ブルカ

アフガニスタンの女性がブルカをかぶっているところ
ブルカ顔部の詳細図
2人のアフガニスタンの女性
2人のアフガニスタンの女性

ブルカアラビア語: برقع Burquʿ; ダリー語: بورقا Bōrqā; چادری Chādo(a)rī)は、伝統的にイスラーム世界の都市で用いられた女性用のヴェールヒジャブ)の一種である。歴史的にはアラビア半島エジプトシリアで用いられた顔の覆いを指すが、現在の日本語の用法は主にアフガニスタンの女性が用いるものをさす。テント状の布で全身を覆いイスラム教徒の女性が肌を他人に見せないようにし、顔の部分のみ網状になっており視覚を確保する。

ブルカの特徴はイランなどで一般的なチャードルがスカーフ状の方形布であり大きさがさまざまであるのに対し、帽子に染色された襞のある絹などの布が縫いつけてあり、テント状の形状であることである。多くはかかとまでの全身を覆う。なおこれは西欧語やダリー語パシュトー語ではチャードリーと言い、ブルカは本来、チャードリーのうち顔を隠す面紗が全身を覆う布とは別の布で出来ているものを指す。

目的[編集]

ヒジャブと同様、女性の性的魅力を覆い控えめな見た目にして、性被害を避けることが目的である。イスラームにおける服装規定の根拠であるクルアーンハディースの解釈で、顔も覆うべきか否かの議論は今もなお行われている。デーオバンド派の聖書釈義によると、顔もベールで覆うべきとされている[1]

欧州移民とブルカ[編集]

欧州では脱宗教性、政教分離ライシテ)の概念、イスラム系移民との軋轢、などの問題を象徴する物となっている。サルコジ大統領2009年以降、「フランスではブルカを受けいれない」と主張。2010年に政府法案を提出。禁止法案は、学校、一般道路など公共の場でのブルカ着用を全面的に禁止している。信教表現の自由の侵害だ、などの批判も強く、論議を呼んでいるが、同年7月13日下院では圧倒的多数で可決、同年9月14日上院でも圧倒的多数で可決され、同法は成立した。2011年4月11日、同法が施行された[2]

ベルギーではブルカとニカブアラビア語版英語版を禁止し、着用する者は罰金または最長7日間の禁錮刑が科される[3]。2011年9月にはオランダで同様の禁止法案が閣議決定されており[4]、2018年8月にはデンマークでも同様に施行。またスペインなども同様に検討している。

ブルガリアでは、愛国戦線が議会で治安対策として、公共の場所でのブルカ着用を禁止する法案を提出し、2016年9月30日に可決した。違反者には、200から1500レバの罰金が科される。また、登録された宗教の礼拝所や職業、文化活動、健康上の理由である場合は、着用が許可される。与党である「ヨーロッパ発展のためのブルガリア市民」は、犯罪の監視を強化する目的だと説明したが、トルコ系の政党は反発して、議会から退場している[5]

スイスでは、国民党が提案した公共の場所でのブルカとニカブ着用を禁止する法案を2021年3月7日国民投票で賛成51.2%(1,427,626票)、反対48.8%(1,360,317票)の僅差で可決した[6][7]。ルツェルン大学の調査では、スイスでニカブを着用している女性は、20人から30人程度とされている[8]。この法案に対し、緑の党とスイス国内のイスラム教団体は性差別や人種差別だと非難している[9][10]

自らの意思で着用している女性が圧倒的多数派だとし、女性抑圧との関連性は薄いとの主張も存在する[11]。自らの意思で着用しているムスリムの女性たちは「では、ミニスカートタンクトップにしたら、女性が解放されるとでもいうのか」と反論している[12]

出典[編集]

  1. ^ Is it fardh for women to cover her face (Naqab)”. darulifta-deoband.com. 2022年5月9日閲覧。
  2. ^ フランスで「ブルカ禁止法」施行、違反者には罰金1万8000円”. ロイター (2011年4月11日). 2013年10月27日閲覧。
  3. ^ ベルギーもブルカ禁止を法制化、欧州で2番目 (2011年5月26日)
  4. ^ “オランダもブルカ禁止へ、欧州3か国目”. 読売新聞. (2011年9月17日). オリジナルの2011年9月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110926130429/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110917-OYT1T00583.htm 2011年9月18日閲覧。 
  5. ^ 女性が公共の場でブルカで顔を覆うと罰金に!? ブルガリアも法案可決 犯罪監視で宗教とは無関係というが… - 産経ニュース”. www.sankei.com. 2021年3月8日閲覧。
  6. ^ Staff, Reuters「スイス、国民投票で「ブルカ」を実質的に禁じる法案可決」『Reuters』、2021年3月7日。2021年3月8日閲覧。
  7. ^ スイス国民投票、ブルカ着用禁止を可決”. SWI swissinfo.ch. 2021年3月8日閲覧。
  8. ^ 公の場で顔を覆う服装を禁止、スイス国民投票で僅差可決 ブルカなど対象”. BBCニュース (2021年3月8日). 2021年3月8日閲覧。
  9. ^ スイスで「ブルカ禁止」へ 僅差で可決 国民投票”. www.afpbb.com. 2021年3月8日閲覧。
  10. ^ Romy>, <Katy. “「ブルカイニシアチブは女性の尊厳を擁護する」”. SWI swissinfo.ch. 2021年3月8日閲覧。
  11. ^ Archive. Monde musulman : quel est le style “convenable” pour les femmes ?」Courrier International 2014年2月5日
  12. ^ 内藤正典 『イスラムの怒り』 集英社 2009年

参考文献[編集]

  • Dupree, Nancy Hatch, 'Clothing xiii. in Aghanistan,' The Encyclopædia Iranica, vol.5, New York, 1992, pp.811-15. [1] [リンク切れ]
  • ふいめい「「ブルカ」三つの謎」」[2] [リンク切れ](2005年12月31日閲覧)
  • Stillman, Y.K. , et al., 'Libās,' The Encyclopedia of Islam,, vol.5, Leiden, 1986, pp.732-53.

関連項目[編集]

ヒジャブを着用したイエメンの女性