スティーブ・シャーリー (実業家)

ステファニー・シャーリー
Dame Stephanie Shirley

CH DBE
ステファニー・シャーリー(2013年)
生誕 Vera Buchthal[1]
(1933-09-16) 1933年9月16日(90歳)
ドイツの旗 ドイツ ドルトムント
職業 実業家
団体 FIグループ(ソプラ・ステリア)
シャーリー財団英語版
著名な実績 慈善活動
IT企業 FIグループ(現在のソプラ・ステリア英語版の一部)創業
栄誉 大英帝国勲章
コンパニオンズ・オブ・オーナー勲章
公式サイト steveshirley.com
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スティーブ・シャーリー(Steve Shirley)ことヴェラ・ステファニー・シャーリー(Dame Vera Stephanie Shirley CH DBE FREng FBCS1933年9月16日 - )は、イギリス情報技術の先駆者であり、実業家慈善家である[2][3]

若年期[編集]

彼女は1933年9月16日ドイツドルトムントでヴェラ・ブフタール(Vera Buchthal)として生まれた。父はユダヤ人で、ナチス政権によって職を失った[4]ドルトムントの裁判官アルノルト・ブフタール、母はユダヤ人ではないウィーン出身の人物だった。1939年7月、彼女が5歳の時に、9歳の姉のレナーテとともにキンダートランスポート英語版の難民としてイギリスに到着した[4][5]。彼女は、ミッドランド英語版の町、サットン・コールドフィールドに住む里親のもとに預けられた[1]。その後、彼女は実の両親と再会したが、「実の両親との絆は全くなかった」と語っている[6]

修道院学校に通った後、彼女はウェールズとの国境近くにあるオズウェストリー英語版に移り、オズウェストリー女子高校に通った。この学校では数学は教えられていなかったので、彼女は近くの男子校で数学の授業を受ける許可を得た。後に彼女は、キンダートランスポートと戦時中の経験を経て、「オズウェストリーでは、平穏な6年間を過ごすことができた」と回想している[1]

キャリア[編集]

高校を卒業後、彼女は大学に行かないことにした(当時、女性が大学で学ぶことができる科学が植物学だけだったため)が、数学や技術を使う職を求めた[7]。18歳のときにイギリスに帰化し、ステファニー・ブルック(Stephanie Brook)に改名した[7]

1950年代、彼女はドリスヒルの中央郵便本局研究所英語版に勤務し、ゼロからコンピュータを作り、機械語でコードを書いていた[8]。彼女は夜間授業を6年間受け、数学の優等学位英語版を取得した。1959年、彼女はICT 1301英語版を設計したComputer Developments Limited(CDL)社に移籍した。

1962年に物理学者のデレク・シャーリー(Derek Shirley)と結婚した[9]。同年、彼女は6ポンドの資本金で、ソフトウェア会社のフリーランス・プログラマーズを設立した[4](後にFI、Xansa英語版となり、ステリアによって買収され、現在はソプラ・ステリア英語版グループの一部となっている)。

これまでの職場で「撫でられたり、壁に押し付けられたり」[10]といった性差別を経験した彼女は、扶養家族を持つ女性に仕事の機会を提供したいと考え、最初に採用した300人のうち男性は3人のプログラマだけで[11]、それ以降も、1975年の性差別法英語版によりそれが禁止されるまでは、主に女性を雇用していた。また、男性優位のビジネスの世界では、手紙に本名で署名をしても返事が返って来ないため[12]、ステファニーの男性形の「スティーブ」(Steve)という名前を使用した[13][10]。彼女のチームのプロジェクトの中には、コンコルドのブラックボックス・フライトレコーダーのプログラミングもあった[1][14]

彼女はタンデムコンピューターズイギリス原子力公社英語版(後のAEAテクノロジー)、ジョン・ルイス・パートナーシップ英語版で独立非常勤取締役を務めていた。

1993年に60歳で引退し、それ以降は慈善活動に専念している。

栄誉[編集]

1980年に、産業界への貢献が評価されて大英帝国勲章オフィサー(OBE)に[15]、2000年に情報技術への貢献が評価されて大英帝国勲章デイム・コマンダー(DBE)に[16]叙された。また、IT産業と慈善活動への貢献により、2017年にコンパニオン・オブ・オナー勲章(CH)のメンバーに選出された[17]

