知らんけど

知らんけど(しらんけど)は、日本近畿方言関西弁)で使われる言葉の一つ。

自分の発言したそのことに確証が持てない会話の結びに用いる。

概要[編集]

特に大阪弁において[1]自分の主張などを話した後、結びの言葉として「自分の見解に責任は持てない」旨を言い添える[2]

「知らんけど」の用例は古くからあり、使用者の属性も広い。岸信介による日米安保改定の時に日本アメリカと結んだとされる密約について、佐藤栄作が次のように発言したとの旨が、若泉敬の著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(文藝春秋1994年ISBN 4-16-348650-X)の388ページで述べられている。

どうも岸内閣のとき、そういうものが若干あったらしいんだな。よくは知らんけど

大阪大学大学院文学研究科にて教授も務める日本語学者金水敏が、2021年1月23日扶桑社のニュースサイト『日刊SPA!』のインタビューに答えたところによれば、本来は「よう知らんけど」という言い回しだったものが現在では最後に付け加えるという形式になったほか、正確性よりも相手を楽しませようとすることを重視する人が多い関西において免責を得たい意思表示でもあるという[2][3]。そういった独特の曖昧な意味を含むことから、仕事上では用いず、むやみに信じすぎてはいけないという[4]。なお、この報道を受けてYahoo!ニュースが同日から同年2月2日まで投票を募ったところによれば、語尾に「知らんけど」を用いる人は35,886人のうち20,022人 (55.8%) だった[5]

日本大学にて教授も務める日本語学者田中ゆかりが、2022年12月10日朝日新聞社のニュースサイト『朝日新聞デジタル』のインタビューに答えたところによれば、コンフリクトの防波堤として、「それほど本気あるいは真剣ではないよコスプレ」ツールとして便利なのだろうという[6]

後述の使用・受賞歴を経て、2023年以降は関西以外にも広まっているが、関東では言葉だけを真似て取ってつけたような誤用も見られるという[7]

使用・受賞歴[編集]

2020年2月8日には、毎日放送バラエティ番組かまいたちの知らんけど』のパイロット版第1弾にタイトルとして用いられている[注釈 1]ほか、2021年9月30日には読売テレビのバラエティ番組『秘密のケンミンSHOW 極』のコーナー「ヒミツのOSAKA極」で取り上げられている[8]

2022年2月12日には、ジャニーズWESTの楽曲にタイトルとして用いられている[注釈 2]

2022年6月1日には、大阪市消防局の令和4年度大阪市防火標語に含まれる(「『知らんけど』 言うたらあかん 火の始末」)形で用いられている[10][11]

2022年11月4日には、2022ユーキャン新語・流行語大賞の候補30語にもノミネートされた[12]。その後、同年12月1日の授賞式ではトップテンに選出された[13][14]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 表記は『知らんけど』。お笑いコンビかまいたち冠番組でもあり、第2弾から『かまいたちの知らんけど』に改題され、2021年にレギュラー化された。詳細は当該記事を参照。
  2. ^ 表記は「しらんけど」。2022年2月14日にYouTubeにてミュージック・ビデオが公開され、同年3月9日には8枚目のフルアルバム『Mixed Juice』に収録された[9]

出典[編集]

  1. ^ “関西弁、最後に「知らんけど」 笑い絡ませ表現に奥行き”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2021年10月12日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF29DTY0Z20C21A9000000/ 2021年11月29日閲覧。 
  2. ^ a b “関西人の間で「知らんけど」が流行るワケ。日本語研究者に聞いてみた”. 日刊SPA! (扶桑社). (2021年1月23日). https://nikkan-spa.jp/1729768 2021年11月29日閲覧。 
  3. ^ “「知らんけど」って言うのなんでなん?”. NHKニュース (日本放送協会). (2022年10月12日). オリジナルの2022年10月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221018164037/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221012/k10013855321000.html 2023年4月13日閲覧。 
  4. ^ “関西人の間で「知らんけど」が流行るワケ。日本語研究者に聞いてみた ページ 2”. 日刊SPA! (扶桑社). (2021年1月23日). https://nikkan-spa.jp/1729768/2 2021年11月29日閲覧。 
  5. ^ “語尾に「知らんけど」、使う?”. Yahoo!ニュース みんなの意見 (ヤフー). https://news.yahoo.co.jp/polls/easy/42050/result 2021年11月29日閲覧。 
  6. ^ “「知らんけど」なぜ広がった 日本語学者が読み解く方言コスプレ史”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2022年12月10日). https://www.asahi.com/articles/ASQD653H7QCTUPQJ01H.html 2023年1月8日閲覧。 
  7. ^ “その「知らんけど」、間違ってます! 関西人がモヤつくホントの理由”. AERA dot. (朝日新聞出版). (2023年2月21日). https://dot.asahi.com/articles/-/1191?page=1 2023年4月13日閲覧。 
  8. ^ “【知らんけど】関西人は無責任!? 独特すぎる“パワーワード”の深い意味が明らかに”. anna (ytvメディアデザイン). (2021年9月30日). https://anna-media.jp/archives/485222 2021年11月29日閲覧。 
  9. ^ “ジャニーズWEST「しらんけど」MVはスタイリッシュな仕上がりに”. 音楽ナタリー (ナターシャ). (2021年2月12日). https://natalie.mu/music/news/465434 2022年2月19日閲覧。 
  10. ^ @Osaka_Fire_Deptの2022年6月1日のツイート2023年4月13日閲覧。
  11. ^ “はやってる?「知らんけど」 J-POPから消防の標語まで 東京の高校生も使う「知らんけど」の魅力と使用法を関西人が徹底分析”. 関西テレビニュース (関西テレビ放送). (2022年11月4日). https://www.ktv.jp/news/feature/221104-2/ 2023年4月13日閲覧。 
  12. ^ “「宗教2世」「知らんけど」 流行語大賞、候補を発表”. 時事通信 (時事通信社). (2022年11月4日). オリジナルの2022年11月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221109132550/https://www.jiji.com/jc/article?k=2022110400749&g=soc 2022年11月4日閲覧。 
  13. ^ “「村神様」が今年の流行語大賞に 「知らんけど」、銃撃関連上位”. 共同通信 (共同通信社). (2022年12月1日). オリジナルの2022年12月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20221201073648/https://nordot.app/970915367084703744 2022年12月10日閲覧。 
  14. ^ 第39回 2022年 授賞語”. 「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞. 自由国民社. 2023年4月13日閲覧。