府馬の大クス

府馬の大クス。2007年4月7日撮影。

府馬の大クス(ふまのおおクス)は、千葉県香取市府馬2395にある国の天然記念物に指定されたタブノキの大木である[1][2][3]

タブノキ(椨の木[4]、学名: Machilus thunbergii[5])は、別名イヌグス(犬樟)で[5]クスノキ科タブノキ属に属する常緑樹である。千葉県内では各所に生育するが、比較的温暖な地域の沿海部に多く見られる[5][6]。産出される木材は堅いのが特徴で、家具や船材として利用されてきた歴史がある[7][8]

解説[編集]

府馬の大クスの位置(千葉県内)
府馬の 大クス
府馬の
大クス
府馬の大クスの位置

1926年10月20日に史蹟名勝天然紀念物保存法に基づいて国の天然記念物に指定された[注 1][1][8]。「クス」の名が付いており、指定当初の告示ではクスノキとして認められたが、1969年1月13日に文化財審議専門委員本田正次による調査で、実際はタブノキであることが判明した[6]。タブノキには「イヌグス」という俗称が地元に存在しており[7][8][4]、一見似ているクスノキより木材質が劣ることから付けられた呼称である[5]

指定樹は宇賀神社の社殿の右手前に生育している[6]。宇賀神社は773年創始の府馬周辺では古い神社で、宇気母知神を勧請したことに由来する[3][9]。民俗研究者の筒井功は、同神社が、タブノキが生育し始めた千数百年前から既に、神社の位置する台地の北方に広がる「千丈ヶ谷」と呼ばれる水田地帯で耕作をしていた住民たちの祭場になっていた可能性が十分にあると述べている[10]

指定樹の大クスの幹や枝は太く、枝は境内全体を覆うようにして伸びている。樹高は16[8] - 20メートルに及び[11][6]、樹幹は約12メートル[12]、根回りは約27.5メートルである[7]。この程度の大きさにまで生育するのはタブノキとしては珍しい部類に入る[6]樹齢は1300年から1500年ほどと推定される[8][12]。樹上には数種類の宿木が繁殖している他[12]、根元や幹は凹凸が激しく、複雑な形状になっている[6][11]。主要な支幹は西方に伸びるものと南方に伸びるものとの二つがあり、そのうち前者は地面と平行して水平に長く伸びているため、下から石柱と丸太で支えられている[6]

大クスと展望台。2007年4月7日撮影。

指定樹の北東7メートルほどの場所には「子グス」と呼ばれる根回り4メートルほどの別のタブノキがあり、これは元々指定樹の枝が伸びて地面に垂れ下がったものが江戸時代中期の元禄期頃に根を張ったものであったが[12]、元の枝は明治末期に枯れ、現在は指定樹とは分離している[8]。1845年の「下総名所図絵」には、現在と指定樹と子グスが繋がっていた時期の様子が描かれている[8]

2001年に、環境省により選定された「かおり風景100選」のうちの一つに選ばれた[3][8]

交通アクセス[編集]

所在地
交通アクセス

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 指定基準は「名木、巨樹、老樹、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢」として。

出典[編集]

  1. ^ a b 府馬の大クス - 国指定文化財等データベース(文化庁
  2. ^ a b 府馬の大クス/千葉県”. 千葉県ホームページ (pref.chiba.lg.jp). 千葉県庁 (2023年4月14日). 2024年4月13日閲覧。
  3. ^ a b c d 府馬の大クス:香取市ウェブサイト”. 香取市役所 (2016年2月1日). 2024年4月13日閲覧。
  4. ^ a b 西田 2009, p. 96.
  5. ^ a b c d 森林総合研究所 九州支所/タブノキ”. 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所九州支所. 2024年4月13日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g 千葉県史料研究財団 1996, p. 670.
  7. ^ a b c 千葉県教育委員会 1990, p. 530.
  8. ^ a b c d e f g h i j 千葉県教育庁 2004, p. 136.
  9. ^ 山田町史編さん委員会 1986, p. 1336.
  10. ^ 筒井 2021, pp. 246–249.
  11. ^ a b 山田町史編さん委員会 1986, pp. 1348–1349.
  12. ^ a b c d 寺本 2005, pp. 123–124.

参考文献[編集]

  • 山田町史編さん委員会 編『山田町史』山田町、1986年3月31日。 
  • 千葉県教育委員会 編『千葉県の文化財』千葉県教育委員会、1990年。 
  • 財団法人 千葉県史料研究財団 編『千葉県の自然誌 本編1 千葉県の自然』千葉県〈県史シリーズ40〉、1996年。 
  • 千葉県教育庁 編『ふさの国の文化財総覧 第二巻』千葉県教育庁、2004年。 
  • 寺本和 編『ふるさとのあゆみ 山田町の歴史と文化財』山田町教育委員会 山田町郷土史研究会 協賛、2005年10月1日。 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂 フィールドベスト図鑑5〉、2009年8月4日。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 筒井功『利根川民俗誌 日本の原風景を歩く』河出書房新社、2021年9月30日。ISBN 978-4-309-22827-3 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯35度48分16.3秒 東経140度36分33.44秒 / 北緯35.804528度 東経140.6092889度 / 35.804528; 140.6092889