プラント・オパール

植物化石の例 (bulliform)

プラント・オパール(プラントオパール、英語: plant opal[1])は、植物細胞組織に充填する非結晶含水珪酸体 (SiO2.nH2O)。

Phytolith、Opal phytolith、Grass opalなどとも。

概要[編集]

植物は土壌中の珪酸(水に溶けたケイ酸塩)を根から吸収し、特定の細胞の細胞壁に蓄積しガラス質の細胞体を形成する。植物珪酸はイネ科カヤツリグサ科シダ植物コケ植物において含有量の高いことが知られ、特に表皮細胞、樹木類の維管細胞と表皮細胞など蓄積されやすい箇所がある。特に、(イネ科)がグラスファイバーのようによくしなり、きわめて非導電性であるのは、表皮細胞と維管束による規則正しく密集するプラント・オパールによる植物骨格組織のためである。 また、サボテンイラクサナス科植物、バラ科植物などに見られる植物体表皮の棘やイネ科植物の葉の辺縁に見られる微鋸歯は、この植物骨格組織から派生した珪酸および珪酸とカルシウムからなる複合成分を組成とするガラス質の物質でコーティングされた組織であり、また、動物における相似器官でもある(同様に珪藻の被殻と放散虫の骨格にも動植物の壁を越えて相似性のある器官が認められる)。

応用研究[編集]

ガラス質に変化した植物珪酸体は、植物体が枯死した後にも腐敗せず残存し土壌に保存される[2]。更に、植物体毎の特徴があることから種を特定することが可能であり、花粉と共に古植生環境を推定する手段として利用される[3]。花粉は広域に拡散し局所環境の推定には向かないが、プラント・オパールは飛散しにくく乾燥地や酸性土壌など花粉が遺存しにくい環境でも遺存するため、局所的な環境と植生の分析が可能である。

特にイネ科植物はプラント・オパールが残りやすく、稲作の起源を探る研究が精力的に行われたため多くの知見が蓄積されている[4][5][6]。作物学や考古学上でイネ科植物の同定を行う場合は「オリザニンオパール(イネ科のオパール)」という名称が使われることもある[7]。しかし、イネのプラント・オパールは粒径が小さく雨水と共に地下に浸透することも考えられるため、即座に発見地層の時代における栽培の証拠とすることはできない[8]。年代推定の精度を上げるため、プラントオパール中の炭素14 (14C) を利用した放射年代測定も試みられている[9]

日本における研究と応用[編集]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 天野, 幸弘; 今井, 邦彦 (2007年). "プラント・オパール". 知恵蔵. 2023年5月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月16日閲覧
  2. ^ 菅野一野、有村玄洋:土壤中の植物性蛋白石(Plant opal)について(<特輯>プラントオパール) ペドロジスト 2(2), 78-80, 1958-12-25
  3. ^ 井上直人:古墳時代における松本の人里環境に関する民族植物学的研究 信州大学環境科学研究会 環境科学年報24:61-70(2002)
  4. ^ 本村浩之、米倉浩司、近藤錬三:【原著】イネ科植物の泡状細胞珪酸体形状の多様性と記載用語の提案 (PDF) 日本植生史学会 植生史研究 第18巻第1号(2010年6月)
  5. ^ a b 王才林、宇田津徹朗ほか:プラント・オパールの形状からみた中国・草鞋全山遺跡(6000年前~現代)に栽培されたイネの品種群およびその歴史的変遷 育種学雑誌 Vol.48 (1998) No.4 P387-394
  6. ^ a b 横倉雅幸:東南アジアの初期農耕 京都大学東南アジア研究センター 東南アジア研究(1992) 30巻 3号 p.272-314
  7. ^ 出典:『食用作物学概論』 農山漁村文化協会 渡部忠世 ISBN:9784540770128
  8. ^ 甲元眞之:稲作の伝来 青驪 2巻, 2005-7-15 p.37-40
  9. ^ プラント・オパール中の炭素抽出とその14C 年代測定の試み 名古屋大学加速器質量分析計業績報告書. v.24, 2013, p.123-132
  10. ^ 岡田康博:縄文集落の発達 第四紀研究 Vol.36 (1997) No.5 P350-352
  11. ^ 外山秀一:プラント・オパールからみた稲作農耕の開始と土地条件の変化 第四紀研究 Vol.33 (1994) No.5 P317-329
  12. ^ 古代吉備を探る 岡山県古代吉備文化財センター
  13. ^ 外山秀一、中山誠二:プラント・オパール土器胎土分析からみた中部日本の稲作農耕の開始と遺跡の立地 山梨・新潟の試料を中心として 日本考古学 Vol.8 (2001) No.11 P27-60
  14. ^ 王才林、宇田津徹朗、藤原宏志:イネの機動細胞にみられる珪酸体の形状の遺伝的解析 育種学雑誌 Vol.48 (1998) No.2 P163-168
  15. ^ 宇田津徹朗、藤原宏志:吉野ケ里遺跡および桑田遺跡出土試料におけるイネ(O.satiua)のプラント・オパール形状特性 日本作物学会九州支部会報 (58), 70-72, 1991-12-20
  16. ^ “トクサ Equisetum hyemale L.”. http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~main/index.php/%E3%83%88%E3%82%AF%E3%82%B5 2015年12月26日閲覧。広島大学 > デジタル自然史博物館 > 植物 > 郷土の植物 > 維管束植物 >トクサ 
  17. ^ 「竹プラントオパールスピーカ」を製品化』(プレスリリース)Panasonic、2014年2月25日。 オリジナルの2015年1月20日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20150120093815/http://news.panasonic.com/press/news/official.data/data.dir/2014/02/jn140225-4/jn140225-4.html2015年1月20日閲覧 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

コトバンク