シタン

シタン
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: マメ目 Fabales
: マメ科 Fabaceae
亜科 : マメ亜科 Faboideae
: ツルサイカチ連 Dalbergieae
: ツルサイカチ属 Dalbergia
階級なし : “シタン”(人為分類)
英名
Rosewood[1]

シタン(紫檀)は、マメ科ツルサイカチ属 Dalbergia[1]のうち、銘木として利用される数種の木本の総称である。

古来日本に紫檀として輸入されてきた銘木は2種あり

である[2]。このシタンは、コクタン(黒檀)、タガヤサン(鉄刀木)と共に、唐木三大銘木とされる。

現在では、このほかにもいくつかの種がシタンとされ、最も広義のシタンは、ツルサイカチ属を含む数属に分散する。ただし「紫檀」をツルサイカチ属に限定すべき、あるいは、ツルサイカチ属とインドカリン属 Pterocarpus に限定すべきだという意見もあり、ツルサイカチ属・インドカリン属以外を「紫檀系」とする語法もある[3][4]

複数種の総称としてのシタンは学術的な用語ではないが、シタンを総称とせず特定の種の和名とすることもある。ただしその種は一定せず、

のいずれかとされる。

他言語での相当語[編集]

シタンは rosewoodローズウッド)の訳語でもある[12](シタンを特定種の和名とする場合は rosewood は「紫檀類」とすることもある[9])。rosewood もシタン同様にあいまいな言葉だが、true rosewoodツルサイカチ属のいくつかの種であるとされる。

中国語では「紫檀」は、インドカリン属のいくつかの種[3]、特にカリン Pterocarpus indicus [13]のことである。ただし、日本の「シタン」に当たるのはこれではなく「黄檀」で[3]ツルサイカチ属のいくつかの種[3]、特に Dalbergia hupeana[14]のことである。

木材[編集]

マルバシタンチェス駒。

材質[編集]

熱帯産の堅く重い樹種で、三大唐木のひとつである。心材は重硬で緻密。気乾比重は0.82–1.09。従って水に沈むものもある。

赤みを帯びた木肌で、赤褐色~黒色の縞模様があり、色調はかなり変化に富んでいる。木理は交錯し、肌目もやや粗~粗。

重硬なため、乾燥加工性にやや難があるが、美しい仕上がりが得られる。に侵されにくく、耐朽性は極めて優れている。

材にかすかなバラの芳香がするものが多く、ローズウッドと呼ばれる[1]。加工過程では、粉塵が出るためその芳香はよりはっきりと感じられる。

用途[編集]

その木材は銘木として古くからよく知られ、古くから工芸材料として利用されている。また、正倉院宝物の唐木細工でも多く見られる。家具仏壇仏具、床柱、床框装飾楽器ブラシなどに使われ、特にエレキギター指板材としては最も人気がある。

主な種[編集]

シタン・紫檀とされることのある種は以下のとおりである[15]

ツルサイカチ属[編集]

ツルサイカチ属 Dalbergia には150~200種が属すが、その大半はつる性草本であり、銘木級の用材を産するのは20~30種である[1]

中でも、ケランジィマルバシタンのうちインドローズ、ココボロは、希少で市場価値が高く、特に「本紫檀」と総称される[4]

ケランジィ(パイオン、タイローズウッド、Siam rosewoodDalbergia cochinchinensis Pierre [5][1][4][6][7][2]
タイインドシナ[1]。シタンの代表種[1]で、本紫檀の1種。心材は比重1を超えきわめて緻密[1]。タイではパユン (phayung)、ラオスではカムフン、ベトナムではチャック (trắc、トラックは英語風発音) と呼ばれる。
マルバシタン Dalbergia latifolia Roxb. [1][4]
インドジャワ[1]。材質はケランジィと同様だが、黒色の縞がある[1]。インドで自生するものはインドローズ (Indian rosewood) と呼ばれ本紫檀に含まれるが、インドネシア植林されたものはソノケリン (sonokeling、本来の読みはソノクリン) と呼ばれ市場価値は低い。なお、同属のシッソノキ Dalbergia sissooIndian rosewood と呼ばれ(区別のために本種を East Indian rosewood とも呼ぶ)、シタンの語源であるシーシャム sheesham の別名もあるが、日本でシタンとされるのは本種のほうである。
ココボロ(ココボロノキ、cocoboloNicaragua rosewoodDalbergia retusa Hemsl. [4]ダルベルギア・レトゥサ
中央アメリカ南アメリカ[1]。本紫檀の1種。テーブルナイフスプーンの柄に使われる[1]
テチガイシタン(手違紫檀、縞紫檀、チンチャン) Dalbergia oliveri [4]
インドシナ半島産。ビルマチューリップウッドBurma tulipwood)、ビルマローズウッド (Burmese Rosewood)、ラオスローズウッド (Laos Rosewood)、アジアローズウッド (Asian Rosewood) とも呼ばれ、タイではチンチャン (ching chan)、ミャンマーではタマラン (tamalan; ビルマ語: တမလန်း)、ラオスではカンピ (kham phii) と呼ばれる。
ホンジュラスローズ Dalbergia stevensonii [4]
中米[3]

インドカリン属[編集]

