情報提供ネットワークシステム

情報提供ネットワークシステム(じょうほうていきょうネットワークシステム)は、日本において、個人番号(愛称はマイナンバー)と関連付けられた個人情報を関係機関の間でやり取りするためのコンピューターネットワークによる情報システムである[1]

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)の規定に基づいて、総務大臣が設置・管理していた[2]。2021年9月、デジタル庁発足に伴い、デジタル庁の所管となった[3]

2017年11月から本格運用開始[4]。本稿では番号法を「法」と略す。

概要[編集]

情報提供ネットワークシステムは、行政機関などが発行する各種の証明書に記載されるような個人情報(世帯構成、所得、身体障害者手帳の有無など)を、他の行政機関などからオンラインで照会できるようにするシステムである。このシステムの導入は、行政運営の効率化、より公正な給付と負担の確保、国民の利便性の向上をもたらすものと期待されている[5]

日本では、2002年(平成14年)から住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が稼働している。住基ネットを使うと、国の行政機関、都道府県、市町村などの端末から、全国の市町村の住民基本台帳(住民票)の記録のうち本人確認情報(氏名、生年月日、性別、住所など)をオンラインで照会できる。このため、日本国内に住民票がある個人が住基ネットの対象の手続をする際には、住民票の写しの提出が省略できることになった。

しかしながら、住基ネットで照会できる情報は本人確認情報のみであるため、社会保障制度に関する各種の手続をする際には、依然として、様々な機関が発行する各種の証明書の提出が必要である。例えば、公営住宅への入居の申込みには、世帯全員の住民票の写し、所得証明書、身体障害者手帳、生活保護受給証明書などが必要である[6]。手続をする個人は、あらかじめ各機関に出向いてこれらの証明書をそろえた上で、手続の窓口まで持って行かなくてはならず、大変な負担である。紙の証明書を発行する機関、受け取る機関にとっても事務処理の負担が大きい。

情報提供ネットワークシステムが稼働すると、社会保障制度に関する各種の手続をする際には、本人は、窓口で担当者に個人番号(マイナンバー)を示せば各種の証明書の提出が省略できることになる[7]。窓口の担当者は、本人から提供された個人番号を端末に入力し、システムを通じて、番号に対応する個人に関する手続に必要な情報を関係機関から即座に取り寄せることができるからである[8]

必要性[編集]

番号法には、情報提供ネットワークシステムは以下の事項を実現するために必要であると説明されている[9]

  • 行政事務の処理において、個人に関する情報の管理を一層効率化することによって、国民の利便性の向上及び行政運営の効率化に資する。
  • 迅速かつ安全に情報の授受を行い、情報を共有することによって、社会保障制度、税制その他の行政分野における給付と負担の適切な関係の維持に資する。
  • 個人又は法人その他の団体から提出された情報については、これと同一の内容の情報の提出を求めることを避け、国民の負担の軽減を図る。

接続機関[編集]

ネットワークに接続する機関(情報照会者、情報提供者)は、番号法の「別表第2」に規定されている。主なものは次のとおり。

照会できる情報[編集]

情報提供ネットワークシステムで照会することのできる情報の概要は、情報照会者(照会をかける機関)が処理する事務の種類ごとに、番号法の「別表第2」に列挙されている。主なものは次のとおり。

住民票
  • 住民票関係情報(世帯主、世帯主との続柄
年金
  • 年金給付関係情報
労働
  • 職業訓練受講給付金関係情報
  • 失業等給付関係情報
  • 労働者災害補償関係情報
医療・介護
  • 医療保険給付関係情報
  • 介護保険給付等関係情報
福祉
  • 生活保護関係情報
  • 児童手当関係情報
  • 児童扶養手当関係情報
  • 障害者関係情報
  • 地方税関係情報

照会できる情報の細目は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律別表第二の主務省令で定める事務及び情報を定める命令」(平成26年内閣府・総務省令第7号)に規定されている。

2015年(平成27年)3月時点で公布済みの法令に照らして、情報提供ネットワークシステムで照会できないことが明らかな情報のうち主なものは次のとおり。

マイナンバー情報総点検本部[編集]

2023年6月21日、「マイナンバー情報総点検本部」が設立され、この時点でマイナポータルにて閲覧可能な全29項目の正確性を総点検することとなった。ここで掲げられた29項目は以下のとおり[10][11]

  • 健康・医療 - 1) 健康保険証、2) 診療・薬剤、3) 医療費、4) 予防接種、5) 特定健診・後期高齢者健診、6) 検診(がんなどの検診結果)、7) 医療保険、8) 医療保険その他、9) 学校保健、10) 難病患者支援、11) 保険証の被保険者番号、12) 医療保険情報の提供状況
  • 税・所得・口座 - 13) 税・所得、14) 医療費、15) 公金受取口座
  • 年金 - 16) 年金、17) 年金その他
  • 子ども・子育て - 18) 児童手当、19) ひとり親家庭、20) 母子保健、21) 教育・就学支援、22) 障害児支援・小児慢性特定疾病医療
  • 世帯情報 - 23) 世帯情報
  • 福祉・介護 - 24) 障害保険福祉、25) 生活保護、26) 中国残留邦人等支援、27) 介護・高齢者福祉
  • 雇用保険・労災 - 28) 雇用保険、29) 労災補償

