カニクサ属

カニクサ属
カニクサ:左が栄養葉部分・右が胞子葉部分
分類
: 植物界 Plantae
: シダ植物門 Pteridophyta
: シダ綱 Pteridopsida
: フサシダ科 Schizaeaceae
: カニクサ属 Lygodium
L. palmatum図版
胞子嚢の図が左にある

カニクサ属 Lygodium Sw. はシダ植物の1属。シダ類では珍しく蔓になる植物で、これは1枚の葉が先端で無限成長することで実現されている。

大まかな解説[編集]

日本ではカニクサがごく普通に見られ、道ばたの雑草としてよく繁茂する。その形は蔓草であり、シダ類では珍しい。より具体的に見ると、長く伸びた蔓の上には多数の葉が並び、それらの葉は個々にシダの葉らしい1回ないし2回羽状複葉の形をしている。またこの葉にはそれを構成する小葉の縁が比較的滑らかなものと、小さな突起が並んでいるように見えるものがあり、これは胞子をつける構造である。

これを普通に見ると蔓になるのが茎であり、その茎の上に多数の葉が並び、その葉には胞子葉と栄養葉の区別がある、という風に見える。しかしながら実際にはこの植物の構造はそのような見かけとはかなり大きく異なっている。まず、真の茎は地下にある匍匐茎であり、葉を地上に出す。この葉の先端が無限に成長する能力を持ち、そのためにとても長く伸びられる。つまり1本の蔓全体が1枚の葉となっている。また胞子葉、栄養葉と見えるものは同一の蔓に生じるので、実際には胞子葉と栄養葉ではなく、1枚の葉の中の胞子形成部とそうでない部分の違いである。

また、葉と見られがちな部分、実際には羽片であるが、これもよく見ると独特であり、茎と見える主軸から出た短い柄の先に対を成して生じているように見える。これは実際にはその短い柄の先全体が1つの羽片であり、小羽片2つを伸ばしたところで羽片そのものは成長を止めてしまい、最下の1対の羽片のみしか無いからである。

記載[編集]

多年生の草本[1]

根茎は地下を匍匐して伸び、その表面に毛があるが鱗片はない。地上に出た葉は無限成長して数m以上にも伸び、他物に巻き付いて這い上がる。蔓になる主軸の側面には多数の羽片が出るが、それぞれが左右1対の小羽片が出た段階で先端が成長を止めてしまう。成長を止めた先端は小さな芽状になっており、この部分は毛に覆われている。

芽の左右に突き出す小羽片の部分は更に分かれて羽状、叉状、掌状に裂片をつける。

胞子嚢をつけない裂片は縁が滑らかであるものから深く切れ込むものまであり、葉脈は先で繋がらないものも網状になるものもある。胞子嚢をつける裂片では縁に小さな小裂片が出て、その上に胞子嚢が2列に並んで生じる。なお一般のシダ植物では胞子嚢は複数が集まって胞子嚢群の形を取るが、本属では大きな胞子嚢が単独で生じる。従って上記の2列に並んだ偽包膜の下にはそれぞれ1個ずつ胞子嚢が収まっている。胞子嚢は洋なし型で短い柄があり、先端近くを環帯が完全に巻いている。一般のシダのそれが円盤形でその外周を環帯が取り巻くのと大きく異なり、本属の原始的特徴の一つとされる。胞子は四面体型で、前葉体は地上生で緑色。

種と分布[編集]

世界の熱帯域を中心として約40種が知られる。日本には以下の2種(と1変種)がある。

分類[編集]

上記にもあるように本属の胞子嚢は巨大で単独に生じ、環帯は中央ではなく先端部で完全に一回りしている。このような特徴は本属の他にフサシダ属 Schizaeaアネミア属 Anemia 、Mohira 、Actinostachys 、に共有され、そのためにこれらの外形が大きく異なる属は纏めてフサシダ科 Schizaeaceae とされた。その後に分子系統の情報からアネミア属とActinostachys 、それと本属はそれ以外のものとの距離が大きいことからこの3属がフサシダ科を構成することになっている[2]

出典[編集]

  1. ^ 以下、主として岩槻編著(1992),p.81
  2. ^ Murtaza et al.(2004)

参考文献[編集]

  • 岩槻邦男編、『日本の野生植物 シダ』、(1992)、平凡社
  • Ghulam Murtaza et al. 2004. Morpho-palynological Studies on the Climbing Ferm Lygodium japonicum. Asian Journal of Plant Sciences. 3(6): p.728-730.