李寧煕

李 寧煕
(イ・ヨンヒ)
誕生 (1931-12-16) 1931年12月16日
日本の旗 日本東京府
死没 (2021-04-25) 2021年4月25日(89歳没)
大韓民国の旗 大韓民国慶尚南道南海郡
職業 作家
言語 日本語
最終学歴 梨花女子大学校英文科卒業
活動期間 1989年平成元年) - 2021年
主題 万葉集古代史東洲斎写楽
代表作もう一つの万葉集』(1989年)
主な受賞歴 第17回女性文化賞(2013年)[1]
デビュー作もう一つの万葉集』(1989年)
公式サイト manaho.sarashi.com
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李 寧煕(イ・ヨンヒ、朝鮮語: 이영희, 1931年昭和6年〉 - 2021年4月25日[2])は、東京出身の韓国人作家。万葉集は『古代韓国語』で書かれていたとする著書『もう一つの万葉集』がベストセラーとなった[2]

略歴[編集]

1931年昭和6年)東京生まれ。本貫慶州李氏朝鮮語版[3]1944年(昭和19年)朝鮮総督府の統治下で日本の領土だった韓国に、父母と共に戻る。1948年ソウル市にある私立梨花女子中学校(6年制[注釈 1])の5年生の時、詩『月を転がす』で詩専門誌『竹筍』から文壇にデビュー。

1954年梨花女子大学校英文科を卒業。日刊新聞韓国日報」に入社。政治部長、文化部長、論説委員など務め、1981年国会議員に当選。韓日議員連盟の理事、公演倫理委員会の委員長、韓国女性文学人会の会長なども歴任した[4][5]

「大韓民国児童文学賞」「大韓民国教育文化賞」「馬海松童話賞」など受賞している。

晩年は脳梗塞などにより闘病生活を送っていた。2021年4月25日、慶尚南道南海郡の病院で死去した[2]

人物[編集]

1989年平成元年)日本で『もう一つの万葉集』(文藝春秋)を出版。『万葉集は古代韓国語で書かれていた』として、吏読という方法で実際に読み解いてみせ、従来説を覆す主張が大きな反響を呼んだ。著書7冊100万部超え、読者2000人による後援会と会報誌『まなほ』も発足した。

朝鮮民族主義史観に基づいたように思われがちな李だが、自身について「二つの意味でまさに戦中派」であり「日本や日本人に対し比較的、偏見のない世代」である、と産経新聞黒田勝弘ソウル支局長に語っている。

李が東京で小学生の時に「近所の悪ガキから『チョーセンジン』とからかわれた」際、親戚から大韓帝国と日本統治に至る経緯を聞いて、「自分の国が弱かったことがくやしく、悲しくて、国を取り戻さなければと思った」が「反日ということではなかった」。

1944年、日本統治下の韓国に戻ったが、「学校では日本人の先生方は立派な人が多かった」。その理由として、対日感情は「その人が置かれた環境によって違いますが」と断ったうえで、「植民地体験というのは生活ですから、悪い日本人もいたけれどもいい日本人もたくさんいた」のを実際の生活で体験したためである。

1945年、旧制高等女学校の梨花高等女学校(後の梨花女子高等学校)2年生の時に終戦の日を迎え、1950年、梨花女子大生の時に朝鮮戦争に遭っており、「苦しい時代でしたので女としては強い世代ですよ」。だから、年長者の反日世代と、年下で戦後の反日教育を受けた世代に挟まれても、日本や日本人に対し比較的、偏見を持たないとしている[4]

一方、李は1985年に全斗煥政権の公演倫理委員会委員長を務めはじめた時、「当為性のないエロや暴力、つまり『脱がせるための脱衣』などは一切許せない」「エロ映画を根絶させる」と放言したため、韓国の映画界には「凍った」雰囲気が漂った[6]映画監督チョン・チャンファ朝鮮語版によると、李は過酷な検閲を行い、その専横な振る舞いは韓国の映画関係者を窮地に追い込んだ。チョン監督は結局韓国映画界を見限って、1996年に米国への移民を選んだ[7][8]

キリスト教徒である[3]

天皇について[編集]

1993年平成6年)日本に滞在中に、皇太子徳仁親王(現・天皇)と小和田雅子(現・皇后)の婚約の記者会見をテレビで見ており、その感想として、「皇太子殿下のおおらかで温かな、そしてウイットに富んだ人柄にじーんとしたほど」素晴らしい男性で、雅子について「しっかりした家庭で育ったシンの強い個性的な印象」を受け、「世界を見回しても彼女のような女性はそういない」とした上で「日本の未来を担う女性だと思いました」、「本当にお似合いのカップルです」と述べている[9]

主張[編集]