シタンと呼ばれる種がいくつかあるが、シタンをツルカイサチ属に限定する場合は除外される。系統的には、ツルカイサチ属に(同連であるという以上には)特に近縁ではない[16]

シタン属とも呼ばれるが、誤りとする主張もある[1][2]

コウキ(コウキシタン、レッドサンダルウッド、red sandersred sandalwoodPterocarpus santalinus [1][9][10]
インド南部[1]。和名「シタン」が当てられる種の1つであるが、それは誤りだとする主張もある[2][17]。一方で、(シタンをツルサイカチ属とする資料でも)広義のシタンに含められることがある[1]三味線の棹などに使われる[1]
カリン(インドシタン、ヤエヤマシタン) Pterocarpus indicus [11]
インド・東南アジア産。台湾[13]沖縄県[11]にも産す。
オオミカリン(カリン、本カリン) Pterocarpus macrocarpus [4]
東南アジア[3]。インドカリン属 Pterocarpus。ツルサイカチ属以外では例外的に、仏壇に紫檀と表示することが認められている(資料では「カリン」とされているが本種のことである[3]カリン Pterocarpus indicus は同属別種だが、もともとカリンは本種も含んでいた[2])。

その他の属(紫檀系)[編集]

この4種は紫檀の代用材としてよく使われ、紫檀として流通することもあったが、2012年以降の日本の仏壇用途では、「紫檀」とは表示できず「紫檀系」等となる[4]

ツルサイカチ属に近縁なものから順に並べる[16]

ボリビアンローズ(パープル、パープルウッド、モラド、サントスローズ、Santos rosewoodMachaerium scleroxylon [4]
中米産[3]マカエリウム属オブロンガ節 Machaerium sect. Oblonga。ツルカイサチ属に最も近縁な数属の1つである(姉妹群に含まれる)[16]
グラナディロ(グラナディーロ、トレボル、trebolPlatymiscium pinnatum [4]
メキシコ[3]プラティミスキウム属 Platymiscium。インドカリン属にやや近縁[16]
パオロッサ(パーロッサ、パオローズ、アフリカ紫檀、snake beanpaorosapaoroseBobgunnia madagascariensis [4]
アフリカ産[3]。かつてはマメ亜科イチベンバナ連 Swartzieae イチベンバナ属 Swartzia だったが、1997年に同じ連のボブグンニア属 Bobgunnia に移された[18]
ブビンガbubinga)の1種 Guibourtia pellegriniana [4]
アフリカ産[3]ジャケツイバラ亜科デタリウム連 Detarieae ブビンガ属 Guibourtia。「ブビンガ」は3種の総称だが、紫檀系とされるブビンガは本種のことである[4][3]

市場価値[編集]

シタン各種の市場価値[3]
AAAA
AAA
AA
A
B
C シタンに該当種なし
  • AAA・AAの3種(正確には2種と1種の一部)は、「本紫檀」にあたる。
  • カリン Pterocarpus indicus はこの表にない。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 緒方健 (2009), “シタン 紫檀”, in 下中直人, 世界大百科事典, 2009年改訂版, 平凡社 
  2. ^ a b c d e インドカリン属の樹木(その1) - 平井信二
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 仏壇産業の現状と今後のあり方に関する研究会 報告書 - 経済産業省製造産業局日用品室 (2011) NDLJP:3525338
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n 仏壇の表示に関する公正競争規約及び同施行規則 別表2 唐木仏壇の正面表面材
  5. ^ a b 農林省林業試験場木材部 編『世界の有用木材300種 : 性質とその用途』日本木材加工技術協会、1975年。 
  6. ^ a b JLogos「シタン」
  7. ^ a b 日外アソシエーツ 編「シタン (1)」『植物3.2万名前大辞典』紀伊國屋書店、2008年。 
  8. ^ 日本万有大事典 19 植物』(小学館 1972) 佐藤正己「シタン」
  9. ^ a b c 日本大百科全書』(小学館 1987) 小林義雄「シタン」
  10. ^ a b 日外アソシエーツ 編「シタン (2)・ヤエヤマシタン」『植物3.2万名前大辞典』紀伊國屋書店、2008年。 
  11. ^ a b c 日本のレッドデータ検索システム : シタン
  12. ^ 『リーダーズ英和辞典』初版(研究社 1984)「rosewood」
  13. ^ a b 紫檀 Pterocarpus indicus willd. 2014-10-03閲覧
  14. ^ 黄檀 Dalbergia hupeana Hance 2014-10-03閲覧
  15. ^ 種につけた出典は、その種をシタン・紫檀とする資料である。
  16. ^ a b c d Cardoso, D.; Pennington, R.T.; de Queiroz, L.P.; Boatwright, J.S.; Van Wykd, B.-E.; Wojciechowskie, M.F3; Lavin, M. (2013). “Reconstructing the deep-branching relationships of the papilionoid legumes”. S. Afr. J. Bot. 89: 58–75. doi:10.1016/j.sajb.2013.05.001. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0254629913002585. 
  17. ^ インドカリン属の樹木(その3) - 平井信二
  18. ^ Kirkbride, Joseph H.; Wiersema, John H. (1997), “Bobgunnia, a new African genus of tribe Swartzieae (Fabaceae, Faboideae)”, Brittonia 49 (1): 1–23 

外部リンク[編集]