アクリフーズ農薬混入事件

アクリフーズ冷凍食品農薬混入事件
場所 日本の旗 日本 群馬県邑楽郡大泉町吉田1201
アクリフーズ群馬工場
日付 2013年平成25年)11月
混入時刻
12:00 – 14:00 (日本標準時)
概要 アクリフーズ群馬工場の製造ラインでマラチオンを故意に混入した
武器 マラチオン
損害 アクリフーズ群馬工場で製造された全商品を自主回収(リコール
アクリフーズ群馬工場の長期操業停止
犯人 契約社員の男性
容疑 器物損壊罪及び偽計業務妨害罪
動機 給与体系に不満を持ったため
対処 一部商品の販売終了
謝罪 マルハニチロホールディングス・アクリフーズ両社長が引責辞任
賠償 回収対象品を返品した顧客にはクオカードか現金で返金
テンプレートを表示

アクリフーズ農薬混入事件(アクリフーズのうやくこんにゅうじけん)は、アクリフーズ(現・マルハニチロ群馬工場製造の冷凍食品農薬マラチオンが混入された事件2013年12月の発覚後に自主回収(リコール)が実施され、2014年1月に同社で勤務していた契約社員の男が逮捕された。

事件の経過[編集]

アクリフーズ群馬工場で製造された冷凍ミックスピザを購入した客から、「石油臭い異臭がする」と苦情が2013年11月13日に寄せられ[1]、問題の商品を受け取ったが、この時点では全品回収はされなかった。その後12月29日までに、日本各地から苦情が20件寄せられたため調査した結果、返品された商品から高濃度の有機リン農薬マラチオン殺虫剤の一種)が検出された[2]

12月29日、アクリフーズは群馬工場の操業・出荷を停止し[3]、市場に出回った全ての生産商品計88品目を自主回収(リコール)すると発表した。回収対象商品の中には、イオンイオントップバリュ」、西友「みなさまのお墨付き」、セブン&アイ・ホールディングス「セブンプレミアム」、生活協同組合ブランドのプライベートブランド商品も含まれており、それらは工場名の表記がなかった[4]

12月30日、群馬県館林保健福祉事務所は食品衛生法に基づく群馬工場への立ち入り検査を実施した[5]。検査の結果「通常の製造工程上で汚染された可能性は低い」と結論付けられ[6]群馬県警察は意図的に混入された可能性があるとして捜査を開始した[7]

アクリフーズは事件発覚当初、「マラチオンに急性症状は無く、体重20キログラムで一度にコロッケ60個を食べないと、健康には影響ない」と説明していたが、12月31日未明には、アクリフーズの親会社マルハニチロ食品の親会社であるマルハニチロホールディングス(以下マルハニチロHD)は、記者会見で「体重20キログラムの場合(冷凍コロッケを)8分の1個食べただけで、吐き気などの症状が起きる可能性がある」と説明[8]、前述した健康影響の説明は、前日に厚生労働省から指摘を受け、誤っていたと謝罪・撤回した。

2014年1月、アクリフーズは群馬工場に勤務する全従業員への聞き取り調査を実施。同月25日、アクリフーズ群馬工場で働いていた契約社員の男(当時49歳)が農薬の混入に関わっていたとして、2013年10月に4回にわたって工場で製造された冷凍食品に、農薬を混入して工場の操業停止をさせた偽計業務妨害罪容疑で逮捕された[9]

被疑者が逮捕された2014年1月25日夜に、マルハニチロHD側が記者会見を開き、マルハニチロHD社長及び同社品質保証担当常務とアクリフーズ社長が、今般の事件と対応が後手に回ったことを受け、2014年3月31日付にて引責辞任することを発表した[10][11]

2014年2月16日には契約社員の男が、2013年10月に計9回にわたり、工場で製造していた冷凍食品12製品に、農薬を吹きつけて食べられない状態にした器物損壊罪容疑で再逮捕され、同年3月7日に起訴された。流通食品毒物混入防止法違反や傷害罪の適用も検討されたが、前者については、毒性の低いマラチオンが法律の規制毒物に該当することが困難なこと、後者については、健康被害を訴えた人の食べ残しからマラチオンが検出されたことが無く、混入と健康被害の因果関係の立証が困難であると指摘され[12]、最終的に見送られた。

2014年7月25日に、前橋地方検察庁は元契約社員に懲役4年6ヶ月を求刑し、8月8日に前橋地方裁判所は、懲役3年6ヶ月の実刑判決を言い渡した[13]

2014年9月25日に東京地方裁判所は、マルハニチロが商品回収を知らせる社告を出して約5億9,700万円かかったうち、一部の1億円の損害賠償を求めた民事訴訟で、元契約社員に全額の支払いを命じる判決を言い渡した[14][15]

なおアクリフーズ群馬工場は、元々は雪印集団食中毒事件不祥事で、経営が悪化した雪印乳業から分社化された雪印冷凍食品群馬工場を、雪印食品雪印牛肉偽装事件による雪印グループの経営悪化により、ニチロ(現:マルハニチロ)へ売却され、社名変更し再発足した工場である。