1987年、ロンドン市から名誉市民権英語版が贈られた。1989年から1990年まで英国コンピュータ協会の会長を務めた。1985年、情報技術認識賞(Recognition of Information Technology Award)を受賞した。1999年にはマウントバッテン賞英語版を受賞した[18]。2001年に王立工学アカデミー英語版バークベック・カレッジフェローに任命された[19][20]

彼女は、自身の財産の大部分を慈善事業に寄付している[21][22]。寄付した財産は、シャーリー財団英語版を通じて、情報技術者名誉組合英語版や、オックスフォード大学の一部であるオックスフォード・インターネット研究所英語版などに贈られている。

彼女の亡き息子ジャイルズ(1963-1998)が自閉症だったことから、彼女はイギリス自閉症協会英語版の設立メンバーとなった[23]。彼女は、サイモン・バロン=コーエンが率いる自閉症研究センターなど、自閉症の研究に資金を提供している。2003年には、自閉症対策への貢献と、公共の利益のために情報技術を活用する先駆的な活動が評価され、ビーコン・フェローシップ賞を受賞した[24]

1991年に、彼女はバッキンガム大学から名誉博士号を授与され、それ以来、ケンブリッジ大学や1994年にはソレント大学英語版[25]からも名誉博士号を授与されている。

2013年2月、BBCラジオ4英語版の番組『ウーマンズアワー英語版』で、「イギリスで最もパワフルな女性100人」の中の1人と評価された[26]。2014年1月、サイエンスカウンシル英語版は彼女をイギリスの「実践的科学者トップ100」の1人に選出した[27]。2018年にはコンピュータ歴史博物館のフェローに選出(コンピュータの殿堂入り)された[28]。同年、「イギリスの工学と技術への恒久的な貢献」に対して、女性では初めてとなる勅許マネジメント協会英語版の生涯業績賞を受賞した[29]

慈善活動[編集]

イギリスに拠点を置くシャーリー財団英語版は、1986年にシャーリーの多額の寄付により慈善信託基金として設立された。現在の使命は、特に医学研究に重点を置いた自閉症スペクトラム障害の分野で戦略的な影響力を持つ先駆的なプロジェクトの促進と支援である。この基金は、助成金や融資を通じて次のような多くのプロジェクトを支援してきた。

  • 自閉症スペクトラム症の人たちが充実した活動的な生活を送れるように支援するAutism at Kingwood
  • 70人の自閉症の生徒が通うレジデンススクールと20人の自閉症の生徒が通うヤングアダルトセンターのあるピアーズ・コート(Prior's Court)
  • 33か国から165,000人が参加した最初のオンライン自閉症会議であるAutism99。彼女は世界中の会議にリモートで参加し、自閉症スペクトラム障害を持つ人々やその親、介護者と頻繁に接触している[30]

彼女の息子ジャイルズは自閉症で、35歳のときにてんかん発作により死亡した[31]

2009年5月から2010年5月まで、政府から任命されて英国慈善大使を務めた[32][33]

2012年、彼女はエリザベス・フリンクマギー・ハンブリング英語版トーマス・ヘザーウィックジョセフ・ハーマン英語版ジョン・パイパー英語版の作品を含む自身の美術品コレクションを全て、ピアーズ・コートと慈善団体の「ペインティング・イン・ホスピタルズ英語版」に寄付した[34]

2013年、BBCラジオ2の番組「グッドモーニング・サンデー」に出演し、自身の財産のうち6700万ポンド以上を様々なプロジェクトに寄付した理由について語った。2012年の回顧録Let IT Goでは、彼女は「私は私の個人的な歴史のためにそれを行う。私は私の人生が救われたという事実を正当化する必要がある。」と書いている[31]

著書[編集]

  • Let IT Go(2012年)ISBN 978-0241395493 - 回顧録。映画化の予定がある。
  • My Family in Exile(2015年)ISBN 978 0 85457 244 1

脚注[編集]

