二刀流

宮本武蔵の下段の構え

二刀流(にとうりゅう)は、両手(右手と左手)にそれぞれもしくはを持って、攻守をおこなう技術の総称。二刀剣法とも呼ばれる。

転じて、二つの異なる手段をもって事にあたること、あるいは同時に二つのことを行うことを意味するようにもなった。拳銃を使う場合は二丁拳銃と言う。英語においては武器の種類を問わずDual wield(Dual 2重の、一対。wield 振るう、振り回すなどの意)と表現する。

日本[編集]

剣術[編集]

二天一流の演武

日本の剣術の二刀流は、利き手に本差を、反対側の手に脇差を持った形が最も多い。基本的に両手で把持して使用する目的で作られている日本刀を片手で使用することや、両手を別々に使用することは難しく[要出典]、二刀を中心とする流派は少ない。二刀流を重視する流派としては、宮本武蔵が開いた二天一流が最も有名である。

二刀剣法の技術は、多くの古武道で継承されているが、形は様々で、左手に打刀を持つものや、逆手で扱うもの(片方だけ逆手の場合もあり、当然もう片方は順手で扱う)、珍しいものでは二振りの脇差を使う、二刀小太刀術柳生心眼流天道流など)や二丁十手、二丁なども存在する。手裏剣術では、片手に刀を持っていることを前提にして逆の手で手裏剣を打つ技もある。一刀で行う剣術に習熟する方法として、まず二刀を練習して慣れてきたら一刀に戻すという方法が行われることもあった。

中国や東南アジアの影響が多い琉球古武術では、トンファー等の武器を両手に一つずつ持って使う。

流派[編集]

人物[編集]

剣道[編集]

二刀流の剣道選手

現代の剣道では、成年者は二刀流を公式試合で使うことが認められているが、使用者の数は少ない。昭和初期に学生の間で、団体戦において二刀流の選手を防御一辺倒の引き分け要員とする手段が横行したため、一部の学生大会では二刀流を禁止するようになった。太平洋戦争後に発足した全日本剣道連盟も戦前に倣って学生の二刀流を禁止し、二刀流を学ぶ者は非常に少なくなった。伝統の断絶を危惧する声もあり、1992年(平成4年)に大学剣道では解禁された。現在は徳島県警の山名信行が二刀流の使い手として知られている[1]

試合では、基本は小太刀で敵の攻撃を受け流し、太刀で打つ。太刀は一般の物より短めの竹刀を使う。小太刀は防御や崩しが中心で、完璧な形で決まれば小太刀の打突も有効打突となる場合もあるが、間合いの短い小太刀で完璧な打突は決まる事がほとんど無いうえ、太刀での打突に比べて判定自体も厳しくなるので、事実上有効打突とされないという認識が一般的である。かつて、二刀流の相手に対しては胸突きが認められていた時期があったが、1995年のルール改正以降は認められていない。

著名な遣い手[編集]

スポーツチャンバラ[編集]

スポーツチャンバラでは、二刀の部では二刀流が義務づけられ、異種の部では二刀流が認められている。[2]

ヨーロッパ[編集]

バスク地方の剣舞
剣闘士
古代ローマ剣闘士にはシーカグラディウスの二刀流で戦うディマカイルス英語版がいた。
バイキング
使用した技法の一つに、剣2本の二刀流のほか、と剣、と剣といった異なる種類の武器の二刀流があった。しかし、正式な技法ではなくあくまで緊急時の例外的な使用法だと言われている[3]。その他、中世の二刀流に関する技法に対する文献は少なく不明である。
ルネサンス期(近世)
二刀流の技法が正式な技法として研究されるが、刀剣を二本携帯することは珍しく、特殊な決闘か道場の訓練でしか使われなかったという説がある。
コンパニオン ウェポン
コンパニオン ウェポン英語版とは、レイピアや剣を持つ手とは反対の手に持つ盾やパリングダガー等の武器のことである。
ヨーロッパ西洋剣術でレイピアにおける二刀流は 左手のマンゴーシュという短剣と併用される。フェンシングや剣道から見ると奇異だがレイピア&マンゴーシュの組み合わせは非常にポピュラーであった。西洋では元来剣は右手、左手はで防御という概念の上に構成されているため二刀流は左の盾と考えると困難なものではない。また、突きが主な攻撃なので、斬りよりも防御しやすいという点もある。
このマンゴーシュには大型のがついていたり十手のように鍔がフックとなっていたりするので、相手の剣を受け止めると動けなくなる。片手に短剣の二刀流の利点は間合いが長短二つあることだ。特に突きは離れた間合いから両者は急速に接近するので一撃目が失敗しはじかれても 次はダガーで脇腹をさすことができる。
ルネッサンス期のイタリアではフェンシングの技術として、利き手でレイピア、逆の手で短剣を扱う技術があったが、防御専門であり用途は盾に近い。

中東[編集]

中東イスラム圏では9世紀アッバース朝時代に、現在のイランで半独立政権ターヒル朝を樹立した武将 ターヒル・イブン・フサイン英語版の名が挙げられる。ターヒルは隻眼の武人でよく双刀を使い、「2本の右手を持った人」と渾名されたという。

中国・東南アジア[編集]

近代の中国武術の武器蝴蝶双刀

中国の剣術では双剣双刀、東南アジアではシラットエスクリマクラビー・クラボーンなどの武術で二刀流(東南アジアや中国では、短棒二本や短剣二本や長短の剣など二刀流のバリエーションが多い)が行われ、日本とは違い比較的一般的[要出典]であった。

ロシア[編集]

ウクライナの伝統舞踊ホパークで、二本の剣を持つものがある。

野球における二刀流[編集]

