レッドウィングス航空9268便着陸失敗事故

レッドウィングス航空 9268便
尾部の残骸
事故の概要
日付 2012年12月29日
概要 パイロットエラーによる滑走路のオーバーラン
現場 ロシアの旗 ロシアモスクワ ヴヌーコヴォ国際空港
北緯55度35分2秒 東経37度15分18秒 / 北緯55.58389度 東経37.25500度 / 55.58389; 37.25500座標: 北緯55度35分2秒 東経37度15分18秒 / 北緯55.58389度 東経37.25500度 / 55.58389; 37.25500
乗客数 0
乗員数 8
負傷者数 3
死者数 5
生存者数 3
機種 ツポレフ Tu-204-100B
運用者 ロシアの旗 レッドウィングス航空英語版
機体記号 RA-64047
出発地 チェコの旗 パルドゥビツェ空港英語版
目的地 ロシアの旗 ヴヌーコヴォ国際空港
地上での死傷者
地上での負傷者数 1
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レッドウィングス航空9268便着陸失敗事故は、2012年12月29日にロシアで発生した航空事故である。

パルドゥビツェ空港英語版からヴヌーコヴォ国際空港へ向かっていたレッドウィングス航空9268便(ツポレフ Tu-204-100B)が着陸時に滑走路をオーバーランし、乗員8人中5人が死亡した[1]

この事故はTu-204で発生した2件目の全損事故であり、初の死亡事故ともなった[2]

飛行の詳細[編集]

事故機[編集]

2010年11月に撮影された事故機

事故機のツポレフ Tu-204-100B(RA-64047)は、製造番号1450743164047として2008年に製造された[3]。総飛行時間は8,672時間で、2,482サイクルを経験していた。事故によりRA-64047は全損扱いとなり、同社初の機体損失となった[2][4][5][6]

乗員[編集]

機内には8人の乗員が搭乗しており[7][8][9]、うち5人が事故により死亡した[8][10][11]

機長は58歳の男性だった。総飛行時間は14,500時間以上で、Tu-204では3,000時間以上の飛行経験があった[6]。副操縦士は53歳の男性だった。総飛行時間は10,000時間以上で、Tu-204では500時間以上の飛行経験があった。航空機関士は54歳の男性だった[12]。総飛行時間は10,000時間以上で、Tu-204では1,600時間以上の飛行経験があった[13]

事故の経緯[編集]

事故当日のGMT8時32分にポーランドで撮影された事故機

GMT10時10分、9268便はチェコパルドゥビツェ空港英語版を離陸した[14]。9268便はヴヌーコヴォ国際空港の滑走路19へ北から接近した。最終進入はオートスロットルを解除した状態で行われたが、進入は不安定だった。GMT12時35分、9268便は滑走路端から2,950フィート (900 m)から3,280フィート (1,000 m)地点に124ノット (230 km/h)で接地した。パイロットはスラストリバーサーを展開させようとしたが作動しせず、またエアブレーキとスポイラーも自動的に展開しなかった。リバーサーが展開せず、通常の推力が働いたため機体は130ノット (240 km/h)まで加速した。着陸から32秒後、9268便は116ノット (215 km/h)で滑走路をオーバーランした。オーバーランした機体は滑走路の33フィート (10 m)先にあるM3高速道路英語版の堤防に衝突し、大破した。残骸はM3高速道路上にまで飛散し、走行中の自動車に衝突した。このときの様子は別の車のドライブレコーダーに記録されていた[2][15][16]

ロシア内務省によれば、事故により機長、副操縦士、航空機関士と客室乗務員1人が即死し、別の客室乗務員1人が病院に搬送された後に死亡した[8][2]

事故調査[編集]

9268便の残骸

事故調査には国家間航空委員会(MAK)の他、ロシア連邦航空運輸局英語版ロシア連邦運輸分野管理庁英語版も参加した[17]コックピットボイスレコーダーフライトデータレコーダーはどちらも回収され、分析が行われた[18]。事故の15分後、滑走路の摩擦係数が測定された。測定値は0.63で、Tu-204の着陸が許容される範囲内だった。また、滑走路の点検は着陸の1時間20分前に行われていた。12月31日、MAKは滑走路の状態は事故に影響しなかったようだと述べた[19]