機能拡充[編集]

運用開始後、以下のとおりマイナポータルの機能拡充が進んでいる[12]

  • 2017年
  • 2020年
    • 1月20日 - 法人設立ワンストップサービス開始[14]。2021年2月26日対応可能手続き拡充[15]
    • 5月1日以降 - 特別定額給付金のマイナポータルによる申請受付開始[16]。開始時期は自治体によって異なる
    • 8月7日 - マイナンバーカードの健康保険証としての利用登録(いわゆるマイナ保険証としての利用登録)開始[17]
  • 2021年
    • 1月4日 - e-Taxにて確定申告の「マイナポータル連携」開始。生命保険料控除証明書等をマイナポータルから取得し申告書へ自動入力可能となった[18]
    • 5月31日 - 画面デザインリニューアル[19]
    • 10月21日 - 特定健診結果(40歳以上の者)をマイナポータルで提供[20]
    • 11月19日 - マイナポータルで医療費通知情報が閲覧可能になった[21]
  • 2022年
    • 1月4日 - e-Taxでの「マイナポータル連携」の対象項目拡充。ふるさと納税、地震保険料控除、医療費控除(2021年9月分以降のみ)の自動入力が可能となった[22]
    • 3月28日 - 公金受取口座登録開始[23]
    • 5月11日 - 国民年金の加入や保険料免除に関し、マイナポータルから電子申請開始[24]
    • 12月19日 - UI/UXを改善した「新マイナポータル(α版)」の試行開始[25]
  • 2023年
    • 1月4日 - e-Taxでの「マイナポータル連携」の対象項目拡充。医療費控除(1年分)、国民年金保険料、公的年金等の源泉徴収票の自動入力が可能となった[26]
    • 2月6日 - 「引っ越しワンストップサービス」開始。転出届のオンライン化[27][28](転入届は非対応。来庁が必要)
    • 3月27日 - パスポート日本国旅券)のオンライン申請開始[29]

今後の予定[編集]

以下は主に、2023年6月6日開催の第4回「デジタル社会推進会議」にて決定[30]、6月9日閣議決定[31]の、2023年版『デジタル社会の実現に向けた重点計画』に記載されたマイナポータル関連のロードマップである。

  • 2023年度
    • 引っ越しワンストップの拡充(住所変更情報の民間提供)
    • 母子手帳との連携の強化、乳幼児健診等の結果をマイナポータルで提供
    • 事業主健診結果(40歳未満の者)をマイナポータルで提供
    • 公的年金等の扶養親族等申告書のマイナポータルからの提出
    • 保育所入所などの手続に必要な就労証明書のオンラインでの提出
    • 企業等からオンラインで提出された給与所得の源泉徴収票の情報を、マイナポータル連携で提供
    • 「新マイナポータル」の正式リリース
  • 2024年度
    • ねんきん定期便」情報をマイナポータル上でプッシュ通知
    • 自治体へ提出が必要となる診断書等について、医療機関が電子的に発行し、マイナポータルを活用して電子的な提出を実現
    • 学校健診情報をマイナポータルで提供
    • 戸籍情報システムと連携し、パスポート新規申請時に戸籍謄本の添付を省略可能とする
    • マイナポータルアプリから認証部分を切り離し、官民双方から利用可能な「新認証アプリ」をリリース[32][33]
  • 時期未定
    • 技能士資格情報や、技能講習修了証明書、建設キャリアアップカードなどの情報を、マイナンバーカード・マイナポータルへ取り込む
    • 転入届を含めた、引っ越し手続きの完全オンライン化
    • 死亡相続手続のデジタル完結

情報照会・提供履歴の記録・開示[編集]

情報提供ネットワークシステムは、システムを通じた個人情報の照会と提供の履歴を過去7年間分記録することになっている[34]。情報提供等記録開示システムは法附則6条で検討事項として言及された。

運用の歴史[編集]

当初2017年7月の本格運用開始が予定されていたが、自治体と連携する部分の準備の遅れ、日本年金機構での情報流出事件を受けてのセキュリティ上の懸念などのため、延期された[35]。2017年11月時点でも、一部のサービスの稼動を見送っての運用開始となった[36]

出典[編集]

