エログロ

エログロとは、エロチックグロテスクを足して作られた和製英語。エロチックでグロテスクなこと[1]

言葉としては "eroticism" と "grotesque" を並記しているとおり、高尚な芸術と違って、双方でこの方向性の刺激を優先したような作品について形容する。例としては、ホラー映画などで恐怖シーンはおざなりなのにスプラッタ描写とセックスシーンを売りにしている作品は、エログロと呼ばれる。

日本におけるエログロ文化[編集]

葛飾北斎蛸と海女

日本では平安時代初期から偃息図(えんそくず、おそくず)、またはおそくずの絵(おそくづのゑ)と呼ばれる性的題材を描いた絵画があったとされている。

室町時代から江戸時代にかけては春画と呼ばれる主に男女間の性愛を描いた浮世絵が広く流行した。出回った春画は高い芸術性を誇ったが、性教育のためか、性文化の追求か、はたまた思想、宗教的意味合いがあったのか、目的がよくわかっていない。どういう人達に需要があり、なぜ高い技術が要求されたか、今後の研究課題ともいえる。

現代においては、春画は芸術作品(エロティカ)として社会的に高く評価されており、法的には猥褻出版物としての扱いは受けていない。ただし、表現の自主規制は行われている。

近代日本におけるエログロ文化の潮流は大正デモクラシー期のエログロナンセンス文化まで遡る。この時代を代表する雑誌に梅原北明の『グロテスク』(1928年~1931年刊行)がある。この雑誌は幾度となく当局による発禁処分を受けたが、その度発行所を代えて発行された。

太平洋戦争終結後、出版自由化を機にカストリ雑誌と呼ばれる大衆向け娯楽雑誌のブームが起こる。これらの雑誌は粗悪な再生紙に印刷された低俗な安物雑誌で3号程度で休刊する典型的な3号雑誌も多く、戦後の混乱の中、カストリ雑誌のブームは1950年頃まで続いた。また、雑誌の内容は安直で扇情的なものが多く、エロ(性・性風俗)・グロ(猟奇・犯罪)で特徴付けられる。具体的には、赤線などの色街探訪記事、猟奇事件記事、性生活告白記事、ポルノ小説などのほか、性的興奮を煽る女性の写真や挿絵が掲載された。

1960年代にはピンク映画が登場しブームとなる。これはテレビの普及によって映画館の観客動員数の減少した事に対抗した映画関係者が「テレビでは実現できないこと」を標榜したのに起因する。代表作品としては、石井輝男東映ポルノ異常性愛路線」の一環で発表した『徳川女系図』(1968年)・『徳川女刑罰史』(1968年)・『異常性愛記録ハレンチ』(1969年)・『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年)などの作品がある。また、ホラー映画におけるエログロの先駆的作品に江戸川乱歩原作の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)が挙げられる。また、エログロを全面に押し出したアダルトアニメの先駆的作品としては東京テレビ動画が制作した谷岡ヤスジ原作の劇場用作品『ヤスジのポルノラマ やっちまえ!!』(1971年)がある。1980年代以降の映画界においてエログロ・スプラッタ・バイオレンス系の映像作品を得意とする映画監督には園子温白石晃士松村克弥がいる。後にエログロやキッチュさを全面的に押し出した、これら邦画作品はモンド映画に倣って「和製モンド」と呼ばれるようになる。

一方で客足が伸び悩み、映画製作自体が困難になった日活は「エロ路線」を前面に押し出した日活ロマンポルノによって経営危機を乗り越えた。ロマンポルノは1971年11月に『団地妻 昼下りの情事』(白川和子主演)でスタートし、映画斜陽期の日活を支えロマンポルノは20年以上続く人気シリーズとなった。ロマンポルノは量産の必要があったため、若い監督を数多く起用。映画1本あたりの上映時間やエロシーンの回数などの基本ルール以外は、あまり制約が無かった事から、結果的に実験的であったり、作家性を打ち出した作品も生まれた。そのため日活ロマンポルノでキャリアをスタートさせたり、頭角を現した映画監督は多い。また、ロマンポルノ出身の女優がテレビでも活躍するようになり、多くのスターが生れた。芸能界へのステップと考える女優も少なくなかった。

成人向け漫画などのサブカルチャーにおいては、SM緊縛強姦屍姦獣姦カニバリズムスカトロジー触手責め拡張プレイ異物挿入身体欠損孕ませ蟲責めなどの性的倒錯描写が「エログロ」(あるいは鬼畜系)に相当する。この様に成人向け漫画の世界で自分の世界を築き上げる作家も多く、もちろん、性的描写を避けては描けない世界というものもある。また一つには性的描写が必須であることを除けば、それ以外の表現はむしろ一般の雑誌より制約の少ない舞台であり、その自由度の高さから作家独自の嗜好によって特異ともいえる表現が追及され、一般誌では掲載不可能な作風を実現する作家もいる。

代表的なエログロ漫画家丸尾末広花輪和一平口広美佐伯俊男三条友美古屋兎丸蛭子能収根本敬山野一早見純山本直樹漫☆画太郎氏賀Y太知るかバカうどん町野変丸掘骨砕三町田ひらく玉置勉強沙村広明前田俊夫大越孝太郎駕籠真太郎などがいる。また、1984年に発表された丸尾末広の『少女椿』はエログロに幻想的・怪奇的な世界観を交え独自の世界観を表し、カルトな作風ながら今もなお根強い人気を持つ。一方で漫画家の永井豪は1970年代前半に複数のメジャー少年誌で大胆な性描写やエログロを含むストーリーを展開し、教育委員会に糾弾されるなどの社会問題に至った事例もある。

日本独自のエログロ文化である「触手責め」は国内において1982年SFホラー映画遊星からの物体X』の公開以降、前田俊夫などの漫画菊地秀行などの小説、『くりいむレモン SF超次元伝説ラル』・『SF新世紀レンズマン』などのアニメ、またアダルトゲームに触手描写が取り入れられ、定番の表現のひとつとなった。

出典[編集]

関連項目[編集]