  1. ^ a b c d “Dame Stephanie to return to Oswestry”. Shropshire Star: p. 23. (2015年4月1日) Report by Sue Austin. She was due to be attending Oswestry Literary Festival to publicise her autobiography.
  2. ^ Beaty, Zoe (2019年6月14日). “The 85-year-old tech entrepreneur who made her staff millionaires”. 2020年5月1日閲覧。
  3. ^ Smale, Will (2019年6月17日). “I just got fed up with the sexism. It was everywhere”. 2020年5月1日閲覧。
  4. ^ a b c “Welcoming home a Dame fine lady”. Shropshire Star: p. 8. (2015年4月10日) "Comment and Analysis" report by Pam Kingsley.
  5. ^ Biography – Steve Shirley website”. 2007年6月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年4月17日閲覧。
  6. ^ “Growing influence”. Guardian. (2004年1月14日). https://www.theguardian.com/society/2004/jan/14/charityfinance.guardiansocietysupplement 2012年2月2日閲覧。 
  7. ^ a b Shirley, Dame Stephanie; Askwith, Richard (2014-06-10). Let IT Go: The Memoirs of Dame Stephanie Shirley. Andrews UK Limited. ISBN 9781782341536. https://books.google.com/books?id=Ciy6BAAAQBAJ 
  8. ^ Stephanie Shirley, The Life Scientific – BBC Radio 4”. BBC (2015年4月7日). 2015年8月10日閲覧。
  9. ^ Shirley, Dame Stephanie. “Dame Stephanie Shirley | Speaker | TED” (英語). www.ted.com. 2019年2月11日閲覧。
  10. ^ a b Why I changed my name to Steve - BBC Ideas. BBC Money via Facebook. 15 February 2019. 2019年3月21日閲覧
  11. ^ Shirley, Stephanie (2012). Let IT Go. United Kingdom: Lightning Source UK Ltd. p. 148. ISBN 978-1782342823 
  12. ^ BBC Radio 4 - Seriously…, A Job for the Boys” (英語). BBC. 2019年4月11日閲覧。
  13. ^ Henley Standard article on the Sue Ryder Awards”. 2011年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月20日閲覧。
  14. ^ Transcript of 'Why do ambitious women have flat heads?'”. TED Talks. 2015年8月10日閲覧。
  15. ^ "No. 48212". The London Gazette (Supplement) (英語). 13 June 1980. p. 12.
  16. ^ "No. 55710". The London Gazette (Supplement) (英語). 31 December 1999. p. 8.
  17. ^ "No. 61962". The London Gazette (Supplement) (英語). 17 June 2017. p. B25.
  18. ^ The Mountbatten Medalists”. IET (2013年5月29日). 2013年5月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月29日閲覧。
  19. ^ List of Fellows”. Royal Academy of Engineering. 2020年5月1日閲覧。
  20. ^ Fellows of the College — Birkbeck, University of London”. www.bbk.ac.uk. 2016年10月11日閲覧。
  21. ^ Desert Island Discs, 23 May 2010, BBC Radio 4
  22. ^ Enterprise Tuesday lecture, Cambridge 3 February 2009
  23. ^ Timeline – Steve Shirley website”. 2008年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年2月4日閲覧。
  24. ^ Stephanie Shirley biography”. The Beacon Fellowship. 2012年2月2日閲覧。
  25. ^ List of University Honorary graduates”. Solent University portal. Solent University. 2019年4月27日閲覧。
  26. ^ BBC Radio 4 – Woman's Hour, Woman's Hour Power List – Dame Stephanie 'Steve' Shirley”. BBC. 2015年3月29日閲覧。
  27. ^ “The UK's 100 leading practising scientists”. Times Higher Education. (2014-01-17). https://www.timeshighereducation.co.uk/news/the-uks-100-leading-practising-scientists/2010580.article?nopaging=1 2015年8月10日閲覧。. 
  28. ^ Dame Stephanie Shirley | Computer History Museum” (英語). www.computerhistory.org. 2018年2月22日閲覧。
  29. ^ Dames win top CMI Honours”. 2018年3月18日閲覧。
  30. ^ Dame Stephanie Shirley's UKAF Autism Lecture in Redbridge, England (Medical News Today)”. 2007年12月20日閲覧。
  31. ^ a b Dame Stephanie Shirley”. BBC (2013年1月27日). 2013年1月27日閲覧。
  32. ^ Dame Stephanie Shirley appointed as philanthropy ambassador”. Third Sector (2009年4月22日). 2019年3月21日閲覧。
  33. ^ “Philanthropist Stephanie Shirley: 'You can only spend so much'”. The Telegraph. (2012年11月5日). https://www.telegraph.co.uk/women/womens-business/9655905/Philanthropist-Stephanie-Shirley-You-can-only-spend-so-much.html 2019年3月21日閲覧。 
  34. ^ Art Collection”. www.steveshirley.com. 2018年11月19日閲覧。

外部リンク[編集]