ミノタウロスC

ミノタウロスC
1999年12月、ACRIMSATを積んで打ち上げを待つトーラス (2110)
基本データ
運用国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
開発者 OSC
運用機関 ノースロップ・グラマン, NASA, DARPA, USAF
使用期間 1994年3月13日 - 現役
射場 ワロップス飛行施設
ヴァンデンバーグ空軍基地LC-576E
ケープカナベラル
コディアック打上げ基地
打ち上げ数 10回(成功7回)
打ち上げ費用 4000-5000万ドル[1]
原型 ピースキーパーICBM, ペガサス
姉妹型 アテナI,II, ミノタウロス I, IV
発展型 アンタレス
物理的特徴
段数 4段または5段
総質量 69 - 77 t
全長 27 - 32 m
直径 2.35 m
軌道投入能力
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ミノタウロスC英語: Minotaur-C)は、アメリカ航空宇宙企業オービタル・サイエンシズ社(OSC、後のノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ)が開発した人工衛星打ち上げ用の使い捨て全段固体燃料ロケットである。開発当初はトーラス (Taurus) の名称だったが、2011年の二度目の打ち上げ失敗後に改良が行われ、同時に現在のミノタウロスシリーズに準じた名称に改められた[2][3]。末尾の「C」は商用 (Commercial) を意味する[2]。また旧称の「トーラス」はおうし座の英名である。

概要[編集]

OSCの運用する空中発射ロケットペガサスデルタII等の中型ロケットの間を埋める軌道投入能力をもつロケットを目標として国防高等研究局 (DARPA) の支援のもと開発されたペガサスの地上発射バリエーションがトーラスである[4]。当初はSSLV ("Standard Small Launch Vehicle") と呼称され1989年に契約が行われ開発が進められた[5]

政府機関用人工衛星や商用人工衛星の打ち上げに用いられる他、全段固体で即応性の高い設計により軍事衛星の打ち上げにも適している。1994年の初飛翔以来、10機が打ち上げられ7機が成功した。2009年2011年に二回連続で同じ原因で打ち上げ失敗した後、再設計を行うとともに現在のミノタウロスCの名称に改められている[2]

構成・諸元[編集]

通常の場合ロケットの初段は第1段と表記するが、OSCではトーラスの初段を第0段と表記している。これはトーラスがペガサスの地上発射バリエーションとして開発されたという経緯によるもので、これを踏まえ本項では初段を第0段と表記する。

トーラスは第0段から第3段または第4段までで構成される4段または5段の全段固体燃料のロケットであり、モータは全てATKランチ・システムズ・グループ(旧チオコール)が製造する[6]。第0段ブースタとしてピースキーパーICBMの第1段であるTU-903や、キャスター120を採用し、その上段としてペガサスとほぼ同じモータを用いる構成をもつ。上段モータのペガサスとの主な差異は翼や可動ノズル推力偏向制御 (MNTVC) 能力の有無による姿勢及び誘導制御方式の違いのみであるが、一部モータでは推進剤量にも差異が認められる。第4段はオプションであるが2008年までに使われたことはない。

トーラスの構成は4桁の数字によって表記され、おおまかに1000番台のSSLVトーラス、2000番台の標準型トーラス、3000番台のトーラスXLの3種に区分される。他にフェアリングや第3段の種類、第4段の有無によってさらに細かく区分されている[7]。構成と番号の対応を以下に示す。

トーラスabcd型式
番号 a b c d
構成 フェアリング径 第3段 第4段
0 N/A N/A N/A
1 SSLVトーラス 63インチ オライオン38 N/A
2 トーラス 92インチ N/A N/A
3 トーラスXL N/A スター37FM スター37FM
エアフォース・トーラス (1110) の打ち上げ。
トーラス (2210)、トーラスロケット2号機。GFO打ち上げにて
トーラ ス (3110)、8号機。OCO打ち上げ前の発射台に据え付けられた状態
SSLVトーラス

