亜型検査

亜型検査(あがたけんさ)は、輸血検査の中でも血液型を確定するのに非常に重要である。

抗原側検査[編集]

抗Hレクチン[編集]

ハリエニシダの実から生成された赤血球凝集素であり、赤血球表面のH抗原に反応して凝集させる。H抗原の無い、O型の亜型であるボンベイ型やパラボンベイ型には凝集せず、逆にその他の亜型には激しい凝集を起こさせる。またCad(+)血球にも凝集。対象は全亜型。特にボンベイ型、パラボンベイ型。通常はの順に凝集は強くなる。

抗A1レクチン[編集]

A1抗原の無い、A型の亜型であるA2型などには凝集しない。汎血球凝集などでも例外的に凝集する。対象はAの亜型。

ピーナッツレクチン[編集]

感染症などで細菌の酵素により血球の内在性抗原(T、Tk、Tnなど)が露出し、ピーナッツレクチンをはじめ全抗血清に凝集する。対象は汎血球凝集を疑う場合。詳細は#汎血球凝集の各レクチンに対する反応を参照。

吸着解離試験[編集]

血球に抗原が存在することを証明するために、既知の抗体をいったん患者血球に吸着させ、熱解離などによって再び解離する。そして既知の同型血球とまた反応するかを調べる。対象は亜型のうちAm、Ax、Ael、Bm、Bx、Bel型。

再アセチル化[編集]

消化器系の感染症では細菌の酵素でN-アセチルガラクトサミンが脱アセチル化され、ガラクトースとなり抗B血清と反応するようになる。無水酢酸で再アセチル化すれば通常の状態に戻る。対象は後天性B。

被凝集価測定[編集]

抗原の強さを調べる。抗血清の希釈系列と患者血球を反応させ、どこまで凝集するかを調べる。対照と比較して被凝集価が2管差以上、スコアが10以上あれば亜型。対象はA2、A3、B3、パラボンベイ型。

吸収試験[編集]

抗原の強さを調べる。被凝集価とは逆に患者血球の希釈系列と抗血清を反応させ、どこまで凝集するかを調べる。吸収価が1:8未満ではA3、B3以外の亜型。対象はA2、A3、B3、パラボンベイ型。

混合赤血球の分離[編集]

対象は異型輸血、キメラモザイクを疑う場合。もともと部分凝集がみられた場合、「異型輸血」「亜型」「造血幹細胞移植後」「キメラ・モザイク」「白血病ホジキン病などの疾患による抗原減弱」を疑う。

血清側検査[編集]

転移酵素活性測定[編集]

血清中にあるはずの転移酵素の有無を調べる。患者血清と試薬、O型血球を37度で反応させた後、O型血球が転移酵素の作用で別の型に変わったか被凝集価測定で確認する。対象は全亜型。Ax、Ael、Bx、Belでは検出されない。

血清の型物質測定[編集]

血清中にあるはずの型物質の有無を調べる。抗血清の希釈系列と患者血清を混ぜ、さらに同型血球を反応させてどこまで凝集するかを調べる。もし型物質があればそれによって凝集が妨害を受ける。

唾液の型物質測定[編集]

患者が分泌型(Lewis(a-b+))なら唾液中にも型物質があるので血清の代わりになる。Lewis(a-b+)は日本人の70パーセント。分泌型。Lewis(a+b-)は日本人の20パーセント。非分泌型。Lewis(a-b-)は日本人の10パーセント。非分泌型、分泌型両方あり。対象は全亜型。Ax、Ael、Bx、BelやシスABでは検出されない。

不規則抗体検査[編集]

抗A・抗B抗体以外の抗体(不規則抗体)について調べる。対象はウラ試験で異常な凝集が認められた場合。

予備加温法によるウラ試験[編集]

37度の熱を加えてウラ試験の凝集が消えるか確認する。対象は寒冷凝集を疑う場合。

生食置換法によるウラ試験[編集]

生理食塩水を加えてウラ試験の凝集が消えるか確認する。対象は連銭形成を疑う場合。

解離試験・吸収試験[編集]

目的 方法 解離液(性状) 反応温度 反応時間 解離液(色) 解離後血球の利用 試薬 説明
解離 熱解離 IgM 50 - 56 5 - 10 淡赤色 不可 生食 主にAm、Ax、Ael、Bm、Bx、Belなどの亜型に対し、抗原の存在を証明する吸着解離試験で実施。処理血球の検査はできない。
解離 エーテル解離 IgG 37 30 - 40 暗赤色 不可 エチルエーテル 主に直接クームス陽性血球から、抗体が含まれる解離液を入手するために実施。処理血球の検査はできない。
解離 DT解離 IgG 37 5 暗赤色 不可 ジクロロメタン・ジクロロプロパン 主に直接クームス陽性血球から、抗体が含まれる解離液を入手するために実施。処理血球の検査はできない。
解離 ジキトニン酸解離 IgG 室温 1 無色 不可 ジキトニン液、グリシン塩酸、リン酸緩衝液 主に直接クームス陽性血球から、抗体が含まれる解離液を入手するために実施。処理血球の検査はできない。
解離 グリシン塩酸・EDTA解離 IgG 室温 2 - 3 無色 グリシン塩酸・EDTA、1Mトリス/Nacl 抗体解離液が得られ、処理血球の検査も可能。
解離 クロロキン解離 解離液無し 室温 120 解離液無し クロロキン2リン酸 血液型検査を目的とした抗体解離法(抗体解離液は得られない)
解離 ZZAP処理 解離液無し 室温 30 解離液無し DTT・フィシン 自己抗体があると疑われた際、行われる自己抗体吸着のための抗体解離法。
吸収 PEG吸収 解離液無し 37 解離液無し 解離液無し 解離液無し ポリエチレングリコール 自己抗体があると疑われた際に直接、自己抗体を吸着させる方法。ZZAPを使うより簡単だが、自己抗体以外の同種抗体を吸着させてしまうこともある。また、寒冷凝集の場合は試薬は要らず、全血で4℃に1時間保冷すれば自己吸着できる。

汎血球凝集の各レクチンに対する反応[編集]

感染症などによってTなどの内在性抗原が露出した血球は、どんな血清・血漿とも反応するようになる。これを汎血球凝集といい、血漿成分を含む製剤の輸血は避ける

種類 T Tk Th Tx Tn Cad HEMPAS 正常
原因 感染症 感染症 感染症・血液疾患 感染症 血液疾患 遺伝 遺伝 (なし)
発現期間 一過性 一過性 一過性・長期 一過性 長期 永久 永久 (なし)
Arachis hypogaea(ラッカセイ) + +(酵素処理で強化) +(酵素処理で減弱) + 0 0 0 0
Salvia sclarea 0 0 0 0 + 0 0 0
Salvia horminum 0 0 0 0 + + 0 0
Glycine soja(ツルマメ) + 0 0 0 + +/0 + 0
Vicia cretica + 0 + 0 0 0 0 0
Griffonia simplifolia 0 + 0 0 0 0 0 0
Dolichos biflorus 0 0 0 0 + + 0 0
ポリブレン 0 + + + +/0 + + +

関連項目[編集]