炭素循環

炭素循環の概念図。黒の数値はそれぞれのリザーバーに存在する炭素量、青の数値はリザーバー間での年間の炭素の移動量。単位GtC(Gigatons of Carbon)はギガトン(10億トン)

炭素循環(たんそじゅんかん、: carbon cycle)とは、地球上の生物圏岩石圏水圏大気圏の間で炭素が交換される生物地球化学的な循環のこと。炭素循環は、一般に上の4つの保管庫(リザーバー)、具体的には大気、陸域生物圏(陸水系は普通ここに含まれる)、海洋堆積物化石燃料を含む)と、その間を相互に移動する経路で成り立っている。年間の炭素の移動は、リザーバー間で起こる様々な化学的、物理学的、地質学的、生物学的なプロセスを経て行われる。地球表層付近での最も大きな炭素の保管場所は海洋である。

全球の炭素収支は炭素リザーバーの間、もしくは特定の循環(特に大気 - 海洋間)での炭素交換のバランス(吸収と放出)で示される。炭素収支を吟味することで、リザーバーが二酸化炭素の吸収源となっているのか発生源となっているのかを判断することができる。

構成領域[編集]

炭素循環の構成領域を以下のように分けることができる[1]

  • 大気圏(Atmosphere)
  • 水圏(Hydrosphere)
  • 生物圏(Biosphere)
  • 岩石圏(Lithosphre)
  • 土壌圏(Pedosphere)

大気中の炭素[編集]

大気圏中の炭素は気体、主に二酸化炭素ガスの状態で存在する。全大気のなかでは少量(増加しつつあるがおよそ0.04%)であるが、生命活動が維持されるための重要な役割を果たしている。大気中に存在する炭素を含む気体には、他にメタンクロロフルオロカーボン(ほとんどが人為起源)があり、これらは全て温室効果ガスと呼ばれる。大気への放出はここ数十年劇的に増加し、地球温暖化の原因とされている。

炭素は大気から次のようないくつかの経路で除去される。

炭素は様々な過程を経て大気に再び放出される。

  • 植物や動物呼吸による放出。これは発熱反応で、グルコース(もしくは他の有機分子)が二酸化炭素と分解される過程である。
  • 動物と植物の分解(腐敗)。菌類バクテリア又は古細菌が動植物の遺骸を構成する有機物質を分解し、炭素を、酸素がある場合は二酸化炭素、酸素が無い場合はメタンに変える。
  • 有機物の燃焼(炭素を含む物質の酸化反応を含む)による排出。石炭石油製品、天然ガス等の化石燃料の燃焼で放出される炭素は、何百万年もかけて地圏に貯蓄されたものであるが、この燃焼が、現在の大気中の二酸化炭素レベルの増加を招いている、大きな理由とされている。
  • 石灰岩反応による放出。石灰岩大理石チョークは主に炭酸カルシウムで構成されている。これらの岩石の堆積物は水で浸食されると、炭酸カルシウムは炭酸とカルシウムに分解され二酸化炭素を生じる。セメント酸化カルシウム(生石灰)は石灰岩が熱せられることで形成されるが、この過程でも無視できない量の二酸化炭素が生成される。
  • 海洋表層での大気への放出。海水に溶解した二酸化炭素は温暖な海域では放出されやすい。
  • 火山活動による堆積物中の炭酸塩からの大気への二酸化炭素の放出。

温暖湿潤な環境下では二酸化炭素は一方的に消費されてしまうが、継続的な火山活動により長期的にはある程度の二酸化炭素が大気中に存在している[2]

生物圏の炭素[編集]