  1. ^ 法第2条第14項
  2. ^ 法第21条第1項
  3. ^ マイナポータルの所管はどこになりますか。 | よくある質問”. faq.myna.go.jp. マイナポータル. 2023年6月23日閲覧。
  4. ^ 野田聖子、https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119514889X00120171130&spkNum=18&current=6
  5. ^ 法第1条
  6. ^ 入居資格審査に必要な書類(宮崎県公式サイト)
  7. ^ 法第22条第2項
  8. ^ 法第22条第1項
  9. ^ 法第3条第4項
  10. ^ 保険証廃止「不安払拭が大前提」 岸田首相、マイナトラブル再発防止へ決意”. www.jiji.com. 時事ドットコム (2023年6月21日). 2023年6月23日閲覧。
  11. ^ 29項目を点検へ「マイナンバー情報総点検本部」初開催 来年秋「マイナ保険証」一本化…医療現場に募る不安【news23】”. newsdig.tbs.co.jp. TBS NEWS DIG (2023年6月22日). 2023年6月23日閲覧。
  12. ^ マイナポータル|デジタル庁”. www.digital.go.jp. デジタル庁 (2023年6月5日). 2023年6月7日閲覧。
  13. ^ マイナポータルとe-Taxがつながります”. www.e-tax.nta.go.jp. e-Tax. 2023年6月7日閲覧。
  14. ^ マイナンバーカード活用の「法人設立ワンストップサービス」。国税庁”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2020年1月20日). 2023年6月7日閲覧。
  15. ^ 法人設立ワンストップサービスの対象が全ての手続に拡大されました”. www.nta.go.jp. 国税庁. 2023年6月7日閲覧。
  16. ^ 1人10万円の特別定額給付金、さっそくオンライン申請。手続きは30分”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2020年5月2日). 2023年6月7日閲覧。
  17. ^ マイナンバーカード、'21年3月から健康保険証になる。申込受付開始”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2020年8月7日). 2023年6月7日閲覧。
  18. ^ 国税庁ホームページでの申告書作成・e-Tax送信がますます便利に!|国税庁”. www.nta.go.jp. 2023年6月7日閲覧。
  19. ^ マイナポータルのデザインをリニューアル。児童手当現況届申請画面などが使いやすくなりました。|デジタル庁”. デジタル庁 (2021年6月1日). 2023年6月7日閲覧。
  20. ^ マイナポータルからの特定健診結果の閲覧について | 広報・イベント”. www.kyoukaikenpo.or.jp. 全国健康保険協会. 2023年6月7日閲覧。
  21. ^ マイナポータル、医療費通知情報の閲覧機能リリース、2021年9月受診分以降”. www.bcnretail.com. BCN+R (2021年11月25日). 2023年6月7日閲覧。
  22. ^ 国税庁ホームページでの所得税等の申告書作成・e-Taxがますます便利に!”. www.nta.go.jp. 国税庁. 2023年6月7日閲覧。
  23. ^ マイナポータルで「公金受取口座」登録開始。マイナポイントで7500円”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2022年3月28日). 2023年6月7日閲覧。
  24. ^ 国民年金の加入や保険料免除に関する電子申請を開始しました”. www.nenkin.go.jp. 日本年金機構 (2022年5月11日). 2023年6月7日閲覧。
  25. ^ 新マイナポータル(α版)がスタート 「忘れない」「見つける」強化”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2022年12月19日). 2023年6月7日閲覧。
  26. ^ 国税庁ホームページでの所得税等の申告書等作成・e-Taxがますます便利に!”. www.nta.go.jp. 国税庁. 2023年6月7日閲覧。
  27. ^ オンラインで転出届、2月6日開始 マイナポータルで「引越しワンストップ」”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2023年1月30日). 2023年6月7日閲覧。
  28. ^ オンラインで転出届スタート マイナポータルで対面不要”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2023年2月6日). 2023年6月7日閲覧。
  29. ^ パスポート更新「オンライン申請」がスタート。窓口は“1回”だけに”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2023年3月27日). 2023年6月7日閲覧。
  30. ^ 第4回デジタル社会推進会議”. www.digital.go.jp. デジタル庁 (2023年6月5日). 2023年6月7日閲覧。
  31. ^ 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました”. www.digital.go.jp. デジタル庁 (2023年6月9日). 2023年6月23日閲覧。
  32. ^ デジタル庁が「認証スーパーアプリ」を24年度提供へ、官民サービス横断で狙う地位”. xtech.nikkei.com. 日経クロステック(xTECH) (2023年3月22日). 2023年6月7日閲覧。
  33. ^ マイナンバーカードを使う「新認証アプリ」 デジタル庁開発へ”. Impress Watch. 株式会社インプレス (2023年3月30日). 2023年6月7日閲覧。
  34. ^ 法第23条第3項、番号法施行令第29条
  35. ^ マイナンバー情報連携の本格運用はなぜ延期できたのか”. xtech.nikkei.com. 日経クロステック(xTECH) (2017年3月29日). 2023年6月23日閲覧。
  36. ^ 長尾秀樹、野田聖子、https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119504601X00220171205&spkNum=75&current=10

外部リンク[編集]