ムクロジ

ムクロジ
ムクロジの木
ムクロジの木
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ上群 superrosids
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : アオイ群 Malvidae / rosid II
: ムクロジ目 Sapindales
: ムクロジ科 Sapindaceae
: ムクロジ属 Sapindus
: ムクロジ S. mukorossi
学名
Sapindus mukorossi Gaertn. (1788)[1]
シノニム
和名
ムクロジ
英名
Indian soapberry

ムクロジ(無患子[4]学名: Sapindus mukorossi)はムクロジ科ムクロジ属落葉高木

東アジアから東南アジア・インドの温帯域に分布し、日本では寺社に植栽された巨木も見られる。10枚前後の偶数の小葉を持つ大型の羽状複葉で、秋は黄色に紅葉する。果実は石鹸代わりになり、soapberryとも呼ばれる。種子は羽根つきの羽根の玉に使われる。

名称[編集]

和名「ムクロジ」の由来は、実や種子に薬効があることから、中国名漢名)で「無患子」といい、それを日本語で「ムクロシ」の読みを当てて、それが転訛したとされる[5]。別名、ムク[1]、シマムクロジ[1]、ムニンムクロジ[1]、セッケンノキ[5]ともよばれる。

学名[編集]

ムクロジは1788年ドイツヨーゼフ・ゲルトナーの『植物の果実と種子について』(De Fructibus et Seminibus Plantarum) で Sapindus mukorossi という学名が与えられた[6]が、種小名 mukorossi日本語の俗称、つまりまさに「ムクロジ」の名に基づいたものであると考えられる[7]。その後ポルトガルジョアン・デ・ルーレイロが1790年に『コーチシナ植物誌』(Flora Cochinchinensis) で記載した Sapindus abruptus[8]イギリスウィリアム・ロクスバラベンガル地方で見つけ報告した Sapindus detergens[9][10]ヒマラヤ地域やネパールシレットに見られた Sapindus acuminatus[11]1935年日本津山たかしスペイン語版小笠原諸島母島の旧北村付近で採取された標本を基に『植物学雑誌』上で記載した Sapindus boninensis[12]は、後にいずれも S. mukorossiシノニムとして扱われるようになった[13]

分布[編集]

インドから東アジア温帯およびインドシナにかけて分布し、具体的にはネパール、インド(旧ジャンムー・カシミール州ヒマーチャル・プラデーシュ州ウッタラーカンド州アッサム州を含む)、ミャンマータイラオスベトナム中華人民共和国海南省、南中央部、南東部)、台湾朝鮮日本南西諸島小笠原諸島火山列島を含む)に自生し、パキスタンジョージアにも持ち込まれている[13]

日本では新潟県茨城県以西の本州四国九州で見られる[4][14]。低地[15]、あるいは山地に自生する[16]。日本では、庭木にも植えられ[17]、しばしば寺や神社に植えられている[4]

性質[編集]

落葉広葉樹高木で、樹高は7 - 15メートル (m) ほどになり[18]、中には20 mを超える巨木になる[4]。樹形は逆円錐形になる[4]雌雄同株[17]。樹皮は黄褐色で平滑、老木になると裂けて大きく剥がれる[4][19]。一年枝は、太くて無毛、皮目が目立つ[19]

互生し、40 - 70センチメートル (cm) の偶数羽状複葉で、小葉は8 - 16枚つき、先端の小葉はない[4][5]。小葉は長さ7 - 15 cm、広披針形で全縁[17]。葉軸に対して小葉は完全な対生ではなく、多少ずれてつく[17]。晩秋になると葉は黄葉する[20]。鮮やかな黄色から、次第に色濃くなって、葉が散るころには縮れながら褐色が強くなる[5]。枯れ葉も黄色を帯びた明るい褐色で、目立つ[15]ムクロジ目の樹木は紅葉が鮮やかなものが多い[15]

花期は6月ごろで[4]、花は淡緑色で、枝先に30 cm程度の大きな円錐花序となって多数咲く[16]。花は直径4 - 5 mm[17]、雄花には8-10個の長い雄蕊、雌花には短い雄蕊と雌蕊がある。花穂はほとんどが雄花である。

果期は10 - 11月ごろで、果実は直径2 cmの球形で[17]、液果様で黄褐色に熟して[16]、落葉後でも1月ごろまで残っている[19][5]。果実のなかに黒くて大きな球状の種子を1個含む[17]

冬に落葉すると、葉痕の面は蝋質感があり、中央がやや色づいていて[19]維管束痕が3個あることから、笑った顔や猿の顔のようにも見える[20]。冬芽は葉痕に比べるとかなり小さい円錐形で、副芽を下に付ける[19]。仮頂芽は側芽より小さく、芽鱗は4枚つく[19]

利用[編集]

果皮サポニンを含み、サポニンには水に溶かすと泡立つ成分があり、サイカチ同様石鹸代わりに用いられる[16][4]。種子はかたく、数珠羽根突きの羽根の元にある黒い玉の材料にされる[4][14]

ムクロジの黒い果実の皮を、漢方薬では延命皮と称している[4]。実は女性用避妊具として利用された。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sapindus mukorossi Gaertn. ムクロジ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sapindus saponaria auct. non L. ムクロジ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sapindus boninensis Tuyama ムクロジ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k 田中潔 2011, p. 62.
  5. ^ a b c d e 亀田龍吉 2014, p. 119.
  6. ^ Gærtner, Josephvs (1788). De Fructibus et Seminibus Plantarum. [Stuttgart]: Typis Academiæ Carolinæ. p. 342. https://biodiversitylibrary.org/page/37174324 
  7. ^ Sapindus mukorossi Gaertn. in GRIN”. 2021年8月3日閲覧。
  8. ^ Loureiro, Joannis de (1790). Flora Cochinchinensis. [Lisbon]. p. 238. https://biodiversitylibrary.org/page/48860177 
  9. ^ Roxburgh, W. (1814). Hortus Bengalensis, or a Catalogue of the Plants Growing in the Hounourable East India Company's Botanical Garden at Calcutta. Serampore. p. 29. https://biodiversitylibrary.org/page/46014389 
  10. ^ Flora Indica; or, descriptions of Indian Plants. by the late William Roxburgh. 2. Serampore. (1832). p. 280. https://biodiversitylibrary.org/page/788051 
  11. ^ Royle, J. Forbes (1839). Illustrations of the botany and other branches of the natural history of the Himalayan Mountains, and of the flora of Cashmere. London: Wm. H. Allen and Co.. p. 139. https://biodiversitylibrary.org/page/2912680 
  12. ^ Tuyama, Takasi (1935). “Plantae Boninenses Novae vel Criticae II”. The Botanical Magazine [植物学雑誌] 49 (583): 449. doi:10.15281/jplantres1887.49.445. 
  13. ^ a b POWO (2019). Plants of the World Online. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:784657-1 Retrieved 3 August 2021.
  14. ^ a b ムクロジ”. 筑波実験植物園. 2016年6月15日閲覧。
  15. ^ a b c 林将之 2008b, p. 58.
  16. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 254.
  17. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 220.
  18. ^ 林将之 2008a, p. 171.
  19. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 104.
  20. ^ a b 林将之 2011, p. 157.

参考文献[編集]

  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、103頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、62頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂ベストフィールド図鑑 5〉、2000年4月7日、220頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 林将之『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』主婦の友社、2008年2月29日、171頁。ISBN 978-4-07-258098-1 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 林将之『葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定』廣済堂あかつき、2011年6月1日、157頁。ISBN 978-4-331-51543-3 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、254頁。ISBN 4-522-21557-6 

外部リンク[編集]