投手と打者の二刀流で活躍する大谷翔平ロサンゼルス・エンゼルス時)

プロ野球において、投手と野手(または指名打者)を兼任する選手も二刀流(「二投流」とも表現される) (Two-way player) と呼ばれる。日本プロ野球黎明期の1リーグ時代は人員不足などの理由から兼任した選手が多くいたが、近年はほとんど存在せず、21世紀以降に日本プロ野球(NPB)やメジャーリーグベースボール(MLB)で投手と野手(または指名打者)の二刀流で各10試合以上の公式戦出場を果たしたのは2003年から2004年ブルックス・キーシュニックと、2013年からの大谷翔平2018年からのマイケル・ローレンゼンのみである。特に大谷の挑戦は日本、アメリカ両国で話題を呼び「二刀流」が2013年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補50語にも選出され[4]、MLB移籍後の2021年には年間大賞を受賞した[5]。大谷の二刀流の大活躍によりMLBで「二刀流」がルール上定義され、一定条件を満たす二刀流選手を保有しているチームには事実上の優遇措置が与えられる。

アメリカ大学野球ではワシントン州立大学2年次の1988年に打者として66試合で打率.464と23本塁打、投手として15勝0敗と防御率2.49を記録したジョン・オルルドの功績を称え、二刀流で活躍した選手に贈られるジョン・オルルド賞英語版が2010年に設立された。ダニー・ハルツェンマルコ・ゴンザレスが受賞している。

また、野球以外の競技でもプレーするマルチアスリート (Multi-sport athlete) も日本では「二刀流」と呼ばれる[6]。中でもボー・ジャクソンNFLプロボウルMLBオールスターゲームに出場、ディオン・サンダースはNFLスーパーボウルとMLBワールドシリーズに出場、ジーン・コンリーNBAファイナルとMLBワールドシリーズに出場し、複数のトッププロリーグで活躍を見せた。

その他、全く違う投球フォームを二種類持つ選手を二刀流をもじって二投流と呼ばれたこともある[7]

投手と野手の二刀流を経験した主な選手[編集]

日本[編集]

メジャーリーグ[編集]

ニグロリーグ[編集]

韓国野球委員会[編集]

上記以外[編集]

その他の二刀流[編集]

メディア作品[編集]

六三四の剣
古沢兵衛、乾俊一
キャプテン翼
若島津健、デュータ・ミューラー、エスパダス、井川岳人、大空翼

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ MLB以外では1922年にニグロリーグブレット・ローガンが達成しており、ちょうど100年ぶりとなる[12]

出典[編集]

  1. ^ 平成の武蔵!? 二刀流にかけるアサヒ・コム 2014年7月17日
  2. ^ 得物と種目(「スポチャン教本」より) スポーツチャンバラ公式サイト 国際スポーツチャンバラ協会 2019年4月07日閲覧
  3. ^ 長田龍太『続・中世ヨーロッパの武術』新紀元社、112頁。
  4. ^ “大谷の“二刀流”流行語大賞候補”. デイリースポーツ. (2013年11月21日). https://www.daily.co.jp/baseball/2013/11/21/0006513655.shtml 
  5. ^ “リアル二刀流/ショータイムが流行語大賞 五輪関連もトップ10入り”. 朝日新聞. (2021年12月1日). https://www.asahi.com/articles/ASPD13H7PPD1UCVL001.html 
  6. ^ “ヤンキース 練習試合でハイズマン賞“二刀流”QBと対戦”. スポーツニッポン. (2014年2月26日). https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2014/02/26/kiji/K20140226007665820.html 
  7. ^ “西武・牧田“二投流”失敗、ファン気づかず/球宴”. サンケイスポーツ. (2013年7月21日). https://www.sanspo.com/article/20130721-FVXQ3CQ3NZK2BKP5Y53E2SVZVI/ 
  8. ^ "【ベストナイン】日本ハム・大谷が史上初の「二刀流受賞」". スポニチアネックス. 2016年11月25日. 2016年11月25日閲覧
  9. ^ "「二刀流」大谷が2桁勝利・本塁打、ベーブ・ルース以来の快挙". ウォール・ストリート・ジャーナル. 2016年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月16日閲覧
  10. ^ Johnny Lindell 1953 Batting Game Logs” (英語). Baseball-Reference.com. 2018年6月3日閲覧。
  11. ^ "大谷翔平、ベーブ・ルース以来104年ぶり「2桁勝利&2桁本塁打」達成 メジャーで初の10勝". 日刊スポーツ. 2022年8月10日. 2022年8月10日閲覧
  12. ^ "大谷、陰の偉業に光=ルースの後も二刀流成功者―米大リーグ". 時事通信社. 2022年8月11日. 2023年1月29日閲覧
  13. ^ Brendan McKay Minor Leagues Statistics & History” (英語). Baseball-Reference.com. 2018年6月3日閲覧。
  14. ^ “二刀流・ドネア「勝って武蔵になる」…世界Sバンタム級王座統一戦”. スポーツ報知. (2012年10月13日) 
  15. ^ 自由奔放な踊れる二刀流ガールズバンド“凸凹凸凹”:木下ひなこインタビュー”. Tokyo Girls Update (2016年6月8日). 2018年2月20日閲覧。
  16. ^ “スノボ本職選手がアルペンで金、チェコの二刀流快挙”. 日刊スポーツ. (2018年2月18日). https://www.nikkansports.com/olympic/pyeongchang2018/alpine/news/201802180000222.html 2018年2月20日閲覧。 
  17. ^ “固定観念打ち破った二刀流=レデツカ、史上初の「2冠」”. 時事ドットコムニュース. (2018年2月24日). https://www.jiji.com/jc/pyeongchang2018?s=news&k=2018022400604 2018年2月25日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]