄所属車両の運用として、東京都交通局が立て替えた分を自社線乗り入れにはあまり入れないようにして車両使用料を相殺する形を採っていた。その後1991年には北総開発鉄道(現・北総鉄道)と住宅・都市整備公団(鉄道運営は北総開発鉄道に委託)との乗り入れを開始して四者直通運転へと拡大したが、1991年3月より1993年3月までと1995年4月より同年7月までは北総開発鉄道および住宅・都市整備公団所属車両のみの片乗り入れであったため、北総開発鉄道および住宅・都市整備公団所属車両に対する京浜急行電鉄所属車両の担当分を東京都交通局および京成電鉄の所属車両が肩代わりする形で、北総に対する京急の使用料を東京都交通局と京成が立て替えて対処した結果、京急車はこの改正で平日夕方以降の押上駅発着列車を青砥駅まで延長して京成線を可能な限り多く走らせて京成の立て替え分を相殺し、東京都交通局とは都交通局車での運用の一部を京急車に立て替えたり、またこれまで通り京急線からの直通特急の運用をほぼすべてを京急車運用として相殺していた(京急と北総・公団とが相互乗り入れになった1993年4月より都交通局車の京急線内特急運用を設定したが、これは京急と北総・公団との間が一度片乗り入れに戻った1995年4月 - 7月の間にも引き続き設定されていた。その後1999年に快特運用の一部にも進出)などの事例もある。
  2. ^ 京王電鉄と東京都交通局(都営地下鉄新宿線)がその事例である。
  3. ^ 営団東西線と国鉄線との相互直通運転の最初期には、後述の千代田線との相互直通とは異なり、超過分を現金で決済していたことがあったが、国鉄の分割・民営化および営団の民営化が実施された現在の調整方法は不明である。なお、営団→東京メトロ東西線はその後東葉高速鉄道との相互直数運転を開始したが、国鉄との間の最初期の事例とは異なり、両事業者間での走行距離調整については、日本では一般的となっている、車両運用距離を同等にする方式で対処している。
  4. ^ 会計検査院からの指摘によるもので、国鉄ほど高額ではなかったものの、小田急電鉄に対しても同様に電気代分を加算していた。
  5. ^ 『かや鉄BOOK3東急電鉄 車輌と技術の系譜』荻原俊夫著、かや書房、2019年9月10日、108頁。ISBN 978-4-906124-85-5

参考文献[編集]

関連項目[編集]