調査から9268便が通常よりも高速で着陸していたことが判明した。Tu-204の着陸時の推奨最低速度は108ノット (200 km/h)から111ノット (206 km/h)だった。しかし9268便は140ノット (260 km/h)近い高速で着陸した。そのため、着地点が通常よりも遠くなった[2]

また、9268便は左主脚から着陸し、その後交互に主脚が接地していたため、両主脚の支柱に圧力が加わらず、エアブレーキとスポイラーが自動的に展開されなかった。加えて、パイロットはホイールブレーキを使用したが、同様の理由のため作動しなかった。Tu-204では両主脚の支柱へ同時に5.5t以上の圧力が加わることによってブレーキ類が使用できる設計となっていた[2][18]。着陸から32秒後、両主脚が同時に接地し、エアブレーキとスポイラーが自動的に展開されたが、すでに機体は滑走路をオーバーランしていた。9268便はおよそ103ノット (191 km/h)の速度で空港外周のフェンスに衝突した[2][18]

2013年2月、MAKはジュコーフスキー空港で飛行試験を行った。試験ではエアブレーキとスポイラーが自動的に展開されず、パイロットがしたスラストリバーサーの誤った操作を再現した状態で着陸が行われた。その結果、着陸の初期段階に誤った操作を行ったとしても、その後に適切な操作を行えば滑走路内で停止できる可能性があったと判明した[20]

最終報告書[編集]

2014年3月3日、MAKは最終報告書を公表した。報告書では、スラストリバーサーの制御装置の整備不備とパイロットがエアブレーキとスポイラー及びスラストリバーサーの適切な操作を行わなかったことが事故原因とされた。また、Tu-204に搭載されているセンサーの設計やレッドウィングス航空の安全管理体制などの問題も指摘された[2][18]

以前のオーバーラン事故[編集]

9268便の事故が発生する9日前の12月20日にもレッドウィングス航空の別のTu-204(RA-64049)がオーバーラン事故を起こしていた。RA-64049はブレーキの故障によりトルマチョーヴォ空港の滑走路25を1,150フィート (350 m)オーバーランした。同機には乗員乗客70人が搭乗していたが全員無事だった。この事故を受けてロシア連邦航空運輸局英語版は12月24日に、Tu-204のブレーキ駆動機構を検査するよう全ての運用者に通達した。この事は事故前日の12月28日に製造元であるツポレフにも通達された[21][22]

12月30日、連邦航空運輸局のAleksandr Neradko局長は9268便のデータレコーダーの調査から、事故機が通常の位置に接地したにもかかわらず滑走路をオーバーランした事が判明したため、この事故もブレーキの故障が原因と疑われた[23]

刑事訴訟[編集]

ロシア連邦捜査委員会は、ロシア連邦刑法第263条のパート3に従って捜査を行った[24][25]。この捜査はロシア連邦警察庁ロシア語版の特別管理下で行われた[26]。2012年12月30日、当局はレッドウィングス航空から文書の押収などを行った[27]。2014年9月1日、当局は主に機長と航空機関士に過失があったと言う結論に同意し、捜査を終了した[28][29]

脚注[編集]

