コルクバット

野球において、コルクバット: corked bat)とは、軽量化の目的で、コルクなどの軽量で密度の低い物質を充填した特殊な改造バットである。軽量なバットは、スイングスピードを向上させ[1]、バッターのタイミングを改善する可能性がある[2]。バットにコルクを充填すると「トランポリン効果」[注 1]と呼ばれる現象により、打球の飛距離が伸びるという考えが一般的であったが[2]、物理学の研究者により、コルクバットが直接的に飛距離を伸ばすという効果については、否定されている[4]メジャーリーグでは、異物を用いてバットを改造し、プレーに使用することは反則行為であり、退場処分や追加制裁などの罰則の対象となる[5]

バットの改造[編集]

コルクバットは、一般的には、バットの太い端から直径約0.5インチ (13 mm)の穴を、約6インチ (15 cm)の深さで開け、粉砕したコルク、スーパーボールおがくずといった材料を穴に詰めた後、接着剤とおがくずで栓をして作成される。ただし、この改造によりバットの構造健全性が損なわれ、折れやすくなるデメリットが生じる。コルクを詰める穴をより深くすることで、そのリスクも増大する。そのため、ボールのインパクトの瞬間にバットが折れ、結果的にコルクバットが発覚することもある。

メジャーリーグ[編集]

コルクバットの使用は、以下のメジャーリーグ(MLB)のルールブックにおける規則6.03 (a)(5)の違反行為に該当する。

次の場合、打者は反則行為でアウトとなる。

(5) 飛距離の向上、あるいは、異常な反発を生じさせる、改造や変更が行われたと審判の判断するバットを使用、または、その使用を試みた場合。この改造には、バットへの詰め物、表面をフラットに加工する、釘を打ち付ける、内部の空洞化、溝をつける、パラフィンやワックスといった物質を使ったコーティングなどがある。(MLB公式ルールブック、規則6.03(a)[5]

使用の効果[編集]

コルクバットに使用される素材が「トランポリン効果」[注 1]を発生させ、通常のバットよりも飛距離が伸びると一般的には考えられてきたが、研究では、この考えは否定されている[4]。コルクバットの他の利点として考えられることは、バットの重量への影響である。通常のバットと比べて軽量となることで、スイングスピードの向上が見込まれるが、同時にボール衝突後の跳ね返り速度へ悪影響を与えるため、スイングスピードで得られる利点を、結果的に相殺することとなる[6]。ただし、スイングの始動を一瞬遅らせることができるため、より正確な打撃へ寄与する可能性がある[6]

使用の歴史[編集]

1970年以降、コルクバットの使用が発覚した選手は以下の6名である。

選手名 チーム 日付 出場
停止
不正 不正の釈明 出典
サミー・ソーサ シカゴ・カブス 2003年6月3日 8試合 コルクバット バッティング練習用のバット [7]
ウィルトン・ゲレーロ
(英語版)
ロサンゼルス・ドジャース 1997年6月1日 8試合 コルクバット 不明
クリス・セイボー シンシナティ・レッズ 1996年7月29日 7試合
[注 2]
コルクバット チームメイトから借りたバット [8]
アルバート・ベル クリーブランド・ガーディアンズ 1994年7月15日 7試合 コルクバット 不明 [8]
ビリー・ハッチャー ヒューストン・アストロズ 1987年8月31日 10日間 コルクバット ピッチャー(デーブ・スミス英語版)から
借りたバット
[8]
グレイグ・ネトルズ ニューヨーク・ヤンキース 1974年9月7日 処分なし バット内に6個の
スーパーボール
ファンからのプレゼントで貰ったバット [9][10]

加えて、メジャーリーグの元選手で監督のフィル・ガーナーは、2010年1月にヒューストンのラジオに出演した際、ゲイロード・ペリーとの対戦でコルクバットを用いてホームランを打ったことがあると語っている[11]

また、2010年、スポーツ専門のウェブメディア、Deadspin英語版は、ピート・ローズタイ・カッブの通算安打記録を抜いた1985年シーズンの試合で使用していた、2人のコレクターが所有するバットにX線検査をしたところ、コルクバットの証拠となる特徴が確認されたと報じた[12][13]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b ボールが衝突した部分の素材が変形した後に、復元する力が加わることで、反発力が増大する現象のこと[3]
  2. ^ さらに、レッズに罰金25,000ドル。

出典[編集]

  1. ^ Russell, Daniel (2011年). “What about corked bats?”. Physics and Acoustics of Baseball & Softball Bats. Penn State University. 2019年8月1日閲覧。 “"A bat which has less mass, and especially which has a lower moment of inertia, may be swung faster."”
  2. ^ a b Solomon, Christopher (2011年6月23日). “The physics of cheating in baseball”. smithsonian.com. Smithsonian Institution. 2019年8月1日閲覧。
  3. ^ 「検討進む『飛ばない金属バット』って?」(くらし☆解説)”. nhk.or.jp (2019年11月14日). 2022年10月20日閲覧。
  4. ^ a b Nathan, Alan M.; Smith, Lloyd V.; Faber, Warren L.; Russell, Daniel A. (2011). “Corked bats, juiced balls, and humidors: The physics of cheating in baseball”. American Journal of Physics 79 (6): 575–580. arXiv:1009.2549. Bibcode2011AmJPh..79..575N. doi:10.1119/1.3554642. 
  5. ^ a b Major League Baseball. Official Baseball Rules, 2019. Rule 6.03 (a)(5) § Batter Illegal Action.
  6. ^ a b Emerging Technology from the arXiv (2010年9月16日). “The misleading myth of the corked bat”. MIT Technology Review. MIT. 2019年8月1日閲覧。
  7. ^ "Corked bat-related penalty reduced by one game", ESPN.com news services, June 11, 2003 (accessed March 6, 2009)
  8. ^ a b c "Sosa gets eight games, appeals Archived 2004-10-18 at the Wayback Machine.", MLB.com (accessed June 28, 2006)
  9. ^ Doctored bat infractions”. ESPN. ESPN. 2022年3月19日閲覧。
  10. ^ No deflating balls, but MLB has had several equipment controversies”. CBS sports. CBS sport. 2022年3月19日閲覧。
  11. ^ Meltzer, Peter E. (June 10, 2013) (英語). So You Think You Know Baseball?: A Fan's Guide to the Official Rules. W. W. Norton & Company. pp. 51. ISBN 978-0-393-34667-1. https://books.google.com/books?id=TtZk_KJg2toC&dq=phil+garner+corked+bats&pg=PA51 
  12. ^ Petchesky, Barry (2010年6月8日). “This Is Pete Rose's Corked Bat”. Deadspin (Gawker Media). オリジナルの2021年3月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210331073912/https://deadspin.com/this-is-pete-roses-corked-bat-30900763 2021年11月6日閲覧。 
  13. ^ Littmann, Chris (2010年6月8日). “Corked Bats Reportedly Belonging to Pete Rose Come to Light”. SBNation. https://www.sbnation.com/2010/6/8/1647180/corked-bats-reportedly-belonging 2016年6月16日閲覧。 

関連項目[編集]