カベアナタカラダニ

カベアナタカラダニ
カベアナタカラダニ Balaustium murorum
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱 Arachnida
: 汎ケダニ目 Trombidiformes
: タカラダニ科 Erythraeidae
: アナタカラダニ属 Balaustium
: カベアナタカラダニ B. murorum
学名
Balaustium murorum (Hermann, 1804)[1]
シノニム

Trombidium murorum Hermann, 1804[2]

カベアナタカラダニBalaustium murorum)は、汎ケダニ目タカラダニ科アナタカラダニ属に分類されるダニの一種。

特徴[編集]

日本では北海道から沖縄まで全域に分布する。体長1mm前後と比較的大型で、全身が赤色から赤橙色なのでよく目立つ。関東地方では4月下旬から6月にかけ、ビルの屋上や住宅のベランダなどコンクリート表面で大量発生する事がある。

動きが素早く真っ赤な体色から気味悪がられ、また条件が良好な屋外であれば自転車のサドルや洗濯機の胴部などにも大量発生し、それらを体色によりまだらに赤く染めてしまうことから、1980年頃より不快害虫として駆除対象にされている[3]

一方でカマキリの幼虫やテントウムシなど小型肉食昆虫の捕食対象でもあり、場合によってはこれらも同時に発生することがある。

分布[編集]

ヨーロッパ、北アメリカ、日本に分布する[4]。人の移住によって分布を拡大したとされており[4]、日本個体群をヨーロッパからの移入種とする説もある[5]

分類[編集]

1804年にフランスの医者・博物学者であるジャン=フレデリック・エルマン英語版[6]によって記載された[4]

日本やオーストリア個体群の分子系統解析から、日本個体群はオーストリア個体群に近縁な系統と遺伝距離の離れた複数の系統に分かれる結果が得られており、日本でカベアナタカラダニとされるダニ類には少なくとも3つの未記載種(隠蔽種)が含まれていることが示唆されている[5]

生態[編集]

あまり詳しいことは知られておらず、2001年に幼虫が発見されるまでは同属のハマベアナタカラダニと間違われていた。関東地方では3月末に幼虫が見られ、4月下旬から5月中下旬に成虫が大量発生し、7月にかけて漸減してゆく事が確認されている[7][8]

食性は雑食で、花の花粉や小型の昆虫を摂食する[9]。タカラダニの名は、セミに寄生している幼虫を、セミが宝を抱えていると見なした事に由来するとされる。

哺乳類は摂食対象ではないためヒトを「刺す」ことはないが、潰して体液に長時間接触すると皮疹を生じるおそれがある[10]。また、吻の構造が細長いため(払いのけるなどして)偶発的にヒトの皮膚に刺さって皮疹をおこした虫咬例がある。本種では札幌で1例、アメリカカナダに分布する別の種で4例の皮疹が報告されている[11]

コンクリート表面に棲む理由は、コケなどの地衣類が住処と食物を提供する、春先で花粉が大量に付着して餌が豊富、天敵が居ない、などが推測されている。

繁殖[編集]

年1回の単為生殖と考えられ、コンクリート壁の隙間や壁の割れ目に産卵する。卵は光沢ある赤褐色の楕円体で、長径約 0.2 mm、短径約 0.16 mm[12]

脚注[編集]

  1. ^ Mąkol, J. (2010). “A Redescription of Balaustium Murorum (Hermann, 1804) (Acari: Prostigmata: Erythraeidae) with Notes on Related Taxa,” Annales Zoologici, Volume 60, Number 3, Museum and Institute of Zoology, Polish Academy of Sciences, Pages 439-454. https://doi.org/10.3161/000345410X535424.
  2. ^ Hermann, J.F. (1804). Mémoire Aptérologique, 144+9 pp., F.L. Hammar, Strasbourg.
  3. ^ タカラダニをご存知ですか? 京都府保健環境研究所
  4. ^ a b c 大野正彦「カベアナタカラダニの生態と防除 : 新たな知見を加えて (特集 研究調査事例)」(PDF)『Pest control Tokyo : (公社)東京都ペストコントロール協会機関誌』第70号、東京都ペストコントロール協会、2016年1月、5-9頁、NAID 40020721602 
  5. ^ a b Shimpei F. Hiruta, Satoshi Shimano & Minoru Shiba (2018). “A preliminary molecular phylogeny shows Japanese and Austrian populations of the red mite Balaustium murorum (Acari: Trombidiformes: Erythraeidae) to be closely related,” Experimental and Applied Acarology, Volume 74, Pages 225–238. https://doi.org/10.1007/s10493-018-0228-0.
  6. ^ ジャン・エルマンの子。
  7. ^ カベアナタカラダニの生態に関する観察事例 東京都健康安全研究センター
  8. ^ 島野 智之,メーリングリストアーカイブ 農林水産研究情報総合センター
  9. ^ 芝 実,原色ペストコントロール図説第V集(2001)p52-57,日本ペストコントロール協会
  10. ^ 大野正彦, 花岡暤, 関比呂伸, 大貫文「カベアナタカラダニの短期接触による皮膚障害発生の可能性」『都市有害生物管理』第1巻第2号、日本家屋害虫学会、2011年12月、111-117頁、ISSN 21861498NAID 110008798931 
  11. ^ 芝 実,第44回全国環境衛生大会講演集(2000/11)p29,日本環境衛生センター
  12. ^ 大野正彦, 関比呂伸, 花岡暤「カベアナタカラダニBalaustium murorumの産卵場所」『都市有害生物管理』第5巻第1号、都市有害生物管理学会、2015年、7-13頁、doi:10.34348/urbanpest.5.1_7ISSN 2186-1498NAID 130007801534