  1. ^ Hradecky, Simon (2012年12月29日). “Accident: Red Wings T204 at Moscow on Dec 29th 2012, overran runway on landing”. The Aviation Herald. http://www.avherald.com/h?article=45b4b3cb 2019年1月22日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f g h Ranter, Harro. “Accident description”. aviation-safety.net. Aviation Safety Network. 2012年12月29日閲覧。
  3. ^ Aircraft RA-64047, 2008 Tupolev Tu-204-100B C/N 1450743164047”. Airport-data.com. 2012年12月30日閲覧。
  4. ^ Hradacky, Simon (2012年12月30日). “Accident: Red Wings T204 at Moscow on Dec 29th 2012, overran runway on landing”. The Aviation Herald. 2012年12月30日閲覧。
  5. ^ “Выжившая стюардесса рассказала подробности авиакатастрофы Ту-204 [Surviving stewardess told details of the Tu-204 plane crash]” (ロシア語). Novye Izvestia. (2012年12月30日). https://newizv.ru/news/society/30-12-2012/175432-vyzhivshaja-stjuardessa-rasskazala-podrobnosti-aviakatastrofy-tu-204 2020年4月7日閲覧。 
  6. ^ a b report, pp. 12–17.
  7. ^ “Moscow plane crash: Carnage caught on camera, investigation in progress (VIDEO, PHOTOS)”. RT. (2012年12月29日). http://rt.com/news/moscow-plane-crash-video-095/ 
  8. ^ a b c “Moscow plane crash: Deathtoll rises to five”. RT. (2012年12月30日). http://rt.com/news/moscow-plane-crash-video-095/ 
  9. ^ “Four dead as Russian plane crashes into motorway”. Yahoo UK&Ireland News/AFP. オリジナルの2013年1月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130102025958/http://uk.news.yahoo.com/four-killed-russian-plane-crash-153934569.html 
  10. ^ “Preliminary reports point to pilot error as main cause in deadly TU-204 plane crash”. RT. (2012年12月29日). http://rt.com/news/tu-204-crash-investigation-077/ 
  11. ^ “Russian plane crashes into road outside Moscow”. BBC News. (2012年12月29日). https://www.bbc.co.uk/news/world-europe-20865369 
  12. ^ report, pp. 17–19.
  13. ^ report, pp. 20–22.
  14. ^ ロシアで旅客機着陸失敗 機体前部大破、死者情報も”. MSN産経ニュース (2012年12月29日). 2012年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月26日閲覧。
  15. ^ Dashcam video showing crash from vehicle on road.
  16. ^ “Russian passenger jet crashes at Moscow's Vnukovo airport”. The Guardian (Agencies). (2012年12月29日). https://www.theguardian.com/world/2012/dec/29/russian-passenger-jet-crashes-moscow-vnukovo 2012年12月30日閲覧。 
  17. ^ “МАК с участием Росавиации и Ространснадзора расследует ЧП с Ту-204”. (2012年12月29日). http://ria.ru/incidents/20121229/916763222.html 
  18. ^ a b c d report.
  19. ^ МАК: Крушение Ту-204 не связано с состоянием посадочной полосы”. РосБизнесКонсалтинг. 2013年1月24日閲覧。
  20. ^ Специалисты ОАО «Туполев» провели лётные испытания по моделированию посадки самолёта Ту-204 в аэропорту Внуково”. 2014年9月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月8日閲覧。
  21. ^ Simon, Hradecky (2012年12月20日). “Incident: Red Wings T204 at Novosibirsk on Dec 20th 2012, runway excursion on landing”. The Aviation Herald. 2012年12月29日閲覧。
  22. ^ Ranter, Harro (2012年12月20日). “ASN Aircraft accident 20-DEC-2012 Tupolev Tu-204-100V RA-64049”. aviation-safety.net. Aviation Safety Network. 2012年12月29日閲覧。
  23. ^ Dimitri, Zaks (2012年12月30日). “Bad brakes blamed in Moscow crash landing”. Agence France Presse. https://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5glje1jgSe9n5t3PgDv21ZC9Icpbg?docId=CNG.316521d97d232fd27a8a6ecef414cab1.3d1 
  24. ^ О ходе расследования уголовного дела по факту аварийной посадки самолёта Ту-204 в аэропорту «Внуково»”. СК РФ. 2012年12月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月31日閲覧。
  25. ^ По факту ЧП во Внуково возбуждено уголовное дело”. 2012年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月29日閲覧。
  26. ^ “Генеральная прокуратура РФ взяла над контроль расследование катастрофы Ту-204 во Внуково.”. (2012年12月29日). http://www.rbc.ru/rbcfreenews/20121229191835.shtml 
  27. ^ “СК произвёл выемку документов в Red Wings”. РИА Новости. (2012年12月30日). http://ria.ru/incidents/20121230/916817665.html 
  28. ^ Дело о катастрофе Ту-204 во Внуково закрыто в связи со смертью пилотов”. ru:РБК (2014年9月1日). 2014年9月1日閲覧。
  29. ^ Сергеев, Николай (2014年9月1日). “Дело Ту-204 приземлилось”. ru:Коммерсант. 2014年9月1日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]