セントエルモの火

セントエルモの火
航空機に発生したセントエルモの火のCG再現(ブリティッシュ・エアウェイズ9便)
セントエルモの火
映像外部リンク
Watch: St. Elmo’s Fire Weather Phenomenon as Hurricane Idalia Approaches | WSJ - 2023年ハリケーンイダリア付近を飛行中の航空機が捉えたセントエルモの火の映像。
Pilots capture rare footage of lightning-like electrical phenomena(2023年)- CNN

セントエルモの火(セントエルモのひ、: St. Elmo's fire)は、悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象。古くから伝承されてきたが、雷雲が発生するような天候において静電気によって発光するものと考えられている。

激しいときは指先や毛髪の先端が発光する。航空機の窓や機体表面にも発生することがある。

歴史上の記述[編集]

セントエルモの火の名は、船乗りの守護聖人である聖エルモ(エラスムス)に由来する。彼はイタリアに向かう船に乗船中、嵐に見舞われ、船は転覆の危険にさらされる。聖人が熱心に神に祈ると、嵐はおさまる。そして帆柱の先端に青い炎が踊り出した、と伝えられているからである[1]イタリアガエータ聖エラスモ大聖堂it:Cattedrale dei Santi Erasmo e Marciano e di Santa Maria Assunta)でよく見られたためにこの名がついたというのは俗説である。

セントエルモの火は、カエサルの『アフリカ戦記』(De Bello Africo)、大プリニウスの『博物誌』(Naturalis Historia)、メルヴィルの『白鯨』、ダーウィンヘンズローに送ったビーグル号での経験を書いた書簡[2]コールリッジの『老水夫行』(The Rime of the Ancient Mariner)、マゼランの世界周航に随行したピガフェッタ航海記カモエンス叙事詩ルシアダス』などにおいて言及されている。

大プリニウスによれば、古典期ギリシアでは[要出典]、発光が一つの場合「ヘレナ」、二つの場合「カストルポルックス」と呼んだ[※ 1]アルゴー船の神話によると、同船に乗り組んでいたカストルとポルックスの頭上に光が灯ったところ嵐が静まったので、この双子は航海の守護神とあがめられ、船乗りの間ではセントエルモの火が二つ出現すると嵐が収まると信じられたという。

セントエルモの火の異称[編集]

St. Elmo's light(セントエルモの光)
ダーウィンによる[3]
カストルとポルックス/ヘレナ
上記のように、大プリニウスが『博物誌』においてギリシア古典期の呼称として記述している。
corposant(コルポサント)
英語での別名。ポルトガル語の「corpo santo」を仲立ちとしてラテン語「corpus sanctum」を語源としている。「聖体」を意味する。
檣頭電光(しょうとうでんこう)
セントエルモの火は大気電磁現象の一種であり、学問的にはこのように呼ばれる。

物理学による原理の説明[編集]

尖った物体の先端で静電気などがコロナ放電を発生させ、青白い発光現象を引き起こしている。先端が負極の場合と正極の場合とでは、形状が異なる。雷による強い電界マストの先端(檣頭)を発光させたり、飛行船に溜まった静電気でも起こることがある。放電による「シュー」という音を伴う場合がある。

1750年ベンジャミン・フランクリンが、この現象と同じように、雷の嵐の際に先のとがった鉄棒の先端が発光することを明らかにした。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ しかしプリニウスはこうした発光現象と天の星を区別しておらず、これらの発光を星と呼んでいる

出典[編集]

  1. ^ Erhard Gorys : Lexikon der Heiligen. München: Deutscher Taschenbuch Verlag, 6. Aufl. 2005 (ISBN 3-423-34149-1), S. 106-107.
  2. ^ Letter 178 — Darwin, C. R. to Henslow, J. S., (23 July – ) 15 August (1832)(Darwin Correspondence Project)
  3. ^ Darwin, Charles R., (1839) Narrative of the surveying voyages of His Majesty's Ships Adventure and Beagle between the years 1826 and 1836, describing their examination of the southern shores of South America, and the Beagle's circumnavigation of the globe. Journal and remarks. 1832-1836., London: Henry Colburn, pp. 619.
    44頁でダーウィンは、"On a second night we witnessed a splendid scene of natural fireworks; the mast-head and yard-arm ends shone with St. Elmo's light; and the form of the vane could almost be traced, as if it had been rubbed with phosphorus." と述べている(強調:引用者)。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]