数字による区分で1000番台にあたる軍事用トーラスである。ARPA (現DARPA) が使用する場合はARPAトーラス、空軍が使用する場合はエアフォース・トーラスと呼ばれるが、構成は同一のものであり、共に第0段ブースタとしてピースキーパーの初段TU-903を採用しているのが特徴である。3機が打ち上げられ全て成功している。

トーラス

数字による区分で2000番台にあたる商業打ち上げ用の標準型トーラスである。SSLVトーラスとの差異は第0段ブースタにキャスター120モータを採用している点にある。このモータはATKがTU-903をもとにして商業打ち上げを行うアテナ用に開発したものである。第0段の最大加速度や構造質量が改善されており、軌道投入能力は向上している。3機が打ち上げられ、1機が失敗した。

トーラスXL

数字による区分で3000番台にあたる商業打ち上げ用の増強型トーラスである。標準型と異なり1,2段にペガサスXLと同様の拡張型モータを用い、軌道投入能力の向上が図られている。4機が打ち上げられ、2機が失敗した。

SSLVトーラス[6][8] トーラス[6][7] トーラスXL[6][7]
全長 26 m 27 m 32 m
代表径 2.35 m
全備質量 69 t 69 t 77 t
ペイロード
28.5° 400km LEO
98° 400km SSO
1,180 kg / LEO
750 kg / SSO
2110 1,259 kg / LEO
889 kg / SSO
3110 1,458 kg / LEO
1,054 kg / SSO
2210 1,047 kg / LEO
695 kg / SSO
3210 1,276 kg / LEO
882 kg / SSO
段数(Stage) 第0段
使用モータ TU-903 キャスター120
各段全長 10.70 m 12.77 m
各段代表径 2.35 m 2.35 m
各段質量 53,400 kg 53,077 kg
推進剤 - TP-H1246
推進剤質量 49,000 kg 49,005 kg
真空平均推力 1,711 kN 1,685 kN
真空比推力 275 s 279 s
ノズル膨張比 - 16.3
有効燃焼時間 78.8 s 79.5 s
段数(Stage) 第1段
使用モータ オライオン50ST オライオン50S XLT
各段全長 8.46 m 9.88 m
各段代表径 1.27 m
各段質量 13,405 kg 16,181 kg
推進剤 QDL-1
推進剤質量 12,157 kg 15,023 kg
真空平均推力 454.1 kN 614.5 kN
真空比推力 286 s 286 s
ノズル膨張比 26.7 24.8
有効燃焼時間 75.0 s 68.4 s
段数(Stage) 第2段
使用モータ オライオン50T オライオン50 XLT
各段全長 2.67 m 3.10 m
各段代表径 1.27 m
各段質量 3,379 kg 4,518 kg
推進剤 QDL-1
推進剤質量 3,025 kg 3,924 kg
真空平均推力 114.5 kN 160.4 kN
真空比推力 292 s 291 s
ノズル膨張比 52.1 43.5
有効燃焼時間 75.6 s 69.7 s
段数(Stage) 第3段
使用モータ オライオン38
各段全長 1.34 m
各段代表径 0.97 m
各段質量 896 kg
推進剤 QDL-1
推進剤質量 770 kg
真空平均推力 32.2 kN
真空比推力 287 s
ノズル膨張比 49.3
有効燃焼時間 68.5 s
段数(Stage) 第3段または第4段(オプション)
使用モータ スター37FM
各段全長 1.69 m
各段代表径 0.93 m
各段質量 1,148 kg
推進剤 TP-H3340
推進剤質量 1,066 kg
真空平均推力 47.2 kN
真空比推力 290 s
ノズル膨張比 48.2
有効燃焼時間 62.7 s

打ち上げ実績[編集]

