日米合同委員会

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日米合同委員会(にちべいごうどういいんかい、英語: Japan-US Joint Committee)は、1960年に締結された日米地位協定をどう運用するかを協議する、地位協定に基づき両国の代表者で組織される機関である。日米地位協定合意議事録[1]と、環境軍属に関する地位協定の補足協定、思いやり予算に関する特別協定などでも言及がある[2][3][4]

概要[編集]

日米合同委員会は、日米地位協定の25条の規定に従い、正式な協議機関として設立されている[5]。主に在日米軍関係のことを協議する機関で、政治家は参加せず省庁から選ばれた日本の官僚在日米軍のトップがメンバーとして月2回、協議を行う[6]。なお、ノンフィクション作家の矢部宏治によると最低でも60年以上、1600回は実施されているとのこと[7]

NPO法人の「情報公開クリアリングハウス」による「日米合同委員会議事録情報公開訴訟」によって、1960年6月23日の第一回会合時に議事録などについて日米双方の合意がない限り公開されないという合意がなされていたことがあきらかとなっており、原則として委員会のすべては公開されない[8][注 1][注 2][注 3]

地位協定は1952年日米行政協定を引き継ぐものだが、行政協定においても、第26条で日米合同委員会を設置していた[13][注 4][注 5]。なお、外務省は行政協定下での合同委員会関連文書は、「慣行により,双方の合意がなされない限り公表しないこととされている」としている[18]

任務[編集]

協議は月2回秘密の会合として(ニュー山王ホテルで1回、外務省が設定した場所で1回)行われる。なお、どちらか一方の要請があればいつでも会合できる[19]。個々の施設・区域の提供を含め、実施項目は主として日米合同委員会合意で規定される[20]

当然、設置の根拠である地位協定の第25条に従い、日米地位協定の実施に関して協議することが任務ではあるが、原則非公開で実態が不明であるうえ、衆議院質問主意書で政府が存在を認めた[21]外務省の機密文書『「日米地位協定の考え方」増補版』などによると、本来地位協定の対象外である管制業務について、いわゆる横田空域などを含む国内法根拠がない事項について決定しているとされていたり[22][23]沖縄県が公表している第17条に関する合同委員会合意[24]は、刑事特別法に矛盾する内容がふくまれているなど、密約を量産させているという指摘がある[25]

地位協定の第2条では、米軍施設(いわゆる基地)の提供と返還について規定されているが、ここで第25条とは別に、日米合同委員会を通じて個々の基地に関する協定が締結されると定めている[26][27]。この決まりに基づいて行われたものに、沖縄返還時の1972年5月15日に在沖米軍基地について日米両政府によって結ばれた協定と、詳細を定めた当時非公表のいわゆる「5.15メモ[28]がある[26][29][30]

日米地位協定合意議事録[1]と、2015年2017年にそれぞれ締結された環境軍属についての地位協定の補足協定でも合同委員会について言及があり、それぞれ明文で「協議」以外の権限が与えられている[2][3]。また、思いやり予算に関する特別協定に関する協議も行っている[4]

日米合同委員会合意[編集]

防衛省は、ホームページなどで、合同委員会での合意事項の概要などを発表する場合がある。

合同委員会は協定に従えば協議機関であり、政府間の新たな合意を決定する権限はないという見方がある[31]2017年参議院での質問主意書に対する回答で分かるように、日本政府は「日米合同委員会合意は、日米地位協定の実施の細則を定める取決め」であり、かつ「内容について国会の承認を得る必要があるとは考えていない」としている[32]。これらの合意も、日米双方の同意がなければ公表されないとしている[33]

1986年に政府は合同委員会の合意は「日本と米国の間で交わされております国際約束」であるとしている一方[34]2022年には「国際約束とは異なる形式でありますけれども、両政府間で合意したもの」としており[35]、一定しない。さらに2015年には、「個々の具体的な施設・区域の提供については、日米間で協議の上、日米地位協定の定めるところにより、日米合同委員会において合意が行われることになる」としている[36]。加えて、「特にその演習場、(中略)おけるこの米軍の使用条件については、この日米合同委員会合意、これで決めるかどうかがすべて」「アメリカ側で何を言おうと、日本側で何を言おうと、日米の合同委員会できちっとコンセンサスを得るかということがすべて」としたこともある[37]