李の主張は、俗に韓国起源説と呼ばれる主張と同一視されている(韓国起源説も参照[10][11][12][13][14])が、あくまで万葉集は韓国の古代史を抜きに語れないという視点から文化的影響を綴っただけであり、むしろ「日韓の双方には『劣等優越感』ともいうべき始末に悪い妙な心理」があり、日本人は「歴史的、文化的な韓国の影響をなかなか認めたがらず、何かというと韓国に説教したがる」一方で、韓国人は「日本にしてやられているのに日本文化の起源はすべて韓国といって優越感にひたっている」現状を指摘しただけである。なお、日韓関係を良い方向へ進める策として、「精神分析学では、この『劣等優越感』というのは原因が分かればすぐ治るのだそうですよ」としている[4]

著書[編集]

  • 『もう一つの万葉集』文藝春秋、1989年8月。ISBN 4-16-343560-3 
    • 『もう一つの万葉集』文藝春秋〈文春文庫〉、1991年7月。ISBN 4-16-753901-2 
  • 『枕詞の秘密』文藝春秋、1990年4月。ISBN 4-16-344170-0 
    • 『枕詞の秘密』文藝春秋〈文春文庫〉、1992年5月。ISBN 4-16-753902-0 
  • 『天武と持統 歌が明かす壬申の乱』文藝春秋、1990年10月。ISBN 4-16-344670-2 
    • 『天武と持統 歌が明かす壬申の乱』文藝春秋〈文春文庫〉、1993年3月。ISBN 4-16-753903-9 
  • 『日本語の真相』文藝春秋、1991年6月。ISBN 4-16-345330-X 
    • 『日本語の真相』文藝春秋〈文春文庫〉、1994年6月。ISBN 4-16-753904-7 
  • 『フシギな日本語』文藝春秋、1992年4月。ISBN 4-16-346290-2 
  • 『甦える万葉集 天智暗殺の歌』文藝春秋、1993年3月。ISBN 4-16-347320-3 
  • 『怕ろしき物の歌 万葉集があかす謎の七世紀』文藝春秋、1993年10月。ISBN 4-16-348020-X 
  • 『もうひとりの写楽 海を渡ってきた李朝絵師』河出書房新社、1998年6月。ISBN 4-309-90277-4 

朝鮮語[編集]

  • 이, 영희 (2001-06) (朝鮮語), 노래하는 역사 ―― 이영희의 한・일 고대사 이야기, 2, 조선일보사, ISBN 8973653148  - 翻訳タイトル:『歌う歴史 李寧煕の韓・日古代史物語』

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1950年に梨花女子中学校(3年制)と梨花女子高等学校(3年制)に分離

出典[編集]

  1. ^ “<在日社会>日本の第17回女性文化賞、李寧熙(イ・ヨンヒ)さん受賞”. 東洋経済日報 (東洋経済日報社). (2013年12月13日). オリジナルの2014年2月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140202170646/http://www.toyo-keizai.co.jp/news/society/2013/17_11.php 2016年3月13日閲覧。 
  2. ^ a b c 「万葉集は古代韓国語で書かれた」主張した著書が100万部ベストセラー 李寧熙氏が死去”. 中央日報日本語版. 中央日報 (2021年4月28日). 2021年4月28日閲覧。
  3. ^ a b 대한민국헌정회”. www.rokps.or.kr. 2022年3月11日閲覧。
  4. ^ a b c 産経新聞1994年平成6年)3月21日朝刊 これからの日韓関係 知日派韓国作家・李寧煕さんに聞く 若い世代で新しい歴史を
  5. ^ 鉄と虎……日本の「宝島」岩手・釜石を行く - Nippon Steel Corporation - 日本製鉄
  6. ^ 공연 윤리위 새 위원장 이영희씨” (朝鮮語). 중앙일보 (1985年12月19日). 2023年9月8日閲覧。
  7. ^ [정창화 감독의 액션영화에 바친 60년] 군사정권이 내민 '당근'과 '채찍'” (朝鮮語). 한국일보 (2011年8月8日). 2023年9月8日閲覧。
  8. ^ 정창화 - 한국 액션영화계의 代父” (朝鮮語). monthly.chosun.com (2011年9月19日). 2023年9月8日閲覧。
  9. ^ 産経新聞1993年6月9日夕刊 結婚の儀 海外からお祝いの言葉 韓国の作家李寧煕さん
  10. ^ (安本 1990)
  11. ^ (安本 1991)
  12. ^ (西端 1991)
  13. ^ (西端 1994)
  14. ^ (と学会 1995, pp. 159, 161)

関連文献[編集]

  • と学会 編『トンデモ本の世界』洋泉社、1995年5月1日。ISBN 4-89691-166-0 
  • 西端幸雄『古代朝鮮語で日本の古典は読めるか』大和書房、1991年11月。ISBN 4-479-84017-6 
    • 西端幸雄『古代朝鮮語で日本の古典は読めるか』(新装版)大和書房〈古代文化叢書〉、1994年8月。ISBN 4-479-84032-X 
  • 安本美典『朝鮮語で「万葉集」は解読できない』JICC出版局、1990年2月。ISBN 4-88063-784-X 
  • 安本美典『新・朝鮮語で万葉集は解読できない』JICC出版局、1991年9月。ISBN 4-7966-0183-X 
  • 鬼とドッケビの新・モノ語リ(新日本製鐵総務部広報センター、2007年)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]