プライベートブランド製品への影響[編集]

事件発覚当初は「製造者にアクリフーズと表示のある商品」を食べないよう注意喚起していた。しかしプライベートブランド製品では、企画元の意向で製造者名を記載しない企業があり、これが回収対象にも含まれていた。このため「アクリフーズ」の記載がないことで、知らずに食べてしまったほか、製造元が分からないため、商品回収にも支障を来たした。

これを受けて、製造所固有記号を付せば『製造者名の記載を省略できる』とした食品衛生法の省令を見直し、製造者名をパッケージに表示させることを義務付けた[16]

アクリフーズに関する同時期の事件[編集]

同時期のアクリフーズの製品からは、結束バンドなどの製造ラインでは使用されていない異物の混入も起こっており、それらの事実をアクリフーズは隠蔽していた[17]

脚注[編集]

  1. ^ “マルハニチロの冷凍食品から農薬 630万袋回収、外部混入の可能性も”. MSN産経ニュース. (2013年12月29日). オリジナルの2013年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131230022422/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131229/crm13122918550007-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  2. ^ “混入農薬は「マラチオン」、害虫駆除に使用”. MSN産経ニュース. (2013年12月29日). オリジナルの2013年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131230025850/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131229/crm13122920310008-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  3. ^ “混入どこから?基準の150万倍「すぐ吐き出した」 社員ら年末返上で対応 (1/2ページ)”. MSN産経ニュース. (2013年12月30日). オリジナルの2013年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131230022420/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131230/crm13123000110000-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  4. ^ “冷凍食品から農薬検出 マルハ子会社 88品を自主回収”. 朝日新聞. (2013年12月29日). オリジナルの2013年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131230041302/http://www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312290108.html 2022年9月29日閲覧。 
  5. ^ “アクリフーズにきょう立ち入り調査 群馬県”. MSN産経ニュース. (2013年12月30日). オリジナルの2013年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131230020130/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131230/crm13123008070006-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  6. ^ “群馬県会見 「通常製造工程上の可能性低い」”. MSN産経ニュース. (2013年12月31日). オリジナルの2013年12月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131231204831/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131231/crm13123113350009-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  7. ^ “異臭苦情、13都府県から 公表に1カ月半 冷凍食品から農薬”. 朝日新聞. (2013年12月31日). オリジナルの2013年12月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131231045326/http://www.asahi.com/articles/DA2S10906565.html 2022年9月29日閲覧。 
  8. ^ “健康基準、独断で公表 マルハニチロ子会社 農薬の毒性を過小評価”. MSN産経ニュース. (2013年12月31日). オリジナルの2013年12月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131231193804/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131231/crm13123118560013-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  9. ^ “農薬混入、契約社員の男逮捕へ…服にマラチオン”. 読売新聞. (2014年1月25日). オリジナルの2014年1月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140127235236/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140125-OYT1T00512.htm 2022年9月29日閲覧。 
  10. ^ “マルハニチロ社長ら辞任 農薬混入事件で引責”. 47NEWS. (2014年1月25日). オリジナルの2014年2月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140201185734/http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014012501002054.html 2022年9月29日閲覧。 
  11. ^ 当社および株式会社アクリフーズ役員に対する処分” (PDF). 株式会社マルハニチロホールディングス (2014年1月26日). 2014年1月26日閲覧。
  12. ^ “グリ森30年、冷凍食品事件も防げた…毒物防止の法整備できているのか”. MSN産経west. (2014年3月6日). オリジナルの2014年3月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140306232925/http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140306/waf14030613370013-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  13. ^ “元契約社員に懲役3年6カ月の判決 冷凍食品農薬混入”. 朝日新聞. (2014年8月8日). オリジナルの2014年8月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140809134414/http://www.asahi.com/articles/ASG847753G84UHNB012.html 2022年9月29日閲覧。 
  14. ^ “マルハニチロ農薬混入、元契約社員に1億円賠償命じる”. 朝日新聞. (2014年9月25日). オリジナルの2014年9月25日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140925210602/http://www.asahi.com/articles/ASG9T4S9TG9TUTIL021.html 2019年9月21日閲覧。 
  15. ^ “農薬混入の受刑者に1億円賠償命令 「一生かけて支払う」”. MSN産経ニュース. (2014年9月25日). オリジナルの2014年9月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140926091306/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140925/trl14092517550005-n1.htm 2022年9月29日閲覧。 
  16. ^ “農薬混入事件受け製造者情報表示”. デイリースポーツ. (2014年4月17日). オリジナルの2014年4月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140427032050/http://www.daily.co.jp/society/human_interest/2014/04/17/0006870354.shtml 2022年9月29日閲覧。 
  17. ^ 第三者検証委員会が絶句… アクリフーズ事件 日本の食の暗部”. 週刊実話. エキサイトニュース (2014年5月22日). 2014年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年10月5日閲覧。

関連項目[編集]