また吉田敏浩によると、外務省北米局日米安全保障条約課の担当者は取材に対し、合同委員会合意には安保条約の第6条にある「合意される他の取極」に該当するものがあるとしたという[38]

在日米軍日米合同委員会事務局長は、日本側に宛てたメールの中で、「合同委員会の議事録及び関連文書を開示する権限は,ただ唯一合同委員会のみ(solely and only)に属している」と主張したことがある[39][40]

組織[編集]

日本側代表は外務省北米局長、アメリカ側代表は在日米軍司令部副司令官からなり、日本側は代表代理として法務省大臣官房長、農林水産省経営局長、防衛省地方協力局長、外務省北米参事官、財務省大臣官房審議官からなり、その下に10省庁の代表から25委員会が作られている。アメリカ側は代表代理として駐日アメリカ合衆国大使館公使、在日米軍司令部第五部長、在日米陸軍司令部参謀長、在日米空軍司令部副司令官、在日米海兵隊基地司令部参謀長からなる。

これらの構成は、協定の中で具体的に明文化されたものではない。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 現在外務省はホームページで当該合意の概要の「仮訳」を公表[9]
  2. ^ 2022年に政府は、衆議院外務委員会岡田克也衆議院議員の質問に対して、合同委員会の議事録はすべて行政が保存していると答弁した[10][11]
  3. ^ 2023年6月22日、米軍は歴史上初めて合同委員会(分科委員会)の映像をTwitterで公開した(のちに削除)[12]
  4. ^ この合同委員会は、占領終了前に設置されていた「予備作業班」を実質的に引き継ぐものであり[14][15][16]、「予備作業班が作成する取極は、合意ができるに応じて直ちに効力を生じ」るとされた[15]
  5. ^ 在日米軍日米合同委員会事務局長は、日本側に宛てたレターの中で、「行政協定の下で行われた日米合同委員会に係る全ての事項は,日米地位協定に組み込まれており(incorporated),日米合同委員会によって作成された全ての議事録及び関連文書は,日米両政府に関係する公式文書とみなされ,日米双方の同意無くして公表されない」と主張したことがある[17]

出典[編集]