10機の打ち上げは全てヴァンデンバーグ空軍基地LC-576Eから行われている。

打ち上げ番号 打ち上げ日時 (UTC) 型式 ペイロード 結果 備考
1 1994年3月13日 SSLVトーラス (1110) STEP 0英語版 / DARPASAT 成功
2 1998年2月10日 トーラス (2210) GFOドイツ語版英語版 / ORBCOMM英語版 (11,12) 成功
3 1998年10月3日 SSLVトーラス (1110) STEXNRO開発) 成功
4 1999年12月20日 トーラス (2110) KOMPSAT / ACRIMSAT 成功
5 2000年3月12日 SSLVトーラス (1110) MTI 成功
6 2001年9月21日 トーラス (2110) オーブビュー4号 / クイックTOMS英語版 失敗 T+83秒、第1段燃焼中に推力偏向アクチュエータに異常が発生。予定飛翔経路から逸脱した[9]
7 2004年5月20日 トーラスXL (3210) ROCKSAT-2(現在はFORMOSAT-2) 成功
8 2009年2月24日 トーラスXL (3110) OCO[10] 失敗 ペイロードフェアリング分離失敗による速度不足。ペイロードは南極付近に落下したと推定される。
9 2011年3月4日 トーラスXL (3110) Glory / E1P英語版 / KySat1英語版 / HERMES英語版[11] 失敗 ペイロードフェアリング分離失敗による速度不足。後の調査でフェアリング製造の下請け会社による品質偽装が判明[2]
10 2017年10月31日21時37分 ミノタウロスC (3210) SkySat英語版 x 6 / Flock-3m x 4 成功

オービタル・ブースト・ビークル/トーラス・ライト[編集]

OSCはアメリカミサイル防衛局地上配備型ミッドコース防衛システム (GMD) における地上発射式の弾道弾迎撃ミサイルとして大気圏外迎撃体 (EKV) を搭載するオービタル・ブースト・ビークル (OBV:Orbital Boost Vehicle) を供給している。これはトーラス・ライトとして考案されたもので、トーラスXLの第0段ブースタを取り除き第1段ノズルを地上発射用に改修した構成をもつ[12]

後継機[編集]

OSCはNASAとの商業軌道輸送サービス (COTS) 契約に則り、国際宇宙ステーション補給機シグナスと、それを打ち上げる中型ロケットのアンタレス(トーラスIIから改名)を開発している。原型機とは異なり第1段にAJ26-62エアロジェットがアメリカ向けに改修したNK-33)を2機用いる液体燃料ロケットであり、2013年に初打ち上げが行われている[13]

出典・脚注[編集]

  1. ^ Surplus Missile Motors: Sale Price Drives Potential Effects on DOD and Commercial Launch Providers” (英語). U.S. Government Accountability Office. p. 22 (2017年8月). 2022年11月15日閲覧。
  2. ^ a b c d 鳥嶋真也 (2017年11月9日). “ミノトールCの悩み - 失敗を乗り越え、よみがえった米国の小型固体ロケット”. マイナビニュース. 2022年11月15日閲覧。
  3. ^ オービタルATK、「ミノタウロスC」ロケット打ち上げ成功 衛星10基投入”. Sorae (2017年11月1日). 2022年11月15日閲覧。
  4. ^ Taurus (OSC)
  5. ^ Taurus SSLV - Changing the way satellites are launched - Tom Darone, Christine McKelvey / AIAA-1995-3818, AIAA Space Programs and Technologies Conference, Huntsville, AL, Sept 26-28, 1995
  6. ^ a b c d ATK Space Propulsion Products Catalog - ATK 2008.5.14
  7. ^ a b c Taurus Fact Sheet (OSC)
  8. ^ Taurus Fact Sheet (OSC) - 2003.4.1
  9. ^ http://spaceflightnow.com/taurus/t6/011107update.html
  10. ^ http://www.orbital.com/SatellitesSpace/ScienceTechnology/OCO/
  11. ^ http://www.orbital.com/SatellitesSpace/ScienceTechnology/Glory/
  12. ^ GMD Boost Vehicle Fact Sheet (OSC)
  13. ^ アンタレスロケットの打ち上げ試験、完璧に成功”. sorae.jp (2013年4月22日). 2013年4月22日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]