エクローグ (フィンジ)

エクローグ』(英語: Eclogue作品10 は、ジェラルド・フィンジが作曲したピアノと弦楽合奏のための協奏的作品。ピアノ協奏曲の緩徐楽章とすべく着手されたが単独の作品として完成されることになり、作曲者の死後に初演された。

概要[編集]

本作ははじめピアノ協奏曲の中間楽章として構想された[1]。時期は1920年代の終盤であり[2][注 1]、同時期にはピアノと管弦楽のための『大幻想曲とトッカータ』の作曲も進められていた[2]。両者を合わせてひとつの楽曲にするつもりがあったかどうかは定かではないが[2]、いずれはピアノ協奏曲がまとめられる予定であったとみられる[3]。しかし、協奏曲の着想が結実することはなく、本作は独立した作品として仕立て直されることになった[2]

その後、作品は作曲者の生前に2度の改訂を施され[1][2]、ジョン・ラッセルに背中を押される形で1952年に総譜が書き上げられた[3]。初演はフィンジの生前には行われず、死後1年が経過した1957年1月27日にヴィクトリア&アルバート博物館で開催されたフィンジ追悼コンサートにおいて、キャスリーン・ロング独奏、ラッセル音楽、カルマー管弦楽団の演奏で行われた[3][注 2]。同年には出版も行われ[2]、この際にフィンジの遺産執行人であった妻のファーガソンと長男クリストファーによって『エクローグ』というタイトルが与えられた[3][4]。よって、作曲者自身によって曲に何らかの筋書きが与えられているわけではない[3]。『エクローグ』(Eclogue)とはその言葉の由来を古代ローマの詩人ウェルギリウスに遡り、16世紀に再興を果たした、牛飼いが語らう詩のことである[2]。日本語では「牧歌」や「田園詩」などという単語に置き換えられる(エクローグも参照)。

フィンジの盟友であった作曲家のエドマンド・ラッブラは本作の「妨げられることのない静寂」に言及している[3]。また、フィンジの伝記作家ダイアナ・マクヴェイ(Diana McVeagh)は著作の中で、本作はチェロ協奏曲の第2楽章同様に「祝福」の空気につつまれた「永遠」であると評している[3]。録音の好調な売れ行きが示すように、本作は人気を獲得している[1]

楽器編成[編集]

ピアノ独奏弦五部

楽曲構成[編集]

演奏時間は約9-10分[1][2]。古典的な三部形式を取る[5]。まず、アンダンテセンプリーチェで譜例のようにピアノが多声的な主題を提示する。主要2声部と装飾的な音型から構成されており[2]バッハを意識したと思われるような穏やかな開始となっている[3]

譜例[6]


\relative c'' {
  \new PianoStaff <<
   \new Staff = "R" {
    \key f \major \numericTimeSignature \time 4/4 \set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Andante semplice" 4=46
     {
      f( _\markup { \halign #0 \center-align
       \column {
        \line { \dynamic p \italic { legato e } }
        \line { \italic chiaro }
       }
      }
      c~ \stemUp c8 bes16 a g g c8 d,4.) e8 f4. g8~^(
      g16[ e f a] d) [ d^( \grace { c_\( d } c\) bes] c4)~ c16[ d8^\< ^( e16*1/2\!] ~ \hideNotes e32)
     }
   }
   \new Staff = "L" { \key f \major \numericTimeSignature \time 4/4 \clef bass
    <<
     {
      a,,8 bes c \change Staff = "R" \stemDown d16 e f4_- c_-_~
      c8 bes16 a g g c8 bes d c4 a8 d4 e8~ e c\rest c4\rest
     }
    \\
     { s1 \stemUp f,4^- c^- d4. e8~ e f4 e8~ e16 c( d^\< f\! bes) [ bes ^( a g16*1/2]^> \hideNotes f32) }
    \\
     { \stemDown f4 e d \stemUp a \stemDown bes c_-_~ c8 bes16 a g g c8 d,[ c'] bes g a[ f] g c }
    \\
     {
      \hideNotes s4 s \change Staff = "R" 
      \shape #'((2 . -0.5) (4 . -6.5) (0 . 11) (1 . 2)) PhrasingSlur
      f'\( s \change Staff = "L" s s d,\)
     }
    \\
     {
      \hideNotes s1
      \shape #'((0 . -0.5) (0 . -4.5) (-3 . -1) (-2.5 . 0)) PhrasingSlur
      f4_\( s s s d,8\)
     }
    >>
   }
  >>
 }

弦楽合奏も加わるが曲中では副次的な役割に徹することになる[2]。譜例の主題に基づいて進められていき、クライマックスを迎えると静まっていく[2]。中間部では譜例と関連しつつも、より動きを持った子守唄調の主題が現れる[2][3]。フィンジが同じく1920年代に作曲したカンタータ『ディエス・ナタリス』中の「挨拶」(Salutation)を暗示するという指摘もある[3][注 3]。やがて譜例の主題が回帰し、最後は暗い調子をまとって諦念を感じさせるようになる[2]。最後に残されたピアノがピアニッシモで長和音を置き、静かに幕が下ろされる[3]

脚注[編集]

注釈

  1. ^ 単に1920年代[3]、または1929年に作曲とする資料もある[4]
  2. ^ 同じ著者は別の資料に初演は1956年であったと書いている[4]
  3. ^ このカンタータは『エクローグ』が初演された追悼コンサートの演目にも上っていた[7]

出典

  1. ^ a b c d Gerald Finzi - Eclogue”. Boosey and Hawkes. 2022年10月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Reel, James. エクローグ - オールミュージック. 2020年10月20日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l Andrew Burn, Booklet for CD, Finzi: Cello Concerto/Nocturne/Grand Fantasia and Toccata/Eclogue, Chandos, CH5214, 2018.
  4. ^ a b c Andrew Burn, Booklet for CD, The Best of FINZI, Naxos, 8.556836.
  5. ^ Gerald Finzi: Eclogue”. Classic FM. 2022年10月22日閲覧。
  6. ^ ブージー・アンド・ホークス社のウェブサイトハワード・ファーガソン編曲の2台ピアノ用編曲の楽譜(Catalogue No: M060111891, ISMN: 9790060111891)より、サンプルとして無料公開されている部分から作成。
  7. ^ Diane, McVeagh (2007). Gerald Finzi: His Life and Music. Boydell Pr. p. 251. ISBN 978-1843831709 

参考文献[編集]

  • CD解説 Finzi: Cello Concerto/Nocturne/Grand Fantasia and Toccata/Eclogue, Chandos, CH5214
  • CD解説 The Best of FINZI, Naxos, 8.556836
  • 楽譜 Gerald Finzi, arr. Howard Ferguson, Eclogue, Op. 10 (2 Pianos, 4 Hands), Boosey and Hawkes, Catalogue No: M060111891, ISMN: 9790060111891

外部リンク[編集]