  1. ^ a b 合意議事録の英訳対象全文 (外務省)
  2. ^ a b 環境に関する改善の措置”. 外務省. 2023年6月9日閲覧。
  3. ^ a b 日米地位協定の軍属に関する補足協定の署名”. 外務省. 2023年6月9日閲覧。
  4. ^ a b 同盟強靱化予算(在日米軍駐留経費負担)”. 防衛省・自衛隊. 2023年6月27日閲覧。
  5. ^ 松竹伸幸 (2021). <全条項分析> 日米地位協定の真実. 集英社. pp. 248~260. ISBN 9784087211559 
  6. ^ 『知ってはいけない──隠された日本支配の構造』講談社BOOK倶楽部公式ホームページの4コマ漫画にて
  7. ^ エリート官僚が国民には知られたくない、日米の歪んだ関係性、我々の未来を脅かす「ウラの掟」の正体とは?『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』著者・矢部宏治が「戦後日本」のタブーを徹底解説!時事通信社公式ホームページ
  8. ^ 吉田敏浩 (2021). 追跡! 謎の日米合同委員会. 毎日新聞出版. p. 8. ISBN 9784620327136 
  9. ^ 日米合同委員会の議事録の公表について【概要】(昭和35年6月)(PDF) (外務省)
  10. ^ 第208回国会 衆議院 外務委員会 第5号 令和4年3月16日 (国会会議録検索システム)
  11. ^ 日米合同委員会 ― より開かれた運用を”. 衆議院議員岡田かつや (2022年3月18日). 2023年4月27日閲覧。
  12. ^ “「極秘会議」の映像を在日米軍がツイッター投稿 PFAS問題を意識? 日米合同委員会の環境分科委員会”. 東京新聞. (2023年6月23日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/258619 
  13. ^ 日米行政協定(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定) (データベース「世界と日本」 日本政治・国際関係データベース 政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
  14. ^ 末浪靖司 (2017). 「日米指揮権密約」の研究 自衛隊はなぜ、海外へ派兵されるのか. 創元社. p. 176. ISBN 9784422300566 
  15. ^ a b 日米行政協定に関する交換公文 - データベース「世界と日本」
  16. ^ 1952年4月29日付 朝日新聞 『合同委に切換 予備作業班』
  17. ^ 「合意に係る日米合同委員会議事録」の不開示決定に関する件 pp.3~4 (情報公開・個人情報保護審査会答申書 平成28年度(行情)623)
  18. ^ 特定日の日米合同委員会議事録の不開示決定に関する件 p.3 (情報公開・個人情報保護審査会答申書 令和4年度(行情)490)
  19. ^ 日米合同委員会コトバンク
  20. ^ 『「日米合同委員会」の研究』謎の権力構造の正体に迫る(吉田敏浩著、創元社、2016年)、『追跡!謎の日米合同委員会』(吉田敏浩著、毎日新聞出版、2021年)、『横田空域』(吉田敏浩著、角川新書、2019年)参照。
  21. ^ 衆議院議員照屋寛徳君提出「秘 無期限」と記された「日米地位協定の考え方」と題する政府文書の存在と公開に関する質問に対する答弁書”. 衆議院. 2023年4月13日閲覧。
  22. ^ 松竹伸幸 (2021). <全条項分析> 日米地位協定の真実. 集英社. pp. 83~92. ISBN 9784087211559 
  23. ^ 吉田敏浩 (2019). 横田空域 日米合同委員会でつくられた空の壁. 角川. pp. 43~58. ISBN 9784040822327 
  24. ^ 日米合同委員会合意第17条関係 (沖縄県知事公室基地対策課)
  25. ^ 吉田敏浩 (2019). 横田空域 日米合同委員会でつくられた空の壁. 角川. pp. 38~42. ISBN 9784040822327 
  26. ^ a b 松竹伸幸 (2021). <全条項分析> 日米地位協定の真実. 集英社. pp. 34~48. ISBN 9784087211559 
  27. ^ 前泊博盛; 明田川融; 石山永一郎; 矢部宏治 (2013). 本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」. 創元社. pp. 158~159. ISBN 9784422300528 
  28. ^ 沖縄の施設・区域(5・15メモ等)【全文】仮訳 英語版(外務省)
  29. ^ 山本章子 (2019). 日米地位協定. 中央公論新社. pp. 111~114. ISBN 9784121025432 
  30. ^ 沖縄の米軍基地(平成30年12月) 第1章【基地問題の推移及び現状】 第3節【施設分科委員会覚書(5.15メモ)】(沖縄県 知事公室 基地対策課)
  31. ^ 山本章子 (2019). 日米地位協定. 中央公論新社. pp. 63~64. ISBN 9784121025432 
  32. ^ 米軍ヘリ炎上事故についての日米間のやり取り及び日米合同委員会合意に関する質問主意書”. 参議院. 2023年6月7日閲覧。
  33. ^ 第198回国会 衆議院 予算委員会 第12号 平成31年2月22日 480 河野太郎 (国会会議録検索システム)
  34. ^ 第107回国会 衆議院 内閣委員会 第5号 昭和61年10月30日 109 岡本行夫 (国会会議録検索システム)
  35. ^ 第208回国会 衆議院 安全保障委員会 第2号 令和4年3月10日 086 市川恵一 (国会会議録検索システム)
  36. ^ 第189回国会 衆議院 安全保障委員会 第3号 平成27年3月26日 189 岸田文雄 (国会会議録検索システム)
  37. ^ 第174回国会 参議院 予算委員会 第13号 平成22年3月17日 199 榛葉賀津也
  38. ^ 吉田敏浩 (2019). 横田空域 日米合同委員会でつくられた空の壁. 角川. p. 182. ISBN 9784040822327 
  39. ^ 吉田敏浩 (2021). 追跡! 謎の日米合同委員会. 毎日新聞出版. pp. 87~88. ISBN 9784620327136 
  40. ^ 「合意に係る日米合同委員会議事録」の不開示決定に関する件 pp.4~5 (情報公開・個人情報保護審査会答申書 平成28年度(行情)623)

関連書籍[編集]

  • 吉田敏浩『「日米合同委員会」の研究』創元社、2016年
  • 吉田敏浩『追跡!謎の日米合同委員会』毎日新聞出版、2021年
  • 吉田敏浩『横田空域』角川新書、2019年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]