炭素は地球上の生命活動で基本的な物質で、細胞骨格、生化学、栄養作用において重要な物質である。また、生命は炭素循環においても重要な役割を果たしている。

  • 独立栄養生物は大気中、もしくはその生息環境に存在する水に含まれる二酸化炭素から有機化合物を自ら生産する生物である(炭素固定)。これには太陽光などのエネルギー源を必要とする。今日の地球において、炭素循環で最も重要な生物は、陸上の森林の樹木と海洋の植物プランクトン藻類シアノバクテリア)である。
  • 年間、海洋の植物プランクトンは400-500億トンの炭素を固定し、沿岸の海藻は40億トンの炭素を固定し、陸上の植物は従来の見積もりの半分の520億トンの炭素を固定している[3]
  • 炭素は生物圏の中で従属栄養生物に摂取・変換される。菌類細菌による発酵や腐敗という、生物の遺骸や排出物の分解も含まれる。
  • 生物圏から排出される炭素は、呼吸によるものが最も多い。酸素が存在する環境では、好気呼吸の作用で二酸化炭素を周囲の大気や水に放出する。一方、嫌気呼吸ではメタンを周囲の環境(大気圏や水圏)へ放出する。
  • 遺骸として分解されずに生物圏に残留炭素することもあるが(泥炭のように)地圏移行するものもある。特に炭酸カルシウムでできている動物の殻(サンゴ殻など)は堆積過程を経て石灰岩となる。

貯蔵量[編集]

産業革命以前の炭素貯蔵量[4]
場所 炭素換算量(億トン)
大気 6,150
陸上生物圏 7,300
土壌 20,000
海洋表層 8,400
海洋中層 97,000
深海 260,000
堆積物 900,000,000

地球上の産業革命以前の炭素の分布概要は、炭素換算で右表のとおりである。大気での二酸化炭素は別データで炭素換算で、7,500億トンである[5][6]地殻マントル最上部を含めたリソスフェア(岩石圏)中では重量比で0.03%の炭素が含まれている(地殻中の元素の存在度も参照のこと)[7]

炭素循環モデル[編集]

気候の変化を予測するための全球気候モデルを炭素循環モデルと結合させることによって、海洋と生物圏の相互作用応答を組み込み、将来の CO2レベルをモデル予測できるようになる。

物理的生化学的なサブモデル(特に後者)には無視できない不正確さがあるが、これらのモデルは気温と二酸化炭素の間に正のフィードバック効果があることを典型的に示す。

例えばZengほか (GRL, 2004 [1]) ではの炭素循環を加味したモデルでは、大気中のCO2が90から2000ppmvに増加し(炭素循環を組み込まないモデルで予測された以上)、これは 0.6 ℃ 以上の温暖化を導く(これが更に大気中CO2濃度を増加させる)という結果を見出している。

炭素隔離[編集]

炭素隔離とは、二酸化炭素貯留や別の形態で炭素を保管することで、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を抑制する方法の事である[8]

脚注[編集]

  1. ^ Archer, David (2010). The global carbon cycle. Princeton: Princeton University Press. ISBN 978-1-4008-3707-6. OCLC 707067741. https://www.worldcat.org/oclc/707067741 
  2. ^ a b c 田近英一 『大気の進化46億年 O2とCO2』 p212ほか、技術評論社、2011年9月25日発行、ISBN 978-4-7741-4784-0
  3. ^ 井上勲 2007, p. 222.
  4. ^ D.J.ジェイコブ著、近藤豊訳『大気化学入門』p105、2002年9月18日、東大出版会、ISBN 4-13-062709-0
  5. ^ 3ページ(ちょっと環境学習) 出展ブース 海は巨大な炭素貯蔵庫 (PDF) 『環境学習みえ』2005年 冬号, 三重県環境学習情報センター
  6. ^ 生物環境科学概論 第5・6話 (基礎生態学配布20110119)』(DOC)国立大学法人 宮崎大学農学部 海洋生物環境学科。 オリジナルの2011年9月9日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20110909051148/http://www.agr.miyazaki-u.ac.jp/~fishery/Welcome/Welcome_files/%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%94%9F%E6%85%8B%E5%AD%A6%E9%85%8D%E5%B8%8320110119.doc 
  7. ^ Elements, Terrestrial Abundance”. www.daviddarling.info. 2007年4月14日閲覧。
  8. ^ Hodrien, Chris (24 October 2008). Squaring the Circle on Coal - Carbon Capture and Storage (PDF). Claverton Energy Group Conference, Bath,. 2010年5月9日閲覧

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]